Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【気象学勉強】第94回 数値予報②~プリミティブ方程式

 

今回は気象予報の数値計算の基礎になる「プリミティブ方程式基礎方程式)」について勉強していきます。そしてこのプリミティブ方程式には6つの式があるのです。

式を見ていると非常に専門的で難解な数式が並んでいるので,今回はそれぞれの式の意味について少し考えてみることにします。ただし,私は専門家でもなんでもないですし,式自体の細かい点は理解していないので,ザックリ解説です。

 

 

運動方程式とは

プリミティブ方程式について見ていく前に,まずは「運動方程式」という式について理解する必要があります。

運動方程式というのは,

  (物体の質量:  m)×(物体の加速度:  a もしくは  \dfrac{dv}{dt})=(物体に働く力:  F

というニュートンが導き出した有名な方程式のことです( v は物体の速度を表します)。すなわち,

    m \dfrac{dv}{dt} = F

ですね。

質量が分かっている物体に,ある大きさの力をかけてやると,そこから物体の加速度が求まりますし,物体の質量と加速度が分かっていれば,そこから物体にかかる力の大きさを求めることができる便利な式です。

気象の世界でもこの運動方程式は成立し,この場合の物体は空気塊に相当します。ただ,空気の場合は単位質量で考えることが一般的のようですので,  m = 1(kg)として考えます。すなわち,

  (空気塊の加速度  \dfrac{dv}{dt})=(空気塊の単位質量に働く力  F

という式で表せるのです。

 

水平方向の運動方程式

では,上記で述べた点を踏まえて,水平方向の運動方程式を見てみましょう。下がその式。

 

   \dfrac{\partial u}{\partial t} = -u\dfrac{\partial u}{\partial x}-v\dfrac{\partial u}{\partial y}-w\dfrac{\partial u}{\partial z}+2\Omega \sin \phi v -\dfrac{1}{\rho}\dfrac{\partial p}{\partial x} + F_x ・・・①

 

   \dfrac{\partial v}{\partial t} = -u\dfrac{\partial v}{\partial x}-v\dfrac{\partial v}{\partial y}-w\dfrac{\partial v}{\partial z}+2\Omega \sin \phi u -\dfrac{1}{\rho}\dfrac{\partial p}{\partial y} + F_y ・・・②

 

いやー,見ていてアタマが痛くなりますね。

これらの式にも本来は両辺に質量( m)を表す文字が入っているはずですが,単位質量を考えているため省略されています(おそらく)。

 

では①の式は何を表しているのでしょうか。

まずは左辺。 \dfrac{\partial u}{\partial t} ですが,これは空気塊の加速度です。

 

そして右辺。まず, -u\dfrac{\partial u}{\partial x}-v\dfrac{\partial u}{\partial y}-w\dfrac{\partial u}{\partial z} は移流項と呼ばれ,こちらも加速度を表しているようです。空気は流体と考えられ,流体が流れに沿って空間的に変化する際の速度の変化,つまり速度の空間変化が運動に与える影響がこの式に加味されているのだそうです。ナビエ-ストークス方程式という流体の方程式から来ているようですが,難しいことは分かりませんのでご興味あれば調べてみてください。

 

そして  +2\Omega \sin \phi v という項。これは空気塊に働くコリオリ力です。単位質量あたりに働くコリオリ力はこのような式で書けることは以前勉強しています。

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そして,  -\dfrac{1}{\rho}\dfrac{\partial p}{\partial x} ですが,これは単位質量あたりの空気塊に働く気圧傾度力。これも以前勉強しました。

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最後の  +F_x の項ですが,こちらはパラメタリゼーション項と呼ばれ,格子間隔よりも水平スケールの小さい力の作用が考慮されています。具体的には,摩擦力などがあります。

 

まとめると,水平方向の運動方程式は,

 空気塊の加速度=移流効果+コリオリ力気圧傾度力+パラメタリゼーション項

という式になっています。要は,空気塊には様々な力が働くことで,空気はその力の影響を受けて運動します,ということを表しているようです。

そして,①式はx軸方向を,②式はy軸方向を考えており,これら2つの式を合わせて水平方向の運動方程式と呼ぶのです。

 

鉛直方向の運動方程式

次に,鉛直方向の運動方程式を見てみましょう。この式はどうでしょうか。

   \dfrac{\partial p}{\partial z} = -{\rho} g ・・・③

 

実はこの式は静力学平衡の式と同じなのです。

プリミティブ方程式では,下向きに働く重力と上向きに働く力がつり合った状態(すなわち静力学平衡)を考えており,鉛直方向の動きはないと仮定します。

 

静力学平衡の式は  \Delta P = -\rho g\Delta Z と表せるので,これを変形すると③式と同じ式が得られます。

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ちなみに,プリミティブ方程式ではなく,(鉛直方向の動きを考慮する)「非静力学モデル」では,下のように鉛直方向についても運動方程式を用いることになります。

   \dfrac{\partial w}{\partial t} = -u\dfrac{\partial w}{\partial x}-v\dfrac{\partial w}{\partial y}-w\dfrac{\partial w}{\partial z} -\dfrac{1}{\rho}\dfrac{\partial p}{\partial z} -g + F_z

 

