Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

第63回気象予報士試験振り返り~実技1:エマグラムの解析

 

前回と同様,第63回気象予報士試験の実技試験について振り返ってみます。一般知識の理解があれば点数が取れる問題として,今回はエマグラムの解析を取り上げます。

 

なお,気象業務支援センターから過去5年分の問題が公開されておりますので,そちらもご参考にしてください。

気象予報士試験 (jmbsc.or.jp)

 

 

エマグラムと温位

エマグラムの解析については過去に記事を書いていますが,いくつか書き切れなかった点もありますので,今回はその穴を埋めていこうと思っています。

 

復習になりますが,エマグラムには乾燥断熱線湿潤断熱線等飽和混合比線の3種類の線が引かれています。

 

まず,「乾燥断熱線」は未飽和な空気を断熱的に上昇または下降させたときに,その空気の気温と気圧がどのように変化するかを表したものです。未飽和であるため,凝結が起こらず潜熱が発生しないので,この線上の変化は温位は常に一定になります。すなわち,乾燥断熱線は等温位線でもあると言えます。

上の図のように,赤く示した線が乾燥断熱線であり,凝結していない未飽和な空気を上昇や下降させると,高度に応じて気温が線上を移動して値を変化させるのです。高度によらず,約10℃/kmの気温減率の線となっています。

また,温位とは「空気塊を乾燥断熱的に1000hPaの高度に移動させたときの絶対温度」であるので,1000hPaの気温が27℃なら,温位は300Kとなり,未飽和な空気塊は常に300Kの一定の温位の値をとりながら断熱変化することになります。

 

一方,「湿潤断熱線」は飽和した空気を断熱的に上昇または下降させたときに,その空気の気温と気圧の変化を表します。凝結に伴う潜熱放出の影響で,地上付近では約5℃/kmの気温減率の傾きになりますが,対流圏上層では水蒸気が少なく気温も低くなるので,その変化は乾燥断熱減率に近づきます。下の図のように,地上付近では立っていて,高度の上昇とともに寝るような線として描かれるのです。

注意する点としては,凝結を伴いながら断熱変化する空気の温位は一定ではないということ。ある湿潤空気を乾燥断熱的に1000hPaまで移動させたときの温位の値は,その空気を湿潤断熱線に沿って上昇させると大きくなり,下降させると小さくなります(ただし相当温位は変わらない)。上の図のように,1000hPaの温位が300Kだった湿潤空気塊を持ち上げると(=湿潤断熱線に沿って変化させると),空気塊の上昇に伴ってその温位はどんどん大きくなるのです。


最後は「等飽和混合比線」について。まず,飽和混合比というのは,その空気が可能な限り水蒸気を含んだ場合に,乾燥空気1kg当たりどのくらいの水蒸気量を含むかを表した値になります。すなわち,ある気温・気圧において,空気が飽和しているときの混合比ということになります。

そして飽和混合比は気温と気圧によって変化する量です。ここで,飽和混合比が同じ値になる気温と気圧の条件を結んだものが等飽和混合比線になります。

上の図のように,等飽和混合比線は最も立った(傾きが小さい)線として表現されます。他の2本の線とは異なり,単位は g/kg です。

これらの前提知識を踏まえた上で,次にエマグラムから読み取れる物理量について考えていきます。

 

 

エマグラムから読み取る物理量

エマグラムを用いて,以下の物理量を読み取ることで,より理解を深めていきます。

①混合比

まず,混合比は他の気体との混合や水蒸気の凝結・蒸発がなければ保存されます。よって,例えば圧力一定下で気体の温度を下げていっても,凝結がなければ混合比は常に同じ値をとります。

上の図のように,1000hPaでとある気温の未飽和な空気塊があったときに,この空気が凝結するまでは混合比は一定のはずです。

仮に,温度を下げて飽和に達するときの混合比(飽和混合比)が10g/kgだったとすると,温度を下げる前の元の空気塊も同じく10g/kgの混合比であったと理解できます。

 

②露点温度

圧力を一定のもと,空気の温度を下げていったときに凝結する温度が露点温度です。

よって,露点温度は,まさに先ほど示した図の凝結する温度に相当します。

 

③相対湿度

では,相対湿度は,このエマグラムでどのように知ることができるのでしょうか。

エマグラムからは混合比の情報が読み取れるので,相対湿度を混合比の式として表してみましょう。

 

まず,相対湿度は,空気中の実際の水蒸気分圧  e と,その温度での飽和水蒸気圧  e_s を用いて以下のように表せます。

 

    (相対湿度)=  \dfrac{e}{e_s} × 100(%)

 

また,混合比  r(g/kg)と,水蒸気分圧  e には次の近似式が成立します。ここで全圧(気圧)を  P とします。

     r ≈ 0.622×\dfrac{e}{P}

 

同様に,飽和混合比  r_s(g/kg)と,その温度での飽和水蒸気圧  e_s は次の近似が成立します。

     r_s ≈ 0.622×\dfrac{e_s}{P}

 

