Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

2025年10月の気象関連ニュース

 

今月の個人的に気になった気象関連ニュースをメモしておきます。

 

 

2025年9月の世界平均気温は観測史上3番目の暑さ

コペルニクス気候変動サービス」から,2025年9月の1ヶ月間の世界平均気温について発表がありました(Surface air temperature for September 2025 | Copernicus)。

  • 1991-2020年の平均より0.66℃高く、9月の世界平均気温は16.11℃であった。
  • 観測史上3番目に暖かい9月となり、過去3か月と同様の順位となった。
  • 2023年の記録的な9月より0.27℃低く、2024年9月よりわずか0.07℃低いだけである。産業革命前の1850年から1900年の9月の平均気温推定値より1.47℃高い。

2023年,2024年に次いで,観測史上3番目に位置する暑い9月となったということです。2025年7月,8月,9月の3ヶ月を通して,1ヶ月間の世界平均気温は過去3番目の暖かさとなっており,依然として高い水準が続いていることがわかります。

 

アイスランドで初めて蚊が確認

10月中旬,大きなニュースとなったのがアイスランドで蚊が3匹確認されたという話題です。

これまで寒冷なアイスランドは,蚊が住める環境ではなく,その存在が確認されていなかったようです(蚊が存在していなかったのは,アイスランド南極大陸の二地点だけ)。

しかし今年,アイスランドでは気温の記録が塗り替えられ,熱波が襲来したことでアイスランド国内の複数地点で最高気温が更新される結果となりました。そのことが災いしてか,蚊の住みやすい温暖な気候が続き,蚊が定着した可能性が危惧されています。

地球温暖化との関係も示唆されており,気候変動の影響が世界的にも大きな問題になりつつあるのです。

 

ただ,アイスランドに蚊が定着したかどうかについては追加の調査が必要としており,船やコンテナを通して蚊が一時的に侵入してきた可能性も指摘されているようですので結論付けるのは時期尚早のようです。

 

今回蚊が3匹確認されたということですが,実際にはその何十倍,何百倍といるでしょうし,温暖な気候が続いてしまうと,それらが繁殖してしまう未来も無きにしも非ずなので,我々人類が地球温暖化の加速を止める努力は必要ということでしょう。

 

2025年9月の日本の全国平均気温は統計開始以来3番目の暑さ

世界の平均気温が観測史上3番目だった昨月9月は,日本においても統計開始以来3番目の暖かさだったようです。

今年9月の日本の平均気温は,平年よりも2.49℃高くなり,2023年,2024年に次ぐ暑い9月だったとのこと。

 

いずれにせよ高い水準で推移していることが見て取れますが,温暖化が叫ばれているとはいえ,やはり秋も深まってくると肌寒さを感じる季節になってきましたので,体調には気を付けたいところですね。

 

出典

2025年9月の気象関連ニュース

 

今月の気になった気象ニュースを書き留めておきます。

 

 

梅雨入り・梅雨明けの確定

9月1日,気象庁から今年の梅雨入りと梅雨明けの時期の確定値が発表されました。

気象庁では毎年,全国各地の梅雨入り・梅雨明けの時期を速報値として発表しており,その年の9月頃に実際の天気のデータをもとに見直しを行い,確定値として発表しています。

結果的には,今年の梅雨入り・梅雨明けの確定値が,速報値から大きく変化した地域もありました。

下の表が各地の速報値と確定値になります。

2025年の5月の記事では,統計史上初めて九州南部地方が全国で最も早い梅雨入りとなったことを報告しましたが,確定値では沖縄や奄美の梅雨入りが早まり「幻の全国最速の九州南部地方からの梅雨入り」になったとのこと。

 

ただ,季節の流れは連続的に変化するものであり,(虹の7色の境界がどこにあるのかを正確に把握できないように)季節の境界に区切りを入れるということは難しいようで,時期が大きくズレるのも致し方ないことだと思います。

 

そもそも,気象庁が毎年律儀に梅雨入りを発表する意義があるのかとも思いましたが,大雨による災害に注意を喚起する意味もあるようですので,防災上必要な発表ということで個人的に腑に落ちました。

 

2025年8月の世界平均気温は観測史上3番目の暑さ

今月初旬,「コペルニクス気候変動サービス」から,昨月2025年8月の1ヶ月間の世界平均気温について発表がありました(https://climate.copernicus.eu/surface-air-temperature-august-2025)。

・世界平均気温は16.60°Cで、1991~2020年の8月の平均より0.49°C高かった。

・記録上3番目に暖かい8月となった。2023年と2024年の8月よりも0.22℃低かった。

産業革命以前の1850~1900年の8月の平均気温の推定値より1.29℃高かった。

2023年,2024年に次いで,観測史上3番目に位置する暑い8月となったということです。ここ数年暑い夏が続いていることが分かりますね。

 

下はNASAが発表している,1880年から現在までの気温変化(気温スパイラル)を表現したものですが(NASA SVS | NASA Climate Spiral 1880-Present),1980年頃から急速な気温上昇が認められますね。

このアニメーションを見れば,地球の気温が長期的に上昇していることは明白であり,「地球温暖化は起きていない」という主張はナンセンスです。

 

もっとも,地球温暖化問題についてはいろいろな議論がなされているようですが,そもそもの議論が平行線をたどっているように私には思えます。

地球温暖化自体起こっていないという主張,地球は温暖化傾向にあるが自然による変動の範囲内であるので問題はないという主張,地球温暖化は起こっているものの経済発展を優先すべきという主張,地球温暖化は人為的な二酸化炭素が原因ではないという主張・・などなど,地球温暖化問題の論点が多岐にわたるため,もう少し問題点を細かく分解して議論すべき内容だと感じます。

 

ただ,どのような立場であれ,最悪の事態を想定しつつ,持続可能な地球環境を維持するよう努力していく姿勢は,共通して必要であると言えるでしょう。

 

2025年8月の日本の全国平均気温は観測史上2番目の暑さ

世界の8月の平均気温が観測史上3番目の暑さだった一方,日本の8月の全国平均気温は過去2番目の高さだったようです。

 

今年の8月がとにかく暑かったことは,観測史上最高気温が大きく塗り替えられたことからも容易に想像できます。

8月5日には,群馬県伊勢崎市で歴代最高気温41.8℃,埼玉県鳩山町で歴代2位の41.4℃,群馬県桐生市で歴代3位の41.2℃を記録し,その翌日の8月6日には静岡県静岡市で歴代2位タイの41.4℃を観測したということで,他の年の記録を大きく突き放す記録づくめの8月となりました。

 

このように,世界的な高温傾向は,日本においても顕著に現れているのが分かります。

 

2025年の日本の夏平均気温は観測史上最高を記録

さらに,気象庁からは,2025年の日本の夏(6~8月)の平均気温が観測史上最高を記録したと発表がありました(気象庁 | 日本の季節平均気温)。

下のグラフが1898年の統計開始からの日本の夏の平均気温の推移ですが,今年は突出した気温になっています。

平均気温は平年を2.36℃上回り,かつ3年連続で最も暑い夏を更新し続けたことになり,気温上昇に歯止めがかからない状況が続いていることが見て取れます。

 

この夏の気温が上昇した理由としては,梅雨明けが早かったこと太平洋高気圧とチベット高気圧の2つの高気圧が重なったこと日本近海の海水温が高かったことなどが挙げられていますが,地球温暖化も大きく影響していることは間違いないでしょう。

特に,2025年7月における日本近海の海水温は,統計開始以来最高気温を記録していたようです。

 

なお,今年の沖縄は,一度も猛暑日を記録することなく夏が終わりました。一方で,北海道では複数地点で猛暑日を記録し,暑いはずの南の島で涼しく,涼しいはずの北の大地で暑いというのは,なんとも不思議なことですね。

 

気象庁,最高気温40℃以上の名称検討も視野

日本の夏の気温が記録を更新する中で,気温40℃を超す日も珍しいことではなくなりつつあります。2025年の夏においては,気温40℃以上を記録した地点は30ヶ所以上あったとのことです。

 

気象庁では,1日の最高気温が25℃以上の日を「夏日」,30℃以上の日を「真夏日」,35℃以上の日を「猛暑日」と定めていますが,40℃以上の日についてはこれまで正式な名称がありませんでした。

こうした状況を受け,気象庁長官は9月17日,最高気温が40℃以上の日に新たな名称を付けることも視野に入れていることを明らかにしました。

下が会見のフル動画です(名称についての質疑は46分30秒あたり)。

 

一方,民間の日本気象協会は2022年に「最高気温が40℃以上の日」は「酷暑日*1と呼ぶことを決めています(他に挙がっていた候補としては「炎暑日」,「危暑日(きしょび?)」などがあったようです)。

 

気象庁では今後,適切な言葉遣いであるかどうかを考慮したうえで,新名称を決めていくということです。

 

さいごに

ここ数日,少し気温が下がって,風に秋の気配を感じることが多くなってきましたね。ただ,先日出かけた公園ではセミが鳴いていて,夏もまだ残っているのが感じられました。

 

関西万博にも足を運びましたが,大屋根リングという素晴らしい建築物から眺める青空は輪をかけて美しいものでした。

遠くに積雲・積乱雲が見え,手前には巻雲が見えますね。このように,夏の雲と秋の雲が交じり合った空模様を「行合の空」と言い,俳句の季語にもなっているようです。

 

地平から湧き出す雄大なる積雲。

2025年の夏はまもなく過ぎ去りますが,いろんな意味でアツかったこの夏を,ここに記録しておくことにします。

出典

 

*1:「最低気温が30℃以上の夜」は「超熱帯夜(ちょうねったいや)」が選ばれている

第64回気象予報士試験レビュー~実技2:大気潮汐~

 

先日の記事に続いて,第64回気象予報士試験をレビューしていくことにします。

今回の記事は,実技試験について。実技1は特に何の特徴もない問題で深掘りのしがいはなかったのですが,実技2については見慣れない用語もあって興味を持ちました。

 

この記事では,実技2で出題され,私が初めて耳にした「大気潮汐」というものについて深掘りしていきます。

 

 

潮汐とは

先日,カムチャツカ半島地震に伴う津波が日本に到達した際に,潮の満ち引きについて勉強しました。

上の図のように,地球と月は引力によって引き合っており,月に近い側では月の引力が強く,海水が月に向かって引っ張られる力も強くなります。同時に,月と反対側にある海水も,遠心力の影響で海水が膨らんでいます。

地球は24時間で1回転するため,1日に2回満潮と干潮が繰り返されるのです。

 

このように,月(あるいは太陽による引力。ただし太陽の引力は月の半分以下の影響)によって海面が昇降する現象を「潮汐(=潮の満ち引き)といいます。

 

大気潮汐とは

大気も海面と同様に,太陽や月によって周期的に運動していることが分かっており,1日2回昇圧と降圧を繰り返しています。これを「大気潮汐」と呼びます。

ただし,大気潮汐の主な原因は月の引力ではなく,太陽光の大気の加熱による空気の膨張によって引き起こされます*1。すなわち力学的要因は小さく,熱的要因による影響が大きいということですね。

 

太陽放射からの加熱(熱的要因)によるものとしては,1日2周期の「半日潮汐」,1日1周期の「1日潮汐」があります。半日潮汐は最も顕著な大気潮汐であり,(赤道上で)地上気圧で1.2hPaの振幅があります。また,1日潮汐は 0.6hPa程度の振幅として観察されます。

一方,月の引力(力学的要因)による1日約2周期の「太陰潮汐」もありますが,太陰潮汐による地上気圧変動は0.06hPa程度であり,熱的要因と比較して一桁小さいのです。

 

下の図は,1925年1月にインドネシアジャカルタで行われた地表気圧測定の時系列データです(Atmospheric Tides - an overview | ScienceDirect Topicsより引用)。平均気圧約1011hPaから1~2 hPaの偏差があり,これは12時間間隔で定期的に発生していることが分かります。

この変動こそが,太陽による半日潮汐の証拠を示しているのです。

なお,半日潮汐の地上気圧への変化は,世界中どこでも現地時間の午前と午後にピークがある波として現れるようです。

 

大気潮汐の仕組み

では,熱的要因による大気潮汐がどのように引き起こされるのか,もう少し詳細を追ってみましょう。

 

先述したように,大気潮汐の主な要因は太陽放射の加熱に伴う空気の膨張によるものです。昼間,太陽は赤道付近の上空を強く加熱し,夜になると冷えて収縮します。この「加熱と冷却」が1日周期で起きると,大気に波ができていきます。

しかし,そう考えると,「昼と夜」だから1日周期になりそうですが,実際には半日周期のほうが強く出ます。これは一体どうしてでしょうか。

 

その理由は,オゾン層での加熱と波の伝わり方にあるようです。

オゾン層が紫外線を吸収して周期的に膨張・収縮すると,この振動が上下方向に伝わることで,地上の気圧変化に反映されるのです。地上の空気の膨張ではなく,上空の空気の膨張が重要なのですね。

そして,太陽の加熱は確かに1日周期ではあるのですが,大気の反応は圧力波の振動となって,1日周期のほかに,半日周期,8時間周期,6時間周期などの固有の周期をもった小さな波の振動に分かれるのです。

そして,半日周期の波長は長く(約100 km),オゾン層の厚さを超えて地上まで伝わりやすいという性質があります。その一方,1日周期の振動は波長が短く,オゾン層の厚さに比べて上下に打ち消されやすいのです。

このため,1日周期の振動は地上まで伝わりづらく,半日周期が相対的に強く現れることになるわけですね。

 

大気潮汐の人間への影響

大気潮汐は我々人間にも影響を与えることがあります。

それが「天気痛」です。天気が崩れると,頭痛が起こる症状です。

特に温帯低気圧や台風の接近に伴って発症する方が多いようですが,毎日決まった時間に頭痛が起こる方は,大気潮汐が原因になっている可能性もあるのだとか。

大気潮汐が原因の場合は,たとえ天気が晴れていたとしても,頭痛や関節痛などの天気痛の症状が出ますので,天気が良いからといって安心はできないのです。

 

実技2 問2 大気潮汐を考慮した地上気圧変化

さて,これまでの内容を頭に入れたうえで,ここからは,実技2で出題された問題を見ていきましょう。

ただ,大気潮汐について知らなくとも問題自体は解けるようになっています。

問題

(1) 図1東シナ海の低気圧およびその周辺600海⾥の範囲において、気圧の分布が、過去3時間、東シナ海の低気圧と同じ移動⽅向と速さで移動したものとしたときに想定される、10⽇21時の⿅児島における前3時間の気圧変化量㋐を、0.1hPa 刻みで符号を付して答えよ。ただし、ここでは⼤気潮汐の影響は考慮しない。

 

(2) 表1 で⽰された観測地点の海⾯気圧の変化と⼤気潮汐の影響について述べた次の⽂章の空欄(㋑)、(㋒)に⼊る適切な数値を、符号を付して、四捨五⼊により⼩数第1位まで答えよ。

 図1 によると、⽇本とその周辺の等圧線の間隔は広く、じょう乱の速い移動や急速に発達する低気圧はみられない。また、表1 に⽰した4地点における前12時間の気圧変化の平均は(㋑)hPa であり、変化は⼩さい。⼀⽅、表1 の4地点の前3時間の気圧変化の平均は(㋒)hPa であり、後者が明らかに⼤きい。これは、主として図5 のような気圧変動のパターンが、地球の⾃転に伴い、東から⻄に向かって1⽇で1周する「⼤気潮汐」の半⽇周期成分の影響によるもので、⽇本付近では図4 のように9時頃と21時頃に気圧の極⼤が現れる。

 

(3) (1)(2)に基づき、東シナ海の低気圧の盛衰に関する次の⽂章の空欄(㋓)、(㋔)に⼊る適切な数値を、符号を付して、四捨五⼊により⼩数第1位まで答えよ。

 10⽇21時に⿅児島で観測した前3時間の気圧変化量は(㋓)hPa である。このうち、⼤気潮汐による前3時間の気圧変化量を、図4 に基づき+0.7hPa とすると、低気圧が発達も衰弱もせずに移動すると仮定した場合の、⿅児島の前3時間の気圧変化量の推定値は ㋐ hPaであるので、低気圧の盛衰のみによる、⿅児島の前3時間の気圧変化量は(㋔)hPa と推定される。

【解説】

(1)まずは図1の等圧線が,東シナ海の低気圧と同じ移動⽅向と速さで3時間移動していると考えたときの,鹿児島の前3時間の気圧変化量を計算すれば良いということですね。

 

低気圧は15ktの速度で東北東に進んでいますので,3時間では45海里分だけ気圧配置が平行移動したと考えられます。

緯度10度分(600海里に相当)は定規で測定すると4cmですので,45海里は

    \small{4×\dfrac{45}{600} = 0.3}(cm)

