Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

2025年7月のカムチャツカ半島地震に伴う津波観測

 

2025年7月30日,ロシアのカムチャツカ半島沖でM8.8の地震が起き,それに伴って日本でも津波が観測されました。

今回は,津波について深掘りしてみることにします。

 

 

津波注意報津波警報の発表

2025年7月30日午前8時24分,ロシアのカムチャツカ半島沖で大きな地震が発生しました。日本では揺れをほとんど感じなかったにもかかわらず,津波注意報がテレビやスマホに流れてきたので,突然のことで驚いた方が多かったことと思います。

当初は津波注意報が発表されていましたが,その後,注意報から警報へと引き上げられました。

津波注意報は,予想される津波の高さが0.2m以上1m以下の場合で,津波による災害のおそれがある場合に発表されます

一方,津波警報は,予想される高さが1m超え3m以下の場合に発表されます

津波警報津波注意報よりも津波が大幅に高く予想される場合に出されるものですが,それではどうして最初に予想された津波の高さは過小に見積もられていたのでしょうか。

 

それは,当初地震マグニチュード地震の大きさを表す尺度)がM8.0と見積もられていたものが,その後M8.8に引き上げられたことに原因があるようです*1

ここで,地震のエネルギー  E (単位はジュール)とマグニチュード  M の間には,以下の関係式が成り立ちます。

    log_{10}{E} = 4.8+1.5M
 

この式から,マグニチュードが1ちがうと,エネルギーは  10^{1.5}≒32 倍 違ってくることが分かります(よって,マグニチュードが2大きくなると,エネルギーは1000倍大きくなります)。

今回はマグニチュードが0.8引き上げられましたが,このときエネルギーは  10^{1.5×0.8}≒16 倍大きくなると計算されます。マグニチュードではわずかだと思えた差でも,実際は大きな違いがあることを理解しておく必要がありますね。

 

さて,このエネルギーの増加が波のエネルギーにそのまま反映されると仮定すると,(波のエネルギーは波の振幅の二乗に比例するため)エネルギーが約16倍になると,波の高さはその平方根である約4倍になると計算されます。

今回の地震では,マグニチュードが大きめに修正されたことによって,津波の高さが数倍にもなると予想されたため,それに伴って注意報から警報へと引き上げられる形になったと考えられます。

 

 

津波のタイミング

津波の被害の大きさは,そのタイミングにも大きく左右されます

例えば,昼間であれば多くの人が起きており,また明るいため避難行動を取りやすい一方で,夜間や未明に発生すると,睡眠中であったり周囲も暗いため状況把握が遅れやすく,逃げ遅れによる被害が拡大しやすくなります。

他にも,夏であれば海水浴客で海は賑わうでしょうし,休日であればなおさら人出も多くなるので,同じ大きさの津波だとしても,発生するタイミング次第でその被害が大きく変わることは気に留めておく必要があります。

 

また,同じ津波でも到達時刻が満潮か干潮かで被害の規模も変わります

下のグラフは,平常時の(すなわち地震災害などによる海面への影響がない場合の),とある場所における24時間の潮位(海面の高さ)の変化を示しています。オレンジ色の線は「天文潮位」,つまり太陽や月の引力によって予測される理論上の潮位で,青い線は実際に観測された潮位です。気圧や風の影響により,実際の潮位は予測よりも高くなったり低くなったりします。


このグラフを見ると,潮位が上がったり下がったりを繰り返していることが分かりますね。潮位が上下するのは,主に月の引力と地球の自転によるものです。

 

下の図のように,地球の海水は月による引力によって引っ張られます。

地球の月に近い側では月の引力が強く,海水が月に向かって引っ張られる力も強くなります。同時に,月と反対側にある海水も,遠心力の影響で海水が膨らんでいます。

地球は24時間で1回転するため,1日に2回満潮と干潮が繰り返されるのです。

 

