Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【天気図】 2025年8月の九州北部豪雨と線状降水帯

 

2025年8月10日から11日にかけて,福岡県や熊本県などの九州北部地方で線状降水帯が連続して発生し,大雨による被害が広がりました。

今回は,線状降水帯がどのような現象なのかを振り返るとともに,今回発生した九州の大雨について天気図から考察してみたいと思います。

少し長くなりますが,ご興味あればお付き合いください。

 

 

線状降水帯と集中豪雨

まず,線状降水帯は気象庁HPで以下のように説明されます。

次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、長さ50~300km程度、幅20~50km程度の線状に伸びる強い降水域を線状降水帯といいます。

気象庁HPより)

「数時間」「ほぼ同じ場所」「強い降水域」といった,やや曖昧な表現が使われています。事実,線状降水帯という言葉は,専門家の間でも厳密な定義が存在していないというのが現状のようです。

とりあえずは,「長時間にわたって同じ場所に降水をもたらす,細長く伸びる降水域」という理解で差し支えなさそうです。

 

また,近年メディアで頻繁に耳にする「集中豪雨」という言葉も,定義が曖昧です。集中豪雨とは「局地的で短時間の強い雨」だとされますが,どれほどの雨量がどのくらいの狭い面積に降ったかという定量的な定義はありません。

そして,線状降水帯は集中豪雨を引き起こす要因の一つとされており,関係性としては「集中豪雨」という広い概念の中に,「線状降水帯」という現象が含まれる形として整理することができます。

 

線状降水帯の発生メカニズム

線状降水帯には,スコールライン型*1バックアンドサイドビルディング型*2バックビルディング型などがあります。

そして特に,ここ最近日本で大きな豪雨災害をもたらしている線状降水帯の多くは,「バックビルディング型」であると報告されています。

 

そのメカニズムは以下の通り(線状降水帯とは? メカニズムと危険性についても解説(季節・暮らしの話題 2023年10月25日) - 日本気象協会 tenki.jpより引用)。

上図の左側(線状降水帯の背面)で発生した積乱雲が,上空の風の影響を受けて右側へ移動し,そこで発達した積乱雲から下降気流が吹き出して,海側からやってくる下層の暖かい大気と衝突。すると地上で空気は収束して上昇気流が発生し,左側に新たな積乱雲が生じるというサイクルが繰り返されることで形成されます。

 

このように,バックビルディング型の発生メカニズムの概要はある程度は理解されているようですが,その形成には複数の要因が複雑に絡み合っているため,線状降水帯の全容はまだ未解明な部分も多いといいます。

海上からの水蒸気が大きく関係することが分かっていますが,海上は陸上に比べて観測密度が粗いため,その全容解明がより難しくなっているのだとか。

 

そのため,気象庁は,東シナ海や太平洋に観測船を派遣し水蒸気量の観測などを行ったり,「ドロップゾンデ」などの観測機器を航空機から落としたりするなど,線状降水帯の理解のために試行錯誤をしているそうです。

 

線状降水帯の発生場所・発生時期

線状降水帯は,海洋上を吹走してきた暖湿気が流入しやすい西日本の海に面した都道府県で発生が多いことがわかっています。

 

下の図(https://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2017/pdf/530.pdfより引用)は過去の線状降水帯の発生場所を赤丸で表したものですが,特に九州や四国で発生が多いことが読み取れます。

また,発生が多い時期としては,東日本では台風の多い9月,西日本では梅雨前線が停滞する梅雨末期の6月~7月ということです。

 

さらに,線状降水帯は深夜から朝に多いことが統計的に明らかになっています。なぜ夜間に発生しやすいかという点については,こちらもいまひとつよく分かっていないのが実情のようです。とにかく,周囲が暗く状況把握が遅れやすい時間に発生することから,より一層注意が必要な気象現象であるのです。

 

顕著な大雨に関する気象情報

さて近年,毎年のように線状降水帯による大雨で甚大な災害が発生していることから,気象庁ではその危機感を高めるために「顕著な大雨に関する気象情報」という防災気象情報の運用を2021年6月から開始しました。

 

