大きな寒冷渦が日本海を進んでいて,大変話題となっていましたので今回はそちらについて学んでいきたいと思います。
2024年5月に発生した寒冷渦
以前,寒冷低気圧について勉強しました。
私はこれまで寒冷低気圧と寒冷渦についてあまり区別せずに勉強していたのですが,これらは本質的には同じものであり,天気図上で高度場と寒気に着目するときは「寒冷低気圧」,衛星画像を用いて低気圧性循環の渦として捉えるときは「寒冷渦」と呼ばれ区別されるようです(閉じた等高度線に着目する場合には「切離低気圧」とも呼ばれるようです)。何に着目するかによって呼び名が変わるのですね。油を取るという視点から名づけられた「アブラナ」という植物が,花を視点としたときに「菜の花」と名前が変わるように。
さて,2024年5月16日には日本海に台風と見間違うほどの渦巻きが現れました。寒冷渦です(衛星画像として判断したためここでは「寒冷渦」を使用しました)。
少し不謹慎な表現かもしれませんが,渦巻銀河を彷彿とさせる地球上の小宇宙が非常に美しい。
しかし,寒冷渦の直下では大気の状態が不安定となり,積乱雲が発達して強い降水や突風,落雷などに注意が必要なので,その形の美しさに見惚れているわけにもいかないのです。
今回現れた寒冷渦の時間的な経過を,赤外画像を用いたアニメーションにしてみました。
日本海上を渦巻きが反時計回りに回転しながら北東の方角へと進んでいるのが観測されます。
そしてこの寒冷渦は,上空のトラフが深まることによって,偏西風の流れから切り離されることで形成されます。上空約5500m(500hPa)の時間的変化を追ってみました(Ventusky - Wind, Rain and Temperature Maps)。
偏西風が低緯度側に深く張り出しながら蛇行しているのが分かります。やがて,急カーブを曲がりきれなかった車がその場でスピンしてしまうように,蛇行の中心には渦が形成されていきます。このように偏西風の大きな流れから切り離された低気圧が寒冷渦なのです。
500hPaの高層天気図(気象庁|数値予報天気図,AUPQ35)ではこの寒冷低気圧は下のような感じになっていました(ここでは天気図から判断したため「寒冷低気圧」という言葉を使用しました)。上のアニメーションのいくつかの時点をスナップショットとして切り取った形になっており,整合性が取れて見ていて楽しいですね。
寒冷渦の構造
では,この寒冷渦の構造をみてみることにします。
寒冷渦は,中心部に寒気が存在し,そのため対流圏界面が周囲と比較して大きく垂れ下がり,一方で対流圏界面より上層の成層圏下部では周囲よりも暖かいという特徴的な構造を有しています(下図)。
今回の寒冷渦はどうでしょうか。
鉛直断面図を鉛直断面図 - Weather Modelsというサイトを使って解析してみました。
下のように,寒冷渦が日本海上に位置していた日本時間2024年5月16日の18時ごろのオレンジの矢印方向に刃先を入れて,その断面について見てみました。
断面は以下のようでした。
すると確かに,対流圏では等温線が地上側へと下がっており,成層圏(平均して地上11kmより上空が成層圏と言われる)ではさらにその上空側へと等温線が膨らんでいる寒冷渦の構造が確認できました。
教科書的に言われていることが実際に解析できるとなんだか嬉しいですね。百聞は一見に如かずと言いますが,実際に手を動かしてみることで気象の理解も深まっていきます。
さらに,気温の平年差で上の図を色付けし直してみると,寒冷渦の温度分布が際立ちます。
対流圏では平年よりも冷たい空気があり青く色づきます。これが寒冷渦の寒気核を表すのですね。
一方でその上には赤く染まった平年よりも暖かい空気が存在しています。そして青と赤の境界線が対流圏界面に概ね相当すると考えられ,渦中心では圏界面がたしかに大きく垂れさがっているのがちゃんと確認できました。
上記のように,寒冷渦の構造をようやくきちんととらえることができて,非常に満足したのでした(*^^)v。
そして,今回の寒冷渦では台風並みの暴風となったところもあり,各地で被害が出たようです。なんでも布団がフっとんだらしいのです。
あまり聞き慣れない「寒冷渦」という気象現象ですが,大きな被害を及ぼすことも知られており気を付けなければいけないのですね。
寒冷低気圧は地上天気図では明瞭には現れないことも多いため大したことがないと看過されがちですが,実際には大気が不安定になりやすく,特に寒冷低気圧の東から南東側にかけて積乱雲が発達して激しい雷雨を伴うこともあるので注意が必要です。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。