に相当し,地図上で西南西に0.3cm平行移動した線が3時間前の等圧線になります。

鹿児島を通る,東北東方向に沿った1012hPaと1016hPaの等圧線間隔は2.2cmと測定できますので,3時間の気圧変化は単純に0.3cm分を考えて,


   (気圧変化)= \small{(1012-1016)×\dfrac{0.3}{2.2} = -0.545}(hPa)

 

より,四捨五入して -0.6hPa(-0.5hPaも可) が答え。地図が細かいので,読み取りが大変な問題でした。

 

 

(2)これは図1表1を見て答える問題。特に難しくはありません。

まず,㋑ですが,鹿児島と松江,潮岬,輪島の4地点の前12時間の気圧変化の平均を求めればいいだけです。名瀬を含めないことには注意しましょう。表は0.1hPa単位で表した海面気圧の下3桁という注意点を考慮して表1から以下のように計算されます。

 

(前12時間の気圧変化の平均)=

    \small{\dfrac{(13.3-13.4) + (15.1-15.2) + (16.7-16.4) + (16.9-16.4)}{4}=0.15}

 

より,四捨五入して +0.2hPa が答え。

 

次に,㋒ですが,鹿児島と松江,潮岬,輪島の4地点の前3時間の気圧変化量の平均を求めればよいのです。前3時間の気圧変化量は天気図記号から読み取れます。

 

(前3時間の気圧変化量の平均)= \small{\dfrac{(+0.9) + (+0.8) + (+0.6) + (+0.8)}{4}=0.78}

 

より,四捨五入して +0.8hPa が答え。1時間当たりに換算すると,㋑の値は㋒の値に比べて明らかに小さいので,㋑の値は無視して考えても良いということのようです。

 

 

(3)これも(1)と(2)が正解していたら,ただの計算問題です。

鹿児島の天気図の記号から  +0.9hPa が答え。これが鹿児島で実際に観測された気圧変化です。

そして,

(観測された変化㋽)=(等圧線移動による変化㋐)+(大気潮汐による変化 0.7hPa)+(低気圧盛衰による変化㋔)

ということなので,値を代入して,

   0.9 hPa = -0.6 hPa + 0.7 hPa + ㋔

から, +0.8hPa(㋐を-0.6hPaと答えた場合)が答え。㋐を-0.5hPaと答えた場合は, +0.7hPa としても良いです。

 

このことから,低気圧盛衰に伴う気圧は上昇しているため,低気圧は衰弱方向に向かっていることが示唆されます。

問題を振り返ってみると,大気潮汐についての知識はほとんど不要で,天気図の読み取りが主な作業となるので「この問題の意図は何なのか」と疑いたくなりますが,こんなものもあるんだな,くらいに楽しんで解き進めるくらいがちょうど良いのかもしれません。

 

 

ということで,大気潮汐という言葉は目新しく,初見でギョッとしてしまいそうですが,素直に解いていったら答えが出せる問題でした。

これまで目にしたことがない用語でしたが,大気潮汐というものが日々の地上気圧にも少なからず影響を与えているということを知れたので,個人的には収穫のある問題であったように思えます。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

 

 

*1:月の出は1日で50分ほど遅れることが知られているが,大気潮汐による気圧の極大・極小値は毎日ほぼ同じ時刻であることが分かっている。このことからも,月の影響が少ないことが示唆される

第64回気象予報士試験レビュー~専門知識~

 

前回に引き続き,今回は,第64回試験の専門知識について簡単に解説してみます。

1年ぶりくらいに専門知識を解いたわけですが,こちらは問題を解く前から「さすがに細かいところは忘れているだろうなぁ」という気持ちで臨みました。

私の解いてみた結果はこの記事の最後に記載しておきます。

 

なお,試験問題については下記のリンク上で公開されておりますので,そちらをご参考にしてください。

気象予報士試験 (jmbsc.or.jp)

 

 

問1 地上気象観測

(a)気象庁が発表している気象観測統計指針(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/stats/shishin/shishin_all.pdf)には以下のように記載があります。

ある期間に観測された値の最大値(最高値)または最小値(最低値)を「極値」という。 原則として極値の起日(起時)を求める。起日(起時)は、最大または最小の値が発現した日(時刻)とする。

例えば、15時30分の気温が日最高気温になる場合の起時は15時30分、16時30分までの前1時間降水量が日最大1時間降水量になる場合の起時は16時30分、8月15日の日最高気温が年最高気温になる場合の起日は8月15日とする。

なお、同一期間内に極値となる値が2つ以上現れた場合は、起日(起時)の新しい方を極値とする。

よって正しい記述です。

(b)これも気象観測統計指針で以下のように記述されます。

寒候年の統計は、特に断りがない限り*、前年8月から当年7月までの1年間について行う。 これは降雪の深さや積雪の深さなど、主に冬季に観測する要素については年をまたいで統計を行う必要があるためで、例えば2003年8月から2004年7月までの1年間を2004寒候年という。 

よって誤り。

(c)真冬日冬日は以下のように定義づけされます。

  真冬日:日最高気温が0℃未満の日

  冬日:日最低気温が0℃未満の日

問題文では「0℃以下」となっており,正確には「0℃未満」が正解。

「以下」と「未満」の違いを理解するのって,そんなに重要なんでしょうかね。個人的には重箱の隅をつつくような些末な問題のように思えます。

 

以上より⑤が正解です。

(a)は過去問であったように記憶していますが,(b)は知らんよこんなんって感じで解きました。

 

 

問2 気象レーダー

すべて正しい記述です。よって⑤が正解です。

 

二重偏波気象レーダーは,シークラッターなどの背景雑音を「区別」できるのであって,「自動的に除去」できるわけではないようです。

ノイズが除去できる系問題は,気象予報士試験ではだいたいの場合において誤っていることが多いので,私は反射的に(b)を誤りと判断してしまいました。。

 

 

問3 天気図

いかにも専門知識って感じの天気図を読ませる問題。

(a)800hPa付近の逆転層を境に,上層で大きく湿度が下がっていることから,沈降性の逆転層であると考えられます。沈降性逆転層は高気圧圏内に入ったときによく見られます。正しい。

 

(b)気象庁が発表している対流圏界面の定義は以下の通りです。

500hPa面以上の高さで,ある面とそれより上2km以内の面間の平均気温減率がすべて2.0℃/kmを超えない面を「第1圏界面」とする.「第1圏界面」の上のある面とその面より上1km以内の面との間の平均気温減率がすべて3.0℃/kmを超える層がある場合この層またはそれより高い層で「第1圏界面」と同様の基準により求められた面を「第2圏界面」とする.このような面が「第2圏界面」より高いところにいくつかある場合は,高度の低い方から「第3圏界面」,「第4圏界面」,…とする.

気温のグラフを見ると,80hPaより上空では気温上昇が続いていますので,第2圏界面は存在しません。誤り。

 

この時点で③が正解であると分かります。

(c)地上付近の風向を見ると,北東よりの風が吹いていることから,高気圧周辺を回る地上風を考えてC地点であると考えられます。

 

 

問4 パラメタリゼーション

(a)全球モデルはパラメタリゼーションとして積雲や乱流の効果を見積もってはいますが,個々の積雲を予測できるほどの解像度はありません。誤。

(b)正しい記述です。

(c)非静力学モデルにおいても積雲対流パラメタリゼーションが用いられています。誤。

よって④が正解です。

 

 

問5 アンサンブル予報

(a)正しい。

(b)スプレッドは「広がり」という意味です。予測結果の広がりが大きいということは,結果のバラツキが大きいということです。バラツキが大きいということは結果の信頼度が低いということです。誤。

(c)個々の予測は物理法則に基づきますが,平均された結果は物理的な整合性はありません。例えるならば,交差点で「右に曲がる」か「左に曲がるか」の法則に基づく2つの可能性があるときに,その予測を平均すると「まっすぐ進む」となるかもしれません。しかし実際には,まっすぐは存在しない道です。個々の予測に意味があるのに,平均を取ると存在しない状態を表してしまうのです(例え話合ってんのか?)。

(d)正しい。

よって正解は②。

 

 

問6 ガイダンス

(a)季節による予測誤差は系統誤差ですので,軽減することができます。正。

(b)地形による予測誤差は系統誤差ですので,軽減することができます。正。

(c)風は地形の影響を強く受けることや日中と夜間で異なる誤差特性を持つことから,予測式は地点・初期時刻・予報対象時刻および風向で層別化しています。正。

(d)発雷確率ガイダンスは,雷の強さや数の多さを予測するものではなく,雷が起こるかどうかの確率を予測するものです。誤。

よって①が正解。

気象庁から発表されているガイダンスの詳細については以下を参照してください。

https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwpkaisetu/R5/1_8.pdf

 

 

問7 降水短時間予報

(a)正。

(b)降水短時間予報では,1kmメッシュの1時間降水量を予測し,その強弱も考慮されます。誤。

(c)7~15時間先の降水短時間予報では全球モデルは採用していません。誤。ほぼ同じ問題が60回気象予報士試験専門知識の問6で出されています。

 

よって,③が正解。

 

 

問8 水蒸気画像

(a)Bは台風や熱帯低気圧ではなく,寒冷低気圧です。スパイラル状に巻き込んでいる明域と暗域のパターンが特徴です。誤。

(b)正しい記述です。

(c)水蒸気画像は中上層の水蒸気量を観測するので,下層の状態はこの画像からは知り得ません。「上・中層雲のみからなる」という断定はできません。誤。

(d)台風に伴うトランスバースラインです。

 

以上から④を選びます。

(c)は微妙な記述ですね。私は合っていると思って③を選びましたが。

 

 

問9 ジェット気流

一般知識で出されてもおかしくない問題です。すべて正しいので①です。

(b)は覚えてしまいましょう。

 

 

問10 台風

こちらも一般知識で出されてもおかしくない基本的問題。

(a)台風の進行方向右側は危険半円と呼ばれ,左側と比較して風速が大きくなりやすい。正。

(b)台風周辺の風の接線速度は大気境界層の上の約2kmあたりで最大となります。誤。下の図は台風の接線速度で色が濃いほど風が強いことを示しています。

(c)正しい。

(d)北半球において,コリオリ力は北に行くほど強く働き,台風は北上する性質があります。誤。下のように台風の北縁でコリオリ力は南縁よりも大きくなり,結果的に北に引っ張られます。

よって②を選びます。

 

 

問11 積乱雲

これも一般知識で出されてもおかしくない問題です。専門知識感はありません。

(a)凝結に伴う潜熱の放出により雲内部は周囲の気温より高くなります。正。

(b)日本で降る雨の多くは「冷たい雨」です。日本でも夏期には暖かい雨がみられることもありますが,積乱雲のような雲頂高度の高い雲は氷晶を含む「冷たい雨」になります。日本でも夏期において雲頂高度が2km程度までなら暖かい雨になることもあるのだとか。よって誤り。

(c)(d)正しい。一般知識範囲です。

よって②ですね。

 

 

問12 予報精度

文章が長くてその情報に混乱してしまいそうですが,下のようにまとめられます。

(a)基準が50のときと40のときのスレットスコアを比較します。

   基準50:  \dfrac{3}{3+2+1} = 0.5

   基準40:  \dfrac{5}{5+0+3} = 0.625

よって,基準を40に下げた場合は0.125高くなります。

(b)空振り率は以下のように計算できます。空振り率が全予報数に対する割合であるという注意書きに気を付けましょう。

   基準50:  \dfrac{1}{10} = 0.1

   基準40:  \dfrac{3}{10} = 0.3

よって,基準を40に下げた場合は0.2高くなります。

(c)これも見逃し率が全予報数に対する割合であるという注意書きを見逃さないようにしましょう。

   基準50:  \dfrac{2}{10} = 0.2

   基準40:  \dfrac{0}{10} = 0

なので,基準を下げれば見逃し率が小さくなることが分かります。

このことから,⑤が正解。

 

 

問13 気象情報

(a)2週間気温予報では,8日先から12日先までの5日間平均した日平均気温を表示しています。誤。

(b)その時期としては10年に1度程度しか起きないような著しい高温や低温,降雪量(冬季の日本海側)となる可能性が,いつもより高まっているときに,6日前までに注意を呼びかける情報が早期天候情報です。正。

(c)正。

(d)タイムリーな問題ですね。熱中症警戒アラートは,熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境が予測される場合に,発表対象地域内の暑さ指数(WBGT)が基準値を超えた場合に,気象庁環境省が共同でその地域に発表します。誤。

よって④ですね。

気象情報についてはいろいろありすぎて覚えられないので,個人的には苦手な問題です。この問題もなんとなくで解きました。この問題も細かいですね。

 

 

問14 台風災害

(a)降水量が多いと,雨に塩が溶けて土から流れ出ますので塩害被害は小さくなります。誤。

(b)天文潮位からの偏差だと,満潮の時に影響が小さく見積もられてしまう危険があります。常識的に考えると誤。

(c)正しい。

よって⑤が正解です。

 

 

問15 エルニーニョラニーニャ現象

(a)と(c)は図を見て一目瞭然です。

(b)図Bは東風が弱くなっており,エルニーニョの特徴です。

(c)インド洋の海面水温とエルニーニョ現象のどちらが速く起こるかということですが,問題文からエルニーニョの方が先に起こることが示唆されるので,インド洋の水温変化は遅れて変化すると考えられます。

私は(c)はよく分からなかったので⑤にしてしまいましたが,正解は③です。

 

なお,この問題については以下のリンクに詳細が説明されいますのでご参考にしてください。

 

 

以上で終了。

あくまで私はこういう風に考えたのであって,誤っている箇所もあるかもしれませんので,間違いを見つけた場合はご指摘いただけましたら幸いです。

 

 

採点結果

さて今回,私が問題を解いた結果ですが,以下の通りでした。

✕✕〇〇〇〇✕✕〇〇〇〇〇〇✕

 

ということで私の結果は10点ですね。解く前は7~8点くらい取れればいいかなと思っていましたが,思っていた以上の結果で満足しています(オイオイ)。

結局,気象予報士資格を取ったとしても,日々勉強していなければ当然忘れてしまうということです。特に専門知識の内容は定期的に変更されるため,ちゃんとフォローしていく必要もあると感じました。

 

今回解いてみた感想としては,知識問題が多めで,内容も細かいポイントを聞いてくるなぁという感じです。数値予報モデルとかガイダンスとかは覚えていないとどうしようもない問題ですので,じっくりと過去問などを中心に理解する必要があると思います。個人的には,天気図読み取りや気象レーダー・ウィンドプロファイラ解析などの問題がもう少し多かったら,解いていて楽しいだろうなと感じました。問9~問11はただの一般知識の試験でした。

 

今回はここまで。

さて,実技試験についてはまだ解いていないのですが,時間があったら解いてみようと思います。

そして,実技試験の中で個人的に勉強しがいがありそうと思った点や,興味があった点についてはまた記事として深掘りしていこうと考えています。

 

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

 

 

第64回気象予報士試験レビュー~一般知識~

 

2025年8月24日,第64回気象予報士試験が実施されたようです。

そして先日,気象業務支援センターのホームページから試験問題が公開されました。

 

ということで,半年ぶりに気象予報士試験問題を解いてみることにしました。試験に合格してからは試験対策の勉強を全くしていなかったので少し不安もありましたが,意外と覚えているものですね。採点の結果はこの記事の最後に記しておきます。

 

今回は,第64回試験の一般知識について簡単に解説してみます。

なお,試験問題については下記のリンク上で公開されておりますので,そちらをご参考にしてください。

気象予報士試験 (jmbsc.or.jp)

 

 

問1 地球大気の鉛直構造

(a)気温減率には,平均気温減率乾燥断熱減率湿潤断熱減率があります。

平均気温減率は,観測に基づいた大気の気温プロファイルの統計平均値であり,「空気塊が上昇したときどうなるか」ではなく,「その場で大気がどういう状態にあるか」を表すものです(たとえば国際標準大気での6.5℃/kmの気温減率)。

一方で,乾燥断熱減率と湿潤断熱減率は,空気塊の断熱上昇・下降を考えるときに用いられるものであり,未飽和であれば乾燥断熱減率,飽和していたら湿潤断熱減率を考える必要があります(乾燥断熱減率は10℃/km,湿潤断熱減率は5℃/km)。

 

特に,乾燥断熱変化をしている空気塊は温位が保存されます。国際標準大気の気温減率は乾燥断熱減率ではないので,温位は保存されません。

 

(b)正しい記述です。

(c)「オゾンの数密度は成層圏界面付近で最大」であるという点が間違いで,「オゾンの数密度は高度25km付近で最大」とするのが正しい。よって誤り。

(d)熱圏の話をしているので「中間圏」というのが誤りです。

以上から,④が正解です。

 

 

問2 空気塊の相対湿度計算

着目するのは,「空気塊は水滴を含んでおらず」という一文です。凝結を伴っていないということは,混合比は保存されるということです。

高度1000mで温度18℃の飽和した空気塊の混合比  q_{1}

     q_{1}=0.622×\dfrac{21}{900} 

 