当然,満潮時は海面が高くなっているため,そこに津波が加われば被害はさらに拡大するおそれがあります。

下のグラフは,地震当日の7月30日の北海道花咲港(根室市)で観測された潮位の変化を示すグラフですが,満潮時には津波による波の高さが足し合わさって,注意する基準線(黄色線)を超えていることが分かります。

このように,たとえ津波の高さが低い場合であっても,満潮時と時刻が重なる場合にはより強い注意が必要なのです。

 

 

また,潮位の変化には,1日の満ち引きだけでなく,月単位の大きな周期もあります。

太陽・月・地球が一直線に並ぶとき,引力が重なり合って潮の干満の差が大きくなります。これが「大潮」です。ふつうは1か月に2回,満月と新月のタイミングで起こります。

下は満月の場合。

下は新月の場合です。

 

一方,太陽と月が地球をはさんで直角に位置する(上弦・下弦の月)ときは,引力が打ち消し合い干満の差が小さくなります。これが「小潮」です。



下のグラフは30日間の潮位変化のグラフですが,大潮と小潮が交互に繰り返されているのが分かりますね。

このように,潮位には1日2回の干満のリズムに加え,約1ヶ月に2回の大潮・小潮のリズムもあるのです。

津波のリスクを考えるときは,発生時刻だけでなく,そのときの潮位や月齢にも注意が必要だということです。

 

 

津波の速さ

次に,津波の速さについて考察してみます。

先ほど示した花咲港の潮位のグラフを見ると,だいたい午前10時すぎに潮位が突然高くなっていますね。津波が到達したのです。

ニュースを見ると,午前10時30分に花咲港では30センチの第一波を観測したという記事がありました。

今回の震源と花咲港との距離は直線距離にしておよそ1500kmですので,地震が発生した午前8時24分から2時間で到達した計算になります。すなわち,津波の速さ  v は,

    v = \dfrac{1500}{2}  = 750(km/h)

と計算されます。思っていた以上に速いスピードです。旅客機が時速800~900km/h らしいので,それに匹敵するほどの速さであることが分かります。

 

 

ちなみに,津波の速さ  V は以下の式で近似されます。

    V = \sqrt{gh}  ( gは重力加速度:9.8 \rm{m/{s^2}} hは水深:単位は\rm{m}

 

例えば,水深が4000mであったときの津波の速さは,

    V = \sqrt{9.8 \cdot 4000} ≒ 200\rm{m/s} ≒ 720\rm{km/h}

ということで,津波の速さはジェット機並みであることが計算によって算出されます。

一方で,水深が10mと浅い場所であっても,

    V = \sqrt{9.8 \cdot 10} ≒ 10\rm{m/s} ≒ 36\rm{km/h}

と,水深が浅くても,生活道路を走る自動車ほどの速さがあることが分かります。

 

このように,津波というのは思っていた以上に速いスピードで襲ってくるため,目視で津波が来たことを確認してから避難していたのでは到底間に合わないのです。

だからこそ,警報や注意報が出された場合には,海岸には近づかず,海岸線から離れた場所や高台にいち早く避難する必要があるのです。

 

 

津波の高さ

そして,津波の高さも低いからといって侮ってはいけません。

今回の地震でも30cmの高さの津波と聞いて大したことないと感じた方も多かったと思いますが,実際に30cmだとしても決して油断してはいけないといいます。

海上保安庁消防庁の実験では,わずか20〜30cmの水の流れでも,大人が踏ん張っても倒されたり,引きずられることがあると報告されています。足腰の弱い高齢者や子供などは簡単に流され得る津波の高さであるということです。

さらに上の図のように,津波によって1mの浸水があった場合には死亡率はほぼ100%に近いという試算もあるようですので(熱海市役所「津波の基礎知識」より引用),津波が小さそうだから大丈夫だろうという考えは捨て去り,津波注意報・警報が発表された時点で安全な場所へ避難するのが,命を守るための鉄則です。

 

 

