Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

第62回気象予報士試験振り返り~一般知識①~

 

今回は,今年の8月に実施されました第62回気象予報士試験の一般知識について振り返っておきます。私は今回受験しましたが,9点という結果で不合格となってしまいました。どこで間違えたのかをちゃんと理解して,次の試験に活かしていこうと思います。

 

今回振り返りに当たって,出来る限り丁寧に解説をしてみましたが,あくまで個人的にこうやって考えたら良いのではないかということを記述してのであって,間違いもあるかと思います。内容に誤りや修正等あればご指摘ください。

 

なお,問題については,気象業務支援センターから公開されておりますので,そちらからご覧ください。

気象予報士試験 (jmbsc.or.jp)

 

 

第1問 地球大気の鉛直構造

【正解】②

 

【解説】

大気の鉛直構造についての基本が問われました。

(a)経度平均した高度15km付近の年平均気温についての問題です。

高度15kmはおよそ対流圏界面から成層圏下部に相当します。ただし,対流圏界面の高度は赤道付近では約17kmと高く,極地方では約6kmと緯度によって大きく異なります。これは,暖かい空気が膨張し,太陽光を多く受ける赤道付近で大気の厚みが増すためです。対流圏では空気の断熱膨張により高度の上昇に伴い気温が低下しますが,成層圏はオゾンの紫外線吸収による大気加熱の作用によって高度の上昇に伴い気温は上昇する傾向があります。

これらのことを考慮すると,極地方の高度15kmは気温減率の小さい成層圏内で,赤道付近の高度15kmは気温減率の大きい対流圏内であり,(地上の気温を考慮しても)赤道での高度15kmの方が極地方よりも低温になります。北極域の高度15kmの気温がだいたいマイナス50℃程度,赤道域ではマイナス70℃程度と言われています。

下図は一か月間の鉛直方向の気温分布を表したものですが(緑が低温領域,橙が高温領域),赤道付近の対流圏界面で最も気温が低くなっていることが分かりますね。

よって,選択肢の記述は正しいといえます。

(b)中緯度地域は夏と冬の寒暖差が大きいため,対流圏界面の高度は季節とともに変動しやすい傾向があります。また,季節といった長期的な変動だけでなく,短期的にも変化しやすいことが知られています。

高気圧では下降気流が支配的になり,空気が暖まりやすく成層が安定するため,対流圏圏界面高度は高くなります。その一方で,低気圧では上昇気流が強く,上空の空気が冷たいため成層が不安定になりやすく対流圏界面が低くなる傾向があります。

よって,「高気圧や低気圧にともなって変動することはほとんどない」という記述は間違っていると判断します。

 

(c)成層圏についての問題。成層圏は基本的には安定した成層ですが,鉛直方向の運動がほとんど起こらない,とは言い切れません。

成層圏では,赤道上で生成されたオゾン分子をブリューワー・ドブソン循環によって極側へと運ぶ運動や,対流圏から伝わった波が成層圏で崩壊して局所的な鉛直運動や乱流を生むことがあります(下図)。

よって,記述は間違いと考えられます。

 

この時点で,②が正解であることが分かります。

 

(d)熱圏について。熱圏は高度80km~500km上空の大気の気層であり,太陽からの高エネルギー(紫外線・X線)を多く吸収するため,気温は非常に高くなります(数100〜2000℃以上)。

特に熱圏では,他の大気層と比較して,太陽からの紫外線やX線などの高エネルギー電磁波が中性粒子に衝突して,電子をはじき飛ばします(光電離)。高緯度の熱圏では,太陽風の電子が大気中の粒子と衝突し発光することがあり,これはオーロラとして観測されます。

ちなみに,熱圏では電子をはじき飛ばしてイオン化する「光電離」が起こりますが,成層圏では光のエネルギーによって酸素分子の結合が切れる「光解離」(例:O₂ + 光エネルギー → O + O)が起こります。「光電離」と「光解離」は混同しやすいので,間違わずに覚えておきましょう。

 

