先日,気象業務支援センターのホームページ上に,第65回試験の試験問題が公開されていました。
ここ最近気象の勉強をほとんどしていなかったのですが,少なくとも試験問題だけはウォッチングしておこうと思い解いてみました。残念ながら,知識問題は記憶から忘れ去られている箇所も多くなってきました(;^_^A
今回は,第65回試験の一般知識について簡単に解説してみます。
私はこう考えたのであって,もしかしたら誤っている箇所もあるかもしれませんので,間違った認識があったらご指摘いただけましたら幸いです。
なお,試験問題については下記のリンク上で公開されておりますので,そちらをご参考ください。
- 問1 大気中のオゾン
- 問2 静力学平衡計算
- 問3 仮温度・露点温度・相当温位の保存
- 問4 暖かい雨
- 問5 電磁波の散乱
- 問6 慣性振動
- 問7 傾度風平衡
- 問8 温帯低気圧の立体構造
- 問9 気温の緯度高度分布
- 問10 海陸風
- 問11 気候変動・温室効果
- 問12 予報業務の許可
- 問13 気象予報士
- 問14 気象観測の届出
- 問15 災害対策基本法
- 採点結果
- 参考図書・参考URL
問1 大気中のオゾン
(a)正しい記述です。
(b)オゾン分布はブリューワー・ドブソン循環などの大気循環の影響が大きいため,太陽放射の強さの緯度分布からの単純計算では説明できません。誤。
(c)オゾンの分布は春先の高緯度でオゾン濃度が最大になります。よって「夏に最も大きくなる」という記述は誤り。
以上から,③が正解です。
問2 静力学平衡計算
いろいろ数字が出てきて,与えられた式に何を代入すれば良いかが分からなくなりそうですが,一つ一つ順番に考えていけば解答するのは容易です。
まず,この問題で最終的に求める値は です。
今,静力学平衡の計算式が問題中に与えられています。
・・・(A)
ここで問題文から, ,
なので,(A)式に代入すると,
・・・(B)
となります。
よって,この問題の本質は「(気体の密度) の値を求めなさい」ということのようです。
さて以前,理想気体の状態方程式について勉強しました。
このとき,状態方程式に気体の密度が現れました。
上の式を気体の密度を求める式として変形します。
・・・(C)
問題文から,気層の気圧()は500hPa(=50000Pa),気体定数(
)は287 J/(kg・K),気層の温度は-23℃(=250K)であるので,(C)式に代入すると
(kg/m3)
と計算できます。
あとは(B)式に の値を代入すると,
(Pa)
なので,hPaに直して絶対値をとると,7.0 hPa が得られます。
よって③が正解。
問3 仮温度・露点温度・相当温位の保存
仮温度という,たまにしか見かけない忘れがちな指標を問うてきました。言葉の定義をきちんと把握しておく必要がある問題です。
まずは露点温度から見ていきましょう。
露点温度とは一定気圧下で温度を下げたときに水蒸気が凝結する温度(飽和水蒸気量に達する温度)のことです。よって,空気塊の気圧を一定に保ちながら冷却しても,その露点温度は変わりません(露点温度は保存される)。
次に相当温位について。
相当温位は潜熱の影響を考慮に入れた温位のことであり,乾燥断熱変化でも湿潤断熱変化でも保存されます。
下のエマグラムを考えると,一定気圧下で温度を下げたときの変化(黄色矢印)は断熱変化ではないので,相当温位は保存されません。

最後は仮温度について。
仮温度とは,湿潤空気と同じ圧力・同じ密度を持つ乾燥空気の温度のことです。仮温度 は,混合比
を用いて
と数式で表現できます。
よって,温度を下げると仮温度も変化します。値は保存されないということです。
以上から,④が正解。
問4 暖かい雨
(a)水溶性エーロゾルは,水滴の表面に対する飽和水蒸気圧を低下させる役割があります(言い換えると,周囲の水蒸気圧が同じであっても凝結が起こりやすくなり,水滴は成長しやすくなります)。誤り。
(b)正しい記述です。暖かい雨では併合過程が非常に重要となります。
(c)併合過程と凝結過程の違いは,下の図のようになります。凝結過程では水滴の半径が小さいうちはその増加も大きいですが,時間とともに徐々に鈍くなっています。一方で併合過程では,水滴は最初のうちは変化が少ないですが,水滴が大きくなればなるほど加速度的に半径の増加も大きくなります。誤。

