今回は閉塞前線について勉強していきたいと思います。第62回気象予報士試験実技試験の前線解析でも出題され,私としてはあまり理解できていなかった点だったので,ここでちゃんと頭に入れておくことにします。
閉塞前線とは
以前,前線については勉強しました。
前線には,寒冷前線,温暖前線,停滞前線,閉塞前線の4つがあったのでした。
中でも,閉塞前線は,低気圧から伸びる寒冷前線が前面にある温暖前線に追いついたときにできる前線のことで,この閉塞前線ができる頃に低気圧は最盛期を迎えます。
低気圧の最盛期には,下の図(Microsoft PowerPoint - 03_gainen (jma.go.jp)より一部改変)のように,トラフの位置(下図赤の二重線)は地上の低気圧中心のほとんど真上にくるような形になります。そして,閉塞前線が温暖前線と寒冷前線に分岐する点(閉塞点)付近の上空をジェット気流が流れるようになるのです。
閉塞前線の種類
この閉塞前線には,寒冷前線の延長線上に閉塞前線がある寒冷型閉塞前線と,温暖前線の延長線上に閉塞前線がある温暖型閉塞前線の大きく2つに分類されます*1。
実際に地上の天気図を見てみましょう。
下のように寒冷前線を伸ばした先に閉塞前線があるのが寒冷型閉塞前線。ちょうど漢字の「人」の字の形をしているのが分かりますね。
一方,温暖前線を伸ばした先に閉塞前線があるのが温暖型閉塞前線。こちらは漢字の「入」の字の形です。
では,なぜこのような前線の形に違いが出るのでしょうか。
結論から言ってしまうと,寒冷型閉塞前線ができるときは,寒冷前線の進行方向後面の寒気が強く(温度が低く),寒冷前線の性質が強く現れます。一方で,温暖型閉塞前線ができるときは,寒冷前線の進行方向後面の寒気は比較的弱く,温暖前線の進行方向前面の寒気が強く(温度が低く)なるという特徴を持ちます。
気象庁が公開している資料(Microsoft PowerPoint - 04_teigi (jma.go.jp))を見ると,それらの違いが分かりやすくまとめられていました(下表)。
ちなみに,日本付近では大陸からの冷たい寒気が流れ込みやすいため,寒冷型の閉塞前線の方が温暖型より発生頻度は多いようです。
天気図上の寒冷型閉塞前線
ここまで閉塞前線について見てきましたが,どのような大気の状態のときにこれらの前線が解析されているのかをちゃんと見てみないことには理解できたとは言えません。
そこで,まずは寒冷型閉塞前線の地上・高層天気図を眺めていくことにしました。
下は2024年1月15日9時(日本時間)の500hPa高度・渦度の分布図(AXFE578)。冒頭に示した地上天気図の寒冷型閉塞前線の高層に相当します。
北海道の北部に低気圧中心があり,高度5280m付近に渦度0線に対応する強風軸が位置している感じでしょうか。地上の低気圧中心は強風軸の北側にあり,すでに閉塞していることが予想できます。
次に700hPa上昇流/850hPa気温・風の分布図(AXFE578)。
等温線の分布が密なところがあり,そのあたりに前線が解析できそうな気はしてきます。
では実際にどのように前線は解析されたのでしょうか。
高層天気図に地上天気図の前線を重ねてみました。
下は500hPa高度・渦度の分布図(赤)と地上天気図(黒)を重ね合わせたもの*2。
たしかに,ちょうど閉塞点付近を渦度0線に対応する強風軸(青矢印)が通っていることが分かりますね。
次に700hPa上昇流/850hPa気温・風の分布図(赤)と地上天気図(黒)を重ね合わせてみます。
閉塞点付近には,「-81hPa/h」という上昇流の極値があります。閉塞点付近は(寒冷前線・温暖前線・閉塞前線の3つの前線が交わるので)風が収束しやすく強い上昇流が生まれやすいといいます。