高度0mに断熱的に下降させたときの空気塊の混合比は保存されるので,高度0mの混合比  q_{2}  =q_{1} が成り立ちます。また,  q_{2} は以下の式でも記述できます。

     q_{2}=0.622× \dfrac{e}{1013} e は高度0mの空気塊の水蒸気圧)

 

高度1000mで温度18℃の空気塊は乾燥断熱減率で変化しますので,高度0mでは気温は28℃になります。28℃の飽和水蒸気圧は表から38hPaなので,

 

  相対湿度(%) = 100× \dfrac{e}{38} = 100×\dfrac{21 \cdot 1013}{900 \cdot 38} = 62.2

 

よって②が正解です。

乾燥断熱減率・湿潤断熱減率の値がきちんと示されているのも好感が持てますし,混合比・相対湿度・気温減率などを絡めて,それらをきちんと理解できていないと解けない問題となっており,良問と思います。

 

 

問3 混合比計算

これはすみません,(b)がよく分かりませんでした(;^_^A

潜熱と定圧比熱の関係式って気象予報士試験勉強していて学んだっけ?と思って教科書を見直ししていたら,『一般気象学』のp62-63にちゃんと記載されていました。


(a)は,エマグラムを用いて考えると分かりやすいと思います。

湿球温度は,エマグラムにおいて持ち上げ凝結高度から湿潤断熱線に沿って高度を下げたときの,元の気圧との交点となります。

下の図から, w = w_2 < w_1 となります。これで,③か④の二択に絞られます。


(b)この問題は下のように考えるようです。

湿球温度計の図に変えて説明すると,湿球温度計に吹いてくる温度  T,混合比  w の空気塊が,蒸発熱を奪われた後に温度  T_1,混合比  w_1 になることを意味します。よって, w_1 - w だけの蒸発によって,温度が  T から  T_1 に下がるため,蒸発の潜熱を  L として

   L(w_1 - w) = C_p(T-T_1)

が成り立ります(一般気象学より)。よって③が正解。

 

教科書にも詳細なことが記述していないので,気象予報士試験合格という目先の目的を考えるならば,そのまま記憶してしまうのもアリかもしれません。

yahoo知恵袋に同じ内容の質問があったのでご参考にしてください。

 

面白い問題ではありますが,如何せん問題が難しすぎます。

 

 

問4 氷粒子・雪片

(a)気温が高いと結晶の一部が溶けて,雪の結晶が付着しやすくなります。誤り。

(b)正しい記述です。

(c)湿度が低いほど,雪片の表面で昇華が起きやすく,昇華する際に(水蒸気が)雪片表面から潜熱を吸収し(雪片表面を)冷却することで,融解しにくくなります。実技試験でも何度も出題されている問題ですので,きちんと記述できるようにしておきましょう。

よって④が正解です。

 

 

問5 太陽放射

(a)太陽放射エネルギーのうち,可視光域が占める割合は約47%とされており,赤外線域が約46%,紫外線は約7%程度とされています。

可視光域のエネルギーが思っていた以上に多いことに,気象予報士試験の勉強していた当時の私は驚いたことを覚えています。

(b)夏の北極点は1日中太陽が昇る白夜となり,合計としては赤道地点で入射する太陽放射エネルギーよりも多くなります。誤り。

(c)2025年現在,地球と太陽の距離は1月頃にもっとも近づき,7月頃に最も遠くなります。これは下図(暦Wiki/惑星/近日点通過 - 国立天文台暦計算室より)のように,地球の軌道が楕円であり,太陽は中心とは少しズレた位置にあるためです。よって1日の太陽放射エネルギーは1月の方が多くなります。誤り。

(d)数式から考えて,1.7倍と計算できます。誤り。

③を選びます。

 

 

問6 温度移流・温度風

問題を解いていて,とにかく問題文が分かりづらいと感じました。

「北半球」「地衡風」「異なる高度の風速」というキーワードから温度風を用いて考えるのだろうと見当がつきます。

 

まずは図を描きます。

温度風は,2つの等圧面間の平均気温の等温線と平行に吹きます

この問題では,2つの層間の平均温度は東西方向に一様で南から北に向かって低くなっていると記載されているので,温度風は下のように西から東に向かって吹きます(北半球なので右手側に高温域になるように吹きます)。

これは地点Aでも地点Bでも同じ向きになります。

ここで下層(1000hPa)では地点AもBも5m/sの南風が吹いているので,それぞれの地点の上層700hPaでは,温度風を考慮して,南西よりの地衡風が吹くことになります。下の図のように,(例えば地点Aでは)赤色矢印のような向きに地衡風が吹くのです。これは地点Bでも同様です。

まず手を付けやすい(b)ですが,地点A・地点Bともに上のような図が描け,下層から上層に向かって風向が時計回りになっていますので,どちらの地点も暖気移流であることが分かります。

 

次に(c)ですが,「その大きさ」の「その」というのは(b)で答えた温度移流のことを指します。

 

温度移流は以下の式で表現できることは以前勉強しています。

  移流による気温時間変化率(温度移流)

    (温度移流) = ー(風向に沿った温度傾度)×(風速)

 

そう考えると,どれだけ上空700hPaの地衡風が大きくなろうとも,気層の平均風の風速と,平均風に沿った温度傾度の積(内積)は一定になります。700hPaの地衡風の風速が大きくなればなるほど,温度勾配と平均風のなす角度が小さくなって,平均風に沿った温度傾度は小さくなるためです(下図)。

よって,地点Aと地点Bの上空700hPaの地衡風の風速にどれほど違いがあったとしても,温度移流の大きさはどちらも同じで,変わらないと考えられます。

よって,「地点Aと地点Bで同じである」を選択。

 

最後は(a)。

イメージとしては下のような図で解こうと思ったのですが,果たして地点Aと地点Bで気圧傾度力が同じかどうかが分からずに,とりあえず同じだと仮定した場合には地点Aの方が地衡風の風速が大きくなるので,「地点Aの方が大きい」が正解かなと考えました。

結局,①を選びましたが,全体的に解き方が正しいのか自信はありません。

捨て問と諦めて,他の問題に時間をかけた方が賢いかもしれません。

 

 

問7 地上風の力の釣り合い

力の釣り合いを理解できていれば難なく解けますが,その物理的な理解を疎かにしていると難しい問題にもなり得ます。

 

地表面付近の空気塊に働く力を考えると下のようになります。地上付近の風には,気圧傾度力コリオリ力,摩擦力の3つの力が働きます(風の矢印は力ではありません)。

これらの3つの力は釣り合っていますので,気圧傾度力を点線矢印に分解して,

   (気圧傾度力)× cos α =(コリオリ力

   (気圧傾度力)× sin α =(摩擦力)

が成り立ちます。

ここから,

   (摩擦力)=(コリオリ力)× tan α

という式も導出できます。

よって②が正解。地上風についての理解と力の釣り合い式の理解が求められる,個人的には好きな問題で良問と思います。

 

 

問8 熱輸送

まずは赤道の位置がどこにあるかを探しましょう。

赤道がシンガポールエクアドルスペイン語で「赤道」),インド洋上を通ることなどを知っておけば,領域Aの内側に赤道が引かれることが分かります。一見すると領域Bが図の真ん中付近にあるので,ここに赤道があると勘違いしてしまいそうですが,間違えないようにしましょう。

領域Aは赤道付近の熱帯域,領域Bは緯度20~30度あたりの亜熱帯域,領域Cは日本の本州が含まれる温帯域と区別できるでしょうか。また,領域Dはアジアモンスーンの吹く地域ですね。

(a)熱帯域では熱帯収束帯の形成により降水量が非常に多い地域です。年平均降水量は蒸発量を上回ります。誤り。

(b)亜熱帯域では,ハドレー循環による亜熱帯高圧帯が発達します。高気圧下で雲ができづらいので潜熱輸送は小さくなります。一方,温帯域は温帯低気圧による風による顕熱輸送・水蒸気による顕熱輸送が活発に起こっており,北向きに熱を運んでいます。誤り。

(c)東南アジアに吹く季節風(アジアモンスーン)は大陸と海洋の熱的性質の違いが大きな要因です。すなわち,暖まりやすい大陸と,暖まりにくい海洋の温度差によって引き起こされます。正しい。

以上から,⑤が正解です。

 

 

問9 ガストフロント

(a)ガストフロントは積乱雲の下降流によって生じるので,雲の内部で下降気流が発生する「成熟期」以降の現象です。問題文では「成長期」となっているので誤り。

(b)ガストフロントは単一の積乱雲で5~10km,マルチセルの場合は数十kmにも及びます。誤り。

(c)ガストフロントが通過する際には,積乱雲から流れ出た冷たい空気(冷気外出流)の影響で地上気温は下がります。また,冷たい空気は密度が大きく重たいので気圧は上昇します。冷たい空気によって飽和水蒸気量は下がり,相対湿度は上昇します。よって,気圧が下降するという記述は誤り。

⑤が正解。

 

 

問10 成層圏突然昇温

成層圏突然昇温とは,対流圏から成層圏へ伝播したプラネタリー波が,冬極の成層圏に吹く西風を弱めることによって,成層圏上部から始まる気温の上昇のことです。多くはプラネタリー波の蛇行の大きい北半球で起こり,南半球ではあまり起こりません(2019年,2024年は南半球でも起こっているようで,珍しいながらも起こらないというわけではない)。

上記のように知識として覚えてしまっても良い問題です。正解は①。

 

 

問11 気候変動

細かい数値の知識が問われました。

(a)二酸化炭素の全大気平均濃度は,2024年現在0.042%(420ppm)となっています。500ppmは超えていないので誤りです。

(b)気象庁の観測データによると,全国の日降水量100mm以上の年間日数は増加傾向にあり,これは統計的にも有意であるようです。同様に,日降水量1mm未満の降水がほとんど降らない日も増加していて,降水の極端化が鮮明になっているとのこと。正。

(c)過去100年間で全球平均の年平均海面水温は100年あたり約0.6~0.65℃上昇しているようです(日本近海の年平均海面水温では,過去100年間で約1.3~1.4℃上昇しているようです)。2℃以上というのは誤り。

④を選びます。

 

感想としては,(a)500ppmという絶妙な数字を出してきたなという印象で,こんなセコイ数字を出さずに,「ppm」という単位を理解していたら明らかに間違いだと分かる「800ppm」とか「1200ppm」くらいの数字にしてほしいと感じました。

(b)これは知らん。統計的有意かどうかまでは把握しとらんて。

 

 

問12 予報業務の許可

気象予報業務を行おうとするものが,気象庁長官の許可を受ける際の必要な要件は以下の通りです。

 ・収集しようとする資料の内容とその収集方法

 ・予報資料の収集・解析の施設およびその要員

 ・予想事項の発表時刻

 ・現象の予想の方法

 ・気象庁の警報事項を受けることができる施設および要員

 ・気象予報士の氏名と登録番号

 

(a)と(b)については要件として必要になります。

(c)の「解説するための施設」,(d)の「利用者に伝達できる施設」については要件には入っていません。

よって②が正解。

 

 

問13 気象予報士

(a)正しい。

(b)気象予報士登録は,試験に合格しさえすればいつでも申請できます。登録するまでの期限はありません。誤り。

(c)気象予報士に登録しさえすれば,(抹消されない限り)生涯にわたって有効です。登録更新はありません。誤り。

(d)正しい。

よって③ですね。

 

問14 気象測器の検定

(a)政府機関や地方公共団体が気象を観測する際には,国土交通省令で定める技術上の基準に従う必要があります。ただし,研究や教育を目的とする場合には技術上の基準を必ずしも満たす必要はありません

(b)気象測器の有効期限は測器の種類によって異なります。多くは原則5年ですが,ラジオゾンデなどは1年,電気式気圧計や電気式温度計などは有効期限が定められていないようです。測器によっては摩耗のスピードも異なるでしょうから,間違いではないかと類推できます。

(c)製造者以外でも申請することは可能です。誤り。

全部間違いで,⑤ですね。

 

 

問15 災害対策基本法

災害が発生したときには,市町村長が,避難のための立退きを指示することができます(避難指示)。また,避難によってかえって生命に危険が及ぶ場合には,緊急安全確保を指示することができます。

よって③が正解。

 

 

以上で簡単な一般知識のレビューを終わります。

私はこう考えたのであって,もしかしたら誤っている箇所もあるかもしれませんので,間違った認識があったらご指摘いただけましたら幸いです。

 

 

採点結果

さて今回,私が問題を解いてみた結果ですが,以下の通りでした。

〇〇✕〇〇〇〇〇〇〇✕〇〇〇〇

 

ということで私の結果は13点ですね。意外と覚えていたので少しばかりホッとしたのでした。おそらく合格基準は11点あたりでしょうから,とりあえず及第点というところでしょうか。ただ,実際に試験本番を受験する身であったら,逆に選択肢を疑いすぎたり,緊張でテンパったりもして点数をもっと落としていたかもしれません。何の気負いもなく問題を解ける,今だからこその点数です。

 

個人的感触としては,問3と問6の問題を除くと点を取りやすい問題が多かったと思います。特に気象法規は基本的な問題が多い印象でした。

 

ということで一般知識のレビューはここまで。

次回は専門知識について簡単にレビューと,私が解いてみた結果について書いていこうかと思います。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

 

 

2025年8月の気象関連ニュース

 

今月の個人的に気になった気象関連ニュースをメモしておきます。

なお,本日8月28日は,第1回気象予報士試験(1994年)が実施されたことから,「気象予報士の日」に制定されているそうです。

 

 

2025年7月の世界平均気温は観測史上3番目の暑さ

まずは地球温暖化に関連するニュースから紹介します。

今月初旬,「コペルニクス気候変動サービス」から,昨月2025年7月の1ヶ月間の世界平均気温について発表がありました。その内容は以下の通りです(Surface air temperature for July 2025 | Copernicus)。

  • 世界平均気温は16.68°Cで、1991~2020年の7月の平均より0.45°C高くなった。
  • 記録上3番目に暖かい7月で、2023年の最も暖かい7月より0.27℃低く、2番目に暖かい7月だった2024年より0.23℃低い。
  • 産業革命以前の1850~1900年の7月の平均気温の推定値より1.25℃高い。

2023年,2024年に次いで,観測史上3番目に位置する暑い7月となったということです。

パリ協定では,産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を「1.5℃まで」に抑えるという目標が盛り込まれていますが,1.5℃以内に抑えるという目標値を下回ってはいるものの,依然として高い水準が続いていることがわかります。

 

一部には,地球温暖化は危険ではないと主張している研究者もいらっしゃるようですが,いつまでも現実に目を逸らし続けていると,もしも将来本当に危険であることが明らかになった場合には取り返しのつかない状況になりかねないので,やはり危機感をもって温暖化対策を行っていく姿勢は重要ですね。

今の我々のため,という短期的な視点ではなく,私たちの子ども,孫の世代に住みやすい地球環境をつなぐという長期的な視点に立って考えることが何より大切だと思います。

 

7月の全国平均気温は3年連続で観測史上最高を記録

こうした世界的な高温傾向は,日本においても顕著に現れています。

2025年7月の全国平均気温は,観測史上最高を記録しました。しかも,これは3年連続となります。

 

下のグラフは,気象庁が発表した過去の日本の7月の平均気温の平年偏差の長期変化です。

この3年間,明らかに高い方へと伸びていますね。

また,6~8月の夏の平均気温も2025年は観測史上最高になることが確実視されているようで,今夏も記録的な暑さだったということです。今年は西日本では異例の梅雨明けの早さもあり,そこに晴れた日が続いたことで暑さに拍車がかかったと考えられます。

 

群馬県伊勢崎市で観測史上最高気温41.8度を記録

8月になると観測史上最高気温も大幅に更新されました。

下の表は,気象庁から発表されている歴代全国最高気温ランキングです(気象庁|歴代全国ランキングより)。上位5つはすべて2025年のものに書き変わりました。

2013年に当時歴代最高気温41.0度を出した高知県四万十市,2018年には埼玉県熊谷市41.1度が記録を塗り替え,2020年静岡県浜松で同じく41.1度を記録して日本最高記録タイとなりました。

しかし今年は,兵庫県丹波市41.2度を記録を更新したのも束の間,群馬県伊勢崎市で歴代最高気温41.8度を観測したことで,他の記録を大きく突き放す結果となりました。

「日本一」という称号はだいたいにおいて喜ばしいものではありますが,果たしてこの記録は喜んでいいものなのかは疑問になりつつありますね。高温は命に関わるものでもありますし,ハイペースに記録が更新されることに少しばかり危機感も覚えるのです。

 

