2025年8月24日,第64回気象予報士試験が実施されたようです。
そして先日,気象業務支援センターのホームページから試験問題が公開されました。
ということで,半年ぶりに気象予報士試験問題を解いてみることにしました。試験に合格してからは試験対策の勉強を全くしていなかったので少し不安もありましたが,意外と覚えているものですね。採点の結果はこの記事の最後に記しておきます。
今回は,第64回試験の一般知識について簡単に解説してみます。
なお,試験問題については下記のリンク上で公開されておりますので,そちらをご参考にしてください。
気象予報士試験 (jmbsc.or.jp)
問1 地球大気の鉛直構造
(a)気温減率には,平均気温減率,乾燥断熱減率,湿潤断熱減率があります。
平均気温減率は,観測に基づいた大気の気温プロファイルの統計平均値であり,「空気塊が上昇したときどうなるか」ではなく,「その場で大気がどういう状態にあるか」を表すものです(たとえば国際標準大気での6.5℃/kmの気温減率)。
一方で,乾燥断熱減率と湿潤断熱減率は,空気塊の断熱上昇・下降を考えるときに用いられるものであり,未飽和であれば乾燥断熱減率,飽和していたら湿潤断熱減率を考える必要があります(乾燥断熱減率は10℃/km,湿潤断熱減率は5℃/km)。
特に,乾燥断熱変化をしている空気塊は温位が保存されます。国際標準大気の気温減率は乾燥断熱減率ではないので,温位は保存されません。
(b)正しい記述です。
(c)「オゾンの数密度は成層圏界面付近で最大」であるという点が間違いで,「オゾンの数密度は高度25km付近で最大」とするのが正しい。よって誤り。
(d)熱圏の話をしているので「中間圏」というのが誤りです。
以上から,④が正解です。
問2 空気塊の相対湿度計算
着目するのは,「空気塊は水滴を含んでおらず」という一文です。凝結を伴っていないということは,混合比は保存されるということです。
高度1000mで温度18℃の飽和した空気塊の混合比
は
高度0mに断熱的に下降させたときの空気塊の混合比は保存されるので,高度0mの混合比
が成り立ちます。また,
は以下の式でも記述できます。
(
は高度0mの空気塊の水蒸気圧)
高度1000mで温度18℃の空気塊は乾燥断熱減率で変化しますので,高度0mでは気温は28℃になります。28℃の飽和水蒸気圧は表から38hPaなので,
相対湿度(%)
よって②が正解です。
乾燥断熱減率・湿潤断熱減率の値がきちんと示されているのも好感が持てますし,混合比・相対湿度・気温減率などを絡めて,それらをきちんと理解できていないと解けない問題となっており,良問と思います。
問3 混合比計算
これはすみません,(b)がよく分かりませんでした(;^_^A
潜熱と定圧比熱の関係式って気象予報士試験勉強していて学んだっけ?と思って教科書を見直ししていたら,『一般気象学』のp62-63にちゃんと記載されていました。
(a)は,エマグラムを用いて考えると分かりやすいと思います。
湿球温度は,エマグラムにおいて持ち上げ凝結高度から湿潤断熱線に沿って高度を下げたときの,元の気圧との交点となります。
下の図から,
となります。これで,③か④の二択に絞られます。

(b)この問題は下のように考えるようです。

湿球温度計の図に変えて説明すると,湿球温度計に吹いてくる温度
,混合比
の空気塊が,蒸発熱を奪われた後に温度
,混合比
になることを意味します。よって,
だけの蒸発によって,温度が
から
に下がるため,蒸発の潜熱を
として

が成り立ります(一般気象学より)。よって③が正解。
教科書にも詳細なことが記述していないので,気象予報士試験合格という目先の目的を考えるならば,そのまま記憶してしまうのもアリかもしれません。
yahoo知恵袋に同じ内容の質問があったのでご参考にしてください。
面白い問題ではありますが,如何せん問題が難しすぎます。
問4 氷粒子・雪片
(a)気温が高いと結晶の一部が溶けて,雪の結晶が付着しやすくなります。誤り。
(b)正しい記述です。
(c)湿度が低いほど,雪片の表面で昇華が起きやすく,昇華する際に(水蒸気が)雪片表面から潜熱を吸収し(雪片表面を)冷却することで,融解しにくくなります。実技試験でも何度も出題されている問題ですので,きちんと記述できるようにしておきましょう。
よって④が正解です。
問5 太陽放射
(a)太陽放射エネルギーのうち,可視光域が占める割合は約47%とされており,赤外線域が約46%,紫外線は約7%程度とされています。
可視光域のエネルギーが思っていた以上に多いことに,気象予報士試験の勉強していた当時の私は驚いたことを覚えています。

