Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第16回 熱力学基礎〜熱力学第一法則と断熱変化

前回までは気体の状態方程式について話をしてきました。

空気の状態を知るには圧力・密度・温度の要素を理解する必要があり,これらの情報を結びつけるのが状態方程式で気象を勉強する上で非常に重要な式であることは前回述べています。

   PV=mRT

気圧が一定なら体積と温度の関係が,温度が一定条件なら圧力と体積の関係が分かるんですね。

 

しかし空気の場合,上昇させたり下降させたりすると圧力も体積も温度もすべて動いてしまうのでした。これは空気が断熱変化をするからであり,この変化は状態方程式からでは要素の関係性を把握するのは不十分なのです。

そこで今回紹介する熱力学第一法則の考え方が必要になってきます。

 

 

熱力学第一法則

坂道を自転車で下るとき,ペダルを漕いでいないにも関わらずぐんぐんと自転車は加速していきます。これは高い位置にいることで生じるエネルギーが運動するエネルギーへとその姿を変えたことで説明されます。

このときエネルギーはその姿を変えてはいますがその総和は変化せず常に一定であり,これを「エネルギー保存の法則」と呼びます。

 

下の動画のように,物理学者のウォルター・ルーウィン博士が身をもってこの法則について講義で説明されていますが,振り子につながれた鉄球を顔の前で放しても,振り子運動で戻ってきた鉄球は手を放した地点より上に行くことはありません。

最初の鉄球の位置のエネルギーは,運動するエネルギーや空気との摩擦によるエネルギーなどに消費されてやがてその動きを止めることになるでしょう。ただそれらのエネルギーの総量は突然増えたり消えたりせずに一定になります。

これは日常的な感覚からでもなんとなく理解できるなんだか当たり前のようにも感じる法則ですね。


www.youtube.com

 

熱力学においてもこの当たり前のような法則が定式化されています。それが熱力学第一法則。これこそまさにエネルギー保存の法則に相当します。

会社から支払われたお給料が,生活するために使うお金と貯金に回すお金とに分配されるように,外から受け取ったエネルギーは気体の使うエネルギーと内部に蓄えられるエネルギーとに分配される,というのが熱力学第一法則です。

外部から気体に熱(  \Delta Q)を加えると,その気体は膨張しようと壁を押して仕事( \Delta W)をしますし,残った分は気体の内部エネルギー \Delta U)として蓄えられます。ここで内部エネルギーとは,簡単に言ってしまえば温度の上昇に相当します。

これを表現したのが以下の式になります。

    \Delta Q(加えたエネルギー) = \Delta W(膨張に使うエネルギー) + \Delta U(温度上昇のエネルギー) ・・・①

特に難しいことはない式ですよね。

熱を加えるとそのエネルギーは増えたり消えたりすることなく,ちゃんと保存されますよと言っているだけのことです。

 

断熱変化と空気の断熱冷却

断熱変化とは外部からの熱の出入りがない状態の変化のことを言います。空気は熱伝導が悪いため,周りの温度からの影響を受けにくいので上空へ持ち上げられるなどする場合は断熱変化と近似できるのです。

ということは①式で外から受け取るエネルギーは   \Delta Q = 0 であるということですね。 すなわち

   0 = \Delta W(膨張に使うエネルギー) + \Delta U(温度上昇のエネルギー) 

が成り立ります。

 

ここで例えば空気が対流によって上空へと持ち上げられるとします。空気が持ち上げられるとその分圧力が減るので膨張します。高山や飛行機内でポテトチップスの袋がパンパンになったりするのと同じです。

そうすると空気は内部の圧力によって体積を膨張させたことになり仕事をしたことになります*1。このとき  \Delta W>0 なので

   \Delta U= -\Delta W

から  \Delta U<0 です。すなわち内部エネルギーは減少します。

内部エネルギーとは気体の温度上昇に伴うエネルギーですから,内部エネルギーが減るということは気体温度が低下するということです。

逆に気体を地表方向に降下させて体積が圧縮するときには  \Delta W<0  なので,内部エネルギーの変化は  \Delta U>0 となり温度が上昇します。

 

