Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第27回 衛星画像と雲


今回は衛星から捉えた雲のお話についてです。

 

気象衛星ひまわり

日本ではさまざまな観測機器を用いて気象の観測を行っています。

例えば日本全国に設置されているアメダスだったり,気象レーダーだったり,温度計などをつけて上空の観測をする気球などなど。

その中でも宇宙空間から地球の観測を行う気象衛星は個人的にはもっともロマンがあって,もっともスケールの大きい気象観測手法の一つでしょう。

 

2023年2月現在運用されている日本の気象衛星ひまわり9号です。高度36000kmと地上のはるか遠くを飛行しており(地球の直径は12000kmなので,地球3個分の距離があります),地球の自転を追いながら定位置に留まって観測を行う静止衛星です。例えるならば,レースで走る陸上競技の選手をずっと同じ画角に収めようと走るカメラマンでしょうか。

そして気象衛星ひまわりは,日本のみならず東アジアや太平洋地域の天気予報,台風・集中豪雨予測,情報気候変動監視などを目的として複数の波長帯(バンド)で撮影される衛星画像を提供しています。

この気象衛星には合計16の波長帯を検出できるセンサーを持っているそうです。可視域に3つのバンド,近赤外域に3つのバンド,そして赤外域に10個のバンドの合計16バンド(下の表,気象衛星センターHPより引用)。

 

可視域の3つのバンド(バンド1~バンド3)はそれぞれRGB(赤緑青)の光の3原色に対応しているようで,この可視センサーによる可視画像によって日中の植生や日中の雲の形・明るさを観測します。

近赤外域は可視域と同様に,3つの近赤外センサー(バンド4~バンド6)による地表面・植生の観察や日中の雲の観測などをしています。

そして赤外センサー(バンド7~バンド16)による赤外画像から雲の様子や陸の温度を測定します。この赤外センサーの中でもバンド8~バンド10までの3つのセンサーは大気中の(雲ではなく)水蒸気の分布を得る水蒸気画像を提供しているようです。

 

このように,衛星画像は基本的に可視画像・赤外画像・水蒸気画像の大きく3つがあり,観測の目的によってそれぞれ使い分けられているんですね。

では,ここからはそれぞれの画像についてもう少し詳細に勉強していくことにしましょう。特に雲がどのように映るのかに焦点を当てて見ていきたいと思います。

 

可視画像

まず一つ目は可視画像(VIS,VS)。下のような画像です。

こちらは日本列島を強烈な寒波が襲って全国的に雪になった2023年の1月24日午後13:30の可視画像。陸地は深い灰色に,海は黒く,そして雲が白く写っているのが分かりますね。

可視画像は物体から反射される太陽光のうち,可視領域(だいたい0.35~0.80μm)の反射強度を画像化したものになります。ですので反射光が強いものほど明るく白く写るということです。

反射光が強いものとしては雲や雪や流氷など。雲と雪の区別はなかなかつきづらいですが,時間に沿った動きを見れば西から東へ動く雲と異なり雪は動かないので一目瞭然です。

ちなみに雪は下のように写ります(RGB合成したトゥルーカラー再現画像)。雲の少ない日の可視画像ですが,日本海側が白くなっていることが分かりますね。

そして雲については,密度の濃い厚い雲ほど明るく白く見え,密度の薄い雲ほど暗く見えます。この辺はなんとなくイメージがつきやすいですね。私たちの身の回りでも,入道雲は濃く白く見え,巻雲などは空の青さを透かすほどに薄く淡く見えるのでそれと一緒です。

 

しかし私たちの見ている世界が素直に画像化されたような可視画像ですが,大きな欠点があります。

それは夜は太陽光線による反射がないので観測ができないこと。今でこそ私たちは電球や蛍光灯のおかげで夜でも活動することができますが,気象衛星にとっての電球は夜は隠れてしまい暗闇の中での活動になるわけです(下図,真っ黒ですね)。

もちろん夕方も太陽光が斜めから差すので,反射強度も少なくなり暗く映ります。

また雲が他の雲に影を落とすこともあり,そのときは斜めに光が差す朝夕に太陽の方向と反対側に影が暗く写りこんだりします。

 

このように可視画像は夜間の観測ができないという欠点もあるのですが,人間が認識しているのに最も近い画像が得られ,色を再現できたりと視覚的にわかりやすいのがメリットと思われます。

 

赤外画像

お次は赤外画像(IR)。下の画像がそうです。

なんとなく可視画像と大きな違いはないように思われますが,この画像を撮るメリットは何なんでしょうか?