連続の式

次は連続の式。下のような式で記述できるようですが,これは何を表しているのでしょうか。

   \dfrac{\partial \rho}{\partial t} = -u\dfrac{\partial \rho}{\partial x}-v\dfrac{\partial \rho}{\partial y}-w\dfrac{\partial \rho}{\partial z} - \rho(\dfrac{\partial u}{\partial x}+\dfrac{\partial v}{\partial y}+\dfrac{\partial w}{\partial z}) ・・・④

 

結論から言ってしまうと,空気のような流体の質量保存則を表現しているらしいです。

以前,周りから空気が集まり収束すると,その空気の一部は鉛直方向などへ空気を逃がすように運動することは計算しました。このとき,ある空間の中に入った分だけ空気は押し出され,前後で空気の総質量は変化しません。変化するのは密度や体積などです。

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④式を眺めると,左辺  \dfrac{\partial \rho}{\partial t}密度の時間変化です。

 

そして右辺の, -u\dfrac{\partial \rho}{\partial x}-v\dfrac{\partial \rho}{\partial y}-w\dfrac{\partial \rho}{\partial z} は流体を考える上でセットになってくる移流効果を表します。

また,  - \rho(\dfrac{\partial u}{\partial x}+\dfrac{\partial v}{\partial y}+\dfrac{\partial w}{\partial z}) は収束・発散に伴う密度変化を表現しています。

 

まとめると,連続の式は,

 密度の時間変化=移流効果+収束・発散による密度変化

というふうに解釈できます。

要は,空気塊などはどこからともなく生まれたり消えたりせずに,その質量は常に保たれながら変化しているということを表しているのです。

 

熱力学方程式

空気は圧縮したり膨張したりできるため,断熱圧縮や断熱膨張によって温度が変化します。そこで,空気塊の圧力と温度との関係を表す式として,この熱力学方程式が必要になってきます。

   \dfrac{\partial \theta}{\partial t} = -u\dfrac{\partial \theta}{\partial x}-v\dfrac{\partial \theta}{\partial y}-w\dfrac{\partial \theta}{\partial z} + H ・・・⑤

 

この式は温位  {\theta} を用います。

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左辺  \dfrac{\partial \theta}{\partial t}温位の時間変化で,右辺の  -u\dfrac{\partial \theta}{\partial x}-v\dfrac{\partial \theta}{\partial y}-w\dfrac{\partial \theta}{\partial z} はおなじみ移流効果を表します。

そして,ここまでの式は空気の断熱変化に伴う温位の変化でしたが,外部からの熱を受けても空気塊の温位は変化しますので  + H という非断熱変化に伴う外部からの熱が加えられています。この  H はパラメタリゼーション項であり,太陽放射や乱流,蒸発などの効果が入っています。

 

まとめると,熱力学方程式は,

 温位の時間変化=移流効果+パラメタリゼーション項(非断熱効果による温位変化)

というふうに解釈できます。

 

水蒸気の輸送方程式(水蒸気の連続の式)

大気中の水蒸気は気温や気圧が変化するに伴って状態変化を起こします。水が水蒸気になったり,水蒸気が雨粒へと変わるなど。 この水蒸気の輸送方程式は,水蒸気の連続の式とも呼ばれ,外部からの加湿がなければ水蒸気は保存されることを表現したものです。

この式は比湿  q を用いて表され,

   \dfrac{\partial q}{\partial t} = -u\dfrac{\partial q}{\partial x}-v\dfrac{\partial q}{\partial y}-w\dfrac{\partial q}{\partial z} + M

と記述されます。

そして,比湿の時間変化と移流効果が式にはあり,さらに外部からの加湿が  + M という項に入っています。この  M もパラメタリゼーション項であり,乱流,水の状態変化などの効果が入っています。

 

水蒸気の輸送方程式は,

 比湿の時間変化=移流効果+パラメタリゼーション項(非断熱効果による加湿)

というふうに解釈できます。

 

気体の状態方程式

最後,6つめの式。

   P = \rho RT

こちらはいいでしょう。気体の状態方程式です。詳細は以下を参照。

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以上,これらの6つの方程式が数値予報において根幹となっています。

それにしても,こんなややこしい数式を組み合わせたら気象予報できるんじゃないかって考えた人はスゴイですね。私なら式①を見た瞬間にあぁ面倒い,ってサジを投げると思います。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • プリミティブ方程式では静力学平衡を仮定していることに注意する。
  • プリミティブ方程式は,以下の6つの式のことを指す。

  ①水平方向の運動方程式

  空気塊加速度=移流効果+コリオリ力気圧傾度力+パラメタリゼーション項

   (※パラメタリゼーション項:摩擦力)

  ②鉛直方向の運動方程式(静力学平衡の式)

  静力学平衡の式

  ③連続の式

  密度の時間変化=移流効果+収束・発散による密度変化

  ④熱力学方程式

  温位の時間変化=移流効果+パラメタリゼーション項

   (※パラメタリゼーション項:非断熱効果による温位変化)

  ⑤水蒸気の輸送方程式

  比湿の時間変化=移流効果+パラメタリゼーション項

   (※パラメタリゼーション項:非断熱効果による加湿)

  ⑥気体の状態方程式

  理想気体の状態方程式

 

  • 鉛直方向の大気の動きを考慮した「非静力学モデル」では,②は水平方向の運動方程式と同様の鉛直方向の運動方程式に変わる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。