Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【天気図】オホーツク海高気圧

 

ここ数週間,全国的にとてつもなく暑い日々が続いていますが,関東地方ではその暑さが一時的に治まりました。オホーツク海高気圧が登場したのです。

 

 

オホーツク海高気圧による冷気の流入

下は2025年7月10日13時の関東地方の気温のマップです。紫色をした気温35℃以上の地点も見られ,都心を中心に気温の高い箇所が分布しているのが分かりますね。

翌日11日の同時刻の気温分布は下のようになっていました。前日に関東平野を覆っていた赤い色は消え,25℃を下回る地点も多く見られます。

7月の東京の日ごとの気温グラフを見ると,11日にぐっと気温が低下しているのが分かります。これまでの暑さが一変して,半袖では少し肌寒いくらいのところもあったのだとか。

 

一方,このときの関西地方の気温は10日,11日ともに気温の変化は小さく,いずれの日も大阪の中心部で35℃を超える地点が見られるなど暑さが続きました。

大阪の日ごとの気温グラフはほぼ横ばいで,寝苦しい夜を過ごした人も多そうです。

 

このように関東地方で気温が低くなったのは(北海道や東北地方などの北日本でも気温が低下した),オホーツク海高気圧による冷気の流入によるものです。天気図を見てみましょう。

 

下の図は7月10日12時の天気図ですが,オホーツク海に1022hPaの高気圧が見られます。オホーツク海高気圧ですね。そしてオホーツク海高気圧と太平洋高気圧の気圧の谷の鞍部には梅雨前線が復活しました。

このとき,北日本ではオホーツク海高気圧を回る北よりの冷たい風が入って気温は低下傾向になっています。一方,関東には太平洋高気圧の影響がまだ強く残っており,南よりの風が卓越して,都心を中心に暑くなっていたと考えられます。

 

翌日の12時になると,梅雨前線は南下し,北日本や関東地方の太平洋側には涼しい北東からの風が流入しました。そのため東京では前日に比べて気温がぐっと下がったのです。

等圧線を見ると,北日本太平洋側に(日本海側にも)気圧の尾根が伸びていますが,これはオホーツク海の冷たい海域で冷やされて密度が大きくなった空気が北東気流によって流れこんだためと考えられます。地上付近の冷たく重い空気によって地上の気圧が上昇するのですね。

 

ただし,関東より西側では関東山地・中部山岳地帯が北東気流を遮る壁のような役割を果たすため,冷たく湿った空気が西日本に到達しにくくなりオホーツク海高気圧の影響は少ないといいます。また,単純な物理的距離の問題からも西日本はその影響を受けづらいので,今回の大阪のように気温はほぼ横ばいとなり暑さは持続することになりました。

 

このように,日々のちょっとした気圧配置の違いで,日本の天気・気温に大きな影響が出ることを身をもって知ることができるのが気象を学ぶ醍醐味なんだと思います。

 

 

オホーツク海高気圧の形成

さてここまでは,今回現れたオホーツク海高気圧が日本の天気に与えた影響について見てきましたが,ここからはオホーツク海高気圧とはどういうものかという点について復習がてら学んでいきたいと思います。

 

まず,オホーツク海高気圧とは,オホーツク海付近に中心を持つ,冷涼で湿潤な性質を持った高気圧のことです。主に春の後半から夏にかけて現れます。

この高気圧は,冷たい海面によって大気の下層のみが冷やされて形成されるため,一般的に鉛直方向に厚みのない「背の低い」高気圧とされます。

 

しかし,上空の偏西風の蛇行によってブロッキング高気圧が形成されると,その影響でオホーツク海高気圧が長期間にわたって停滞・強化されることがあります。ブロッキング高気圧により下降流場が生まれ,地上付近の高気圧を強める方向に作用するためです。
そして,オホーツク海高気圧の上空にブロッキング高気圧を伴っている場合には,海面付近から偏西風帯にかけて高気圧性の構造となり,広い意味で「背の高い高気圧」とみなされることもあるようです。*1

 

 