これらの結果より,(a)正,(b)誤,(c)誤,(d)正 で②を選べばよいのですね。

 

 

第2問 空気塊の運動

【正解】⑤

 

【解説】

まず,気温減率には,平均気温減率乾燥断熱減率湿潤断熱減率などがあります。

 

平均気温減率は,観測に基づいた大気の気温プロファイルの統計平均値であり,「空気塊が上昇したときどうなるか」ではなく,「その場で大気がどういう状態にあるか」を表すものです(たとえば国際標準大気での6.5℃/km)。

一方で,乾燥断熱減率と湿潤断熱減率は,空気塊の断熱上昇・下降を考えるときに用いられるものであり,未飽和であれば乾燥断熱減率,飽和していたら湿潤断熱減率を考える必要があります(乾燥断熱減率は10℃/km,湿潤断熱減率は5℃/km)。

 

上記のことを頭に入れて問題を解いてみましょう。

まず,周囲より気温が4℃低い空気塊は,密度が大きく重いので落下をはじめます。このときこの空気塊は凝結しないものとすることが問題文の条件で与えられていますので,乾燥断熱変化に従った気温減率になります。すなわち10℃/kmです。

 

周囲の気温減率が6℃/km,空気塊の気温減率が10℃/kmですので,1km上昇するたびに4℃気温差が生じることになります。

よって,周囲よりも4℃低い空気塊を,周囲と同じ温度になるには1km下降させればよいことが分かります。

このとき空気塊は重力と浮力を受けますが,空気塊が落下した直後は重力の方が浮力よりも大きいため加速しながら下降を続けます。加速による速度がついた状態で周囲の温度と等しくなる高度に達すると,そのまま気温が低い下層に入りますが,今度は周りの気温が低いため浮力が強く働くことになります。その結果,空気は振動運動をして,やがては静止するような動きをすると考えられます。

 

以上の結果から,(a)「高度B付近で上下に振動した」,(b)「約1000m」が正解。⑤を選びます。

ちなみに私はこの問題を間違えました。温度減率が0.6℃/kmであることが示されていたのでこの与えられた数字を用いて解答せよ,という意味だと思い,(b)を670mにしたのです。個人的には,乾燥断熱減率や湿潤断熱減率の数値を使って解答させるのであれば,具体的な数値を問題文の中できちんと与えるべきだと思います。気象予報士試験を受験する者は乾燥断熱減率や湿潤断熱減率の値を記憶しているのは当然としても,問題文で与えられない数値を使って解答するのは,出題の仕方がフェアじゃないと思います。

しかし,そんな不満を言ったところでしょうがないので,この問題から得られる教訓としては,気象予報士試験では,基礎的な気象常識を“当然の前提”とみなして,問題文に明記されていない数値であっても必要に応じて自ら適切に適用し判断・計算できる力が求められると割り切って,問題を解くほかなさそうです。

これから試験を受ける皆様も,「与えられていない数値=使わない」ではなく,常識として使うべきものかどうかを判断しながら試験に臨む必要性があることをここで強調しておきます。

 

 

第3問 断熱変化に伴う物理量の変化

【正解】③

 

【解説】

うってかわって,この問題は良問だと思います。ピストン容器で断熱変化を再現していることさえ理解すれば,あとは見通しが良くなります。

 

まず問題文を眺めると,ピストンの絵があって,少しビックリしてしまいます。

しかし,「断熱性のよいシリンダーとピストン」と記載されていることから,この装置では空気が外部と熱をやり取りせず,断熱変化をしていると考えるのが妥当です。つまり,このピストン装置は大気中における乾燥断熱変化湿潤断熱変化を再現していると解釈できます。

 

最初のピストンの位置Aでは空気は未飽和な状態です。そこからピストンが押し下げられて位置Bにくると凝結が始まります。よって,位置AからBまでは乾燥断熱変化を辿ることになります。乾燥断熱変化をしている場合,混合比  q と温位  \theta ,相当温位  \theta_e はすべて保存されます。すなわち,

    q_A = q_B

    \theta_A = \theta_B

    \theta_{eA} = \theta_{eB}

 

