Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第14回 熱力学基礎〜気体の状態方程式①

 

大気の状態を知ることが気象予測にとっては非常に重要です。大気の状態とは,気圧・密度・温度のことを指しますが,これらの値を結びつける式が今回学ぶ気体の状態方程式です。

 

理想気体の状態方程式

理想の異性像について友人や恋人と話をする機会があるかと思います。例えばある女性は,背が高くてイケメンで頭が良くて仕事がデキて優しくて面白くて,お金持ちで料理もできて運動もできるような男性を理想の男性像として思い描いているように。

まぁそんなオトコは見つかることはないワケですが,気体についても同様で世の中には存在しないけれども理想的な振る舞いをする理想気体なるものがあるのです。

理想気体は架空の気体でありこの世には存在しないものの,私たちが期待する通りに振る舞ってくれる都合のイイ存在なため物理化学の世界ではとても重宝されます。

理想の男性像が女子の求める条件をすべてを満たすように,理想気体も以下の条件式を常に満たしてくれます。

   PV = nR^* T  ・・・①

この式は理想気体の状態方程式と呼ばれます。ここで  P は圧力(Pressure;単位は  \rm{Pa} あるいは \rm{N/m^2}),  V は体積(Volume;単位は  \rm{m^3}),  n は物質量(分子数に相当;気象学では一般に単位は  \rm{kmol}),  R^* は普遍気体定数単位は  \rm{J/K \cdot kmol} T 絶対温度Temperature;単位は  \rm{K})を表します。

 

もう少しそれぞれの変数・定数について詳細に解説しておきます。

物質量  n については以下のように算出します。

    n = \dfrac{N}{6.0×10^{23}} \rm{mol} = \dfrac{N}{6.0×10^{26}} \rm{kmol}) 

   ( N は気体に存在する分子の数)

二酸化炭素であっても水素であっても酸素であっても,同じ  N 個 の分子があればモル数は同じになります。  6.0×10^{26} という数字は気体における1ダースのようなもので, 6.0×10^{26} 個の気体分子が集まればその分子の質量( \rm{kg})になります。

例えば分子量28の窒素分子( \rm{N_2})を 6.0×10^{26} 個集めれば質量は  28 \rm{kg}) になりますし,分子量32の酸素分子を ( \rm{O_2} 6.0×10^{26} 個集めると質量は  32  \rm{kg}) という感じで,1キロモルの分子を集めたら分子量と同じキログラムの物質が得られるのです(そういうふうに人間が定義したのです)。

すなわち,分子量  M の物質を1キロモル集めたら  M  \rm{kg})になるので,物質が   m  \rm{kg})あるときの物質量は

    n = \dfrac{m}{M} \rm{kmol}) ・・・②

と表せるのです。

 

普遍気体定数  R^* については以下のように値が定められています。

  普遍気体定数  R^* = 8314.3 \rm{J/K \cdot kmol}

こちらの普遍気体定数も,二酸化炭素であっても水素であっても酸素であっても気体の種類によらずに一定の値になります。これが普遍と呼ばれる所以ですね。

 

ピーブイ・イコール・エヌアールティー。私も高校時代に嫌というほどこの式を使い倒して,社会人になった現在でもなぜか体に染み付いて忘れることができません(ただ私が高校の時は,気圧の単位はatm,物質量はmol,気体定数は0.082(L・atm)/(K・mol)でしたが)。

 

 

さて簡単に①式についても解説しておくと,この式は気体の体積は圧力に反比例し絶対温度に比例する,ということを表しています。

 

例えばある気体を,自由に容量が変えられる容器に入れたとき,この容器の体積を無理やり半分にしたらそのぶん気体が押し返す圧力は2倍になりますし,絶対温度を2倍にしたら空気は膨張して容器の体積も2倍になるという感じです。

 

理想気体は分子の大きさがゼロで分子間相互作用がない仮想的な気体ですので,全ての世の中の気体を理想気体と仮定すれば水蒸気だろうと水素だろうと二酸化炭素だろうと区別する必要がなくなりますから計算はラクですよね。