(b)夏の北極点は1日中太陽が昇る白夜となり,合計としては赤道地点で入射する太陽放射エネルギーよりも多くなります。誤り。
(c)2025年現在,地球と太陽の距離は1月頃にもっとも近づき,7月頃に最も遠くなります。これは下図(暦Wiki/惑星/近日点通過 - 国立天文台暦計算室より)のように,地球の軌道が楕円であり,太陽は中心とは少しズレた位置にあるためです。よって1日の太陽放射エネルギーは1月の方が多くなります。誤り。

(d)数式から考えて,1.7倍と計算できます。誤り。
③を選びます。
問6 温度移流・温度風
問題を解いていて,とにかく問題文が分かりづらいと感じました。
「北半球」「地衡風」「異なる高度の風速」というキーワードから温度風を用いて考えるのだろうと見当がつきます。
まずは図を描きます。
温度風は,2つの等圧面間の平均気温の等温線と平行に吹きます。
この問題では,2つの層間の平均温度は東西方向に一様で南から北に向かって低くなっていると記載されているので,温度風は下のように西から東に向かって吹きます(北半球なので右手側に高温域になるように吹きます)。
これは地点Aでも地点Bでも同じ向きになります。

ここで下層(1000hPa)では地点AもBも5m/sの南風が吹いているので,それぞれの地点の上層700hPaでは,温度風を考慮して,南西よりの地衡風が吹くことになります。下の図のように,(例えば地点Aでは)赤色矢印のような向きに地衡風が吹くのです。これは地点Bでも同様です。

まず手を付けやすい(b)ですが,地点A・地点Bともに上のような図が描け,下層から上層に向かって風向が時計回りになっていますので,どちらの地点も暖気移流であることが分かります。
次に(c)ですが,「その大きさ」の「その」というのは(b)で答えた温度移流のことを指します。
温度移流は以下の式で表現できることは以前勉強しています。
移流による気温時間変化率(温度移流)
(温度移流) = ー(風向に沿った温度傾度)×(風速)
そう考えると,どれだけ上空700hPaの地衡風が大きくなろうとも,気層の平均風の風速と,平均風に沿った温度傾度の積(内積)は一定になります。700hPaの地衡風の風速が大きくなればなるほど,温度勾配と平均風のなす角度が小さくなって,平均風に沿った温度傾度は小さくなるためです(下図)。

よって,地点Aと地点Bの上空700hPaの地衡風の風速にどれほど違いがあったとしても,温度移流の大きさはどちらも同じで,変わらないと考えられます。
よって,「地点Aと地点Bで同じである」を選択。
最後は(a)。
イメージとしては下のような図で解こうと思ったのですが,果たして地点Aと地点Bで気圧傾度力が同じかどうかが分からずに,とりあえず同じだと仮定した場合には地点Aの方が地衡風の風速が大きくなるので,「地点Aの方が大きい」が正解かなと考えました。

結局,①を選びましたが,全体的に解き方が正しいのか自信はありません。
捨て問と諦めて,他の問題に時間をかけた方が賢いかもしれません。
問7 地上風の力の釣り合い
力の釣り合いを理解できていれば難なく解けますが,その物理的な理解を疎かにしていると難しい問題にもなり得ます。
地表面付近の空気塊に働く力を考えると下のようになります。地上付近の風には,気圧傾度力とコリオリ力,摩擦力の3つの力が働きます(風の矢印は力ではありません)。