オホーツク海高気圧の及ぼす影響

さて,連日猛暑日が続く中での今回のオホーツク海高気圧の出現は,多くの人にとって歓迎すべき存在となったようです。「天然のクーラー」と呼ばれたこのオホーツク海高気圧の登場は,ここ最近のうだるような暑さの中で,砂漠に突如現れたオアシスのように感じられたことでしょう。

しかしながら,オホーツク海高気圧の天候への影響が,必ずしも良いことばかりとは限りません。特に北日本では,古くから気温の低下日照不足長雨・農作物の生育不良といった影響に悩まされてきました。

 

オホーツク海高気圧が現れると,北日本には冷たく湿った空気が流れ込みやすくなり,気温は平年よりも低くなります。また,海からの風が直接吹き込む太平洋側では低い雲が広がり,弱い雨の降りやすい天気となります。
そして,ブロッキングを伴った停滞性のオホーツク海高気圧が発達すると,長い時には2週間ほど居座り,低温や日照不足が持続して,冷害が発生するなど大きな影響が出ることがあります*2

 

特に1993年は日本で記録的な大冷害となり,米の収穫量が大幅に減少しました。この冷害の一因には、オホーツク海高気圧の出現によりやませ(=冷たく湿った北東風)が吹き込み,寒気が入り込んだことが挙げられます。
そのほかにも,太平洋高気圧の日本付近への張り出しが弱かったことや,梅雨前線の停滞,さらにはピナトゥボ山の噴火による「日傘効果」で世界的に気温が低下したことなど,複数の要因が重なって発生した冷害だったと考えられています。

この年の東北地方の夏の気温は平年より2度から3度以上も低くなり,日照時間が少なく,かつ降水量が多くなりました。

 

しかし問題はそこで終わりませんでした。

米不足が深刻化した状況を重く見た日本政府は,急遽タイからタイ米(インディカ米)を輸入することになったのですが,日本人には外国産の米の風味がなじまず,大量に廃棄されたことが報道され,タイの国民から顰蹙を買ったそうです*3。対外関係にまでヒビが入ったのですね。

 

一方で,この冷害をきっかけに日本国内での米の品種改良が加速した面もあり,それまで寒さに弱かった「ササニシキ」に代わって,寒さに強い「あきたこまち」や「ひとめぼれ」「コシヒカリ」などの栽培面積が拡大すると同時に,「はえぬき」などの新しい品種も開発されました。

食生活が豊かになるきっかけになったという点でも,オホーツク海高気圧の我々の生活にもたらした影響は大きいと言えるのではないでしょうか。

 

【まとめ】学習の要点

天気図理解のメモ
  • オホーツク海高気圧とは,オホーツク海に中心を持つ冷涼湿潤な高気圧で,そのほとんどが春の後半から夏にかけて現れる。
  • 大気の下層のみが冷やされて形成されるため,鉛直方向に厚みのない「背の低い」高気圧とされる。
  • 上空の偏西風の蛇行によってブロッキング高気圧が形成されると,オホーツク海高気圧が長期間にわたって停滞・強化されることがある。
  • 北日本ではオホーツク海高気圧の影響で,気温の低下・日照不足・長雨・農作物の生育不良といった影響や被害が出ている。
  • オホーツク海高気圧の出現によりやませ(=冷たく湿った北東風)が吹き込み寒気が入り込む。
  • オホーツク海で冷やされて密度が大きくなった空気が北東気流によって流れこむため,天気図上で気圧の尾根が伸びることがある。
  • 関東より西側では関東山地・中部山岳地帯が北東気流を遮るため,冷たく湿った空気が到達しにくく影響は少ない。

 

参考図書・参考URL

下記の文献やwebサイトを参考にしました。

*1:オホーツク海高気圧の形成にはブロッキングが必須と書かれた解説もよく見ますが,個人的には必ずしもそうでもないのかなと考えています。ブロッキングを伴うと,高気圧が地表面に明瞭に現れるようになるという理解ですが,どうなんでしょうか

*2:農作物への被害が懸念されるほど気温が下がるときには低温注意報が発表されることがあります。また沿岸部を中心に視程が著しく低下するおそれがあるときには濃霧注意報なども発表されます

*3:一連の出来事は「平成の米騒動」と呼ばれています