しかし,分子の大きさもあり分子間力が働く実在する気体では①式は本当は成り立ちません。

たとえばn=1モルの場合,下の図のように二酸化炭素などは分子間相互作用が大きいため理想気体からは大きく乖離するのが実情です。

ただ,これらの気体の分子間相互作用などを考え始めると計算が非常に複雑になりますので,理想気体と仮定して扱うことも多くあります。

また実在気体でも高温で低圧条件にすると,分子間相互作用や分子の大きさが無視できるほど小さくみなせるため理想気体に近い振る舞いをします

ちなみに理想気体に近い気体としては(分子量が小さく極性の少ない)ヘリウムや水素など,そして空気などが挙げられます。

 

理想気体の状態方程式の変形

ここで①式の理想気体の状態方程式を少し変形してみましょう。

②式を①式に代入すると以下の式のようになります。

    PV = \dfrac{m}{M} R^* T 

 ⇔  PV = mRT   (ただし,  R =\dfrac{R^*}{M} ・・・③)

 ⇔  P = \biggl(\dfrac{m}{V}\biggr) RT 

 ⇔  P = \rho RT  (ただし,  \rho =\dfrac{m}{V}

 

分子量  M の気体が  m \rm{kg}) あったときその気体の圧力は,気体の密度  \rho \rm{kg/m^3})と新しく定義した気体定数   R \rm{J/K \cdot kg} もしくは  \rm{m^2/K \cdot s^2})および温度  T \rm{K})から導き出されるということです。

このとき注意しなければいけないのは,この場合の気体定数   R は気体の種類によって異なるという点です。

 

③式から分かるように,  R =\dfrac{R^*}{M} という式から気体定数は算出されます。すなわち普遍気体定数  R^* をその気体の分子量で割った値になるのです。

例えば,水素は分子量2.016ですので気体定数 R_{H_2} = \dfrac{8314.3}{2.016} = 4124  ( \rm{J/K \cdot kg})と算出されますし,酸素の気体定数 R_{O_2}  = \dfrac{8314.3}{32.00} = 260  ( \rm{J/K \cdot kg})になるはずです。

 

乾燥空気だったら,だいたい78%が窒素で21%が酸素で1%がアルゴン(分子量およそ40)ですので,空気の平均分子量は

   (空気の平均分子量) = 28×0.78 + 32×0.21 +  40×0.01= 28.96

となり,乾燥空気の気体定数は  R_{air} = \dfrac{8314.3}{28.96} = 287 \rm{J/K \cdot kg})と計算されます。

 

以下は主要な気体の気体定数です。ちなみに地球以外の惑星だろうとどこでもこの値は一定です。

気体

       気体定数  R     

( \rm{J/K \cdot kg})

         密度*1  \rho    

( \rm{g/m^3})

水素 4124 0.0900
酸素 260 1.42
空気 287 1.30
二酸化炭素    189 1.96
水蒸気 462 -

モル数で状態方程式を立てるときは普遍気体定数  R^* を用いる一方で,気体の質量を用いて状態方程式を立てるときにはその気体固有の気体定数  R を用いる必要があるということです。このへんはちゃんと区別をしないといけないのでややこしいですね。

 

 

さて,今回はここまでとします。

ここまでとりあえず式変形を見てきましたけど,この式で何が分かるのかが今一つピンときませんね。どのようにこの式を活用すればよいんでしょうか。

次回はもう少しこの式を使って具体的な状況を見ていくことにします。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 大気の状態を知るためには,気圧・密度・温度などの情報を理解する必要がある。
  • 気圧・密度・温度を結びつける式が気体の状態方程式
  • 分子の大きさがゼロで分子間相互作用がない仮想的な気体を理想気体と呼ぶ。
  • 一般的に常温・常圧で空気は理想気体とみなしてよい。
  • 理想気体の状態方程式  PV=nR^* T は覚える。
  • 式を変形して, PV=mRT もしくは  P=\rho RT も覚える(気象の場合はだいたい密度で計算することが多いので,こちらの方を覚える方がよさそうな感じ?)。
  • 乾燥空気の気体定数  R = 287 \rm{J/K \cdot kg})も覚えておく。 
  • 普遍気体定数  R^* = 8314 \rm{J/K \cdot kmol})を覚えておけば,気体の分子量で割ったら気体定数が算出できるのでいろいろ捗る。 
  • モル数で状態方程式を立てるときは普遍気体定数  R^* を用いる一方,気体の質量を用いて状態方程式を立てるときにはその気体固有の気体定数  R を用いることには注意が必要。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:1気圧,0℃の標準状態での密度