今回の記録的高温の背景には,地球温暖化による長期的な気候変動の影響があることは間違いないでしょうが,それ以外にも,上空の太平洋高気圧やチベット高気圧の影響,フェーン現象,都市化などの複数の要因が重なった結果であると考えられています。こうした事実は,気象現象を単純に温暖化などと結び付けて説明するのではなく,多角的な視点で理解することの重要性を示しています。


全国各地で気象災害が頻発

8月になると各地で豪雨災害が多発しました。その一方で,日照時間は少なくなって,暑さは少しだけ抑制されたようです(それでもこの8月は観測史上でも指折りの暑さになる予想になっていますが)。

 

8月6日~11日にかけては,九州や北陸を中心に線状降水帯の発生に伴って記録的な豪雨となりました。各地で浸水や土砂災害,河川の氾濫などの気象災害が起こりました。

 

8月21日には鹿児島に台風12号が上陸し,100戸を超える住宅の浸水被害が確認されるなど大きな被害となりました。

いずれの地域も,復旧には長期間を要する見込みです。

 

さいごに

ここ数年,「過去に例のない」「記録的な」という表現をニュースで頻繁に耳にするようになりました。温暖化の影響で,こうした極端な気象現象が当たり前になりつつあるのかもしれません。

そして,私たち自身の生活を守るためにも,一人ひとりが防災意識を高めて行動に移す「気象リテラシー」が問われる時代にもなりつつあります。

ハザードマップの確認,防災グッズの備蓄,そしてエネルギーの使い方の見直しなど,小さな積み重ねが,将来の災害リスクを減らす大きな力となるはずです。

 

出典

 

【天気図】 2025年8月の九州北部豪雨と線状降水帯

 

2025年8月10日から11日にかけて,福岡県や熊本県などの九州北部地方で線状降水帯が連続して発生し,大雨による被害が広がりました。

今回は,線状降水帯がどのような現象なのかを振り返るとともに,今回発生した九州の大雨について天気図から考察してみたいと思います。

少し長くなりますが,ご興味あればお付き合いください。

 

 

線状降水帯と集中豪雨

まず,線状降水帯は気象庁HPで以下のように説明されます。

次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、長さ50~300km程度、幅20~50km程度の線状に伸びる強い降水域を線状降水帯といいます。

気象庁HPより)

「数時間」「ほぼ同じ場所」「強い降水域」といった,やや曖昧な表現が使われています。事実,線状降水帯という言葉は,専門家の間でも厳密な定義が存在していないというのが現状のようです。

とりあえずは,「長時間にわたって同じ場所に降水をもたらす,細長く伸びる降水域」という理解で差し支えなさそうです。

 

また,近年メディアで頻繁に耳にする「集中豪雨」という言葉も,定義が曖昧です。集中豪雨とは「局地的で短時間の強い雨」だとされますが,どれほどの雨量がどのくらいの狭い面積に降ったかという定量的な定義はありません。

そして,線状降水帯は集中豪雨を引き起こす要因の一つとされており,関係性としては「集中豪雨」という広い概念の中に,「線状降水帯」という現象が含まれる形として整理することができます。

 

線状降水帯の発生メカニズム

線状降水帯には,スコールライン型*1バックアンドサイドビルディング型*2バックビルディング型などがあります。

そして特に,ここ最近日本で大きな豪雨災害をもたらしている線状降水帯の多くは,「バックビルディング型」であると報告されています。

 

そのメカニズムは以下の通り(線状降水帯とは? メカニズムと危険性についても解説(季節・暮らしの話題 2023年10月25日) - 日本気象協会 tenki.jpより引用)。

上図の左側(線状降水帯の背面)で発生した積乱雲が,上空の風の影響を受けて右側へ移動し,そこで発達した積乱雲から下降気流が吹き出して,海側からやってくる下層の暖かい大気と衝突。すると地上で空気は収束して上昇気流が発生し,左側に新たな積乱雲が生じるというサイクルが繰り返されることで形成されます。

 

このように,バックビルディング型の発生メカニズムの概要はある程度は理解されているようですが,その形成には複数の要因が複雑に絡み合っているため,線状降水帯の全容はまだ未解明な部分も多いといいます。

海上からの水蒸気が大きく関係することが分かっていますが,海上は陸上に比べて観測密度が粗いため,その全容解明がより難しくなっているのだとか。

 

そのため,気象庁は,東シナ海や太平洋に観測船を派遣し水蒸気量の観測などを行ったり,「ドロップゾンデ」などの観測機器を航空機から落としたりするなど,線状降水帯の理解のために試行錯誤をしているそうです。

 

線状降水帯の発生場所・発生時期

線状降水帯は,海洋上を吹走してきた暖湿気が流入しやすい西日本の海に面した都道府県で発生が多いことがわかっています。

 

下の図(https://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2017/pdf/530.pdfより引用)は過去の線状降水帯の発生場所を赤丸で表したものですが,特に九州や四国で発生が多いことが読み取れます。

また,発生が多い時期としては,東日本では台風の多い9月,西日本では梅雨前線が停滞する梅雨末期の6月~7月ということです。

 

さらに,線状降水帯は深夜から朝に多いことが統計的に明らかになっています。なぜ夜間に発生しやすいかという点については,こちらもいまひとつよく分かっていないのが実情のようです。とにかく,周囲が暗く状況把握が遅れやすい時間に発生することから,より一層注意が必要な気象現象であるのです。

 

顕著な大雨に関する気象情報

さて近年,毎年のように線状降水帯による大雨で甚大な災害が発生していることから,気象庁ではその危機感を高めるために「顕著な大雨に関する気象情報」という防災気象情報の運用を2021年6月から開始しました。

 

顕著な大雨に関する気象情報が発表されるのは以下の基準を満たした場合です。

現在、10分先、20分先、30分先のいずれかにおいて、以下の基準をすべて満たす場合に発表。

  1.  前3時間積算降水量(5kmメッシュ)が100mm以上の分布域の面積が500km ^2以上
  2.   1.の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)
  3.   1.の領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上
  4.   1.の領域内の土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)において土砂災害警戒情報の基準を超過(かつ大雨特別警報の土壌雨量指数基準値への到達割合8割以上)又は洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)において警報基準を大きく超過した基準を超過

発表基準には,定量的な値が設けられていることが見て取れますね。

今回の集中豪雨でもメディアで広く使われ,徐々に存在が知られつつあります。

 

ただ,個人的には,線状降水帯であろうとそれ以外であろうと,大雨が長時間続くこと自体が危険である点は変わらないので,わざわざ「線状降水帯」というキーワードで新たな防災情報を作る意義については疑問が残るところです*3

また,「記録的短時間大雨情報」など既存の防災気象情報との違いが分かりにくくなった点も課題だと思います。この点についてはSNS上でもその違いのややこしさが指摘されており,気象庁やメディアが丁寧に説明する責任があるとも感じます。

 

線状降水帯予測の難しさ

「顕著な大雨に関する気象情報」の他にも,気象庁では,線状降水帯による大雨の可能性が高いと判断された場合に,半日前から呼びかけをする「半日前予測」を2022年から地方単位で開始し,2024年には府県単位にまで細分化して発表しています。

 

しかしながら,2024年における半日前予測の的中率は1割程度*4と,10回に1回の確率でしか当てられなかったとのことです。さらに,予測を出せずに発生した「見逃し」は6割程度にのぼり*5,現状の予測精度は低いと言わざるを得ません。

いかに線状降水帯を予測するのが難しいかが分かりますね。

 

これほどまでに予測精度が低い理由には,線状降水帯のメカニズムの解明があまり進んでいないという本質的な課題があり,線状の降水帯として現れるという「見た目の分かりやすさ」とは裏腹に,そのメカニズムや予測という点ではまだまだ人間の科学が追いついていないというのが実情です。

 

2025年8月の九州地方の集中豪雨

ここからは今回の集中豪雨がどのような気象条件で発生したのか,天気図を追いながら振り返ってみます。

 

まず,下は2025年8月10日午前8時から翌日11日午前9時までの気象衛星ひまわりの雲頂強調画像を,アニメーションとして追ったものです。

赤い領域は雲頂高度の高い雲を示します。九州地方では,この真っ赤に表示された背の高い積乱雲が長時間停滞していました。このとき,福岡県や熊本県などで線状降水帯が発生しています。

 

では,なぜ積乱雲が九州付近にとどまったのでしょうか。

10日18時の地上天気図を見てみましょう。

上の図において,黄海付近にある高気圧に着目すると「ゆっくり」と東に進んでいることが分かりますね。

また,日本の東には太平洋高気圧があり,日本列島の南に張り出している様子も確認できます。

そして,2つの高気圧に挟まれた鞍部には,東西に延びる長い前線(赤線)が描かれており,前線を挟む2つの高気圧の位置関係が大きく変化しなかったため,前線が停滞して持続的な集中豪雨をもたらしたことが一つの要因として考えられます*6

 

ただ,今回のような大雨が降るためには,停滞前線の存在だけでは不十分で,大量の水蒸気を含んだ暖かく湿った空気が下層に流入し,その空気が上昇して凝結する必要があるはずです。

そこで,850hPa相当温位・風予想図を確認して,暖かく湿った空気の指標である相当温位の値を見てみることにしました。下図は10日21時の850hPa相当温位の予想図。

すると,図で赤く塗ったように,相当温位354K以上(過去の大雨災害時と同等の値)の非常に暖湿な空気が西側から30ノット程度で九州北部・中国地方に細長い帯状の形で流入することが予想されていました。特に高相当温位の空気が中国大陸に広く分布しており,太平洋高気圧の縁辺を回る空気だけでなく,この中国大陸からの暖かく湿った空気が合流して,強い風に乗って九州地方に供給されたことで,今回大雨が降ったと考えられます。

 

また,10日21時の700hPa鉛直P速度と地上天気図を重ね合わせてみると,停滞前線の南側で上昇流域(赤色網掛け部分)が広がっていました。梅雨末期の天気図を彷彿とさせます。

九州北部では-63hPa/hという上昇流が確認できます。下層の空気がきちんと持ち上がる環境が整った状況だったというわけです。

以上の解析データを総合すると,今回の集中豪雨では,高気圧に挟まれて停滞した前線に向かって,大量の水蒸気を含んだ空気が九州地方に持続的に流れ込んだことで,上昇流で持ち上がって大雨となって降り注いだと考えられました。

 

 

では,今回の豪雨で,実際にはどのくらいの雨が降ったのでしょうか。

例えば,下の棒グラフは熊本県上天草市松島の降水量を表したものです。

8/11の午前8時までは1時間降水量50mm程度の非常に激しい雨が数時間降り続き,8時には1時間降水量114mmという猛烈な雨を観測しています。その後は,雨量計が壊れたのか,欠測になっていました。

 

土砂キキクルを確認すると,上天草市では警戒レベル5相当の黒い色が広がっていました。

地中から水分が流出するのには時間がかかるため,雨が降り止んだ後でも土砂災害(がけ崩れ、土石流、地すべり)が発生する危険性があり,しばらくは注意が必要です。

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

今回は線状降水帯および九州北部地方に大雨をもたらした要因について振り返ってみました。意外にも,線状降水帯の発生メカニズムは不明なことも多く,予測精度が追いついていないという現状を知ることができ,気象予報の難しさを改めて知ることができました。

この夏は晴れた日が続き,九州などでも水不足が懸念されていましたが,久しぶりの恵みの雨かと思いきや,今度は集中豪雨ということで,その極端な天気の振れ幅には困惑させられますね。

 

 

【まとめ】学習の要点

天気図理解のメモ
  • 線状降水帯とは,次々と発生する発達した積乱雲が列をなし,数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される,長さ50~300km程度・幅20~50km程度の線状に伸びる強い降水域のことを指す。
  • 線状降水帯という言葉は,専門家の間でも厳密な定義が存在していない。
  • 線状降水帯は集中豪雨を引き起こす要因の一つで,「集中豪雨」という広い概念の中に,「線状降水帯」という現象が含まれる。
  • 線状降水帯には,「スコールライン型」,「バックアンドサイドビルディング型」,「バックビルディング型」などがある。
  • 近年日本で大きな豪雨災害をもたらしている線状降水帯の多くは「バックビルディング型」とされる。
  • 線状降水帯の形成には複数の要因が複雑に絡み合っているため,その全容はまだ未解明なことも多い。
  • 線状降水帯の発生場所は,特に九州や四国で多い。
  • 線状降水帯の発生時期は,東日本では台風の多い9月,西日本では梅雨末期の6月~7月に多い。
  • 線状降水帯の発生時刻は,深夜から朝に多い。
  • 気象庁ではその危機感を高めるために「顕著な大雨に関する気象情報」を発表している。
  • 気象庁では,線状降水帯による大雨の可能性が高いと判断された場合に,半日前から呼びかけをする「半日前予測」を府県単位で発表している。
  • 線状降水帯のメカニズムは解明されていない点も多く,半日前予測の的中率は1割程度,見逃し率は6割程度と,その予測精度は低い。
  • 地中から水分が流出するのには時間がかかるため,雨が降り止んだ後でも土砂災害が発生する危険性があり,しばらくは注意が必要である。
  • 線状降水帯発生時の天気図解析は,積乱雲が停滞した理由,相当温位と風速からの水蒸気の流入具合,上昇流などを踏まえて考察してみる。

 

参考図書・参考URL

下記の文献やwebサイトを参考にしました。一部画像を引用しております。

 

*1:積乱雲が線状に連なる方向と直角方向に進行する線状の降水帯。そのため,雨雲は停滞せずに,雨も一時的である。そう考えると,「雨雲が数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞する線状の降水帯」というものに含まれるのかは謎

*2:降水帯の先端だけではなく,側方からも積乱雲が湧き出すタイプの線状降水帯。こちらも停滞して豪雨災害をもたらすため,注意が必要

*3:2026年に防災気象情報が大幅に改定される予定です。それぞれの防災情報の意義と区別を分かりやすく,かつ危険を適度に煽るような名称で運用されることを期待します

*4:81回予測した中で8回実際に発生した

*5:21回発生した中で13回は予測も出せなかった

*6:ニュースなどでは上空の偏西風の蛇行について触れられていました

2025年7月のカムチャツカ半島地震に伴う津波観測

 

2025年7月30日,ロシアのカムチャツカ半島沖でM8.8の地震が起き,それに伴って日本でも津波が観測されました。

今回は,津波について深掘りしてみることにします。

 

 

津波注意報津波警報の発表

2025年7月30日午前8時24分,ロシアのカムチャツカ半島沖で大きな地震が発生しました。日本では揺れをほとんど感じなかったにもかかわらず,津波注意報がテレビやスマホに流れてきたので,突然のことで驚いた方が多かったことと思います。

当初は津波注意報が発表されていましたが,その後,注意報から警報へと引き上げられました。

津波注意報は,予想される津波の高さが0.2m以上1m以下の場合で,津波による災害のおそれがある場合に発表されます

一方,津波警報は,予想される高さが1m超え3m以下の場合に発表されます

津波警報津波注意報よりも津波が大幅に高く予想される場合に出されるものですが,それではどうして最初に予想された津波の高さは過小に見積もられていたのでしょうか。

 

それは,当初地震マグニチュード地震の大きさを表す尺度)がM8.0と見積もられていたものが,その後M8.8に引き上げられたことに原因があるようです*1

ここで,地震のエネルギー  E (単位はジュール)とマグニチュード  M の間には,以下の関係式が成り立ちます。

    log_{10}{E} = 4.8+1.5M
 

この式から,マグニチュードが1ちがうと,エネルギーは  10^{1.5}≒32 倍 違ってくることが分かります(よって,マグニチュードが2大きくなると,エネルギーは1000倍大きくなります)。

今回はマグニチュードが0.8引き上げられましたが,このときエネルギーは  10^{1.5×0.8}≒16 倍大きくなると計算されます。マグニチュードではわずかだと思えた差でも,実際は大きな違いがあることを理解しておく必要がありますね。

 

さて,このエネルギーの増加が波のエネルギーにそのまま反映されると仮定すると,(波のエネルギーは波の振幅の二乗に比例するため)エネルギーが約16倍になると,波の高さはその平方根である約4倍になると計算されます。

今回の地震では,マグニチュードが大きめに修正されたことによって,津波の高さが数倍にもなると予想されたため,それに伴って注意報から警報へと引き上げられる形になったと考えられます。

 

 

津波のタイミング

津波の被害の大きさは,そのタイミングにも大きく左右されます

例えば,昼間であれば多くの人が起きており,また明るいため避難行動を取りやすい一方で,夜間や未明に発生すると,睡眠中であったり周囲も暗いため状況把握が遅れやすく,逃げ遅れによる被害が拡大しやすくなります。

他にも,夏であれば海水浴客で海は賑わうでしょうし,休日であればなおさら人出も多くなるので,同じ大きさの津波だとしても,発生するタイミング次第でその被害が大きく変わることは気に留めておく必要があります。

 