顕著な大雨に関する気象情報が発表されるのは以下の基準を満たした場合です。

現在、10分先、20分先、30分先のいずれかにおいて、以下の基準をすべて満たす場合に発表。

  1.  前3時間積算降水量(5kmメッシュ)が100mm以上の分布域の面積が500km ^2以上
  2.   1.の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)
  3.   1.の領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上
  4.   1.の領域内の土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)において土砂災害警戒情報の基準を超過(かつ大雨特別警報の土壌雨量指数基準値への到達割合8割以上)又は洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)において警報基準を大きく超過した基準を超過

発表基準には,定量的な値が設けられていることが見て取れますね。

今回の集中豪雨でもメディアで広く使われ,徐々に存在が知られつつあります。

 

ただ,個人的には,線状降水帯であろうとそれ以外であろうと,大雨が長時間続くこと自体が危険である点は変わらないので,わざわざ「線状降水帯」というキーワードで新たな防災情報を作る意義については疑問が残るところです*3

また,「記録的短時間大雨情報」など既存の防災気象情報との違いが分かりにくくなった点も課題だと思います。この点についてはSNS上でもその違いのややこしさが指摘されており,気象庁やメディアが丁寧に説明する責任があるとも感じます。

 

線状降水帯予測の難しさ

「顕著な大雨に関する気象情報」の他にも,気象庁では,線状降水帯による大雨の可能性が高いと判断された場合に,半日前から呼びかけをする「半日前予測」を2022年から地方単位で開始し,2024年には府県単位にまで細分化して発表しています。

 

しかしながら,2024年における半日前予測の的中率は1割程度*4と,10回に1回の確率でしか当てられなかったとのことです。さらに,予測を出せずに発生した「見逃し」は6割程度にのぼり*5,現状の予測精度は低いと言わざるを得ません。

いかに線状降水帯を予測するのが難しいかが分かりますね。

 

これほどまでに予測精度が低い理由には,線状降水帯のメカニズムの解明があまり進んでいないという本質的な課題があり,線状の降水帯として現れるという「見た目の分かりやすさ」とは裏腹に,そのメカニズムや予測という点ではまだまだ人間の科学が追いついていないというのが実情です。

 

2025年8月の九州地方の集中豪雨

ここからは今回の集中豪雨がどのような気象条件で発生したのか,天気図を追いながら振り返ってみます。

 

まず,下は2025年8月10日午前8時から翌日11日午前9時までの気象衛星ひまわりの雲頂強調画像を,アニメーションとして追ったものです。

赤い領域は雲頂高度の高い雲を示します。九州地方では,この真っ赤に表示された背の高い積乱雲が長時間停滞していました。このとき,福岡県や熊本県などで線状降水帯が発生しています。

 

では,なぜ積乱雲が九州付近にとどまったのでしょうか。

10日18時の地上天気図を見てみましょう。

上の図において,黄海付近にある高気圧に着目すると「ゆっくり」と東に進んでいることが分かりますね。

また,日本の東には太平洋高気圧があり,日本列島の南に張り出している様子も確認できます。

そして,2つの高気圧に挟まれた鞍部には,東西に延びる長い前線(赤線)が描かれており,前線を挟む2つの高気圧の位置関係が大きく変化しなかったため,前線が停滞して持続的な集中豪雨をもたらしたことが一つの要因として考えられます*6

 

ただ,今回のような大雨が降るためには,停滞前線の存在だけでは不十分で,大量の水蒸気を含んだ暖かく湿った空気が下層に流入し,その空気が上昇して凝結する必要があるはずです。

そこで,850hPa相当温位・風予想図を確認して,暖かく湿った空気の指標である相当温位の値を見てみることにしました。下図は10日21時の850hPa相当温位の予想図。

すると,図で赤く塗ったように,相当温位354K以上(過去の大雨災害時と同等の値)の非常に暖湿な空気が西側から30ノット程度で九州北部・中国地方に細長い帯状の形で流入することが予想されていました。特に高相当温位の空気が中国大陸に広く分布しており,太平洋高気圧の縁辺を回る空気だけでなく,この中国大陸からの暖かく湿った空気が合流して,強い風に乗って九州地方に供給されたことで,今回大雨が降ったと考えられます。

 

また,10日21時の700hPa鉛直P速度と地上天気図を重ね合わせてみると,停滞前線の南側で上昇流域(赤色網掛け部分)が広がっていました。梅雨末期の天気図を彷彿とさせます。