よって④が正解。
問5 電磁波の散乱
波長・散乱体の大きさについての問題ですが,あまりにもミクロな世界でどのくらいのオーダーなのかいまひとつピンときていない受験者の盲点を突いてきました。具体的な長さ・大きさを記憶していれば問題ないですが,ここでは覚えていないときの解答の絞り方を考えていきます。
まず,Aはミー散乱,Bはレイリー散乱,Cもレイリー散乱ですかね。
ミー散乱は,電磁波の波長と同程度かそれ以上の大きさの粒子によって光が散乱する現象です。よって,電磁波長≦散乱体の大きさ にならないといけません。
この時点で②か③に正解が絞られます。
なお,雲が白く見えるのは,太陽光が水滴などに当たって散乱し,すべての波長の光がほぼ均等に散乱されるためです。
一方レイリー散乱は,電磁波の波長よりもはるかに小さい(10分の1以下程度の)粒子に当たって散乱する現象です。
空の色は,太陽光が酸素分子や窒素分子などに当たって散乱して,青く見えたり赤く見えたりします。
あとは(a)は太陽光の波長に相当することに気づけば,波長のピークが0.5μmであることから(太陽表面温度が6000℃くらいとして,ウィーンの変位則からでも求められる),0.3~0.8μm という値が妥当そうだと結論づけることが可能です。
このことから,正解は②ですね。
ひとつひとつの具体的なスケールを知らずとも,正解に導けるような問題の作りとなっていて,良い問題と思います。
問6 慣性振動
慣性振動とは,「地球自転の影響(コリオリの力)だけを受けて,物体が円を描くように動き続ける現象」のことです。
風や海流を動かす「気圧の差」や「摩擦」などが一切なく,物体が持っている慣性とコリオリの力だけで運動が決まる状態を指します。
現実の海や空でも観察されることがあるようで,海洋では海面を吹いていた強い風が急に止まった後,海水の塊がそのまま慣性で円を描きながら漂うことがあるようです。
また,大気では,上空の高い場所で気圧のバランスが崩れた際に空気が円を描くように揺れ動くことがあります。
さて,今回の問題を見てみましょう。
空気塊に働く力は,コリオリ力と遠心力だけで,気圧傾度力は働きません。空気塊は円運動することになります。
北半球ではコリオリ力は空気塊の進行方向右側に,遠心力はその反対方向の進行方向左側に働きますので,円運動は時計回りになります(遠心力は円運動の中心から外側方向に向かうため)。
力の釣り合いを考えると,以下の式が立てられます(空気塊の速度を ,空気塊が描く円の半径を
,コリオリパラメータを
とする)。
上の式を変形して の式として表すと
・・・(A)
と書けますね。
円運動の周期を とすると,円周の長さを速度で割ると求まるので
・・・(B)
です。
(B)式に(A)を代入すると,
・・・(C)
が得られます。
コリオリパラメータ は,緯度
を用いて
と表せますので,(C)式は以下のようになります。
よって,高緯度では,低緯度に比べて周期は短くなります。
以上から正解は①となります。
なお,現実に観測される慣性振動が完全な円運動になることはなく,実際には螺旋やいびつな円のような形になります。
これは,空気塊に働くコリオリ力が南北で異なること,周りの背景流の影響があることなどが理由として挙げられます。
下はGeminiが教えてくれたpythonコードで慣性振動をシミュレーションしたものですが,大きさの異なる螺旋を描いているのが分かりますね。

問7 傾度風平衡
問6 と問題がカブっている気もしますが,とりあえず解いていきましょう。

北半球の低気圧周辺では,風は反時計回りに吹きます。
低気圧中心からの距離を ,そのときの風速を
,コリオリパラメータを
,気圧傾度力を
(この問題では場所によらず一定)として,傾度風平衡の式を立てると
となります。
ここで低気圧中心からの距離 をどんどん大きくしていくと,遠心力
はどんどん小さくなって,遠心力が0になったときの風速を
とすると,
となります。コリオリ力と気圧傾度力が釣り合った状態になりますので,地衡風平衡の状態を表しています。
よって,距離 をどんどん大きくしていくと風速は地衡風平衡に近づいていくということです。この時点で正解は①か⑤のどちらかに絞られます。
次に,地衡風平衡のときの風速と比較すると
・・・★
という式が成り立つためには
である必要があります(なぜなら だとすると,
となり,★式が成立しません)。
すなわち,低気圧周辺を回る風の速度は,地衡風の速度より小さくなります。
ここから正解は⑤であると分かります。
問8 温帯低気圧の立体構造
気圧の谷の軸が上空ほど西傾していると,その低気圧は今後発達する可能性が高いことが知られています。
これは,トラフ(気圧の谷)前面では上昇流が生まれ,これにより地上に低気圧が発生しやすくなるためです。逆にリッジ(気圧の尾根)前面あるいはトラフ後面では下降流が生まれ,高気圧が発生しやすくなります(下図)。

よって,この時点で,気圧の谷前面で上昇流がある④か⑤のいずれかが正解となります。
ここで,『一般気象学』(東京大学出版)のp.184の低気圧の鉛直断面図によると,下図のような空気の流れがあります。

