Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【気象学勉強】第15回 熱力学基礎~気体の状態方程式②

 

前回は理想気体の状態方程式について学びました。

   PV = mRT  ・・・① 

   ( P:圧力, V:体積,  m:質量,R:気体固有の気体定数 T絶対温度

この式が大気の状態を理解する上で大変重要ということでしたが,どのようにして活用すれば良いのでしょうか。

少し詳しく見ていくことにします。

 

空気の密度計算

まずはどのようにこの状態方程式が活用されているのかについて。

例えば,気象観測において気体の密度は状態方程式から推定されます。上空の大気の圧力と気温は機械によって観測するようですが,密度は直接測定するのではなく圧力と気温を用いて状態方程式から算出するらしいですよ。

その基本となる状態方程式は①を変形して

   P = \rho RT  ・・・② ( \rho は気体の密度)

 

下の表は気象庁のHPから抜き出した2023/1/1 09:00 AM の福岡市上空の気圧や気温などを示したもの(気象庁|過去の気象データ検索(高層) (jma.go.jp))。対流圏の高度約10000mまでの高度だけ取り出しています。

この表から,状態方程式を用いて各高度における空気の密度を計算してみましょう。

相対湿度の情報もありますので今回は湿度も考慮して密度を求めてみます。

 

ここで大気圧を  \bar{P}\rm{Pa})とおき,そのうち水蒸気の分圧を e\rm{Pa})とおくことにします。

乾燥空気の平均分子量は28.96,水の分子量を18.02であるとすると,水蒸気を含んだ空気の平均分子量   \bar{M} は,

   \bar{M} = 28.96× \dfrac{\bar{P}-e}{\bar{P}} + 18.02× \dfrac{e}{\bar{P}} = 28.96 - \dfrac{10.94 e}{\bar{P}} ・・・③

となります。

よってこの湿潤空気の気体定数  \bar{R}

    \bar{R} = \dfrac{8314.3}{ \bar{M}}   ・・・④

となりますね。

 

  \rho = \dfrac{\bar{P}}{\bar{R}T}  なので,③と④を代入して,気温 T\rm{K}) における大気の密度は

 

    \rho = \dfrac{\bar{P} \bar{M}}{8314.3T} = \dfrac{1}{287T}(\bar{P}-0.378e)   (\rm{kg/m^3}

 

と求まりました。

あとは表の値と水蒸気圧を調べて代入していくだけ。

大気圧  \bar{P} = 1.0×10^5\rm{Pa})のときは,気温5.1℃での飽和水蒸気圧*1と湿度の情報から蒸気圧  e =  8.79 ×0.68×100 = 595\rm{Pa})より   \rho = 1.25\rm{kg/m^3})と算出できます。

他の場合も同じように埋めていくと下の表のようになります*2

気圧 (hPa)
高度 (m)
気温 (℃)
密度 (kg/m3)
1000
243
5.1
1.25
925
874
-0.2
1.18
900
1090
-2.2
1.16
850
1540
-6.1
1.11
800
2016
-3.1
1.03
700
3069
-5.3
0.911
600
4261
-12.3
0.801
500
5634
-19.5
0.687
400
7265
-28.2
0.569
350
8217
-28.6
0.499
300
9320
-29.3
0.429
250
10601
-38.5
0.371

 

計算練習にはちょうど良い問題でした。

上空に行くと密度が下がっていくことが分かりますね。密度だけでなく,気圧も温度も全部下がっています。

 

とりあえず細かい計算とかは無視してもらって,このように気圧と気温から上空の空気の密度を知るために状態方程式が使われることが分かってもらえたかと思います。じゃあ空気の密度を知ったら何が分かるかということですが,それはまた今度話すことになると思います。

 

ボイル・シャルルの法則

状態方程式を用いて温度や圧力や体積を変化させたときにそれにともなって他の要素がどう変化するか知ることもできます。

 

今,とある気体が容器に  m \rm{kg})入っているとします。この気体は固有の気体定数 R を持っているので,  mR は変化することのない定数として扱えます。

よって①式を少し変えると

   \dfrac{PV}{T} = mR = (その気体で一定)

となります。

 

すなわち気体定数 R の気体が  m \rm{kg})の質量があれば,その気圧や体積や温度をいろいろ変えても

 

   \dfrac{P_{1}V_{1}}{T_{1}} = \dfrac{P_{2}V_{2}}{T_{2}} = \dfrac{P_{3}V_{3}}{T_{3}}=・・・ =  \dfrac{P_{n}V_{n}}{T_{n}} 

 

というふうに  \dfrac{PV}{T} は常に一定の値をとるのです。( P_{n},V_{n},T_{n} はある状態  n での気圧・体積・温度を表しています)

 