寒冷前線はだいたい0℃の等温線に沿って引かれており,教科書に良く書かれている等温線の集中帯の南縁に解析されています。
一方,温暖前線はー3℃の等温線に沿って引かれており,こちらは風の水平シアーをもとに解析されてるんですかね。
特徴的なことは,寒冷前線付近で等温線が密になっていること。すなわち,寒冷前線を挟んで温度差が比較的大きく,これが寒冷型閉塞前線として解析されるためのポイントとなるようです。
天気図上の温暖型閉塞前線
お次は温暖型閉塞前線の地上・高層天気図を眺めてみます。
下は2024年3月8日21時(日本時間)の500hPa面天気図。こちらも冒頭に示した地上天気図の温暖型閉塞前線の高層に相当するものです。
この図から低気圧がどこに位置しているかは判断が難しそうですが,日本の東海上に低気圧が存在しているようです。
700hPa上昇流/850hPa気温・風の分布図。
東経150°,北緯35°あたりに位置する暖気核「W」付近に低気圧が位置しています。その暖気の北側で等温線が密になっていることが分かります。
先ほどと同じように,高層天気図に地上天気図の前線を重ねてみました。
500hPa高度・渦度の分布図(赤)と地上天気図(黒)を重ね合わせたもの。
強風軸はあまり明瞭には見えませんが,閉塞点付近の上空を通る渦度0線あたりをだいたい青矢印で引いてみました。
次に700hPa上昇流/850hPa気温・風の分布図(赤)と地上天気図(黒)を重ね合わせてみます。
やはり閉塞点付近には,「-152hPa/h」という上昇流の極値があります。寒冷前線は9~12℃の等温線に沿うように引かれ,温暖前線は等温線の集中帯の南縁付近に解析されているようです。
温暖型の閉塞前線を解析する上で重要なことは,先ほどの寒冷型とは異なり,温暖前線付近で等温線が密になっている点です。寒冷前線側では等温線の明らかな集中帯は認められません。
すなわち,「温暖型の閉塞前線ができる際には,寒冷前線の進行方向後面の寒気は比較的弱く,温暖前線の進行方向前面の寒気が強く(温度が低く)なる」という上述した特徴が,天気図上できちんと表現されているのです。
- 閉塞前線は,低気圧から伸びる寒冷前線が前面にある温暖前線に追いついたときにできる前線のこと。
- 閉塞前線は,「寒冷型閉塞前線」と「温暖型閉塞前線」の大きく2つに分類される。
- 寒冷型閉塞前線ができるときは,寒冷前線の進行方向後面の寒気が強く(温度が低く),寒冷前線の性質が強く現れる。
- 温暖型閉塞前線ができるときは,寒冷前線の進行方向後面の寒気は比較的弱く,温暖前線の進行方向前面の寒気が強く(温度が低く)なる。
- 閉塞前線が温暖前線と寒冷前線に分岐する点(閉塞点)付近の上空をジェット気流が流れる。
- 閉塞点付近は風が収束しやすく強い上昇流が生まれやすい(上昇流の極値が解析されることが多い)。
- 寒冷型閉塞前線が解析される場合,寒冷前線付近で等温線が密となり温度傾度が比較的大きい。
- 温暖型閉塞前線が解析される場合,温暖前線の前面で等温線が密となり温度傾度が比較的大きい。
参考図書・参考URL
下記の文献やwebサイトを参考にしました。
- 閉塞前線 - Wikipedia
- Microsoft PowerPoint - 03_gainen (jma.go.jp)
- Microsoft PowerPoint - 04_teigi (jma.go.jp)
- 第55回直前 前線解析演習②:温暖型閉塞前線《第32回試験・実技1・問2(2)》(考察編) | 気象予報士 瀬戸信行の 「てるてる風雲録」 (ameblo.jp)
- 「入」の形の低気圧閉塞により東日本太平洋側で大雪の「なごり雪」(饒村曜) - エキスパート - Yahoo!ニュース