まとめると,断熱変化をする空気塊を上空へ持ち上げると外部からの熱が得られないため,気体の温度のエネルギーを膨張するエネルギーに変換することで体積が増えて温度は下がり,空気塊を下降させるときは圧縮されたエネルギー分が温度のエネルギーに変換されて体積は減り温度は上がるということです。

 

富士山やエベレストなど高い場所で気温が低いのは,空気が断熱変化によって冷却(断熱冷却)されるためです。

また,圧縮されたスプレー缶を噴出すると冷たく感じるのも同じ原理によるものです。

 

比熱

ここで  1  \rm{kg} の物質の温度を  1  \rm{℃} 上昇させるのに必要なエネルギー量を考えることにします。この量は比熱と呼ばれます*2

比熱が小さいということは少ないエネルギー量で温度を変化させられることを意味するのに対し,比熱が大きいということは大きいエネルギー量を使ってようやく温度を変化させられるということを意味します。つまり,比熱が小さいと温まりやすいし冷めやすく,比熱が大きいと温まりにくいし冷めにくいのです

 

比熱は 1  \rm{kg}の物質の温度を 1  \rm{℃}上昇させるのに必要なエネルギー量のことですので, m \rm{kg})の物質を温度  \Delta T \rm{℃})変化させるのに必要なエネルギー量が   \Delta Q \rm{J})の気体の比熱は,

   比熱 C= \dfrac{ \Delta Q}{m\Delta T} \rm{J/kg \cdot K}) ・・・②

と表せますね。ちなみにこの比熱は気体によって異なります。また比熱はその時の温度や圧力によっても変化するのですが,空気など理想気体を近似できる場合は定数として扱われます*3

 

さらに,比熱は状態変化のさせ方によっても異なってきます

 

②式を変形すると

    \Delta Q= mC\Delta T ・・・③

となります。

この③式を①式に代入するとこんな感じ。

   mC\Delta T = \Delta W + \Delta U

 

ここで気体の体積を一定にしたまま圧力と温度だけを変化させる定積変化をさせるとします。このとき気体は仕事ができないため*4 \Delta W = 0 となり

   mC_{v}\Delta T = \Delta U  ・・・④

定積変化の比熱を  C_{v} とし定積比熱と呼びます。気体  m  \rm{kg} の温度を \Delta T上昇させたときの内部エネルギー変化  \Delta U は定積比熱で表現できるということです。

ちなみに乾燥空気の定積比熱は  C_{v} = 717  \rm{J/kg \cdot K}です。

 

また気体の圧力を一定にしたまま体積と温度を変化させる定圧変化をさせたときは,気体は仕事ができますので

   mC_{p}\Delta T = \Delta W + \Delta U

定圧変化の比熱を  C_{p} とし定圧比熱と呼びます。乾燥空気の定圧比熱は  C_{p} = 1004  \rm{J/kg \cdot K} です。

ここでさらに式変形を。圧力が一定の変化ですので, \Delta W = P\Delta V と書けます*5。そしてさらに理想気体の状態方程式から, P\Delta V = mR\Delta T と書けます*6

まとめると

   mC_{p}\Delta T = mR\Delta T + \Delta U  ・・・⑤

という風に書けるのです。

 

今,定積変化と定圧変化で同じ温度だけ変化させる場合を考えますと,⑤式に④式を代入して

    mC_{p}\Delta T = mR\Delta T + mC_{v}\Delta T

 ∴   C_{p} = R + C_{v}

定圧変化は定積変化と比較して気体が膨張する分仕事が余計に必要なので,定圧比熱のほうが定積比熱よりも必ず大きい値になります。

また(理想気体の場合)定圧比熱  C_{p} は定積比熱  C_{v} よりも気体定数  R だけ大きくなります(マイヤーの関係式)。

 

