Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【気象学勉強】第37回 温度風

 

今回は温度風についてです。気象を勉強している多くの人が,いまひとつよく分からないと思うものトップ5に入るであろう概念です。

できるだけ原理的なところから分かりやすく理解しようとトライしたのですが,あまりうまく説明できないことが分かり,天下り的な説明となっていますが,お付き合いください。

 

 

高度によって異なる大気の動き

まずは下の動画をみてください。


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上層では左方向に,下層では画面奥の方向に雲が移動しているのが分かります。このように,大気の動きというのは必ずしも上層と下層で同じように動いているわけではなく,高さによって異なる方向へ動いていることも多いのです。

 

では上層と下層で向きが異なるのは何が要因なのでしょうか。

結論を言ってしまうと,上層と下層の間にある気層の温度分布によって引き起こされるのです。ここに温度風という概念が現れます。

では,温度風とはいったい何者なのでしょうか。

 

温度風とは何か

天下り的にはなりますが,温度風は以下の特徴があります。

  • 温度風とは,上層の風ベクトルから下層の風ベクトルを引いたベクトルのこと。すなわち,下層の風ベクトルの先端から上層の風ベクトルの先端に向かう形で表現される。
  • 温度風は,2つの高度の層間の平均温度の等温線に平行になる。
  • 北半球において,温度風ベクトルの右側は高温域,左側は低温域となる(南半球では右側で低温域,左側で高温域となる)。
  • 温度風の強さは温度の水平傾度に比例する。

温度風は,実際に吹いている風ではなく,鉛直方向の風の速度ベクトルの差のことを指します。おそらく英語の「Thermal Wind」を直訳したのでしょうが,そもそものネーミングが分かりづらさを強調させてしまっているところもあると思います。

また,ここでいう風ベクトルの「風」とは地衡風を前提としていることには注意が必要です。

そして,温度風は地衡風が成立するなら)対流圏に限らず,成層圏や中間圏などでも存在し得るものなのです。

 

上記の温度風の特徴がなぜ現れるのかは私個人では図を用いて上手いこと説明できないので,下の動画にお任せすることにします。この動画が最もコンパクトにまとめられ,分かりやすいと思いました。

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要するに,温度差による層の厚みの差が気圧傾度を生み,気圧傾度の違いが鉛直方向の地衡風の差(風速や風向の変化)を生み出し,その結果温度風を生じさせるということですね。

 

温度風を理解する

ここまで述べてきましたように,気層の温度差によって温度風が生まれます。そして逆に,温度風が分かれば気層の温度分布を知ることもできるのです。

ここからは実際に問題を解くことで,温度風について理解を深めていくことにしましょう。

問題1(第48回気象予報士試験問7より)

こちらは問題文で「温度風」と書かれているので良心的な問題です。

まず,温度風は下層の風ベクトルの先端から上層の風ベクトルの先端に向かう形で表現されるものであることを頭に入れておかなければいけません。下層ベクトルを中心にしてベクトルの方向が決まるのです。これを逆にしてしまうと真逆の結果になるので注意が必要です。

次にどちらが上層か下層かという点ですが,今回は1000hPaと500hPaの2点間の比較なので,下層は1000hPaになります。私が勉強を開始した当初は,気圧が大きな値の方を無意識に上層にしてしまうという初歩的なミスを繰り返していましたので,意外と気をつけなければいけないポイントかもしれません。

以上のことから,(北半球・南半球問わず)温度風は1000hPaの風ベクトルの先端から500hPaの風ベクトルの先端に向かう矢印として表現されなければいけません。今回の図では,いずれの選択肢も温度風ベクトルとして正確に記入されているので,この点は問題なさそうです。

 

そして温度風は,2つの高度の層間の平均温度の等温線に平行になります。また,北半球においては,温度風ベクトルの右側は高温域,左側は低温域となり,南半球では右側で低温域,左側で高温域となります。

これらを考慮すると,下の図のように等温線(細点線)は温度風(太破線矢印)に平行に描くことができ,北半球では温度風の右側で高温,南半球では温度風の左側で高温になるのです。

さらに,2つの高度の層間に平均的に吹く風(ここでは「平均風」と呼ぶことにする)は,

   V_{平均風}=\dfrac{V_{g500}+V_{g1000}}{2}

とベクトルの平均をとると図のオレンジ色の太線で表現されます。

 

こうすると,①は低温側から風が吹くので冷たい空気が流れ込んでくる「寒気移流」,②も「寒気移流」,③は高温側から風が吹くので「暖気移流」,④は「寒気移流」,⑤は「寒気移流」となります。

 

よって,③のみが暖気移流となり,正解は③となるのです。

このように,温度風が分かると,気層のどちらが暖かいのか,寒いのかが理解できるのです。この一問に温度風の考え方がすべて詰まっていますね。

 

問題2

(第62回気象予報士試験問7より)

