今回は,第63回気象予報士試験の実技試験について振り返ってみます。ただし,すべての問題を説明するのではなく,一般知識の理解があれば点数が取れる問題について解説していきたいと思います。
一般知識がどのように実技試験に活用されているかを知るという目的もありますし,実技試験から一般知識を振り返るという意味もあります。
なお,気象業務支援センターから過去5年分の問題が公開されておりますので,そちらもご参考にしてください。
単位
下は第53回一般知識で出題された,水平移流による気温の時間変化率を問う問題です。
どのように計算すれば良いかを考えてみます。
問題(第53回一般知識より)

ここで問題を解くときに重要なのは「単位」です。計算問題で単位をちゃんと理解せずに,とりあえず数字を掛けたり割ったりしてしまう方が少なからずいるようですが,単位さえ理解できれば,あとの見通しがスッキリすることがよくあります。
ここからは単位についておさらいしておくことにします。
単位には国際単位系(SI)という標準規格となる7つの基本単位があります。
時間の長さの基本単位は「秒(s)」,距離の長さの基本単位は「メートル(m)」,質量の基本単位は「キログラム(kg)」,温度の「ケルビン(K)」,電流の「アンペア(A)」,明るさの「カンデラ(Cd)」,物質量の「モル(mol)」。
一般的に,これらの基本単位を組み合わせてさまざまな単位は表現できます。
例えば,加速度の単位は「メートル毎秒毎秒」で ,重さ(質量×重力加速度)*1の単位は「ニュートン(N)」で
,圧力(重さ÷面積)は「パスカル(Pa)」で
という感じ。
そして,加速度に時間をかけると「メートル毎秒」という単位となり,速度が算出されることが分かりますし,速度に時間をかけると「メートル」となって,距離が算出されることも,単位の掛け算や割り算から理解できるのです。
今回の問題では気温変化率を求め,その選択肢の単位はいずれも「℃/h」*2となっていることから,1時間当たりに何℃気温が変化するかを求めればよいということですね。
移流による気温変化率
改めて冒頭の問題を眺めてみます。
問題文で与えられているのは風速と距離と気温,角度ですので,これらの単位をうまく用いて「℃/h」になるように組み合わせれば良いわけです。
すると
℃/h = ℃/km × km/h
という感じで辻褄を合わせられそうです(分子と分母で「km」の単位が消える)。「℃/km」は1km当たりに何℃気温が変化するかなので,これは気温の傾度です。「km/h」は1時間当たりに進む距離,すなわち速度です。ここでの速度は,風の速度が当てはまります。
上記のことに意識すると,移流による気温時間変化率(温度移流という)は以下の式で求められます。
移流による気温時間変化率(温度移流)
(気温の時間変化率) = ー(風向に沿った温度傾度)×(風速)
※気温が上流側で高く風がそれを運んでくると気温は上昇,逆に上流側が低いと気温は低下します。マイナス符号はこの関係を示します。
注意するのは,温度傾度は「風向に沿った」値を用いる点です。例えば,風向が温度傾度に対して垂直の向きであれば,気温は変化しません。また,風速0なら移流も温度変化もないこともこの式から理解することができます。
この式を用いて,問題を解いてみましょう。

風向に沿った温度傾度は (℃/km)となります。等温線と風のなす角度が45° という設定にはなっていますが,この問題では,「風向に沿った温度傾度」の算出に角度の情報は必要ないので,引っかからないようにしましょう。
また,風速は 5(m/s)ですが,km/h にしなければいけないので,
1 m/s = 3.6 km/h
であることを考慮して,風速18(km/h)となります。
そして,風は低温側から吹いているので,マイナスです。
以上の結果から,
(気温の時間変化率) = ー (℃/km)
(km/h)= ー
(℃/h)
で,ー(℃/h)で④が答えになります。
下に類題を載せておきます。ちなみに,下の問題の場合は,「風向に沿った温度傾度」を算出するために角度の情報が必要になります。ぜひトライしてみてください。
問題(第62回一般知識より)