九州北部では-63hPa/hという上昇流が確認できます。下層の空気がきちんと持ち上がる環境が整った状況だったというわけです。

以上の解析データを総合すると,今回の集中豪雨では,高気圧に挟まれて停滞した前線に向かって,大量の水蒸気を含んだ空気が九州地方に持続的に流れ込んだことで,上昇流で持ち上がって大雨となって降り注いだと考えられました。

 

 

では,今回の豪雨で,実際にはどのくらいの雨が降ったのでしょうか。

例えば,下の棒グラフは熊本県上天草市松島の降水量を表したものです。

8/11の午前8時までは1時間降水量50mm程度の非常に激しい雨が数時間降り続き,8時には1時間降水量114mmという猛烈な雨を観測しています。その後は,雨量計が壊れたのか,欠測になっていました。

 

土砂キキクルを確認すると,上天草市では警戒レベル5相当の黒い色が広がっていました。

地中から水分が流出するのには時間がかかるため,雨が降り止んだ後でも土砂災害(がけ崩れ、土石流、地すべり)が発生する危険性があり,しばらくは注意が必要です。

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

今回は線状降水帯および九州北部地方に大雨をもたらした要因について振り返ってみました。意外にも,線状降水帯の発生メカニズムは不明なことも多く,予測精度が追いついていないという現状を知ることができ,気象予報の難しさを改めて知ることができました。

この夏は晴れた日が続き,九州などでも水不足が懸念されていましたが,久しぶりの恵みの雨かと思いきや,今度は集中豪雨ということで,その極端な天気の振れ幅には困惑させられますね。

 

 

【まとめ】学習の要点

天気図理解のメモ
  • 線状降水帯とは,次々と発生する発達した積乱雲が列をなし,数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される,長さ50~300km程度・幅20~50km程度の線状に伸びる強い降水域のことを指す。
  • 線状降水帯という言葉は,専門家の間でも厳密な定義が存在していない。
  • 線状降水帯は集中豪雨を引き起こす要因の一つで,「集中豪雨」という広い概念の中に,「線状降水帯」という現象が含まれる。
  • 線状降水帯には,「スコールライン型」,「バックアンドサイドビルディング型」,「バックビルディング型」などがある。
  • 近年日本で大きな豪雨災害をもたらしている線状降水帯の多くは「バックビルディング型」とされる。
  • 線状降水帯の形成には複数の要因が複雑に絡み合っているため,その全容はまだ未解明なことも多い。
  • 線状降水帯の発生場所は,特に九州や四国で多い。
  • 線状降水帯の発生時期は,東日本では台風の多い9月,西日本では梅雨末期の6月~7月に多い。
  • 線状降水帯の発生時刻は,深夜から朝に多い。
  • 気象庁ではその危機感を高めるために「顕著な大雨に関する気象情報」を発表している。
  • 気象庁では,線状降水帯による大雨の可能性が高いと判断された場合に,半日前から呼びかけをする「半日前予測」を府県単位で発表している。
  • 線状降水帯のメカニズムは解明されていない点も多く,半日前予測の的中率は1割程度,見逃し率は6割程度と,その予測精度は低い。
  • 地中から水分が流出するのには時間がかかるため,雨が降り止んだ後でも土砂災害が発生する危険性があり,しばらくは注意が必要である。
  • 線状降水帯発生時の天気図解析は,積乱雲が停滞した理由,相当温位と風速からの水蒸気の流入具合,上昇流などを踏まえて考察してみる。

 

参考図書・参考URL

下記の文献やwebサイトを参考にしました。一部画像を引用しております。

 

*1:積乱雲が線状に連なる方向と直角方向に進行する線状の降水帯。そのため,雨雲は停滞せずに,雨も一時的である。そう考えると,「雨雲が数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞する線状の降水帯」というものに含まれるのかは謎

*2:降水帯の先端だけではなく,側方からも積乱雲が湧き出すタイプの線状降水帯。こちらも停滞して豪雨災害をもたらすため,注意が必要

*3:2026年に防災気象情報が大幅に改定される予定です。それぞれの防災情報の意義と区別を分かりやすく,かつ危険を適度に煽るような名称で運用されることを期待します

*4:81回予測した中で8回実際に発生した

*5:21回発生した中で13回は予測も出せなかった

*6:ニュースなどでは上空の偏西風の蛇行について触れられていました