「北半球」「地衡風」「異なる2点の高度の風速」というキーワードから温度風を用いて考えるのだろうと見当がつきます。

まず,温度風は下層の風ベクトルの先端から上層の風ベクトルの先端に向かうベクトルであるので,それぞれの領域におけるベクトルの差を計算します。

上のように図を重ねると,温度風は下図のように黄色矢印として表現できますね。

ここで,それぞれの風の左右の領域が分かるようにA, B, C, D, E, Fという6つに区分けします。

この問題では北半球なので,温度風ベクトルの右側は高温域,左側は低温域でなければいけません。ABの間に吹く温度風はゼロベクトルであるので,(気温A)=(気温B)だと分かります。BCの間には温度風が見られ,右側で高温であるので,(気温B)<(気温C)が成り立ちます。

同様に考えて,(気温C)<(気温D)となります。

同様に,(気温D)<(気温E)および,(気温E)=(気温F)だと分かるのです。

まとめると,

  (気温A)=(気温B)<(気温C)<(気温D)<(気温E)=(気温F

 

これに温度風の強さは温度の水平傾度に比例する,という特徴を加味すると,最も温度風が大きい(=温度風ベクトルの長さが長い)のはCDの間に吹く温度風であり,CDの間で最も温度傾度が大きくなっているはずです。

このことから,2つの高度の層間の温度分布は下のようになると予想できます。

よって,正解は②となります。

こちらも温度風をきちんと理解していないと解けない良い問題と思います。

 

問題3

  1. 上層で低気圧性循環が明瞭で,下層で不明瞭な低気圧周辺の温度分布について考察しなさい。
  2. 風が高度とともに弱くなる低気圧周辺の温度分布について考察しなさい。

一見,温度風を用いて解くことなど考えつかなさそうな問題ですが,これまでの考え方が適用できます。

 

まずはから。

この問題の場合,北半球でも南半球でもどちらでも良いのですが,分かりやすいように北半球で考えることにしましょう。

地衡風に近似できると仮定して)北半球の上層と下層の風を図示してみると下のようになります。厳密には,低気圧周辺の風は傾度風であり,特に中心付近では遠心力の影響が無視できなくなりますが,低気圧の外縁部では地衡風近似が良く成り立つようです。

ここに温度風を追記すると下図の黄色矢印となり,北半球では温度風ベクトルの右側は高温域,左側は低温域であることを考慮すると高温部と低温部はそれぞれ下図のように描けます。

よって,上層で低気圧性循環が強く,下層で弱い低気圧周辺の温度分布は,低気圧中心側で低温域となっていると考えられます。

ちなみに,このような構造を持った低気圧の一つに寒冷低気圧があります。

寒冷低気圧は中上層ほど低気圧循環が明瞭で,下層で不明瞭という特徴があります。そして寒冷低気圧の中心部には周囲よりも気温が低い寒気核とよばれる構造を持つのです。

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次に,では,下層で風が強く(地衡風に近似できるものと考える),上層で風が弱い低気圧を考えます。

さきほどと同様に北半球における下層と上層の風を描いてみます。

 

ここに温度風および高温部と低温部を記入すると,下図のように描けるかと思います。

よって,地衡風が高度とともに弱くなる低気圧周辺の温度分布は,低気圧中心側が高温域となります。

このような構造を持った低気圧が熱帯低気圧(台風など)です。台風では,地上との摩擦が無視できる自由大気下層(だいたい高度2~3km)で風速が最大となっており,上層に向かうほど風速は小さくなり,成層圏付近まで達すると今度は高気圧性循環をもって周囲に吹き出すことが知られています。

そして台風の中心は水蒸気の凝結に伴う潜熱が放出され,周囲よりも気温が高い暖気核があるのです。

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このように,低気圧や高気圧周辺の風の分布から,その擾乱の温度分布を考察することも可能なのですね。同様に考えると,上層に行くほど風が強くなるような高気圧(ブロッキング高気圧など)の中心側は高温になると考えられます。

 

 

ハイ,ということで,温度風の理解のための3題を紹介しました。

温度風が分かると気層の温度差を知ることができ,上空の大気の動きが筋道立てて見えてくるということで,気象解析の重要なツールとなっているようです。

 

【まとめ】学習の要点

温度風の特徴を以下にまとめておきます。

自分的メモ!
  • 温度風とは,上層の風ベクトルから下層の風ベクトルを引いたベクトルのこと。すなわち,下層の地衡風ベクトルの先端から上層の地衡風ベクトルの先端に向かう形で表現される。
  • 温度風は,2つの高度の層間の平均温度の等温線に平行になる。
  • 北半球において,温度風ベクトルの右側は高温域,左側は低温域となる。一方,南半球では右側で低温域,左側で高温域となる。
  • 温度風の強さは温度の水平傾度に比例する。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。