よって,上の2式から,

     \dfrac{e}{e_s} ≈ \dfrac{r}{r_s}

が成り立つのです。すなわち,

 

    (相対湿度) ≈ \dfrac{r}{r_s} × 100(%)

 

と,相対湿度を混合比だけの式に変換できました。

 

ここで,空気の混合比  r(g/kg)ですが,①混合比 で述べたとおり,露点温度を通る等飽和混合比線の値となります。

 

問題は,空気の飽和混合比  r_s ですが,その意味としては,その空気の温度において水蒸気を最大限含んだときの混合比といえます。これは,その温度を通る等飽和混合比線の値と同じです。

仮に上の図のように,空気塊の温度を通る等飽和混合比線の値が15g/kg であったとき,

    (相対湿度) ≈ \dfrac{10}{15} × 100 67(%)

と計算できるのです。

 

④持ち上げ凝結高度

それでは,1000hPaにある空気塊を持ち上げてみましょう。

エマグラムには,実際に観測された鉛直方向の気温と露点温度が,それぞれの高度に対応して描かれています(下図)。

ここで1000hPaにある空気塊を持ち上げたとき,その空気が未飽和であれば,乾燥断熱線に沿ってその温度と気圧は変化します。さらに,凝結しないので混合比は常に一定の値をとります。すなわち,今回の例では持ち上げても 10g/kg の値を取り続けます。

そして,等飽和混合比線の意味は,「混合比がある値をとるときに空気塊が飽和する気温および気圧」を表しており,持ち上げたときの空気はどこかで等飽和混合比線と交わります。

そのときの交点の気温と気圧が,空気塊が凝結を始める気温・気圧であり,そのときの高度を持ち上げ凝結高度と呼ぶのです。

⑤相当温位

相当温位とは「温位に,空気に含まれる水蒸気がすべて凝結したときに放出される潜熱を考慮して,そのときに想定される空気の絶対温度」のことを指します。

空気の混合比を  r として,相当温位  \theta_e を求める近似式は,温位  \theta を用いて,以下のように表せます。

     \theta_e ≈ \theta + 2.8r

 

ここで,(冒頭で述べた通り)温位とは,空気塊を乾燥断熱的に1000hPaの高度に移動させたときの絶対温度であり,混合比は,その気体の露点温度における飽和混合比に一致します。

例えば,持ち上げ凝結高度までを考えると,乾燥断熱線に沿って持ち上がった空気の温位は常に一定ですし,混合比も凝結がないため一定ですので,(近似式を見ても)相当温位は変化しないことが分かります。

 

露点温度を通る等飽和混合比線の値が10g/kg の,1000hPaで気温27℃の空気の相当温位  \theta_e を求めてみると,

     \theta_e ≈ 300 + 2.8×10 = 328(K)

と計算できるのです。

もちろん,相当温位の値に関しては,凝結した後も保存されますので,持ち上げ凝結高度を過ぎて湿潤断熱線に沿って移動する際も,その値は常に一定になります。

 

 

実技1問3(2) エマグラムからの相対湿度の計算

それでは,第63回気象予報士試験の実技1のエマグラムの問題を見ていくことにします。

ちなみに,私はエマグラムからの相対湿度の算出の式を知らなかったので,試験中にそれぞれの物理量の意味を考えながら解答しようとトライしたのですが,時間がかかって後回しにして,結局タイムアップで解くことができませんでした。試験終了30秒前くらいに諦めて,「25%」とか適当な数字を記入した記憶があります(←10%刻みで答える問題なので,そもそも答え方自体間違えている)。ずっと胸につかえていた心残りの問題だったので,ここで成仏させときましょう。

 

問題

図7は5月1日21時の館野(茨城県つくば市)の状態曲線と風の鉛直分布である。

館野の上空で相対湿度の最も低い高度を10hPa刻みで答えよ。そして、その高度の相対湿度を10%刻みで答えよ。

 


ここまでの説明を理解できていたら,難しくはない問題です。

 

  (相対湿度)=  \dfrac{露点温度を通る等飽和混合比線の値(r)}{気温を通る等飽和混合比線の値(r_s)} × 100 (%)


ですので,その空気の露点温度(点線)を通る等飽和混合比線と,実際の空気の温度(実線)を通る等飽和混合比線が最も離れている高度を読み取ります。

 

あとは視力検査です。下のようになります。



よって,問題の答えは,

相対湿度が最も低い高度:910 hPa

その高度の相対湿度: \dfrac{5.5}{10.5} × 100 52(%)より 50%

 

こういう問題は,混合比や露点温度,湿度などをきちんと理解していないと解けない問題であり,とても教育的で良い問題だと個人的には思います(私は解けなかったんですけどね)。

そして私自身,これまで等飽和混合比線というものがいまひとつしっくり来ていなかったので,今回の振り返りを通して頭が整理できてよかったとも感じています。

 

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。