また,同じ津波でも到達時刻が満潮か干潮かで被害の規模も変わります

下のグラフは,平常時の(すなわち地震災害などによる海面への影響がない場合の),とある場所における24時間の潮位(海面の高さ)の変化を示しています。オレンジ色の線は「天文潮位」,つまり太陽や月の引力によって予測される理論上の潮位で,青い線は実際に観測された潮位です。気圧や風の影響により,実際の潮位は予測よりも高くなったり低くなったりします。


このグラフを見ると,潮位が上がったり下がったりを繰り返していることが分かりますね。潮位が上下するのは,主に月の引力と地球の自転によるものです。

 

下の図のように,地球の海水は月による引力によって引っ張られます。

地球の月に近い側では月の引力が強く,海水が月に向かって引っ張られる力も強くなります。同時に,月と反対側にある海水も,遠心力の影響で海水が膨らんでいます。

地球は24時間で1回転するため,1日に2回満潮と干潮が繰り返されるのです。

 

当然,満潮時は海面が高くなっているため,そこに津波が加われば被害はさらに拡大するおそれがあります。

下のグラフは,地震当日の7月30日の北海道花咲港(根室市)で観測された潮位の変化を示すグラフですが,満潮時には津波による波の高さが足し合わさって,注意する基準線(黄色線)を超えていることが分かります。

このように,たとえ津波の高さが低い場合であっても,満潮時と時刻が重なる場合にはより強い注意が必要なのです。

 

 

また,潮位の変化には,1日の満ち引きだけでなく,月単位の大きな周期もあります。

太陽・月・地球が一直線に並ぶとき,引力が重なり合って潮の干満の差が大きくなります。これが「大潮」です。ふつうは1か月に2回,満月と新月のタイミングで起こります。

下は満月の場合。

下は新月の場合です。

 

一方,太陽と月が地球をはさんで直角に位置する(上弦・下弦の月)ときは,引力が打ち消し合い干満の差が小さくなります。これが「小潮」です。



下のグラフは30日間の潮位変化のグラフですが,大潮と小潮が交互に繰り返されているのが分かりますね。

このように,潮位には1日2回の干満のリズムに加え,約1ヶ月に2回の大潮・小潮のリズムもあるのです。

津波のリスクを考えるときは,発生時刻だけでなく,そのときの潮位や月齢にも注意が必要だということです。

 

 

津波の速さ

次に,津波の速さについて考察してみます。

先ほど示した花咲港の潮位のグラフを見ると,だいたい午前10時すぎに潮位が突然高くなっていますね。津波が到達したのです。

ニュースを見ると,午前10時30分に花咲港では30センチの第一波を観測したという記事がありました。

今回の震源と花咲港との距離は直線距離にしておよそ1500kmですので,地震が発生した午前8時24分から2時間で到達した計算になります。すなわち,津波の速さ  v は,

    v = \dfrac{1500}{2}  = 750(km/h)

と計算されます。思っていた以上に速いスピードです。旅客機が時速800~900km/h らしいので,それに匹敵するほどの速さであることが分かります。

 

 

ちなみに,津波の速さ  V は以下の式で近似されます。

    V = \sqrt{gh}  ( gは重力加速度:9.8 \rm{m/{s^2}} hは水深:単位は\rm{m}

 

例えば,水深が4000mであったときの津波の速さは,

    V = \sqrt{9.8 \cdot 4000} ≒ 200\rm{m/s} ≒ 720\rm{km/h}

ということで,津波の速さはジェット機並みであることが計算によって算出されます。

一方で,水深が10mと浅い場所であっても,

    V = \sqrt{9.8 \cdot 10} ≒ 10\rm{m/s} ≒ 36\rm{km/h}

と,水深が浅くても,生活道路を走る自動車ほどの速さがあることが分かります。

 

このように,津波というのは思っていた以上に速いスピードで襲ってくるため,目視で津波が来たことを確認してから避難していたのでは到底間に合わないのです。

だからこそ,警報や注意報が出された場合には,海岸には近づかず,海岸線から離れた場所や高台にいち早く避難する必要があるのです。

 

 

津波の高さ

そして,津波の高さも低いからといって侮ってはいけません。

今回の地震でも30cmの高さの津波と聞いて大したことないと感じた方も多かったと思いますが,実際に30cmだとしても決して油断してはいけないといいます。

海上保安庁消防庁の実験では,わずか20〜30cmの水の流れでも,大人が踏ん張っても倒されたり,引きずられることがあると報告されています。足腰の弱い高齢者や子供などは簡単に流され得る津波の高さであるということです。

さらに上の図のように,津波によって1mの浸水があった場合には死亡率はほぼ100%に近いという試算もあるようですので(熱海市役所「津波の基礎知識」より引用),津波が小さそうだから大丈夫だろうという考えは捨て去り,津波注意報・警報が発表された時点で安全な場所へ避難するのが,命を守るための鉄則です。

 

 

津波の最大波

最後に,津波の最大波について説明しておきます。

今回の津波警報・注意報を受けて,ニュースでは再三,「津波は何度も繰り返しやってきます。後から来る津波の方が高くなることがあります」と報道されたのが印象的でした。

そして事実,第一波よりも,後続の波が大きくなることが確認されました。

再度,下に花咲港の潮位グラフを示しますが,第一波よりもそれに続く津波で大きくなっていることが分かりますね。

 

下のアニメーションは,2007年に発生したペルー沖地震に伴う津波の伝播の様子を表したものですが(津波発生と伝播のしくみ | 気象庁から引用),第一波のうしろに後続波が次々に続いて広がっている様子が確認できます。

特に,津波は半島や島などの地形からの影響を強く受けて反射や屈折をします。そして地形で反射した津波が新たに同心円状に伝播していくなどして,複数の波が重なり合う複雑な様相を示していきます。

複数の波が重なり合うと,突然高い波となって,第一波よりも大きくなることがあり,今回の地震ではまさにその現象が観測されたことになります。

 

特に,カムチャツカ半島から千島海溝を挟んで南東に伸びている「天皇海山列」という海底山脈が今回の津波と関連が深いようで,津波がそこに当たって反射を繰り返すことで,第一波よりも後続波で波が重なり合って高くなったと考えられているようですよ。

天皇海山列による反射はおそらく30日の時点からすでに九州の方にも届いている。北から南に向かう津波天皇海山列で反射して東から到来してくる津波が合流したのが30日の午後6時、7時頃といったところかと思うが、九州地方でもその辺りからずっと津波が継続していて、種子島についてはまだ少し高い状態が継続している。

ABEMA NEWSより

 

下に,アメリカ海洋大気庁(NOAA)が作成した,今回の津波のシミュレーション結果を載せておきます。カムチャッカ半島からハワイ島に伸びる天皇海山列で津波が反射して伝播している様子がたしかに確認できます。

 

 

 

なお,花咲港の潮位は地震発生から60時間経っても,細かい振動が持続していました。津波の影響は数時間で終わらず,長時間にわたって注意が必要ということです。

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

今回は津波について,発生のタイミングや移動速度,高さ,そして継続時間といった多角的な観点から深掘りしました。こうして見てみると,改めて津波の持つ破壊力と恐ろしさを実感します。

一部では,「気象庁津波を煽りすぎだ」「結局3mの津波は来なかったじゃないか」といった声も見られますが,命を守るためには災害を怖がりすぎるくらいが丁度良いのかもしれません。

むしろ,「大したことなくて良かったね」と言えるくらいの心の余裕は持っておきたいものです。

 

 

【まとめ】学習の要点

天気図理解のメモ
  • 津波注意報は,予想される津波の高さが0.2m以上1m以下の場合で,津波による災害のおそれがある場合に発表される
  • 津波警報は,予想される高さが1m超え3m以下の場合に,津波の高さ3m」として発表される
  • 地震津波の規模が同じでも,夜間・季節・潮位などのタイミング次第でその被害の大きさは左右される。
  • 「天文潮位」とは,気圧や風などの影響を受けない太陽や月の引力によって引き起こされるときに予測される潮位のこと。
  • 潮位には1日2回の干満のリズムに加え,月に2回の大潮・小潮のリズムもある。
  • 満潮時や大潮の時は海面が高くなっているため,そこに津波が加われば被害はさらに拡大するおそれがある。
  • 津波の速さはジェット機並みになることもある。
  • 津波というのは思っていた以上に速いスピードで襲ってくるため,目視で津波が来たことを確認してから避難していたのでは到底間に合わない。
  • 津波によって1mの浸水があった場合には死亡率はほぼ100%に近いという試算もある。
  • 津波は何度も繰り返しやってきて,後から来る津波の方が高くなることがある。
  • 津波の影響は数時間で終わらず,長時間にわたって注意が必要である。

 

参考図書・参考URL

下記の文献やwebサイトを参考にしました。

*1:より正確に言うと,最初にM8.7へと引き上げられ,その後M8.8に再修正された。今回は,M8.8の値を最終的な地震の大きさとして話を進めていきます

2025年7月の気象関連ニュース

 

今月も非常に暑い1ヶ月でしたね。蒸し風呂のような中での通勤で,朝の時点で体力を奪われてしまい,残りの一日をどう乗り切るかが私にとって喫緊の課題となっています。

さて,今月の個人的に興味をもった気象関連ニュースをまとめておきます。

 

 

2025年6月の世界平均気温は観測史上3番目の暑さ

まずは地球温暖化に関連するニュースから紹介します。

今月初旬,「コペルニクス気候変動サービス」から,2025年6月の1ヶ月間の世界平均気温について発表がありました。その内容は以下の通りです(Surface air temperature for June 2025 | Copernicus)。

  • 1991-2020年6月の平均より0.47°C高く、世界平均気温は16.46°Cだった。
  • 過去最高の2024年6月より0.20℃低く、2023年より0.06℃低くなった。記録上では3番目に高い6月の気温となった。
  • 1850年から1900年の産業革命前の6月平均の推定値より1.30°C高かった。

 

2024年6月,2023年6月に次いで,観測史上3番目に位置する暑い6月となったということです。

パリ協定では,産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を「1.5℃まで」に抑えるという目標が盛り込まれていますが,1.5℃以内に抑えるという目標値を下回ってはいるものの,依然として高い水準が続いていることがわかります。

コペルニクス気候変動サービスによると,このままの過去30年間の気温上昇ペースが持続すると仮定した場合,2029年5月に産業革命以前に比べて世界平均気温が+1.5℃に達すると予測されています。あと4年と考えると,その時は思いのほか早く訪れるかもしれません。

 

 C3S global temperature trend monitor 

 

 

2025年6月の全国平均気温は過去最高

2025年6月の日本の平均気温は,1898年の統計開始以来過去最高になったというニュースも気象庁から発表されました(6月の記録的な高温と今後の見通しについて | 気象庁)。

今年6月は、日本付近への太平洋高気圧の張り出しが強く、日本の月平均気温の基準値からの偏差は+2.34℃で、これまでの6月の記録であった2020年の+1.43℃を上回り、統計を開始した1898年以降、最も高くなりました。

先月,西日本では例年よりかなり早い梅雨明けが発表されました。チベット高気圧と太平洋高気圧の張り出しが強くなったことで,高気圧で覆われて晴れたところが多くなり,結果的には暑い1ヶ月になったようです。

 

気象庁で入手できる過去の気象データ(気象庁|過去の気象データ検索)を用いて,1950年から2025年の過去75年の東京だけの6月の気温をプロットしてみました。

過去75年間では,1979年6月で気温が高かったようですが,今年の6月はそれを上回っていることが分かります。

また,単純な線形回帰の結果からも,その直線の傾きは正であり,時間の経過とともに東京の6月の気温は上昇傾向にあることが示されました。

 

世界的にも日本国内でも記録的な高温が続くなか,温暖化対策の必要性が改めて問われる1ヶ月となりました。今後の気温の推移にも注目していく必要がありそうです。

 

 

日本の近海で台風が続々発生

日本が暑くなるに伴って,日本の近海では台風の卵となる熱帯低気圧が続々と発生しています。

今年は台風1号が発生したのが6月11日と例年に比べて遅かったようですが,7月になると台風3号から9号が立て続けに発生し,平年の発生数と遜色ない状況にまで追いつきました。また,台風5号に関しては,9年ぶりに北海道に上陸した台風となりました。

一般的に,熱帯低気圧は海面水温が26~27℃の海域で発生するといわれています。 また,海水温が30℃を超えると台風の発達も助長されます。

台風が日本近海に北上すると海水温が下がるため通常勢力は弱まりますが,今回の台風5号では,平年に比べて水温が高い海域が北の方まで広がったため,台風は北海道に上陸するまでその勢力を維持したと考えられます。

いずれにせよ,高い海水温が引き起こす台風の影響にも気を付けなければいけないのです。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

 

高校生の理科離れが加速

少し気象とは離れた話題になりますが,今月3日に発表された国際調査の結果から,日本の高校生の理科離れが進んでいるというニュースを目にしました。理系の私からしたら,なんとも寂しいニュースではあります(詳細は,高校生の科学への意識と学習に関する調査報告書―日本・米国・中国・韓国の比較―<令和7年7月発行> | 独立行政法人 国立青少年教育振興機構)。

 

近年の技術進歩により,スマートフォン一つでニュースや動画,SNSやショッピングまで手軽に楽しめる時代になりました。しかし,それらを支える仕組みや技術に目を向ける機会は減ってきているのかもしれませんね。最近では,ChatGPTのようなAIが簡単に答えを教えてくれるため,一部では自分で調べたり考えたりする習慣も薄れてしまっているのも事実でしょう。

ただ,それはあくまで「使う側」の視点にすぎません。スマホやAIを「つくる側」に回るには,数学や理科の知識が欠かせません。AIの開発には高度な数学が必要ですし,天気予報の精度を高めるには,雲の成り立ちや気圧配置などの気象の知識が欠かせません。また,地震や台風といった自然災害に備える技術の背景にも,物理や地学の理解が深く関係しています。

このように,理科は「試験のための教科」ではなく,「私たちの暮らしを支える知識の集合体」として捉えるべきだと考えます。科学的な視点は,たとえ将来理系の職業に就かないとしても,日々のニュースを読み解いたり,健康や環境の問題を考えたりするうえで重要な判断力を養う助けになります。

 

さらに,現代社会ではSNSを通じてデマや陰謀論が拡散されやすくなっており,人工地震や根拠のない災害予言など,非科学的な情報に惑わされないためにも,最低限の科学リテラシーは必要不可欠です。AIの出力をただ鵜呑みにするのではなく,自らの知識で吟味し判断する姿勢が求められています。

 

近い将来,「科学技術を使いこなす人」と「科学技術に使われる人」との間には,ますます大きな格差が生まれていくかもしれません。だからこそ,「なぜこうなるのか」「どうすればもっと良くなるのか」「そもそもそれは本当か」と問い続ける理科の精神を大切にしなければいけないと考えます。科学を学ぶことは,よりよく生きる力を育む営みなのだと思います。

 

そして同時に,若い人たちが理科という教科に興味を持てなくなっている背景には,私たち大人の姿勢にも責任があることを忘れてはなりません。目先のテストのためのテクニックや暗記ではなく,科学がどのように社会で役立てられているのか,理科を学ぶことが私たちの視野をどれほど広げてくれるのか——そうした大きな視点で子どもたちの興味を引き出すことも,大人としての大切な役割であると考えています。

 

 

さいごに

ニュースで『猛烈な暑さ』という文字を見ない日がないほど,この7月も暑い1ヶ月となりました。2025年7月の全国平均気温も,おそらく観測記録として上位に食い込む暑さになることは間違いないでしょう。

 

突然の強い雨などにも降られることも多くありました。

それでも雲頂高度の高い入道雲や積乱雲の姿は,夏を感じられて個人的には好きなのです。

こちらは積乱雲ですね。

 

下は乳房雲。

乳房雲は大気の状態が不安定な時に現れ,積乱雲の周辺で見られることが多いと言います。激しい雨や雷,ひょうなどの前兆となることがありますので注意が必要です。

 

夏の夕焼け。

 

暑い日々は続きますが,適度に冷房などを活用して,この夏を乗り切っていきましょう。

 

 

出典

 

 

【天気図】オホーツク海高気圧

 

ここ数週間,全国的にとてつもなく暑い日々が続いていますが,関東地方ではその暑さが一時的に治まりました。オホーツク海高気圧が登場したのです。

 

 

オホーツク海高気圧による冷気の流入

下は2025年7月10日13時の関東地方の気温のマップです。紫色をした気温35℃以上の地点も見られ,都心を中心に気温の高い箇所が分布しているのが分かりますね。

翌日11日の同時刻の気温分布は下のようになっていました。前日に関東平野を覆っていた赤い色は消え,25℃を下回る地点も多く見られます。

7月の東京の日ごとの気温グラフを見ると,11日にぐっと気温が低下しているのが分かります。これまでの暑さが一変して,半袖では少し肌寒いくらいのところもあったのだとか。

