Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【気象学勉強】第69回 温帯低気圧の発生

 

今回は温帯低気圧について。ニュースなどでよく聞く「低気圧」という言葉は多くはこの温帯低気圧を指します。一方で赤道などの熱帯地方で発生する低気圧は熱帯低気圧と呼ばれます。

今回は温帯低気圧熱帯低気圧とどういう点で異なるのかを踏まえて,その特徴を勉強していくことにします。天気図多めでいきましょう。

 

 

温帯低気圧とその特徴

温帯低気圧とは温帯地方(中緯度地域)で発生する低気圧のことです(名前のままですね)。日本はまさに温帯地方に位置しているので,この温帯低気圧は日本の天気と切っても切り離せない関係にあるのです。

 

まずは温帯低気圧を天気図で見てみましょう。

温帯低気圧中心から広がる等圧線が楕円状の紡錘形をしていることが特徴です。

そして等圧線が張り出したところを結ぶようにして前線を伴うのが普通です。前面には温暖前線,後面には寒冷前線を伴います(停滞前線上に低気圧がある場合もある)。

温帯低気圧が前線を伴うのは,温帯地方が南側の暖かい空気と北側の冷たい空気がちょうどぶつかりあうところに位置しているためです。

 

一方で熱帯低気圧(ここでは勢力を増した台風)は下のようになります。

熱帯低気圧周辺の等圧線がほぼ円形をしており,前線は伴いません。しかし台風も勢力が弱まると温帯地方で温帯低気圧に変わることもあります。これを熱帯低気圧温帯低気圧化(温低化)と呼びます。台風が温帯低気圧に変わったからといって油断したら大間違い。前線付近では雨が降りやすく引き続き注意が必要で,低気圧が日本付近で発達する可能性もあり油断してはいけないのです。

上の台風2号はこの後温帯低気圧に変わり日本の東海上を抜けていきました。

 

温帯低気圧の発生とエネルギー源

以前,熱帯低気圧のエネルギー源が潜熱であることを勉強しています。

では温帯低気圧熱帯低気圧と同じ潜熱をエネルギーとして発生・発達するのでしょうか?

 

実は温帯低気圧のエネルギー源は主に南北の温度差です。

下は温帯低気圧周辺の空気の流れを表した図(【お天気の疑問】台風と温帯低気圧の違い - ウェザーニュース (weathernews.jp)より引用)ですが,暖かい空気は軽いので上へと上昇しようとし,冷たい空気は重いので下へと下降しようとします。

このときに働く力が温帯低気圧のエネルギー源なのです。極端な話を言ってしまうと,水蒸気の潜熱がなくても温帯低気圧は発生できるのです。

 

もう少し細かく温帯低気圧のエネルギー源を追ってみましょう。

下の図のように同じ体積 V で密度の異なる流体A(冷たい空気)と流体B(暖かい空気)があり,中央にある厚さが無視できる鉛直隔壁で分離されているとします。

流体Aの密度を  \rho_{A} とし,流体Bの密度  \rho_{B} とすると,  \rho_{A} > \rho_{B} > 0 が成り立つはずです(流体Aの方が冷たく密度が重いため)。


ここで,流体の厚さを  H ,重力加速度を g として隔壁でしきられた左側の図の位置エネルギーを求めてみましょう。位置エネルギーは(質量)×(高さ=重心の座標)×(重力加速度)で表されますので,

  流体Aの位置エネルギー \rho_{A}Vg×\dfrac{H}{2} = \dfrac{\rho_{A}VHg}{2}

  流体Bの位置エネルギー \rho_{B}Vg×\dfrac{H}{2} = \dfrac{\rho_{B}VHg}{2}

 

よってこの2式を足し合わせて

  隔壁でしきられているときの全位置エネルギー \dfrac{(\rho_{A} + \rho_{B}) VHg}{2}  ・・・①

と計算されます。

 

次に中央の隔壁を取り去ると,右の図のように流体Aは密度が大きいので下降し,流体B は密度が小さいので上昇しますね。

空気が混ざらずにそのままの密度で流体Aの上に流体Bが乗るとすると,変化後の位置エネルギーは以下のようになります。

  流体Aの位置エネルギー \rho_{A}Vg×\dfrac{H}{4} = \dfrac{\rho_{A}VHg}{4}

  流体Bの位置エネルギー \rho_{B}Vg×\dfrac{3H}{4} = \dfrac{3\rho_{B}VHg}{4}

 