例えば, 初期状態が  27  ℃ 1000  \rm{hPa}1 \rm{m^3} を占める気体があったとき,体積をそのままでこの気体を  127  ℃ まで加熱したときの状態Aでも,温度一定のまま体積を半分に圧縮したときの状態Bでも

   \dfrac{P_{初期}V_{初期}}{T_{初期}} = \dfrac{P_{A}V_{A}}{T_{A}} = \dfrac{P_{B}V_{B}}{T_{B}} 

が成り立つので,

   \dfrac{1000 \cdot 1}{(273 + 27)} = \dfrac{P_{A}\cdot 1}{(273 + 127)} = \dfrac{P_{B} \cdot 0.5}{(273 + 27)}

 

よって各状態における気圧は,  P_{A} = 1333  \rm{hPa} P_{B} = 2000  \rm{hPa} と導き出せ,気体を熱したり気体を圧縮したりすることによる気圧の変化をとらえることができるのです。

 

このように気体の重さが変わらず,温度や圧力や体積を変化させたときにそれにともなって他の要素がどう変化するかを表現する式がボイル・シャルルの法則です。

 

   \dfrac{PV}{T} =  (一定) ・・・ボイル・シャルルの法則

 

気体の状態方程式はボイル・シャルルの法則から導き出された一般形ですので,状態方程式さえ覚えておけばボイル・シャルルの法則は簡単に導き出せます。

 

空気の断熱変化

上のボイル・シャルルの計算では,圧力,体積,温度の3つの登場人物が出てきました。例えば,体積を固定したままで温度を上げたら,温度変化に伴って圧力がどうなるのかが分かりました。温度を一定に保ったまま体積を小さくしたら,それにより圧力がどう変化するのかが理解できました。

3つの登場人物のうちどれか一つが固定されていれば,残り2つの変数の間に成り立つ関係が自ずと導き出されるのです。

 

では空気はどうでしょうか。

先ほどの話では,上空に行くほど圧力も気温も下がりますし,密度も下がるのでした。密度が下がるということは気体の質量が一定の場合,体積は増加するということになります。

実は空気が上空へと持ち上がる過程でどの変数も一定のものはありません。一つの値を動かすと他の2つの値もそれぞれに動くので,変数の間に成り立つ関係式は状態方程式からは一つには決まらないのです。

これは空気が断熱変化しているためです*3

 

空気というのは断熱性が高いというのは以前お話ししました。

冬にダウンジャケットを着るのは羽毛が閉じ込める空気の断熱性の高さを利用したものですし,ホッキョクグマが寒い地域で生きていられるのも毛の中がストローのような中空構造になっていることによる断熱効果の賜物です。

 

断熱変化をしている時にはボイル・シャルルの法則が使いづらいので,使いやすいようにポアソンの法則という式を用います。

 

   PV^{\rm{\gamma}} = (一定) ・・・ポアソンの法則

 

このポアソンの法則も状態方程式から導くのですが,それを導出するには熱力学第一法則が必要になります。

 

次回はこの熱力学第一法則と断熱変化について見ていきます。

 

最後に

今回は状態方程式の活用という点に主眼をおいてみてきました。

熱力学は高校時代から苦手な分野でして,今回久しぶりに勉強し直したんですが如何せん私の理解が不足していることもあり書いた内容が正しいのかは少しばかり不安があります。

いろいろ学んでいくうちに訂正事項があったらその都度修正していこうとは思っている次第ですので,間違いがあっても何卒ご容赦いただけたらと思います。「コイツ明らかに勘違いしてるな」って箇所があればご指摘いただけたら幸いです。

 

【まとめ】学習の要点

今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 気体の状態方程式はボイル・シャルルの法則から導き出された一般形。
  • 気体の重さが変わらず,温度や圧力や体積を変化させたときにそれにともなって他の要素がどう変化するかを表現する式がボイル・シャルルの法則。
  • ボイル・シャルルの法則を用いるときは,どの要素が一定でどの要素が変化するのかを常に意識する必要がある。
  • 空気が膨張したり圧縮したりするときは,断熱変化で近似してよい。これは空気の熱伝導が悪く断熱効果が高いからである。
  • 断熱変化では圧力・体積・温度の3つの要素がすべて変化する。
  • 断熱変化においてもボイル・シャルルの法則は常に成立するが,いずれの変数も動くので使いにくい。断熱変化にはポアソンの法則を用いる。
  • ポアソンの法則を理解するために熱力学第一法則が必要になる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:飽和水蒸気圧と水蒸気量の計算 (ris.ac.jp) より取得

*2:すべて乾燥空気だと仮定しても結果はほとんと変わらない

*3:実際には空気の密度・気温・圧力などは断熱変化の影響だけではなく色んな条件が複雑に絡み合っているはずです。空気は完全に断熱変化が成立するわけではなく,あくまで近似できるということですね