実技1 問1(2) 移流による気温変化率
これまでの気温変化率の計算について頭に入れたうえで,ここからは,第63回気象予報士試験の実技1で出題された問題を見ていきましょう。
ちなみに,私はこの計算問題だけで10分近く費やして,無駄に時間をかけてしまった記憶があります。
というのも,一般知識では風速はm/sの単位で与えられることが多いですが,実技試験では天気図上で風速がノットという単位で表現されており,計算には単位をきちんとそろえて計算する必要があるため,途中で非常に混乱してしまったのでした。
図3 を⽤いて、850hPa ⾯における温度移流に関する以下の問いに答えよ。ここで、地点A は 図3(下)で北緯34°東経116°付近にある⿊丸、地点B は同図で北緯33°東経125°付近にある⿊丸を指す。
① 地点A および地点B における850hPa ⾯の温度移流の種類を簡潔に答えよ。
② 地点A と地点B のうち、850hPa ⾯の温度移流がより強い地点を答えよ。そして、そのように判断した理由を40 字程度で述べよ。
③ 地点Bにおける850hPa⾯の移流による気温の変化率を、地点Bの⾵と6℃と15℃の等温線を基に求め、正負の符号を付して1℃/h 刻みで答えよ。

①まずは地点Aと地点Bの温度移流の種類を答えさせる問題。

6℃以下の領域を青く,15℃以上の領域を橙色に塗ってみました。
点Aでは寒い方から暖かい方に風が吹いているため,寒気が入ってきます。一方,点Bでは暖かい方から寒い方に風が吹いているので,暖気が入ってきます。
よって,
地点A:寒気移流, 地点B:暖気移流 が答えになります。
②AとBの地点の温度移流が強い地点がどちらかを答え,その理由を述べさせる問題。

まず,式から,温度移流の強さは,「風向に沿った温度傾度の大きさ」と「風速」に比例します。
移流による気温の時間変化率(温度移流)
(気温の時間変化率) = ー(風向に沿った温度傾度)×(風速)
図から,地点Aと地点Bでは30ノットと同じなので,風速だけに着目すると両地点で差はありません。そこで,移流の強さを比較するためには風向に沿った温度傾度を知る必要があります。
では,各地点の風向きに沿った温度傾度を解析してみることにします。

上図は,風向に沿った6℃と15℃の等温線間の距離を,赤い線分で示した結果です。
このことから,温度傾度は等温線が混みあっている地点Bの方が大きいことが分かります。
よって,温度移流が強いのは,地点B。
その理由としては,地点Aと地点Bともに風速は同じだが,地点Bの方が風向に沿った温度傾度が大きいから とでも書いておけばOKかと思います。移流の強さは「風速」と「風向に沿った温度傾度」に比例することを理解していれば,各地点でそれぞれの値を比較するように記述してやればいいのです。
③地点Bの気温変化率を計算させる問題。
前置きが非常に長くなりましたが,今回のメインディッシュです。
地点Bに吹く風の速度は30ノットであることは,図から読み取れるとおりです。
ここで,
1ノット = 1海里 / 1時間
1海里 = 1.852 km
であることは基本として押さえておかなければいけません。すなわち,
1ノット = 1.852 km/h
よって風速は,30ノット=55.5(km/h) ・・・(ア) となります。
では,温度傾度はどうでしょうか。問題文では,6℃と15℃の等温線に着目しなさいとありますから,風向に沿った6℃~15℃の等温線間の距離を測定します。

その結果,距離は6mmでした。
実際の縮尺に直してやると,緯度10度分が約1110km(天気図で4cm)に相当しますので,地点Bの温度傾度は,
(温度傾度)= =
(℃/km) ・・・(イ)
式(ア)(イ)より,
(気温の時間変化率の大きさ) = =
(℃/h)
地点Bは暖気移流のため,気温が上昇する方向に進むのでプラスの符号をつけて,
地点Bの気温変化率は,+3 ℃/h が正解となります。もちろん,海里で単位をそろえて計算しても同じ結果が得られます。
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【参考】単位を「海里」でそろえて計算する方法
℃/h = ℃/海里 × 海里/h
緯度10度分が600海里に相当しますので,地点Bの温度傾度は,
(温度傾度)= =
(℃/海里)
風速は30ノット(=30海里/h)なので,
(気温の時間変化率の大きさ) = =
(℃/h)
地点Bは暖気移流のため,+3 ℃/h が正解
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この問1(2)の①~③の3問が正解していたら10点がもらえました。第63回気象予報士試験の実技の合格点はおよそ60点だったので,この3問が取れていると,残り50点を稼げば合格になるわけです。そう考えると,こういった,学科一般の知識をきちんと頭に入れて使いこなせるようになることが,非常に重要になることが分かりますね。
特に注意すべきなのは,風速はノットでそろえるのか,km/hでそろえるのか,それともm/s で計算するのか,単位をきちんとそろえないと計算結果がおかしくなってしまうので,単位を理解することは非常に重要なのです。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。