 

一方,このときの関西地方の気温は10日,11日ともに気温の変化は小さく,いずれの日も大阪の中心部で35℃を超える地点が見られるなど暑さが続きました。

大阪の日ごとの気温グラフはほぼ横ばいで,寝苦しい夜を過ごした人も多そうです。

 

このように関東地方で気温が低くなったのは(北海道や東北地方などの北日本でも気温が低下した),オホーツク海高気圧による冷気の流入によるものです。天気図を見てみましょう。

 

下の図は7月10日12時の天気図ですが,オホーツク海に1022hPaの高気圧が見られます。オホーツク海高気圧ですね。そしてオホーツク海高気圧と太平洋高気圧の気圧の谷の鞍部には梅雨前線が復活しました。

このとき,北日本ではオホーツク海高気圧を回る北よりの冷たい風が入って気温は低下傾向になっています。一方,関東には太平洋高気圧の影響がまだ強く残っており,南よりの風が卓越して,都心を中心に暑くなっていたと考えられます。

 

翌日の12時になると,梅雨前線は南下し,北日本や関東地方の太平洋側には涼しい北東からの風が流入しました。そのため東京では前日に比べて気温がぐっと下がったのです。

等圧線を見ると,北日本太平洋側に(日本海側にも)気圧の尾根が伸びていますが,これはオホーツク海の冷たい海域で冷やされて密度が大きくなった空気が北東気流によって流れこんだためと考えられます。地上付近の冷たく重い空気によって地上の気圧が上昇するのですね。

 

ただし,関東より西側では関東山地・中部山岳地帯が北東気流を遮る壁のような役割を果たすため,冷たく湿った空気が西日本に到達しにくくなりオホーツク海高気圧の影響は少ないといいます。また,単純な物理的距離の問題からも西日本はその影響を受けづらいので,今回の大阪のように気温はほぼ横ばいとなり暑さは持続することになりました。

 

このように,日々のちょっとした気圧配置の違いで,日本の天気・気温に大きな影響が出ることを身をもって知ることができるのが気象を学ぶ醍醐味なんだと思います。

 

 

オホーツク海高気圧の形成

さてここまでは,今回現れたオホーツク海高気圧が日本の天気に与えた影響について見てきましたが,ここからはオホーツク海高気圧とはどういうものかという点について復習がてら学んでいきたいと思います。

 

まず,オホーツク海高気圧とは,オホーツク海付近に中心を持つ,冷涼で湿潤な性質を持った高気圧のことです。主に春の後半から夏にかけて現れます。

この高気圧は,冷たい海面によって大気の下層のみが冷やされて形成されるため,一般的に鉛直方向に厚みのない「背の低い」高気圧とされます。

 

しかし,上空の偏西風の蛇行によってブロッキング高気圧が形成されると,その影響でオホーツク海高気圧が長期間にわたって停滞・強化されることがあります。ブロッキング高気圧により下降流場が生まれ,地上付近の高気圧を強める方向に作用するためです。
そして,オホーツク海高気圧の上空にブロッキング高気圧を伴っている場合には,海面付近から偏西風帯にかけて高気圧性の構造となり,広い意味で「背の高い高気圧」とみなされることもあるようです。*1

 

 

オホーツク海高気圧の及ぼす影響

さて,連日猛暑日が続く中での今回のオホーツク海高気圧の出現は,多くの人にとって歓迎すべき存在となったようです。「天然のクーラー」と呼ばれたこのオホーツク海高気圧の登場は,ここ最近のうだるような暑さの中で,砂漠に突如現れたオアシスのように感じられたことでしょう。

しかしながら,オホーツク海高気圧の天候への影響が,必ずしも良いことばかりとは限りません。特に北日本では,古くから気温の低下日照不足長雨・農作物の生育不良といった影響に悩まされてきました。

 

オホーツク海高気圧が現れると,北日本には冷たく湿った空気が流れ込みやすくなり,気温は平年よりも低くなります。また,海からの風が直接吹き込む太平洋側では低い雲が広がり,弱い雨の降りやすい天気となります。
そして,ブロッキングを伴った停滞性のオホーツク海高気圧が発達すると,長い時には2週間ほど居座り,低温や日照不足が持続して,冷害が発生するなど大きな影響が出ることがあります*2

 

特に1993年は日本で記録的な大冷害となり,米の収穫量が大幅に減少しました。この冷害の一因には、オホーツク海高気圧の出現によりやませ(=冷たく湿った北東風)が吹き込み,寒気が入り込んだことが挙げられます。
そのほかにも,太平洋高気圧の日本付近への張り出しが弱かったことや,梅雨前線の停滞,さらにはピナトゥボ山の噴火による「日傘効果」で世界的に気温が低下したことなど,複数の要因が重なって発生した冷害だったと考えられています。

この年の東北地方の夏の気温は平年より2度から3度以上も低くなり,日照時間が少なく,かつ降水量が多くなりました。

 

しかし問題はそこで終わりませんでした。

米不足が深刻化した状況を重く見た日本政府は,急遽タイからタイ米(インディカ米)を輸入することになったのですが,日本人には外国産の米の風味がなじまず,大量に廃棄されたことが報道され,タイの国民から顰蹙を買ったそうです*3。対外関係にまでヒビが入ったのですね。

 

一方で,この冷害をきっかけに日本国内での米の品種改良が加速した面もあり,それまで寒さに弱かった「ササニシキ」に代わって,寒さに強い「あきたこまち」や「ひとめぼれ」「コシヒカリ」などの栽培面積が拡大すると同時に,「はえぬき」などの新しい品種も開発されました。

食生活が豊かになるきっかけになったという点でも,オホーツク海高気圧の我々の生活にもたらした影響は大きいと言えるのではないでしょうか。

 

【まとめ】学習の要点

天気図理解のメモ
  • オホーツク海高気圧とは,オホーツク海に中心を持つ冷涼湿潤な高気圧で,そのほとんどが春の後半から夏にかけて現れる。
  • 大気の下層のみが冷やされて形成されるため,鉛直方向に厚みのない「背の低い」高気圧とされる。
  • 上空の偏西風の蛇行によってブロッキング高気圧が形成されると,オホーツク海高気圧が長期間にわたって停滞・強化されることがある。
  • 北日本ではオホーツク海高気圧の影響で,気温の低下・日照不足・長雨・農作物の生育不良といった影響や被害が出ている。
  • オホーツク海高気圧の出現によりやませ(=冷たく湿った北東風)が吹き込み寒気が入り込む。
  • オホーツク海で冷やされて密度が大きくなった空気が北東気流によって流れこむため,天気図上で気圧の尾根が伸びることがある。
  • 関東より西側では関東山地・中部山岳地帯が北東気流を遮るため,冷たく湿った空気が到達しにくく影響は少ない。

 

参考図書・参考URL

下記の文献やwebサイトを参考にしました。

*1:オホーツク海高気圧の形成にはブロッキングが必須と書かれた解説もよく見ますが,個人的には必ずしもそうでもないのかなと考えています。ブロッキングを伴うと,高気圧が地表面に明瞭に現れるようになるという理解ですが,どうなんでしょうか

*2:農作物への被害が懸念されるほど気温が下がるときには低温注意報が発表されることがあります。また沿岸部を中心に視程が著しく低下するおそれがあるときには濃霧注意報なども発表されます

*3:一連の出来事は「平成の米騒動」と呼ばれています

2025年6月の気象関連ニュース

 

早いもので,1年も半分が終わろうとしています。過ぎゆく日々はあまり変わり映えしないように感じながらも,今年の1月はまだ気象予報士試験の勉強をしていたことを思い返すと,今こうして気象予報士となっている自分は,確実に一歩ずつ前に進んできたのだと実感します。

 

さて,今回も今月起こった気象関連ニュースをまとめてみました。

 

 

2025年5月の世界平均気温は観測史上2番目の暑さ

まずは地球温暖化問題

6月12日,「コペルニクス気候変動サービス」から,2025年5月の1ヶ月間の世界平均気温について発表がありました。その内容は以下の通り(Surface air temperature for May 2025 | Copernicus)。

  • 1991-2020年5月の平均より0.53°C高く、世界平均気温は15.79°Cだった。
  • 5月は観測史上2番目に暖かく、2024年の5月よりも0.12°C低く、2020年の3番目に暖かい5月よりも0.06°C高かった。
  • 1850年から1900年の産業革命前の5月の平均値よりも1.40°C高かった。

 

2024年に次いで,2025年5月の世界平均気温は観測史上2番目に位置する暑い5月となりました。

パリ協定では,産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を「1.5℃まで」に抑えるという目標が盛り込まれていますが,2025年5月は1.40℃高かったということで,とりあえず基準値を下回ったものの,一時的なものだという見方が強いとのこと。

 

下の図は海面水温の推移を表したものですが,2025年(暗赤色)が高い値で推移していることが分かりますね。

2023年(黄色),2024年(オレンジ)と2025年が色のついた線として示されており,5月中旬まではほぼ観測史上2番目の高温をキープしていましたが,5月下旬になると2023年よりも下回って,少しばかり落ち着いた海面水温へと収束しているようにも見えます。

来月には,6月の世界平均気温が発表されるため,この傾向が続くのかは注目していきたいポイントではありますが,ここ数日のニュースでは,北半球での世界的な熱波が観測されており,今月も暑い1ヶ月になったことは容易に想像できます。

 

日本でも熱中症による死亡者数は年々増加傾向にあり,その背景には高齢化などの社会的要因も影響していると考えられますが,やはり近年の地球温暖化の影響は看過できない大きな要因の一つと言えるでしょう。

のどが渇く前にこまめに水分を補給する室内で適切に冷房や扇風機を利用するなど,熱中症対策に特に注意する必要がありそうです。

 

 

梅雨前線の消滅と西日本での早い梅雨明け

さて,6月10日の前後には,本州の各地で梅雨入りが発表されました。平年と比べるとやや遅い梅雨入りとなったところが多かったようです。

この1ヶ月間の地上天気図をアニメーション化してみると下のようになりました。

 6月3日ごろから,日本の南側で梅雨前線が伸び始めたものの,18日ごろには日本周辺の前線は消失し,高気圧に覆われました。

数日後には再び前線が復活。

しかしその数日後には,前線は高気圧によって東へと押しやられて,西日本では梅雨明けが発表されました。

 

今のところ,四国・中国・近畿地方は6月9日ごろに梅雨入りしたと見られ,27日ごろに梅雨明けしたと考えられていますので,3週間にも満たない短い梅雨となったということですね(気象庁|令和7年の梅雨入りと梅雨明け(速報値))。

現在は速報値であり,後日,確定値として正式に発表されますが,このままいけば九州北部や四国地方では観測史上最も短い梅雨になる予定です。

関東甲信地方でも間もなく梅雨明けが発表されると予想されているようですよ。

 

今年の梅雨がなぜ短かったのか,その理由が気になりますが,それについては以下のニュース記事に解説されていました(九州南部・九州北部・四国・中国・近畿 6月27日「梅雨明け発表」ほとんどが統計開始以来最も早い!なぜこんなに早い? | 文化放送)。

記事から引用すると,以下のような流れだったそうです。

①南アジアから東南アジアにかけて積乱雲の発生が多い

②そうなると海から熱を奪って上空で水蒸気や水に変わる時に熱を出して大気を温める

③上空の大気が温まるとアジア大陸の上のチベット高気圧を強める

④強まったチベット高気圧が日本付近に張り出し、中緯度を流れる偏西風(亜熱帯ジェット気流)を北に偏らせる

⑤偏西風(北の涼しい空気と熱帯の温かな空気の間を流れる)が北に偏ると、その南側は暖かい空気に覆われやすい
 今年は偏西風が北の真夏のような場所を流れている

⑥梅雨前線の位置はこの偏西風に連動して南北に移動するので、通常より早く北にシフトした

⑦さらに、フイリピン近海でも積乱雲の活動が活発で、太平洋高気圧を強め、日本付近は太平洋高気圧に覆われやすくなる

文化放送 記事より引用)

 

チベット高気圧の日本への張り出しにより偏西風が北に押し上げられ,太平洋高気圧も強まったことで日本付近は高気圧下に入り,梅雨が短かったということですね。

 

 

トカラ列島近海で相次ぐ群発地震

6月21日ごろからは,トカラ列島近海で群発地震が起こり始めました。

下の図は,最近1週間(6月23日~29日)の震源マップですが,トカラ列島付近で明らかに地震が多発していることが分かります(震源データベースと震源マップ(リアルタイム版) | 地震関連情報)。小さいものも含めると500回を超えたのだとか。

トカラ列島付近では,南東側からのフィリピン海プレートが北西側のユーラシアプレートの下に沈み込んでおり,地震災害が起こりやすい環境になっているようです。この辺りは過去にも群発地震が発生しており,2021年にも同様の群発地震が発生して悪石島で最大震度5強を観測しました。

 

SNS上では,この群発地震が巨大地震の前兆になのではと一部で騒がれているようですが,専門家によると科学的根拠に乏しくその説は否定されています。また,南海トラフ巨大地震とは直接は関係ないとのことですが,トカラ列島周辺では今後強い震度が引き続いて起きる可能性があり,注意が必要とのこと。


地震の発生は現在の科学力を以てしても予測不可能であり,日頃から地震への備えをしておく重要性を我々に警告してくれています。

 

 

出典

 

 

2025年5月の気象関連ニュース

 

今月起こった気象関連ニュースをまとめてみました。

 

 

2025年4月の世界平均気温は観測史上2番目の暑さ

まずは地球温暖化問題

5月9日,「コペルニクス気候変動サービス」から,2025年4月の1ヶ月間の世界平均気温について発表がありました。その内容は以下の通り。

  • 4月は観測史上2番目に暖かく、2024年の4月よりも0.07°C低く、2016年の3番目に暖かい4月よりも0.07°C高い。
  • 1850年から1900年の産業革命前の4月の平均値よりも1.51°C高い。

2024年(史上最高気温)に次いで,2025年4月は観測史上2番目に位置する暑い4月となりました。

パリ協定では,産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を「1.5℃まで」に抑えるという目標が盛り込まれていますが,2025年4月は1.51℃高かったということで目標の壁を悪い方向に超えてしまったことになります。

 

下の図は海面水温の推移を表したものですが,2025年が高い値で推移していることが分かりますね(Surface air temperature for April 2025 | Copernicus)。

 

また,今月28日には,世界気象機関(WMO)と英国気象庁が,今後5年間の世界気温が記録的な高温に達し,致命的な異常気象をもたらす可能性について報告しました。

氷床の融解や海面上昇に加え,熱波や豪雨といった異常気象の頻度や激しさが増すことが示唆されており,地球環境への悪影響が懸念されます。

 

この報告と同じタイミングで,スイスで氷河の崩壊も起こっています。この自然災害により約90%が消失した村もあったのだとか。不幸中の幸いだったのが,住民は事前に避難していたため被害が最小限に抑えられたこと。

地球温暖化による影響かどうかは今後慎重に検証していく必要があるとしているものの,一部の専門家からは,地球温暖化によって氷河が不安定になっていた可能性が指摘されているようです。

 

 

統計史上初めて九州南部が全国最初に梅雨入り

今年も梅雨の季節がやってきました。

5月16日,気象庁九州南部が全国で最も早く梅雨入りしたとみられると発表しました。九州南部が沖縄・奄美よりも早く全国に先駆けて梅雨入りしたのは,統計を開始した1951年以降初めての出来事だったといいます。

なぜ,南に位置する沖縄・奄美よりも九州で梅雨入りが早かったのかという理由については,「太平洋高気圧の張り出しが強く,偏西風が平年より北寄りを流れている影響で,梅雨前線も北側に位置していたため」だと気象庁が説明しています。

 

また,29日に発表された1か月予報によりますと,向こう1ヶ月は北・東日本で平均気温が高く,西日本で平年並か高いと予想されています。いずれにせよ,暑い1ヶ月になる可能性が高いという予想のようです。

降水量については,北日本・西日本で前線の影響から平年並か多い予想となっており,日照時間はいずれの地域も平年並と予想されていました。

高温で多湿となり,不快な暑さになりそうですね。

 

詳細については気象庁のHPでご確認ください(気象庁 | 季節予報解説資料)。

引用:1か月予報(2025年5月29日発表)の解説 気象庁

 

気象庁,AIによる予測精度の向上へ

最後は気象庁のAI導入の話題。

過去の気象データを学んだAI結果を活用して,既存の予報プログラムと併用することで予報精度の向上を目指すとのこと。

気象データは毎日取得できるものですので,過去に蓄積された膨大なデータを活用できるという点で深層学習モデルとも親和性が高いと思われます。

 

個人的な興味としては,どういったモデルを予報に使うかですかね。昨今流行りの「トランスフォーマー」みたいなアーキテクチャを用いるんでしょうか。

とりあえず,AIを組み合わせることでどこまで精度が高まるのか,その成果に期待したいと思います。

 

