Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第32回 コリオリの力

 

 

慣性力

フーコーの振り子というものがあります。

下の動画のように一見すると普通の振り子にしか見えませんが,数時間レベルで観察していると徐々に振り子の運動の方向が変わっていくのが分かります。


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誰も振り子の向きを変えようとする力を加えていないのにも関わらず,なぜ振り子の運動する方向が変わったのでしょうか?

実は,振り子の運動はまったく変化していないのです。下のように地球の自転によって私たちの向きの方が変わっていたのです

    

 

振り子の球を曲げようとする力など実際には一つもかかっていないのですが,地球とともに回転している地上の人から見ると鉄球の向きを変化させる何かしらの力がかかっているように見えてしまいますよね。

このように(本当は働いてないのに)見かけ上働いているかのように見える力を慣性力(もしくは見かけの力)と呼びます。慣性力は円運動や加速度運動する際に現れます*1

 

他にも例えば,電車が突然発車するときに私たちの体が進行と逆向きに引っ張られるような感覚になるのも,エレベーターで下の階に向かって動き始めたときにフワッと浮いた感覚になるのもすべては慣性力によるものなのです。

 

コリオリの力

コリオリの力コリオリ力)とは,慣性力の中でも回転運動する際に現れるみかけの力のことです。先ほどのフーコーの振り子は地球の自転によるコリオリ力が働いていると考えることができます。

他にも,大砲を目標めがけてまっすぐ打っても,標的とはズレたところに着弾することが昔から知られていましたが,これも地球の自転に伴う影響による見かけの力が作用したからです。また東京タワーなどの高いところからボールを落下させてみても真下でなく少しズレた地点に落下するのも同じ原理が働いたことによります*2

ちなみに,コリオリの力は運動する物体に働き(静止した物体には働かない),その運動の向きを変える働きはありますが,仕事はせず運動の速度に影響を与えることはありません


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では気象現象でコリオリ力が働く身近な例はあるでしょうか。

一番わかりやすいのが台風でしょう。

宇宙飛行士の油井さんがtwitterに投稿した写真も話題になりましたが,台風が渦をまくのもコリオリ力が作用した結果なのです。この辺りの話はまた今度詳しく説明します。

 

コリオリ力を表す式

コリオリ力とは回転運動に伴い働く見かけ上の力なのでした。

下のアニメーションは地球上にいくつかのポイントを取って,自転に伴った振り子の動きの様子を視覚化したものです。

良く見てみると,下から2番目の振り子の向きは全く変化していないことに気づくでしょう。この地点は赤道上なのです。
一方,北極にある振り子の向きは大きく曲げられているのが分かります。すなわちコリオリ力の大きさが大きいということです。

実際,コリオリ力は高緯度ほど大きく極地方で最大となりますまた赤道では0となり働きません

 

地球上の1kgの物体に働くコリオリ力の大きさ F_C は以下の式で表せます。

   F_C = 2\Omega \sin \phi × v   ・・・①

この式は単位質量あたりの力であることに注意しましょう。

ここで, \Omega(オメガ)は地球の角速度, \phi(ファイ)は地点の緯度, v は物体の速度を表します。  2\Omega \sin \phiコリオリパラメータと呼ばれたりもします。①式からコリオリ力は物体の速度と緯度に比例することが分かりますね。赤道上にある物体だけでなく,地球上で静止している物体にもコリオリ力は働かないのです。

 

では具体的な数値を代入してその力の大きさを見てみることにします。

地球の角速度 \Omega は24時間(=86400秒)で1回転するので,

   \Omega = \dfrac{2\pi}{86400} = 7.3×10^{-5} ( \rm{rad/sec} ) ・・・②

となります。

例えば鹿児島種子島(北緯約30°)において,1kg の物体が速度10m/s で運動していたとき,その物体に作用するコリオリ力は②式と①式から

   F_{種子島} = 2×7.3×10^{-5}× \sin{30°} ×10 = 7.3×10^{-4} \rm{N}

と計算できます。

その値を見ると非常に小さいことが分かります。この計算からも私たちの身近な物体にもわずかながらコリオリ力は働いているのですが,とてもじゃないけど目で見て分かるレベルではないのですね。

台風のような巨大な物体があって初めて地球の生み出すコリオリの力というものを認識できるのであまり実感しにくい力なのかもしれませんが,気象学では非常に重要な概念なのです。

 

コリオリ力の働く向き

最後にコリオリ力が働く向きについて簡単に説明しておきます。

下のアニメーションのように反時計回りに回転している円板上から動く物体を見ると,物体には見かけ上の力が働きその動きが曲げられるように見えます。この場合だと,円板の外から見るとただただ下に進むだけの物体ですが,円板上では進行方向右側に曲げられているのが分かります。

地球の自転方向も北極を上にしてこのアニメーションと同じで反時計回りに回転していますので,この動き方がそのまま適用できます。

すなわち,北半球では物体の進行方向右側にコリオリ力が働くのです。そしてその角度は進行方向と直角をなして作用します。下の図のように物体の進行方向を実線で描いてみると,黒の方向にコリオリ力が働き,その結果点線で描いた軌跡をたどることになります。

その一方で南半球では南極を上にして考える必要があり,自転方向は時計周りになりますね。その結果,南半球では物体の進行方向の直角左側にコリオリ力が働くのです。

 

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • (本当は働いてないのに)見かけ上働いているかのように見える力を慣性力もしくは見かけの力と呼ぶ。
  • コリオリ力とは回転運動する際に現れるみかけの力のこと。
  • コリオリ力は運動する物体に働き(静止した物体には働かない),その運動の向きを変えるが仕事はせず運動の速度に影響を与えない。
  • コリオリ力の式: F_C = 2\Omega \sin \phi × v (ただし単位質量に働く力)
  •   2\Omega \sin \phiコリオリパラメータと呼ぶ。
  • コリオリ力は高緯度ほど大きくなる。赤道では0となり働かない。
  • コリオリ力は物体の速度と緯度に比例する。
  • コリオリ力は北半球では運動する物体の直角右側に,南半球では直角左側に働く。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:円運動も加速度運動の一つです。

*2:ちなみによくお風呂の水を抜く時にできる渦がコリオリ力によるものだという話がありますが,あれはどうも俗説のようで実際には右左どちら回りにも渦はできるようです。お風呂の水のような小さな規模ではコリオリ力の影響は小さく観測できないのです。