この2式を足し合わせると下のようにまとめられます。

  隔壁を外した後の全位置エネルギー \dfrac{(\rho_{A} + 3\rho_{B}) VHg}{4}  ・・・②

 

元の位置エネルギーから変化後の位置エネルギーを差し引いた値は

   ①-②=\dfrac{(\rho_{A} - \rho_{B}) VHg}{4} (>0)

となり,これは正の値です。

 

よって位置エネルギーは隔壁を取り外すと減少していることになります。

この位置エネルギーの減少分がどこに消えたかというと,流体の移動に伴う運動エネルギーに変換されたのです。この運動エネルギーに変換された位置エネルギーのことを特に有効位置エネルギーと呼びます。


日本海低気圧と南岸低気圧と二つ玉低気圧

最後は日本周辺で発生する低気圧について代表的なものをご紹介。

日本周辺で発生する低気圧の中で,日本海を通過する低気圧は日本海低気圧,日本の南を通過する低気圧は南岸低気圧と呼ばれることがあります。どこを通過するかだけの違いで,本質的には全く同じ低気圧です。

 

日本海低気圧があるときは下のような天気図が見られます。

日本海低気圧では,暖域において南よりの風(図のオレンジ色矢印)が吹くため気温が上がることが多くなります。上の天気図の翌日,九州や四国では春一番が吹いたことが発表されました。日本海低気圧は一年を通して見られますが,著しく発達するものは春先で多くなっています

また,太平洋側から暖かい空気が流入してくるので,特に日本海側ではフェーン現象が起こり乾燥して気温も上昇します。このとき日本海側では山火事などの火災に注意が必要です。2016年12月22日に新潟県糸魚川市で起こった大規模火災はこの日本海低気圧が大きく関わっていることが知られています。下がそのときの天気図(糸魚川大火 (komazawa-u.ac.jp)より)。たしかに日本海低気圧が東よりに進んでいました。

www.city.itoigawa.lg.jp

 

一方,南岸低気圧は下のような天気図に。

日本海低気圧とは異なり,南岸低気圧では,寒冷前線に向かって北よりの風(青矢印)が吹き日本列島を横切るため,通過に伴い気温が下がることが多くなります。
この南岸低気圧も1年を通して発生していますが,秋から春にかけて発生しやすいそうです。特に冬に首都圏が大雪となる場合,ほとんどはこの南岸低気圧によるものです。

 

他にも,日本海低気圧と南岸低気圧が日本列島を挟むように発生した場合,二つ玉低気圧と呼ばれます。下が二つ玉低気圧の天気図です。

日本海上に低気圧が,太平洋上にも低気圧があって,日本列島がサンドイッチされているのが分かります。この場合,2つの低気圧が日本列島を通過するので広範囲にわたって荒天となります。

この日の衛星画像は下のようになっていました。

ただし,低気圧と低気圧に挟まれた部分は一時的に晴天となることもあります。これを「疑似好天」と呼びますが,その後再び天候が悪くなるため注意する必要があります。

2012年の白馬岳で起こった遭難事件は,この疑似好天によってベテラン登山者でさえも命を奪われました。このときも日本海側と太平洋側には低気圧があり,白馬岳はちょうどその間に位置していました。下はその遭難の経緯についての動画ですが,非常に分かりやすく解説がなされ,天気の怖さを身を以て教えてくれます。


www.youtube.com

 

このように,同じ低気圧でもどこに位置するかによって日本の天気は大きく異なる点は理解しておく必要があるのです。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!

 

  • 日本海を通過する低気圧は「日本海低気圧」,日本の南を通過する低気圧は「南岸低気圧」と呼ばれる。
  • 日本海低気圧では,暖域において南よりの風が吹くため気温が上がることが多い。
  • 一般的に,春一番は春先の日本海低気圧による南風が引き起こす。
  • 南岸低気圧では,寒冷前線に向かって北よりの風が吹き日本列島を横切るため,通過に伴い気温が下がることが多い。
  • 冬に首都圏が大雪となる場合,ほとんどは南岸低気圧によるもの。
  • 日本海低気圧と南岸低気圧日本海を挟むように発生した場合,「二つ玉低気圧」と呼ばれる。
  • 二つ玉低気圧では広範囲にわたって荒れた天気となる。
  • 低気圧と低気圧に挟まれた部分は「疑似好天」になることがあるが,それは一時的なもので,再び天候は悪化するので気を付ける必要がある。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。