位置Bから位置Cにかけては,凝結を伴う湿潤断熱変化に相当します。湿潤断熱変化では,水蒸気が凝結して潜熱が放出されるため,空気中の水蒸気量は減少して混合比は小さくなり,温位は上昇します。一方で,相当温位は保存されます

    q_B \gt q_C

    \theta_B \lt \theta_C

    \theta_{eB} = \theta_{eC}

 

以上の結果をまとめると,

    q_A = q_B \gt q_C

    \theta_A = \theta_B \lt \theta_C

    \theta_{eA} = \theta_{eB} = \theta_{eC}

 

よって答えは(a)誤,(b)正,(c)正 であるので③となります。

乾燥断熱変化・湿潤断熱変化に伴う混合比・温位・相当温位の保存についてはエマグラムを考えると分かりやすいと思いますので,詳しく勉強したい方は下の記事を参考にしてください。

 

 

第4問 大気中の雲粒子とエーロゾル

【正解】①

 

【解説】

(a)知識問題。エーロゾルの起源は,陸地からの土壌粒子,海面のしぶきからの海塩粒子,山の噴火からの火山粒子,人間活動による汚染粒子などさまざまあります。そして海洋上にはおよそ1平方メートルあたり100億個,陸上で1000億個のエーロゾルがあると言われています。よってエーロゾルは陸上の方が海洋上よりも10倍多い計算になるのです。

また,海洋上では,しぶきが蒸発したあとに残った塩の粒子がエーロゾルとして働き,これは巨大エーロゾルとして知られています。その結果,雲粒子も大きな粒子として存在することになります。

記述は正しいと思われます。

 

(b)水滴には表面積を最小化しようとする力が働き,小さな水滴であればすぐに蒸発してしまいます。しかし,特に吸湿性を持ったエーロゾルがあると水蒸気の凝結を早め,水滴をつくる橋渡し的役割(核)となって大きな水滴を形成するのです。このとき化学物質が溶解し,相対湿度が100%でも水滴と存在出来る場合があります。

よって記述は正しいです。

 

(c)基本的な知識問題。氷晶核は凝結核の数に比べて圧倒的に少ないとされます。氷晶核は凝結核の100万分の1くらいしかありません。よって正しいと言えます。

 

(d)過冷却水滴を含む雲の中では,水滴の成長よりも氷晶の成長の方が速く進みます。これは,氷面に対する飽和水蒸気圧が水面に対するそれよりも低いためです。分かりやすく例えると,水蒸気が氷面の懐に入るための敷居の高さが,水面に対する敷居よりも低いためです。

よって選択肢の記述は間違いです。正しくは,「氷面に対する飽和水蒸気圧が水面に対するものより低いから」です。

 

これらの結果より,(a)正,(b)正,(c)正,(d)誤 で①が正解。

 

 

第5問 太陽放射と地球放射の吸収

【正解】②

 

【解説】

Aと図Bのどちらかが「大気上端から対流圏界面付近まで」で,どちらかが「大気上端から地表面付近まで」の大気の吸収率です。まずはちゃんとそこを整理しましょう。

下の赤い枠(赤外線領域)で示したところが分かりやすいですが,図Bでは主として水蒸気による大気の吸収があることが理解できます。

この時点で,図Bが「大気上端から地表面付近まで」の大気の吸収率を示した図であると考えられます。

 

 

(a)図Aから,大気上端から対流圏界面付近までで0.3μm以下の紫外線は大気中の酸素・オゾンによってほぼ吸収されることが分かります(下図)。

 

(b)最初に述べたように,図Bでは水蒸気による赤外領域での高い吸収率が認められます。

 

(c)こちらも最初に述べたように,図Bが「大気上端から地表面付近まで」の大気の吸収率を示した図と考えられます。

 

(a)0.3μm以下,(b)水蒸気,(c)地表面 で②が正解。

 

 

第6問 気温の時間変化率

【正解】①

 

【解説】
移流による気温時間変化率温度移流)は以下の式で求められます。

 