出典

 

 

第63回気象予報士試験振り返り~実技1:エマグラムの解析

 

前回と同様,第63回気象予報士試験の実技試験について振り返ってみます。一般知識の理解があれば点数が取れる問題として,今回はエマグラムの解析を取り上げます。

 

なお,気象業務支援センターから過去5年分の問題が公開されておりますので,そちらもご参考にしてください。

気象予報士試験 (jmbsc.or.jp)

 

 

エマグラムと温位

エマグラムの解析については過去に記事を書いていますが,いくつか書き切れなかった点もありますので,今回はその穴を埋めていこうと思っています。

 

復習になりますが,エマグラムには乾燥断熱線湿潤断熱線等飽和混合比線の3種類の線が引かれています。

 

まず,「乾燥断熱線」は未飽和な空気を断熱的に上昇または下降させたときに,その空気の気温と気圧がどのように変化するかを表したものです。未飽和であるため,凝結が起こらず潜熱が発生しないので,この線上の変化は温位は常に一定になります。すなわち,乾燥断熱線は等温位線でもあると言えます。

上の図のように,赤く示した線が乾燥断熱線であり,凝結していない未飽和な空気を上昇や下降させると,高度に応じて気温が線上を移動して値を変化させるのです。高度によらず,約10℃/kmの気温減率の線となっています。

また,温位とは「空気塊を乾燥断熱的に1000hPaの高度に移動させたときの絶対温度」であるので,1000hPaの気温が27℃なら,温位は300Kとなり,未飽和な空気塊は常に300Kの一定の温位の値をとりながら断熱変化することになります。

 

一方,「湿潤断熱線」は飽和した空気を断熱的に上昇または下降させたときに,その空気の気温と気圧の変化を表します。凝結に伴う潜熱放出の影響で,地上付近では約5℃/kmの気温減率の傾きになりますが,対流圏上層では水蒸気が少なく気温も低くなるので,その変化は乾燥断熱減率に近づきます。下の図のように,地上付近では立っていて,高度の上昇とともに寝るような線として描かれるのです。

注意する点としては,凝結を伴いながら断熱変化する空気の温位は一定ではないということ。ある湿潤空気を乾燥断熱的に1000hPaまで移動させたときの温位の値は,その空気を湿潤断熱線に沿って上昇させると大きくなり,下降させると小さくなります(ただし相当温位は変わらない)。上の図のように,1000hPaの温位が300Kだった湿潤空気塊を持ち上げると(=湿潤断熱線に沿って変化させると),空気塊の上昇に伴ってその温位はどんどん大きくなるのです。


最後は「等飽和混合比線」について。まず,飽和混合比というのは,その空気が可能な限り水蒸気を含んだ場合に,乾燥空気1kg当たりどのくらいの水蒸気量を含むかを表した値になります。すなわち,ある気温・気圧において,空気が飽和しているときの混合比ということになります。

そして飽和混合比は気温と気圧によって変化する量です。ここで,飽和混合比が同じ値になる気温と気圧の条件を結んだものが等飽和混合比線になります。

上の図のように,等飽和混合比線は最も立った(傾きが小さい)線として表現されます。他の2本の線とは異なり,単位は g/kg です。

これらの前提知識を踏まえた上で,次にエマグラムから読み取れる物理量について考えていきます。

 

 

エマグラムから読み取る物理量

エマグラムを用いて,以下の物理量を読み取ることで,より理解を深めていきます。

①混合比

まず,混合比は他の気体との混合や水蒸気の凝結・蒸発がなければ保存されます。よって,例えば圧力一定下で気体の温度を下げていっても,凝結がなければ混合比は常に同じ値をとります。

上の図のように,1000hPaでとある気温の未飽和な空気塊があったときに,この空気が凝結するまでは混合比は一定のはずです。

仮に,温度を下げて飽和に達するときの混合比(飽和混合比)が10g/kgだったとすると,温度を下げる前の元の空気塊も同じく10g/kgの混合比であったと理解できます。

 

②露点温度

圧力を一定のもと,空気の温度を下げていったときに凝結する温度が露点温度です。

よって,露点温度は,まさに先ほど示した図の凝結する温度に相当します。

 

③相対湿度

では,相対湿度は,このエマグラムでどのように知ることができるのでしょうか。

エマグラムからは混合比の情報が読み取れるので,相対湿度を混合比の式として表してみましょう。

 

まず,相対湿度は,空気中の実際の水蒸気分圧  e と,その温度での飽和水蒸気圧  e_s を用いて以下のように表せます。

 

    (相対湿度)=  \dfrac{e}{e_s} × 100(%)

 

また,混合比  r(g/kg)と,水蒸気分圧  e には次の近似式が成立します。ここで全圧(気圧)を  P とします。

     r ≈ 0.622×\dfrac{e}{P}

 

同様に,飽和混合比  r_s(g/kg)と,その温度での飽和水蒸気圧  e_s は次の近似が成立します。

     r_s ≈ 0.622×\dfrac{e_s}{P}

 

よって,上の2式から,

     \dfrac{e}{e_s} ≈ \dfrac{r}{r_s}

が成り立つのです。すなわち,

 

    (相対湿度) ≈ \dfrac{r}{r_s} × 100(%)

 

と,相対湿度を混合比だけの式に変換できました。

 

ここで,空気の混合比  r(g/kg)ですが,①混合比 で述べたとおり,露点温度を通る等飽和混合比線の値となります。

 

問題は,空気の飽和混合比  r_s ですが,その意味としては,その空気の温度において水蒸気を最大限含んだときの混合比といえます。これは,その温度を通る等飽和混合比線の値と同じです。

仮に上の図のように,空気塊の温度を通る等飽和混合比線の値が15g/kg であったとき,

    (相対湿度) ≈ \dfrac{10}{15} × 100 67(%)

と計算できるのです。

 

④持ち上げ凝結高度

それでは,1000hPaにある空気塊を持ち上げてみましょう。

エマグラムには,実際に観測された鉛直方向の気温と露点温度が,それぞれの高度に対応して描かれています(下図)。

ここで1000hPaにある空気塊を持ち上げたとき,その空気が未飽和であれば,乾燥断熱線に沿ってその温度と気圧は変化します。さらに,凝結しないので混合比は常に一定の値をとります。すなわち,今回の例では持ち上げても 10g/kg の値を取り続けます。

そして,等飽和混合比線の意味は,「混合比がある値をとるときに空気塊が飽和する気温および気圧」を表しており,持ち上げたときの空気はどこかで等飽和混合比線と交わります。

そのときの交点の気温と気圧が,空気塊が凝結を始める気温・気圧であり,そのときの高度を持ち上げ凝結高度と呼ぶのです。

⑤相当温位

相当温位とは「温位に,空気に含まれる水蒸気がすべて凝結したときに放出される潜熱を考慮して,そのときに想定される空気の絶対温度」のことを指します。

空気の混合比を  r として,相当温位  \theta_e を求める近似式は,温位  \theta を用いて,以下のように表せます。

     \theta_e ≈ \theta + 2.8r

 

ここで,(冒頭で述べた通り)温位とは,空気塊を乾燥断熱的に1000hPaの高度に移動させたときの絶対温度であり,混合比は,その気体の露点温度における飽和混合比に一致します。

例えば,持ち上げ凝結高度までを考えると,乾燥断熱線に沿って持ち上がった空気の温位は常に一定ですし,混合比も凝結がないため一定ですので,(近似式を見ても)相当温位は変化しないことが分かります。

 

露点温度を通る等飽和混合比線の値が10g/kg の,1000hPaで気温27℃の空気の相当温位  \theta_e を求めてみると,

     \theta_e ≈ 300 + 2.8×10 = 328(K)

と計算できるのです。

もちろん,相当温位の値に関しては,凝結した後も保存されますので,持ち上げ凝結高度を過ぎて湿潤断熱線に沿って移動する際も,その値は常に一定になります。

 

 

実技1問3(2) エマグラムからの相対湿度の計算

それでは,第63回気象予報士試験の実技1のエマグラムの問題を見ていくことにします。

ちなみに,私はエマグラムからの相対湿度の算出の式を知らなかったので,試験中にそれぞれの物理量の意味を考えながら解答しようとトライしたのですが,時間がかかって後回しにして,結局タイムアップで解くことができませんでした。試験終了30秒前くらいに諦めて,「25%」とか適当な数字を記入した記憶があります(←10%刻みで答える問題なので,そもそも答え方自体間違えている)。ずっと胸につかえていた心残りの問題だったので,ここで成仏させときましょう。

 

問題

図7は5月1日21時の館野(茨城県つくば市)の状態曲線と風の鉛直分布である。

館野の上空で相対湿度の最も低い高度を10hPa刻みで答えよ。そして、その高度の相対湿度を10%刻みで答えよ。

 


ここまでの説明を理解できていたら,難しくはない問題です。

 

  (相対湿度)=  \dfrac{露点温度を通る等飽和混合比線の値(r)}{気温を通る等飽和混合比線の値(r_s)} × 100 (%)


ですので,その空気の露点温度(点線)を通る等飽和混合比線と,実際の空気の温度(実線)を通る等飽和混合比線が最も離れている高度を読み取ります。

 

あとは視力検査です。下のようになります。



よって,問題の答えは,

相対湿度が最も低い高度:910 hPa

その高度の相対湿度: \dfrac{5.5}{10.5} × 100 52(%)より 50%

 

こういう問題は,混合比や露点温度,湿度などをきちんと理解していないと解けない問題であり,とても教育的で良い問題だと個人的には思います(私は解けなかったんですけどね)。

そして私自身,これまで等飽和混合比線というものがいまひとつしっくり来ていなかったので,今回の振り返りを通して頭が整理できてよかったとも感じています。

 

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

 

第63回気象予報士試験振り返り~実技1:移流による気温変化率

 

今回は,第63回気象予報士試験の実技試験について振り返ってみます。ただし,すべての問題を説明するのではなく,一般知識の理解があれば点数が取れる問題について解説していきたいと思います。

一般知識がどのように実技試験に活用されているかを知るという目的もありますし,実技試験から一般知識を振り返るという意味もあります。

 

なお,気象業務支援センターから過去5年分の問題が公開されておりますので,そちらもご参考にしてください。

気象予報士試験 (jmbsc.or.jp)

 

 

単位

下は第53回一般知識で出題された,水平移流による気温の時間変化率を問う問題です。

どのように計算すれば良いかを考えてみます。

問題(第53回一般知識より)

ここで問題を解くときに重要なのは「単位」です。計算問題で単位をちゃんと理解せずに,とりあえず数字を掛けたり割ったりしてしまう方が少なからずいるようですが,単位さえ理解できれば,あとの見通しがスッキリすることがよくあります。

ここからは単位についておさらいしておくことにします。

 

単位には国際単位系(SI)という標準規格となる7つの基本単位があります。

時間の長さの基本単位は「秒(s)」,距離の長さの基本単位は「メートル(m)」,質量の基本単位は「キログラム(kg)」,温度の「ケルビン(K)」,電流の「アンペア(A)」,明るさの「カンデラ(Cd)」,物質量の「モル(mol)」。

一般的に,これらの基本単位を組み合わせてさまざまな単位は表現できます。

 

例えば,加速度の単位は「メートル毎秒毎秒」で  \rm{m}/\rm{s^2},重さ(質量×重力加速度)*1の単位は「ニュートン(N)」で  \rm{N} = \dfrac{\rm{kg} \cdot \rm{m}}{\rm{s^2}},圧力(重さ÷面積)は「パスカルPa)」で  \rm{Pa} = \dfrac{\rm{N}}{\rm{m^2}}= \dfrac{\rm{kg}}{\rm{m} \cdot {\rm{s^2}}} という感じ。

 

そして,加速度に時間をかけると「メートル毎秒」という単位となり,速度が算出されることが分かりますし,速度に時間をかけると「メートル」となって,距離が算出されることも,単位の掛け算や割り算から理解できるのです。

 

今回の問題では気温変化率を求め,その選択肢の単位はいずれも「℃/h*2となっていることから,1時間当たりに何℃気温が変化するかを求めればよいということですね。

 

 

移流による気温変化率

改めて冒頭の問題を眺めてみます。

 

問題文で与えられているのは風速と距離と気温,角度ですので,これらの単位をうまく用いて「℃/h」になるように組み合わせれば良いわけです。

すると

 

  ℃/h = ℃/km × km/h

 

という感じで辻褄を合わせられそうです(分子と分母で「km」の単位が消える)。「℃/km」は1km当たりに何℃気温が変化するかなので,これは気温の傾度です。「km/h」は1時間当たりに進む距離,すなわち速度です。ここでの速度は,風の速度が当てはまります。

上記のことに意識すると,移流による気温時間変化率温度移流という)は以下の式で求められます。

 

移流による気温時間変化率(温度移流)

  (気温の時間変化率) = ー(風向に沿った温度傾度)×(風速)

※気温が上流側で高く風がそれを運んでくると気温は上昇,逆に上流側が低い気温は低下します。マイナス符号はこの関係を示します。

 

注意するのは,温度傾度は「風向に沿った」値を用いる点です。例えば,風向が温度傾度に対して垂直の向きであれば,気温は変化しません。また,風速0なら移流も温度変化もないこともこの式から理解することができます。

 

この式を用いて,問題を解いてみましょう。

風向に沿った温度傾度は  \dfrac{2}{40} (℃/km)となります。等温線と風のなす角度が45° という設定にはなっていますが,この問題では,「風向に沿った温度傾度」の算出に角度の情報は必要ないので,引っかからないようにしましょう。

また,風速は 5(m/s)ですが,km/h にしなければいけないので,

  1 m/s = 3.6 km/h

であることを考慮して,風速18(km/h)となります。

そして,風は低温側から吹いているので,マイナスです。


以上の結果から,

 

  (気温の時間変化率) = ー  \dfrac{2}{40}(℃/km)  × 18(km/h)= ー 0.9(℃/h)

 

で,ー 0.9(℃/h)で④が答えになります。

 

 

下に類題を載せておきます。ちなみに,下の問題の場合は,「風向に沿った温度傾度」を算出するために角度の情報が必要になります。ぜひトライしてみてください。

問題(第62回一般知識より)

 

 

実技1 問1(2) 移流による気温変化率

これまでの気温変化率の計算について頭に入れたうえで,ここからは,第63回気象予報士試験の実技1で出題された問題を見ていきましょう。

ちなみに,私はこの計算問題だけで10分近く費やして,無駄に時間をかけてしまった記憶があります。

というのも,一般知識では風速はm/sの単位で与えられることが多いですが,実技試験では天気図上で風速がノットという単位で表現されており,計算には単位をきちんとそろえて計算する必要があるため,途中で非常に混乱してしまったのでした。

 

図3 を⽤いて、850hPa ⾯における温度移流に関する以下の問いに答えよ。ここで、地点A は 図3(下)で北緯34°東経116°付近にある⿊丸、地点B は同図で北緯33°東経125°付近にある⿊丸を指す。


① 地点A および地点B における850hPa ⾯の温度移流の種類を簡潔に答えよ。

② 地点A と地点B のうち、850hPa ⾯の温度移流がより強い地点を答えよ。そして、そのように判断した理由を40 字程度で述べよ。

③ 地点Bにおける850hPa⾯の移流による気温の変化率を、地点Bの⾵と6℃と15℃の等温線を基に求め、正負の符号を付して1℃/h 刻みで答えよ。

 



①まずは地点Aと地点Bの温度移流の種類を答えさせる問題。

6℃以下の領域を青く,15℃以上の領域を橙色に塗ってみました。

点Aでは寒い方から暖かい方に風が吹いているため,寒気が入ってきます。一方,点Bでは暖かい方から寒い方に風が吹いているので,暖気が入ってきます。

よって,

地点A:寒気移流, 地点B:暖気移流 が答えになります。

 

 

②AとBの地点の温度移流が強い地点がどちらかを答え,その理由を述べさせる問題。

まず,式から,温度移流の強さは,「風向に沿った温度傾度の大きさ」と「風速」に比例します。

 

移流による気温の時間変化率(温度移流)

  (気温の時間変化率) = ー(風向に沿った温度傾度)×(風速)

 

図から,地点Aと地点Bでは30ノットと同じなので,風速だけに着目すると両地点で差はありません。そこで,移流の強さを比較するためには風向に沿った温度傾度を知る必要があります。

 

では,各地点の風向きに沿った温度傾度を解析してみることにします。

上図は,風向に沿った6℃と15℃の等温線間の距離を,赤い線分で示した結果です。

このことから,温度傾度は等温線が混みあっている地点Bの方が大きいことが分かります。

 

よって,温度移流が強いのは,地点B

その理由としては,地点Aと地点Bともに風速は同じだが,地点Bの方が風向に沿った温度傾度が大きいから とでも書いておけばOKかと思います。移流の強さは「風速」と「風向に沿った温度傾度」に比例することを理解していれば,各地点でそれぞれの値を比較するように記述してやればいいのです。