乾燥空気の定圧比熱は  C_{p} = 1004  \rm{J/kg \cdot K} で定積比熱は  C_{v} = 717  \rm{J/kg \cdot K} ですので,  C_{p} - C_{v} =1004 - 717 = 287  \rm{J/kg \cdot K} となり,確かにこれは空気の気体定数となっていますね。

 

■■■■■■■■■■■■

【参考】熱力学第一法則の別の表現

上記の熱力学第一法則は別の表し方があります。

それが以下の2つの式

 

    \Delta Q = C_v \Delta T +P \Delta \alpha あるいは

    \Delta Q = C_p \Delta T −\alpha \Delta P

   ただし, \alpha = \dfrac{1}{\rho} であり,比容と呼ぶ(密度の逆数)。

 

この式は頑張って計算したら得られるようです。

私はこの式を導出しようとしても良く分からなくなってしまったので,この式は記憶しておくことに決めました。

■■■■■■■■■■■■

 

ポアソンの法則

最後にポアソンの法則だけ紹介しておきます。気象学の教科書を見てもあまり書かれていないためこの辺は範囲外なのかもしれません。

 

定積変化や定圧変化,等温変化の場合はボイル・シャルルの法則から下の式が成立します。

 (定積変化)  \dfrac{P}{T} = (一定)

 (定圧変化)  \dfrac{V}{T} = (一定)

 (等温変化)  PV = (一定)

 

しかし,断熱変化の場合は圧力も体積も温度も変化するのでボイル・シャルルの法則では不十分で,ポアソンの法則を用います。

 (断熱変化) PV^\rm{{\gamma}} = (一定)

 

このとき \rm{{\gamma}} は定積比熱と定圧比熱を用いて \rm{{\gamma}} = \dfrac{C_p}{C_v} と表されます。乾燥空気の場合,\rm{{\gamma}}=\dfrac{1004}{717}=1.40 となります。

 

導出過程は省略しますが,いろんなウェブサイトで証明されているのでご興味あれば見てみてください。

熱力学第一法則から定積比熱,定圧比熱という考えを学び,その比熱が断熱変化の式にも活用されているのです。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 空気塊の上昇は断熱変化で近似できる。
  • 熱力学第一法則とは熱力学におけるエネルギー保存則を意味する。これは,外部から与えたエネルギーは,気体がする仕事と内部エネルギーの和で表現できる。
  • 断熱変化をする空気を上空へ持ち上げると,気体は膨張し温度が低下する。逆に空気が地表面へと降下するときは気体は圧縮し温度が上昇する。
  • 1kgの物質の温度を1℃上昇させるのに必要なエネルギー量を比熱と呼ぶ
  • 比熱が小さいと温まりやすく冷めやすく,比熱が大きいと温まりにくく冷めにくいということを意味する。
  • 空気の場合は理想気体を仮定でき,比熱を定数とみなしてよい。
  • 比熱は状態変化のさせ方によっても異なる
  • 定積変化の比熱を  C_{v} とし定積比熱,定圧変化の比熱を  C_{p} とし定圧比熱と呼ぶ。
  • 理想気体の場合)定圧比熱  C_{p} は定積比熱  C_{v} よりも気体定数  R だけ大きくなる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:仕事の単位は [J] もしくは [N・m] でした。圧力の単位は [N/m^2] であり体積の単位は [m^3] であるので,圧力×体積の単位は [N・m]  でこれは仕事の単位と一致します

*2:物質全体の質量を1℃上昇させるのに必要なエネルギー量を熱容量と呼ぶ,すなわち(熱容量)=(比熱)×(質量)

*3:理想気体を仮定すると比熱は常に定数ですが,実在気体では0℃から1℃にするのと,99℃から100℃にするのとでは,おなじ1℃上昇させるのに必要なエネルギーは違ってきます。空気の場合は理想気体を仮定しても問題ないので比熱は定数として構いません。

*4:仕事=気圧×体積,体積変化=0より仕事も0

*5:仕事=圧力×体積 であり,圧力変化がないためPは固定してよい。圧力も体積も両方変化してしまう場合にはこう書けないことに注意

*6:理想気体を仮定して計算している点に注意