  (気温の時間変化率) = ー(風向に沿った温度傾度)×(風速)

※気温が上流側で高く風がそれを運んでくると気温は上昇,逆に上流側が低いと気温は低下します。マイナス符号はこの関係を示します。

 

注意するのは,温度傾度は「風向に沿った」値を用いる点です。例えば,風向が温度傾度に対して垂直の向きであれば,気温は変化しません。また,風がなければ移流も温度変化もないこともこの式から理解することができます。

 

では,まずは風向に沿った温度傾度を求めてみましょう。

上の図のように,風向に沿った10℃の等温線と14℃の等温線の距離は80kmですので,温度傾度は下のように計算されます。

  (風向に沿った温度傾度) = \dfrac{14-10}{80} = 0.05(℃/km)  ・・・(a

 

また,風速は 5(m/s)ですが,km/h にしないと単位が揃わないので,

  1 m/s = 3.6 km/h

であることを考慮して,風速は18(km/h)となります。

そして,風は低温側から吹いているので,マイナスです。


以上の結果から,

 

  (気温の時間変化率) = - 0.05 × 18 = -0.9(℃/h)  ・・・(b

 

以上より,(a)0.05,(b)-0.9 より答えは①を選べばよいことになります。

 

 

第7問 温度風

【正解】②

 

【解説】

北半球」「地衡風」「異なる2点の高度の風速」というキーワードから温度風を用いて考えるのだろうと見当がつきます。

まず,温度風は下層の風ベクトルの先端から上層の風ベクトルの先端に向かうベクトルであるので,それぞれの領域におけるベクトルの差を計算します。

上のように図を重ねると,温度風は下図のように黄色矢印として表現できますね。ここで,それぞれの風の左右の領域が分かるようにA, B, C, D, E, Fという6つに区分けしておきます。

この問題では北半球なので,温度風ベクトルの右側は高温域,左側は低温域でなければいけません。

AとBの間に吹く温度風はゼロベクトルであるので,(気温A)=(気温B)だと分かります。BとCの間には温度風が見られ,右側で高温であるので,(気温B)<(気温C)が成り立ちます。

同様に考えて,(気温C)<(気温D)となります。

同様に,(気温D)<(気温E)および,(気温E)=(気温F)だと分かるのです。

まとめると,

  (気温A)=(気温B)<(気温C)<(気温D)<(気温E)=(気温F)

 

よって,正解は②となります。

 

 

第8問 大気の大規模循環

【正解】⑤

 

【解説】

(a)知識問題。ハドレー循環の下降流域は,緯度30度付近です。この緯度帯では,下降気流が卓越して降水量が少なくなります。そのため,南北の緯度30度付近ではサハラ砂漠タクラマカン砂漠など,世界的に見ても乾燥地帯が多くなっています(下図の赤い領域が砂漠の分布地帯)。

よって,記述は間違いと考えられます。


(b)中緯度地域(緯度30度~60度)の循環はフェレル循環が担います。フェレル循環とは,緯度30度付近で下降した空気が北上し,緯度60度付近で上昇して緯度30度付近に戻る大気循環です(下図)。

この循環は一見奇妙に思えて,暖かい空気が地表面付近に,冷たい空気が上空へと上昇するのです。密度が重い冷たい空気の方が上昇するのはどうしてなんでしょうか。

それは,フェレル循環がハドレー循環や極循環のような直接的な南北の熱輸送を起こしていないためです。すなわち見かけ上現れる循環なので,間接循環とも呼ばれます。

中緯度地域に見られる偏西風傾圧不安定波)が南北に蛇行することで熱を輸送しているのです。

傾圧不安定波はおよそ2000km程度のスケールですので,「水平スケールが10000kmを超える」という記述は間違いといえます。

 

(c)上で述べた通り,フェレル循環は,高温域で下降し低温域で上昇する循環なので記述は正しいです。

 

これらの結果より,(a)誤,(b)誤,(c)正 で⑤を選ぶのが正解です。

 

前半部分はここまで。次回に続きます。

 

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。