これまで風について見てきました。地衡風や旋衡風などいろいろな風の種類があるのでした。
今回はもっとスケールを大きく,地球規模の視点から大気の流れを理解していきます。ここは勉強していて個人的に非常に面白いところです,ハイ。
世界の気候
日本には四季があり,湿潤で温暖な気候と言われています。ケッペンの気候区分でも,日本列島の多くは「温暖湿潤気候」に分類されます。
その一方でエクアドルなどの赤道付近の国は,一年中夏で熱帯雨林などのイメージが強いからか,高温で雨も多い印象を持っています。
逆に北極や南極は氷のイメージが強く,非常に寒くてなんとなく雨が少ないんじゃないかという絵が思い浮かんできます。
とまぁ個人の勝手な思い込みも入っていますが,世界各国には特徴的な天気があり,その様相はさまざまであろうことは,実際にその地を旅行したことがなくとも多くの人の共通した感覚ではないでしょうか。
その一方で,大きな視点で見ると,気候には共通した点があるのもまた事実です。
例えば世界の砂漠の分布を見てみると,赤道直下のような暑い場所よりかは,どちらかというと赤道より緯度が少し高めの地域に多く存在していることが分かります(下図赤い部分)。この地域では雨が少ないことが予想されます。
また,世界の年間降水量を地図にしてみると,下の図のような分布になるそうです。
今度は赤道上に特に赤い領域(降水量が多い場所)の分布が高い傾向にありますね。赤道では雨が降りやすいということです。砂漠のある地図と重ねてみても,砂漠になっている地域はやはり降水量が少ないことが分かります。
余談ですが,以前旅行で出かけたシンガポールは赤道直下にあり,一日ずっと晴れている日がほとんどなかったように記憶しています。
しかし良く考えてみると,どうしてこのように赤道で雨が多くて,それより緯度が少し高い地域で雨が少ない砂漠地域が広がっているんでしょうか?ただの偶然でしょうか。いいえ,そうではないようです。
それには大気の大循環が関わっており,ちゃんとした理由が存在するのです。
地球の熱収支
下のグラフは,各緯度別に見た太陽放射の吸収量と,地球放射の放出量を表したものです。
まず太陽放射のグラフを見てみると,低緯度地域(赤道付近)では太陽放射からの吸収が大きく,高緯度地域(極地方)では小さいことが分かります。高緯度になるほど太陽光の差し込む角度が低くなるため,その分吸収できるエネルギーも少なくなるのは理解できます。
一方,地球からの放射を見てみると,こちらは赤道と極地域でそこまで大きな差は認められません。
極地方では太陽から受け取るエネルギーが少ないにも関わらず,それ以上のエネルギーを放射しているのはどういうワケなんでしょう。どこからそのエネルギーが生み出されるのでしょう。
それは地球レベルでの熱の輸送が行われているためです。低緯度地域から高緯度地域へと余った熱を輸送していたのです。そしてその方法として,①大気による熱の輸送,②海流による熱の輸送,③潜熱による熱の輸送,の3つがあります。
この中で多くを担うのが「①大気による熱輸送」であり,今回はこちらを扱います(海流による熱輸送の割合も少なくない)。
ではどのようにして大気が低緯度地域の熱を高緯度地域に輸送するのでしょうか。
ハドレー循環
1700年代にアマチュア気象学者のジョージ・ハドレー(1685-1768)は以下のような大気による熱輸送モデルを考案しました。
とてもシンプルです。
赤道で太陽によって温められた空気は膨張して上空へと舞い上がり,その分の空気を埋めるために北極や南極から冷たい空気が移動してきて大気の循環が起こっているというもの。こう考えると,地球の低緯度と高緯度にかけて熱の輸送を行えますね。素晴らしい!