これらの3つの力は釣り合っていますので,気圧傾度力を点線矢印に分解して,
(気圧傾度力)× cos α =(コリオリ力)
(気圧傾度力)× sin α =(摩擦力)
が成り立ちます。
ここから,
(摩擦力)=(コリオリ力)× tan α
という式も導出できます。
よって②が正解。地上風についての理解と力の釣り合い式の理解が求められる,個人的には好きな問題で良問と思います。
問8 熱輸送
まずは赤道の位置がどこにあるかを探しましょう。
赤道がシンガポールやエクアドル(スペイン語で「赤道」),インド洋上を通ることなどを知っておけば,領域Aの内側に赤道が引かれることが分かります。一見すると領域Bが図の真ん中付近にあるので,ここに赤道があると勘違いしてしまいそうですが,間違えないようにしましょう。
領域Aは赤道付近の熱帯域,領域Bは緯度20~30度あたりの亜熱帯域,領域Cは日本の本州が含まれる温帯域と区別できるでしょうか。また,領域Dはアジアモンスーンの吹く地域ですね。
(a)熱帯域では熱帯収束帯の形成により降水量が非常に多い地域です。年平均降水量は蒸発量を上回ります。誤り。
(b)亜熱帯域では,ハドレー循環による亜熱帯高圧帯が発達します。高気圧下で雲ができづらいので潜熱輸送は小さくなります。一方,温帯域は温帯低気圧による風による顕熱輸送・水蒸気による顕熱輸送が活発に起こっており,北向きに熱を運んでいます。誤り。
(c)東南アジアに吹く季節風(アジアモンスーン)は大陸と海洋の熱的性質の違いが大きな要因です。すなわち,暖まりやすい大陸と,暖まりにくい海洋の温度差によって引き起こされます。正しい。
以上から,⑤が正解です。
問9 ガストフロント
(a)ガストフロントは積乱雲の下降流によって生じるので,雲の内部で下降気流が発生する「成熟期」以降の現象です。問題文では「成長期」となっているので誤り。
(b)ガストフロントは単一の積乱雲で5~10km,マルチセルの場合は数十kmにも及びます。誤り。
(c)ガストフロントが通過する際には,積乱雲から流れ出た冷たい空気(冷気外出流)の影響で地上気温は下がります。また,冷たい空気は密度が大きく重たいので気圧は上昇します。冷たい空気によって飽和水蒸気量は下がり,相対湿度は上昇します。よって,気圧が下降するという記述は誤り。
⑤が正解。
問10 成層圏突然昇温
成層圏突然昇温とは,対流圏から成層圏へ伝播したプラネタリー波が,冬極の成層圏に吹く西風を弱めることによって,成層圏上部から始まる気温の上昇のことです。多くはプラネタリー波の蛇行の大きい北半球で起こり,南半球ではあまり起こりません(2019年,2024年は南半球でも起こっているようで,珍しいながらも起こらないというわけではない)。
上記のように知識として覚えてしまっても良い問題です。正解は①。
問11 気候変動
細かい数値の知識が問われました。
(a)二酸化炭素の全大気平均濃度は,2024年現在0.042%(420ppm)となっています。500ppmは超えていないので誤りです。
(b)気象庁の観測データによると,全国の日降水量100mm以上の年間日数は増加傾向にあり,これは統計的にも有意であるようです。同様に,日降水量1mm未満の降水がほとんど降らない日も増加していて,降水の極端化が鮮明になっているとのこと。正。
(c)過去100年間で全球平均の年平均海面水温は100年あたり約0.6~0.65℃上昇しているようです(日本近海の年平均海面水温では,過去100年間で約1.3~1.4℃上昇しているようです)。2℃以上というのは誤り。
④を選びます。
感想としては,(a)500ppmという絶妙な数字を出してきたなという印象で,こんなセコイ数字を出さずに,「ppm」という単位を理解していたら明らかに間違いだと分かる「800ppm」とか「1200ppm」くらいの数字にしてほしいと感じました。
(b)これは知らん。統計的有意かどうかまでは把握しとらんて。
問12 予報業務の許可
気象予報業務を行おうとするものが,気象庁長官の許可を受ける際の必要な要件は以下の通りです。
・収集しようとする資料の内容とその収集方法
・予報資料の収集・解析の施設およびその要員
・予想事項の発表時刻
・現象の予想の方法
・気象庁の警報事項を受けることができる施設および要員
・気象予報士の氏名と登録番号
(a)と(b)については要件として必要になります。
(c)の「解説するための施設」,(d)の「利用者に伝達できる施設」については要件には入っていません。
よって②が正解。
(a)正しい。
(b)気象予報士登録は,試験に合格しさえすればいつでも申請できます。登録するまでの期限はありません。誤り。
(c)気象予報士に登録しさえすれば,(抹消されない限り)生涯にわたって有効です。登録更新はありません。誤り。
(d)正しい。
よって③ですね。
問14 気象測器の検定
(a)政府機関や地方公共団体が気象を観測する際には,国土交通省令で定める技術上の基準に従う必要があります。ただし,研究や教育を目的とする場合には技術上の基準を必ずしも満たす必要はありません。
(b)気象測器の有効期限は測器の種類によって異なります。多くは原則5年ですが,ラジオゾンデなどは1年,電気式気圧計や電気式温度計などは有効期限が定められていないようです。測器によっては摩耗のスピードも異なるでしょうから,間違いではないかと類推できます。
(c)製造者以外でも申請することは可能です。誤り。
全部間違いで,⑤ですね。
災害が発生したときには,市町村長が,避難のための立退きを指示することができます(避難指示)。また,避難によってかえって生命に危険が及ぶ場合には,緊急安全確保を指示することができます。
よって③が正解。
以上で簡単な一般知識のレビューを終わります。
私はこう考えたのであって,もしかしたら誤っている箇所もあるかもしれませんので,間違った認識があったらご指摘いただけましたら幸いです。
採点結果
さて今回,私が問題を解いてみた結果ですが,以下の通りでした。
〇〇✕〇〇〇〇〇〇〇✕〇〇〇〇
ということで私の結果は13点ですね。意外と覚えていたので少しばかりホッとしたのでした。おそらく合格基準は11点あたりでしょうから,とりあえず及第点というところでしょうか。ただ,実際に試験本番を受験する身であったら,逆に選択肢を疑いすぎたり,緊張でテンパったりもして点数をもっと落としていたかもしれません。何の気負いもなく問題を解ける,今だからこその点数です。
個人的感触としては,問3と問6の問題を除くと点を取りやすい問題が多かったと思います。特に気象法規は基本的な問題が多い印象でした。
ということで一般知識のレビューはここまで。
次回は専門知識について簡単にレビューと,私が解いてみた結果について書いていこうかと思います。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。