 

まず上の写真は午後9時の写真なのです。夜間でも雲の形がくっきりと見えているという点で可視画像とは異なります

でもなぜ暗闇でも赤外センサーはその形を捉えられるんでしょう。

これを説明するには以前放射について勉強した際の知識が必要になります。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

私たちの身の周りの温度をもったもの(絶対零度以上のもの)は必ず電磁波を発していることを勉強しました(熱放射)。

ウィーンの変位則から,黒体から放射される電磁波のピーク波長は絶対温度 T を用いて

   \lambda_{max}=\dfrac{2897}{T} \rm{\mu m}

で表現できます。

地球を黒体だと仮定すると,気温16℃(=289K)の地表から放射される電磁波のピーク波長は

   \lambda_{max}=\dfrac{2897}{289}=10 \rm{\mu m}

の赤外波長になります。

人間の目は0.35~0.80μmの波長を認識できるように進化したため地球から放射される電磁波は目ではとらえられないですが,赤外領域センサーを使えば赤外波長を検出して画像として抽出することが可能になるのです。

特に8~12μmの波長領域は地球大気による吸収が少ない大気の窓領域であるため,地表や雲から放射される赤外線は大気をそのまま透過でき気象衛星で検出が容易になります。逆に言うと,大気に吸収されやすい波長領域で見てしまうと(可視光で夜が見えないように)その赤外光は気象衛星の赤外センサーでも観測が難しくなるのです。

これが暗闇でも赤外センサーが形を捉えられる秘密です。

 

そして気象衛星の赤外画像は,温度が低いほど白く明るく,温度が高いほど黒く暗く映るように処理されます。ここは注意が必要。温度が低い方が明るいのです。画像上で表現される物体の明るさのことを輝度と呼び,その輝度に対応した温度のことを輝度温度と呼びます。

すなわち,気温が低い上空にある雲の方がより白く写ることになりますので,赤外画像では上空の雲ほど輝度は明るくなり,輝度温度は低くなるということです(輝度と輝度温度の対応関係には注意)。

ただ,上空の雲が薄く下層にある雲と重なるときはその明るさが暗く見えます。赤外画像で特に明るく写るのは対流圏界面まで発達した厚い積乱雲で,このときは巻雲などの上層雲とは異なり輪郭もはっきりと分かります。

その一方で下層にある雲は温度が高いので暗く写ることになるんですね。

 

水蒸気画像

最後は水蒸気画像(WV)。下のような画像です。

こちらはこれまでの画像と少し見え方が異なります。

水蒸気画像は波長帯6.5~7.5μm付近の赤外波長を観測しています。この波長域の赤外線は水蒸気によく吸収されまた水蒸気からよく放射されるという性質があり,雲がないところでも水蒸気の分布を観測することができます。

特に水蒸気画像では対流圏中層・上層から放射される赤外線を観測します(下層大気の状態はこの画像からは読み取ることができません)。先ほどの赤外画像と同じで温度が低いところを明るく,温度が高いところを暗く写るように処理された画像ですので上層の水蒸気帯ほど明るく見えます。

 

では,水蒸気の分布が分かったら何が分かるのでしょう。

それは上空の大気の湿り具合が分かるのです。明るく写っている(明域)ほど上層の水蒸気が多いので湿潤な空気ということですし,暗く写っていたら(暗域)乾燥した空気ということになりますね。

もし,時間を追って水蒸気画像を見たときに,明域が徐々に明るさを増して(明化)いくときは上昇流が強まっていると考えられます(空気が冷却されて湿度が高くなるため)。逆に暗域が深まって徐々に暗くなるようなら(暗化),下降流が強まって断熱圧縮により空気が乾燥していると考えられます。

また,日本の上空に乾燥した冷たい空気が入ってきたときは,水蒸気画像では暗域が確認され,大気が不安定になっている可能性が高いのです。

 

 

今回はここまで。

気象衛星がさまざまな波長領域で観測して,目的によって複数の画像から立体的に天気を考察していることが分かりました。

 

これで雲・雨・雪については終了です。

次回からはまた新しい分野,風について見ていくことにします。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 2023年2月現在日本の気象衛星は「ひまわり9号」が運用されている。
  • 気象衛星ひまわりは,地球の自転を追いながら定位置に留まって観測を行う静止衛星である。
  • 気象衛星には合計16の波長帯を検出できるセンサーを持っており(可視域に3バンド,近赤外域に3バンド,そして赤外域に10バンド),可視画像・赤外画像・水蒸気画像の大きく3つの画像が得られる。

【可視画像(可視域)・・雲の厚みを判断する画像】

  • 物体から反射される太陽光のうち,可視領域の反射強度を画像化したもの。
  • 密度の濃い厚い雲ほど明るく白く見え,密度の薄い雲ほど暗く見える。
  • 積乱雲は特に明るく見え,下層の厚い雲は明るく,上層の薄い雲ほど暗く写る。
  • 雲や雪や流氷なども白く写る。
  • 夜は太陽光線による反射がないので観測ができない。

【赤外画像(赤外域)・・雲の高度を判断する画像】

  • 温度が低いほど白く明るく温度が高いほど黒く暗く写るため,気温が低い上空にある雲の方がより白く写る。
  • 対流圏界面まで発達した厚い積乱雲は特に白く写り,輪郭も明瞭になる。輪郭が明瞭でない白い雲は巻雲などと考えられる。
  • 昼夜を問わず画像を取得できる。

【水蒸気画像(これも赤外域)・・中上層の湿り具合を判断する画像】

  • 赤外センサーの中でも大気中の水蒸気の分布を得る画像。
  • 温度が低いところが明るく,温度が高いところが暗く写る。
  • 対流圏中層・上層から放射される赤外線を強く観測する。
  • 上空が乾燥して画像で暗く見える部分は大気が不安定になっている可能性が高い。
  • 昼夜を問わず画像を取得できる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。