しかし一見それっぽいのですが,このモデルでは,風の向きや風の速さについて実際では考えられないような値がはじき出され,説明できない点も多くありました。後にこのモデルでは不十分であり,新しいモデルへと修正されることになります。
ハドレーのモデルで何が不十分だったかというと,コリオリの力を考慮していなかった点です。それもそのはず,コリオリ力が発見されたのはハドレーが大循環モデルを考案した100年も後のことだったのです。
北半球では運動する物体に対して進行方向垂直右側に見かけの力(すなわちコリオリ力)が働きますので,次はコリオリ力を考慮したモデルを見てみましょう。
コリオリ力が働くことによって,下の図(NTTのHPより引用:https://www.rd.ntt/se/media/article/0044.html)のように,赤道から高緯度地域へと運動する風は右(東)側へとずれることになります。
そしてコリオリ力によって右方向に曲げられた風は,ある一定以上の緯度までしか到達できないのです。一方で,赤道からはどんどん温められた大気が供給されるワケですから,大気はどこかで下降せざるを得なくなります(それに加えて徐々に冷えて重くなった空気が下降するようです)。ここにハドレー循環が生まれます。
断面を見てみると,この上の図のように赤道(EQ)で温められた空気は上空で高緯度地域へと移動しますが,コリオリの力によって右側へと曲げられ,それ以上北(あるいは南半球なら南)に進めなくなります。そして,およそ南北30°の緯度(30N/30S)で冷やされて重くなった空気が下降します。下降した風は高緯度の比較的冷たい風を赤道へと送り返し循環が生じるのです。この地上側で吹く赤道に向かう風を貿易風と呼びます*1。
さらに,南北両半球からやってきた貿易風同士は赤道付近の地上側でぶつかり合い,収束が起こります。地上付近で収束が起こると上昇気流が生じて(気圧が下がり)雲ができやすいのは過去に勉強していますね。
この赤道付近に生じる低気圧地帯のことを熱帯収束体(ITCZ: Intertropical Convergence Zone もしくは赤道低圧帯)と呼びます。冒頭で,赤道上に特に降水量が多い場所が分布していることを話しましたが,その原因はこのITCZが原因のようです。
ちなみに,このITCZは常に赤道付近にいるワケではなく,季節によってその場所が変化するようです。
☝赤;夏(7月)の熱帯収束体の位置,青;冬(1月)の熱帯収束体の位置
一方,ハドレー循環で下降気流が生じる南北緯度30°の地域を亜熱帯高圧帯(もしくは中緯度高圧帯)と呼びます。下降気流により高気圧ができやすい環境では雲が生じず雨が少なくなるのですね。
こちらも冒頭で,赤道から少し離れた場所に砂漠地帯が多いと言いましたが,その原因はこの亜熱帯高圧帯による少ない降雨量にあるようです。アフリカのサハラ砂漠は,この高圧帯によって形成された代表的な砂漠だったのです*2。
【まとめ】学習の要点
ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 南北(低緯度-高緯度)の熱移動の方法として,①大気による熱の輸送,②海流による熱の輸送,③潜熱による熱の輸送の3つがある。
- その中で大部分を担うのが「①大気による熱輸送」。
- ハドレー循環は赤道から南北緯度30°の間で生じる大気の熱輸送。
- ハドレー循環の中でも,地上側で吹く赤道に向かう風を特に貿易風と呼ぶ。
- 南北両半球からやってきた貿易風同士は赤道付近の地上でぶつかり合い,熱帯収束体(ITCZ もしくは 赤道低圧帯)が形成される。収束するので上昇気流が生じ,雨が降りやすい。
- ハドレー循環で下降気流が生じる南北緯度30°の地域では亜熱帯高圧帯(もしくは中緯度高圧帯)が形成される。気圧が高く雲ができにくいため,サハラ砂漠などの砂漠地帯が多い。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p282-291
- 『気象予報士かんたん合格テキスト』技術評論社 p224-226, p230-233
- Microsoft PowerPoint - 120918神戸大パート1 [互換モード] (gfd-dennou.org)
- sotsuron.pdf (gfd-dennou.org)
- Desert climate - Wikipedia
- Global precipitation (uwyo.edu)
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https://www.jma-net.go.jp/haneda-airport/weather_topics/rjtt_wt20130930.pdf
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大気大循環とは?大循環のモデルから気候までわかりやすく解説 | 地球の未来を宇宙から考えるメディア Beyond Our Planet
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https://groups.seas.harvard.edu/climate/eli/research/equable/hadley.html
- Creating Artificial Rain By Building Small Hadley Cells (cleantechloops.com)
- How Does Air Circulate in the Tropics? (geography.name)
- 亜熱帯高圧帯 - Wikipedia