以上のことから,④が正解ですね。
⑤のような温度分布が絶対にないのかどうかは,不勉強なもので私にはよく分かりません。
問9 気温の緯度高度分布
(a)赤道付近で対流圏界面が最も温度が低くなるのは,暖かい赤道側で空気が膨張し対流圏が厚くなるためです。潜熱の影響ではありません。誤。
(b)南半球の1月は夏ですので,日の沈まない白夜が続き,日射量が多くなって成層圏のオゾンが紫外線を吸収して加熱します。そのため,夏半球の成層圏は気温が極大となります。誤。
(c)南半球の高度90km付近では,上昇流が見られ,断熱冷却のはたらきによって気温が低下します。その結果,気温は極小になります。正しい。
④が正解。
問10 海陸風
(a)海風は,地上付近で海から陸に吹く風です。よって地表付近の気圧は陸側が低くなり,そちらに向かって海から風が吹く形となります。正。
(b)海風は海岸線から100km内陸に到達することもあるようです。正。
(c)海風が吹いているときには,その上空では陸から海に向かって吹く反流が存在します。ただ,反流は海風よりも層が厚くなります。誤。
以上から正解は②。
問11 気候変動・温室効果
(a)1750年(産業革命前)の二酸化炭素濃度は約280ppm,2024年は約424ppmのようですので,増加率は約50%になります。この増加は,人為的な活動によるものが主要因であると考えられています。よって正しい。(ただし,何%以上が「主として」なのか曖昧さのある選択肢と思います)
(b)二酸化炭素は,火山噴火などの自然起源のものの方が多いものの,石油や石炭といった化石燃料を燃やすことによって人為的に増加してきたものも少なくありません。大気中に排出される二酸化炭素の中で,人間活動によるものの割合は約50%を占めます。正しい記述です。
(c)北半球では,夏に樹木が葉に覆われ,光合成が活発になり,二酸化炭素濃度は低くなります。よって,冬に極大,夏に極小となり,選択肢は誤り。
以上から,②が正解。
問12 予報業務の許可
気象予報業務を行った場合に,事業所ごとに記録しなければならない事項は以下のとおりです。
(予報事項等の記録)
第十二条の二 法第十七条第一項の許可を受けた者は、予報業務を行つた場合は、事業所ごとに次に掲げる事項を記録し、かつ、その記録を二年間保存しなければならない。
一 予報事項の内容及び発表の時刻
二 法第十九条の二各号のいずれかに該当する者にあつては、予報事項に係る現象の予想を行つた気象予報士の氏名
三 気象庁の警報事項の利用者への伝達の状況(当該許可を受けた予報業務の目的及び範囲に係るものに限る。)(気象業務法施行規則より抜粋)
よって(a)と(d)は正しい記述です。
(b)は現象の予想を行った気象予報士の氏名は必要ですが「登録番号」までは不要という点で誤り,(c)の「事業所の管理者の氏名」については要件には入っていませんので誤りです。
③が正解。
問13 気象予報士
(a)気象予報士の登録は,試験に合格しさえすれば登録までの期限はありません。正。
(b)正しい。
(c)気象予報士が気象庁長官に個人的に予報業務に従事することを届け出る必要はありません。
(d)ひっかけ問題。気象予報士資格が登録抹消されるのは,「気象業務法で罰金以上の刑」に処された場合。窃盗や傷害などの刑法違反で罰金を科されても,気象予報士資格は抹消されません。誤。
正解は①ですね。
問14 気象観測の届出
民間気象会社や一般法人,個人であっても,その観測結果を発表したり,災害の防止に役立てようと利用したりする意図があるのであれば,国土交通省令で定める技術上の基準に従う必要があります(下図:kansoku.pdf (jma.go.jp)より引用)。
さらに,国土交通省令で定める技術上の基準に従う場合,観測施設を設置したときには気象庁長官に対して気象観測施設の届出もしなければいけません。
ただし,研究や教育のための気象観測,特殊な環境での変化を対象とする観測などは該当しません。

(a)農園の苗木の間の温度計設置は,特殊な環境での変化を対象とする観測に該当し,一般に公表したりすることもないため,気象観測の届出は不要です。誤。
(b)研究・教育のための風速計設置も,気象観測の届出は不要です。誤。
(c)たとえ遊園地であろうと,一般に公表するための風速計の設置した場合には,気象庁長官へ届出が必要です。正。
以上から,正解は⑤ですね。
問15 災害対策基本法
お馴染みの定型句です。
(発見者の通報義務等)第五十四条 災害が発生するおそれがある異常な現象を発見した者は、遅滞なく、その旨を市町村長又は警察官若しくは海上保安官に通報しなければならない。2 何人も、前項の通報が最も迅速に到達するように協力しなければならない。3 第一項の通報を受けた警察官又は海上保安官は、その旨をすみやかに市町村長に通報しなければならない。4 第一項又は前項の通報を受けた市町村長は、地域防災計画の定めるところにより、その旨を気象庁その他の関係機関に通報しなければならない。
⑤が正解。
以上で簡単な一般知識のレビューを終わります。
採点結果
さて今回,私が問題を解いてみた全15問の結果ですが,以下の通りでした(気象業務支援センターの解答との比較)。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇✕〇✕〇〇〇
結果は13点です。
問8は二択の勘で回答して正解,問10の海風の到達距離と問12の記録事項については間違えてしまいました。気象法規を少しずつ忘れ始めつつあります(汗。
全体的を通した感触としては,問8以外は目新しい問題はなく,ここ数年間を振り返ってみても点を取りやすい問題が多い試験のように思いました。合格点はおそらく11点ですかね。
ということで一般知識のレビューはここまで。
時間があったら専門知識と実技試験についても解いてみて,面白い問題があればレビューしてみたいと思います。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。