さて,この辺りから非常に重要と思われるポイントがいくつも出てきます。中緯度地域(緯度30度~60度)の循環であるフェレル循環に,この地域で発生する偏西風や温帯低気圧など。
なぜこれらが重要なのか?それは日本という国がこの中緯度地域に位置するからです。日本の天気とは切り離すことができない密接な事柄なのです。
ココはきっちりと理解しておきたいと思っています。
フェレル循環
これまでハドレー循環と極循環について勉強し,いずれも南北方向に熱の輸送を行って赤道と極地方との気温の差を解消するように働くのでした。
しかし今回のフェレル循環はこれまでの循環とは異なる動きを見せます。
下の図の赤く囲った部分がフェレル循環になります。
一見すると,これまでの循環と大きく異なっている点がなさそうに思えますね。
しかし,大気の循環では温かい空気を赤道側から極側へ,冷たい空気を極側から赤道側へと送るという点を考慮すると少しばかり不自然です。なぜなら,下の図のように,フェレル循環では温かい空気(赤矢印)を地上側から,冷たい空気(青矢印)を上空側から輸送しなければいけないためです。冷たい空気は暖かい空気よりも密度が高く重いので,こんな輸送は一般的には考えづらいように思えます。
そして事実,フェレル循環では,ハドレー循環や極循環のような直接的な南北の熱輸送は起こっていないのです。
じゃあ何が起こっているのかというと,偏西風という中緯度地域に見られる東西方向に走る風が南北に蛇行することで熱を輸送しているのです。そしてこの偏西風を介した南北の熱輸送を大きく平均すると,フェレル循環のような大気の動きが見られるようになるのです。
ハドレー循環や極循環のような南北に吹く風によって直接熱を輸送する循環を直接循環といい,フェレル循環のように平均して見かけ上現れる循環のことを間接循環といいます。
偏西風と傾圧不安定波
(北半球を考えて)赤道で上昇した風は北緯30度で下降してハドレー循環を作り出すと言ってきましたが,実は赤道からの風の一部の気流は北緯30度を超えて中緯度地域まで到達します。
そして,それらの空気はコリオリの力を受けて真東に向かって吹くようになります。その結果,地球の中緯度地域をぐるっと一周するような大気の流れができ,その風が偏西風です。
そしてこの偏西風は地上ではあまり明らかではないものの,上空に行くほど風速も強くなり明瞭に確認できます(上空で吹く偏西風は地衡風・傾度風となり等圧面に平行に吹きます)。
下は2023年5月3日の高度5500m付近の風の動きを可視化したものですが(https://www.ventusky.com/),たしかに西風が吹いていますね。速度はおよそ100km/hを超える地点もあります。
北極側から眺めると,ぐるっと地球を一周しているのも確認できます。
そして図を見て分かる通り,偏西風は必ずしも西から東へ真横に吹いているわけではなく,南北に波打ちながら吹いています。この偏西風の蛇行のことを偏西風波動といい,偏西風波動が作り出す大気の流れのことを傾圧不安定波と呼びます(偏西風波動と同義で使われることも多いようですが,傾圧不安定波の方が学術的には一般的だそうです)。
もちろんこの偏西風の蛇行は日々変化して,場所や季節によっても大きく変わってきます。
ただ,偏西風が南から北へ向かうときには低緯度の温かい空気を北側へと運び,北から南へと向かう際には高緯度の冷たい空気を南へと運んで熱輸送を実現させているという点では季節によらず共通の働きをしているのです。そして同時に,偏西風は南北の冷たい空気と温かい空気を隔てる役割もあります。
この偏西風の蛇行による日本の気象への影響も多大です。
以前,渦度が生じる原因の一つとして流れに曲率があることが挙げられました。流れに曲率があると,渦度すなわち回転が生じるのです。
では日本の近くで偏西風が蛇行したらどうなるでしょう。
回転が生まれて低気圧や高気圧が発生しやすくなったり,発達しやすくなったりするのです。
このように,偏西風の蛇行具合によって日本の天候は大きく左右されるのです。
このあたりはまた後日詳しく説明しようと思います。
下のYouTube動画も分かりやすいのでご参考まで。
傾圧不安定波の実験
最後に偏西風が南北に波打つ様子を実験で見てみましょう(回転水槽によるロスビー循環モデル | ふたばのブログ〜理科教育と道徳教育を科学する〜 (futabagumi.com)より引用)。
上の写真は北極側から見た地球の大気を表現しており,容器の中央に氷(北極),外側にお湯(赤道),真ん中に水(中緯度地域)が配置されています。水の流れ(大気の流れ)が分かるように,水面にはアルミニウムの粉を浮かべておきます。
この容器を地球の自転を模して回転させると下のような模様が出てくるそうです。
蛇行している様子が再現できましたね。面白い。
中心に向かってへこんでいるところが気圧の尾根(リッジ)と呼ばれる高気圧部分に相当し,外側に向かっているところが気圧の谷(トラフ)と呼ばれる低気圧部分に相当します。
動画で見たい方は,以下の北大の先生のYouTube教室が参考になるかと思いますので,ご興味ございましたらご覧ください。
ということで一般知識の佳境に差し掛かってきました。
細かい点については飛ばし飛ばしですが,大きな原理・枠組みについては押さえながら勉強をしたいと思います。
【まとめ】学習の要点
ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 中緯度地域(緯度30度~60度)の循環はフェレル循環が担う。
- 赤道から来た一部の気流は緯度30度を超え,コリオリ力を受けてほぼ真東に進み,偏西風と呼ばれる。
- 偏西風は上空で吹く風で,上空に行くほど風速が速くなる(※⇔貿易風は地上で吹く風)。
- フェレル循環は,直接的な南北の熱輸送を起こさない間接循環であり,偏西風が南北に蛇行することで熱を輸送する。
- 偏西風は南北の冷たい空気と温かい空気を隔てる役割も果たす。
- 偏西風の南北の蛇行のことを偏西風波動(あるいは傾圧不安定波)と呼ぶ。
- 偏西風の蛇行によって渦度が生じ,低気圧や高気圧が発生しやすくなったり,発達しやすくなったりする。
- このように偏西風は日本の気候に大きく影響を与える。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p292-293
- 『気象予報士かんたん合格テキスト』技術評論社 p224-226
- 『天気と気象』ニュートンプレス
- 大西先生の流体力学の実験教室⑧ - YouTube
- 極渦と気象学 : アルバータ大学 写真記 (livedoor.blog)
- rjtt_wt20130930.pdf (jma-net.go.jp)
- 大気の大循環 中緯度の熱輸送は難しい | 色と形で気象予報士! (irokata7.com)
- 日本の六季と天気図#2【概観part2―偏西風の1年と低気圧・高気圧―】<天気図の読み方中級編> - YouTube
- 回転水槽によるロスビー循環モデル | ふたばのブログ〜理科教育と道徳教育を科学する〜 (futabagumi.com)
- 大気の大規模な運動③偏西風波動と温帯低気圧 - 気象ゼミごっこ (hatenablog.com)
- 総合科目「地球環境とリモートセンシング」 (chiba-u.jp)