津波の最大波

最後に,津波の最大波について説明しておきます。

今回の津波警報・注意報を受けて,ニュースでは再三,「津波は何度も繰り返しやってきます。後から来る津波の方が高くなることがあります」と報道されたのが印象的でした。

そして事実,第一波よりも,後続の波が大きくなることが確認されました。

再度,下に花咲港の潮位グラフを示しますが,第一波よりもそれに続く津波で大きくなっていることが分かりますね。

 

下のアニメーションは,2007年に発生したペルー沖地震に伴う津波の伝播の様子を表したものですが(津波発生と伝播のしくみ | 気象庁から引用),第一波のうしろに後続波が次々に続いて広がっている様子が確認できます。

特に,津波は半島や島などの地形からの影響を強く受けて反射や屈折をします。そして地形で反射した津波が新たに同心円状に伝播していくなどして,複数の波が重なり合う複雑な様相を示していきます。

複数の波が重なり合うと,突然高い波となって,第一波よりも大きくなることがあり,今回の地震ではまさにその現象が観測されたことになります。

 

特に,カムチャツカ半島から千島海溝を挟んで南東に伸びている「天皇海山列」という海底山脈が今回の津波と関連が深いようで,津波がそこに当たって反射を繰り返すことで,第一波よりも後続波で波が重なり合って高くなったと考えられているようですよ。

天皇海山列による反射はおそらく30日の時点からすでに九州の方にも届いている。北から南に向かう津波天皇海山列で反射して東から到来してくる津波が合流したのが30日の午後6時、7時頃といったところかと思うが、九州地方でもその辺りからずっと津波が継続していて、種子島についてはまだ少し高い状態が継続している。

ABEMA NEWSより

 

下に,アメリカ海洋大気庁(NOAA)が作成した,今回の津波のシミュレーション結果を載せておきます。カムチャッカ半島からハワイ島に伸びる天皇海山列で津波が反射して伝播している様子がたしかに確認できます。

 

 

 

なお,花咲港の潮位は地震発生から60時間経っても,細かい振動が持続していました。津波の影響は数時間で終わらず,長時間にわたって注意が必要ということです。

 

 

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今回は津波について,発生のタイミングや移動速度,高さ,そして継続時間といった多角的な観点から深掘りしました。こうして見てみると,改めて津波の持つ破壊力と恐ろしさを実感します。

一部では,「気象庁津波を煽りすぎだ」「結局3mの津波は来なかったじゃないか」といった声も見られますが,命を守るためには災害を怖がりすぎるくらいが丁度良いのかもしれません。

むしろ,「大したことなくて良かったね」と言えるくらいの心の余裕は持っておきたいものです。

 

 

【まとめ】学習の要点

天気図理解のメモ
  • 津波注意報は,予想される津波の高さが0.2m以上1m以下の場合で,津波による災害のおそれがある場合に発表される
  • 津波警報は,予想される高さが1m超え3m以下の場合に,津波の高さ3m」として発表される
  • 地震津波の規模が同じでも,夜間・季節・潮位などのタイミング次第でその被害の大きさは左右される。
  • 「天文潮位」とは,気圧や風などの影響を受けない太陽や月の引力によって引き起こされるときに予測される潮位のこと。
  • 潮位には1日2回の干満のリズムに加え,月に2回の大潮・小潮のリズムもある。
  • 満潮時や大潮の時は海面が高くなっているため,そこに津波が加われば被害はさらに拡大するおそれがある。
  • 津波の速さはジェット機並みになることもある。
  • 津波というのは思っていた以上に速いスピードで襲ってくるため,目視で津波が来たことを確認してから避難していたのでは到底間に合わない。
  • 津波によって1mの浸水があった場合には死亡率はほぼ100%に近いという試算もある。
  • 津波は何度も繰り返しやってきて,後から来る津波の方が高くなることがある。
  • 津波の影響は数時間で終わらず,長時間にわたって注意が必要である。

 

参考図書・参考URL

下記の文献やwebサイトを参考にしました。

*1:より正確に言うと,最初にM8.7へと引き上げられ,その後M8.8に再修正された。今回は,M8.8の値を最終的な地震の大きさとして話を進めていきます