 

 

③地点Bの気温変化率を計算させる問題。

前置きが非常に長くなりましたが,今回のメインディッシュです。

 

地点Bに吹く風の速度は30ノットであることは,図から読み取れるとおりです。

ここで,

 

  1ノット = 1海里 / 1時間

  1海里 = 1.852 km

 

であることは基本として押さえておかなければいけません。すなわち,

 

  1ノット = 1.852 km/h

 

よって風速は,30ノット=55.5(km/h) ・・・()  となります。

 

 

では,温度傾度はどうでしょうか。問題文では,6℃と15℃の等温線に着目しなさいとありますから,風向に沿った6℃~15℃の等温線間の距離を測定します。

その結果,距離は6mmでした。

実際の縮尺に直してやると,緯度10度分が約1110km(天気図で4cm)に相当しますので,地点Bの温度傾度は,

 

  (温度傾度)= \dfrac{15-6}{1110×\dfrac{0.6}{4}} \dfrac{6}{111}(℃/km) ・・・(

 

 

式()()より,

  (気温の時間変化率の大きさ) =  \dfrac{6}{111} × 55.5   =  3(℃/h)

 

地点Bは暖気移流のため,気温が上昇する方向に進むのでプラスの符号をつけて,

地点Bの気温変化率は,3 ℃/h が正解となります。もちろん,海里で単位をそろえて計算しても同じ結果が得られます。

■■■■■■■■■■■■

【参考】単位を「海里」でそろえて計算する方法

 

  ℃/h = ℃/海里 × 海里/h

 

緯度10度分が600海里に相当しますので,地点Bの温度傾度は,

 

  (温度傾度)= \dfrac{15-6}{600×\dfrac{0.6}{4}} 0.1(℃/海里)

 

風速は30ノット(=30海里/h)なので,

 

  (気温の時間変化率の大きさ) =  0.1 × 30   =  3(℃/h)

 

地点Bは暖気移流のため,+3 ℃/h が正解

■■■■■■■■■■■■

 

この問1(2)の①~③の3問が正解していたら10点がもらえました。第63回気象予報士試験の実技の合格点はおよそ60点だったので,この3問が取れていると,残り50点を稼げば合格になるわけです。そう考えると,こういった,学科一般の知識をきちんと頭に入れて使いこなせるようになることが,非常に重要になることが分かりますね

特に注意すべきなのは,風速はノットでそろえるのか,km/hでそろえるのか,それともm/s で計算するのか,単位をきちんとそろえないと計算結果がおかしくなってしまうので,単位を理解することは非常に重要なのです。

 

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

 

 

*1:重さ=力」であり、「重さ≠質量」であることには注意が必要

*2:1℃も1Kも大きさは同じなので,ここは「℃」で単位をとることで問題ない

第63回気象予報士試験振り返り~一般知識②~

 

前回からの続きです。第63回予報士試験の一般知識を振り返ります。

 

なお,問題については,気象業務支援センターから公開されておりますので,そちらからご覧ください。

気象予報士試験 (jmbsc.or.jp)

 

 

第9問 台風

【正解】②

 

【解説】

基本的な台風の知識について問われました。

 

(a)台風は熱帯から亜熱帯の海洋上で発生する強い熱帯低気圧の呼称です。海面水温が26~27℃以上の比較的温度が高い海域で発生します。

台風の発達メカニズムは第2種条件付き不安定CISK:Conditional Instability of the Second Kind)と呼ばれ,対流雲発生に伴って放出される潜熱による地表面での気圧低下と,地表面での風の吹き込みによる収束と上昇気流の発生という,お互いがお互いの力を増強させる方向性で発達することが知られています。

よって,選択肢の記述は正しいと言えます。

 

(b)動径成分接線成分についての理解が求められます。

まず,動径成分というのは,中心からの方向に対してどれだけ近づいたか,あるいは離れたかを表す成分のことで,ベクトルを分解したときに中心から見てまっすぐな方向のベクトル成分になります(下図赤矢印)。

一方,接線成分は,円の軌道に沿って動いている成分のことです(下図紫矢印)。

台風のまわりを吹く風は,摩擦の影響を考慮しなければ傾度風とみなすことができます。しかし,地上から約1kmまでの大気境界層では地表面との摩擦の影響が大きく,風は台風の中心に向かって,円の接線に対してやや内側(低圧側)に傾いた方向に吹くことになります。

このため,地上との摩擦を無視できる自由大気では台風周辺の傾度風に動径成分は現れませんが,大気境界層では摩擦の影響で動径成分が無視できないほど大きくなります

よって選択肢の記述は正しいといえます。

 

尚,気象予報士試験では,台風の風の接線成分について聞かれることもあり,その接線成分の鉛直断面図は下の図のようになっています。濃い色が風速が大きいことを表しています。

この図から,台風周辺の風の接線速度は大気境界層の上の約2kmあたりで最大となることが分かります。そして,台風中心に近づくにつれて接線速度は大きくなり,遠ざかると小さくなります。台風中心から約100kmあたりで接線速度が最大になると言われています。こちらも同時に覚えておきましょう。

 

(c)上で述べたように,台風周辺に吹く風は,自由大気では傾度風とみなすことができます。低気圧周辺の傾度風は,

  低気圧性の傾度風:(気圧傾度力)=(遠心力)+(コリオリ力) ・・A

という式で書くことができます。

 

一方,地衡風は下のように表せます。

  地衡風:(気圧傾度力)=(コリオリ力) ・・B

 

ここで問題文から,A式とB式の気圧傾度力は同じであるということですので,A式のコリオリ力は,B式のコリオリ力に比べて小さい必要があります。コリオリ力は物体の移動速度に依存しますので,傾度風の風速は地衡風のそれと比べて小さくなる必要があるのです。

よって誤りであることが分かります。

 

まとめると,(a)正,(b)正,(c)誤 であるので,正解は②になります。

 

 

第10問 中層大気の風の分布・温度風

【正解】①

 

【解説】

温度風の関係から,高度の上昇とともに東風成分が増加する地点を問うものです。温度風には以下の特徴があります。

  〇北半球において,温度風ベクトルの右側は高温域,左側は低温域となる

  〇南半球では温度風ベクトルの右側で低温域,左側で高温域となる。

よって,北半球か南半球か,またその地点の左右どちらが高温域かを考えたら答えは見えてきます。

 

まず,問題の図で,どちらが北半球か南半球かを理解しましょう。

ここで着目するのが成層圏で,夏半球の成層圏上部は冬半球に比べて気温は高くなります。これは夏の極では太陽が沈まずに白夜となり,太陽放射を一身に浴びることができるためです。

成層圏上部は地上約30~50kmであり,気圧に直すと約10hPa~1hPaになります(気圧が10分の1になると,高度は約16km上昇する)。

このことから,図の左側が夏極(1月のデータなので南半球),右側が冬極(同,北半球)であることが読み取れるのです。

 

あとは温度風の関係を適用すると以下の図のようになります。

(A)地点Aは南半球に位置します。南半球では温度風ベクトルの左側で高温域,右側で低温域となるので,温度風ベクトルは緑色の矢印の方向に吹きます。これは東風ですので,高度の上昇とともに東風成分が増加します。

 

(B)地点Bは北半球で,極側で気温が低くなっています。北半球では温度風ベクトルの右側で高温域,左側で低温域となります。温度風ベクトルは水色の矢印の方向に吹き,西風ですので,高度の上昇とともに西風成分が増加することになります。

 

(C)地点Cは南半球です。極側で温度が低いので,温度風ベクトルは水色の矢印として表現できます。これは西風ですので,高度の上昇とともに西風成分が増加します。

 

よって,東風成分が増加する地点はAのみで,①が正解です。

 

 

第11問 エルニーニョ現象

【正解】③

 

【解説】

基本的なエルニーニョの知識があれば問題なく解くことができます。

 

エルニーニョ現象とは,太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなる現象のことです。

平常時(エルニーニョが起こらないとき)は,東南アジア側に暖かい海水があり,ペルー沖ではウォーカー循環に伴う東風が吹いて,湧昇水や寒流の影響で水温が低い冷水を赤道域へと広げるように働きます(下図)。

よって,平常時はアジア側で海水温が高く,そのため積乱雲も発達しやすくなります。アジア側(ダーウィンなど)では上昇気流により気圧は低くなり,一方太平洋東側(タヒチなど)は下降気流により気圧は高くなります。

 

一方,エルニーニョ現象が発生すると,東風が弱まり冷水が赤道域に広がらず,逆にアジア側の暖かい海水が流れ込みます(下図)。

この結果,アジア側では海水温が例年より冷たくなり,対流活動は不活発になります。アジア側(ダーウィンなど)では気圧は高くなり,太平洋東側(タヒチなど)は気圧は低くなるのです。

 

以上を踏まえて選択肢を眺めます。

(a)正。エルニーニョ発生時はアジア側で対流活動が不活発になり,降水量が例年に比べて少なくなります。

 

(b)誤。エルニーニョ発生時は,ダーウィンで気圧は高く,タヒチで低くなります

 

(c)誤。エルニーニョ発生時は,東風は弱まります

 

よって,③が正解。

 

 

 

■■■■■■■■

 

ここからは気象法規についての問題です。これは考え方うんぬんよりも,ただ単に頑張って覚えてくださいとしか言えません。私も頑張って覚えました。特に過去問から類似問題が出題されていますので,とにかく過去問を当たってください。

一応簡単に解説を載せておきます。

 

第12問 予報業務の変更

【正解】③

 

【解説】

(a)予報業務の目的又は範囲の変更は,気象庁長官の認可が必要です。届け出だけでは対応できません。誤。

 

(b)これは正解。予報業務の廃止は,廃止した日から30日以内に気象庁長官への届出が必要です。

(予報業務の休廃止)
第二十二条 許可を受けた者が予報業務の全部又は一部を休止し、又は廃止したときは、その日から三十日以内に、その旨を気象庁長官に届け出なければならない。

 

(c)事業所の名称を変更する場合には報告書を提出しなければいけません。誤。

ChatGPTによると,届出と報告書提出は以下の違いがあるようです。

  • 届出 = 「○○します/しました」と“通知”するだけの行為。行政庁は形式をチェックするだけで,基本的に許可・不許可の審査は行いません。

  • 報告書の提出 = 「○○の結果はこうでした」と内容を詳しく知らせる行為。行政庁(あるいは委任者)が内容を評価・把握・監督するために求めます。

 

よって,(a)誤,(b)正,(c)誤 であるので,正解は③になります。

 

 

第13問 気象予報士の設置

【正解】⑤

 

【解説】

(a)気象予報士自身が直接届ける必要はなく,予報業務許可事業者が届ける必要があります。誤。

(b)定番問題であり,単純な知識問題。

気象予報士の設置の基準)
第十一条の二 当該予報業務のうち気象又は地象の予想を行う事業所ごとに、次の表の上欄に掲げる一日当たりの現象の予想を行う時間に応じて、同表の下欄に掲げる人数以上の専任の気象予報士を置かなければならない。
一日当たりの現象の予想を行う時間
人員
八時間以下の時間
二人
八時間を超え十六時間以下の時間
三人
十六時間を超える時間
四人

 

2 法第十七条第一項の許可を受けた者は、前項の規定に抵触するに至つた事業所(当該抵触後も気象予報士が一人以上置かれているものに限る。)があるときは、二週間以内に、同項の規定に適合させるため必要な措置をとらなければならない。

その事業所が現象の予想を行う時間に応じて設置する専任の気象予報士の数は決められています。例えば,12時間の現象の予想を行う場合には3名以上の人員がいないといけませんよ,ということです。誤。

 

(c)これも定番問題。上の法律内容から,2週間以内に必要な措置をとらなければならない。誤。

 

よってすべて誤りで⑤を選びます。

 

 

第14問 予報と警報

【正解】④

 

【解説】

警報なのか,特別警報なのかを読み取ります。警報と特別警報では,各機関の役割が変わるためです。

(a)今回は(特別警報を除く)警報なので,各機関の役割は下の図のようになります。国土交通省海上保安庁の機関が省略されてますが,警察庁消防庁などと同じ対応です。

義務となるのは,気象庁による住民および各機関への伝達,NHKによる住民への放送

第十五条 気象庁は、気象、地象、津波、高潮、波浪及び洪水の警報をしたときは、政令の定めるところにより、直ちにその警報事項を警察庁消防庁国土交通省海上保安庁都道府県、東日本電信電話株式会社、西日本電信電話株式会社又は日本放送協会の機関に通知しなければならない
2 前項の通知を受けた警察庁消防庁都道府県、東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の機関は、直ちにその通知された事項を関係市町村長に通知するように努めなければならない
3 前項の通知を受けた市町村長は、直ちにその通知された事項を公衆及び所在の官公署に周知させるように努めなければならない
4 第一項の通知を受けた国土交通省の機関は、直ちにその通知された事項を航行中の航空機に周知させるように努めなければならない
5 第一項の通知を受けた海上保安庁の機関は、直ちにその通知された事項を航海中及び入港中の船舶に周知させるように努めなければならない
6 第一項の通知を受けた日本放送協会の機関は、直ちにその通知された事項の放送をしなければならない

よって,都道府県は努力義務(「努めなければならない」)なので,「しなければならない」という表現は誤りです。

 

(b)予報業務許可者は,利用者に警報事項を迅速に伝達することを求められますが,義務ではありません。よって「努めなければならない」という表現は正しい。

 

(c)これもややこしいですが,気象庁が予報や警報を「しなければならない」のか「することができる」のかは,その目的によって違ってきます。

気象業務法を読むと,以下のように記載されています。

(予報及び警報)
十三条 気象庁は、政令の定めるところにより、気象、地象、津波、高潮、波浪及び洪水についての一般の利用に適合する予報及び警報をしなければならない

2 気象庁は、前項の予報及び警報の外、政令の定めるところにより、津波、高潮、波浪及び洪水以外の水象についての一般の利用に適合する予報及び警報をすることができる


第十四条 気象庁は、政令の定めるところにより、気象、地象、津波、高潮及び波浪についての航空機及び船舶の利用に適合する予報及び警報をしなければならない
2 気象庁は、気象、地象及び水象についての鉄道事業、電気事業その他特殊な事業の利用に適合する予報及び警報をすることができる

第十四条の二 気象庁は、政令の定めるところにより、気象、津波、高潮及び洪水についての水防活動の利用に適合する予報及び警報をしなければならない

よって,「航空機及び船舶の利用に適合する予報及び警報をしなければならない」のであって,「することができる」と書かれている記述は誤りです。

 

(d)上の警報事項の伝達の流れで示したように,「国土交通省の機関は、直ちにその通知された事項を航行中の航空機に周知させるように努めなければならない」のであって,義務ではありません。誤り。

 

(a)誤,(b)正,(c)誤,(d)誤 であるので,正解は④になります。

 

 

第15問 災害対策基本法

【正解】④

 

【解説】

受験していて,さすがに細かいところ突いてきたなと思った問題。災害対策基本法の中身をちゃんと読み込んでいる方はほとんどいないのでは。

 

良心的なのは,誤っている選択肢をどれか一つ見つけなさい,という形式になっていること。さすがに出題者側も,それぞれの正誤まで問うのは正答率が低くなりすぎると判断したのかもしれません。

 

さて,問題ですが,災害対策基本法では,中央防災会議は,1年ごとに防災基本計画について見直し,必要があれば修正しなければいけないと定められています(第34条1項)。よって,「5年ごと」と記載されている(d)だけは明らかに誤りです。正解として④を選びます。

 

災害対策基本法については下記にそれなりに詳細に調べて記事にしていますので,ご参考にしてください。

 

 

さいごに

以上で,一般知識の振り返りは終了です。

私は第2問の計算ミス,第7問の直方体の長さの見落としから,2問不正解で合計13点でした。

 

ちなみに,私の一般知識の解き方は以下の通りです。これは,過去の試験での失敗から導き出した,私にとって最も精神的負担が少ない解答方法です。

 

☀☀☀☀☀☀

まずは記憶が新しいうちに,気象法規関連の問12~15を先に解きます。単純な知識問題から取りかかることで,頭をウォームアップさせる意図もあります。ただし,この段階ではマークシートには記入せず,問題用紙に各選択肢の〇✕や正解と思う番号をメモするだけにとどめます。

次に,問1~11についても同様に〇✕をメモし,正解だと思う選択肢をチェックしますが,やはりマークシートには記入しません。

その後,問1からもう一度解き直し2周目に入ります。もし,1周目の考え方の誤りに気づいたら,該当する問題にチェックを入れます。1周目と2周目で答えが変わった問題については,3周目として再検討します。時間的余裕があれば全問題に3周目の見直しを行い,最終確認します。

このようにして,最終的に納得のいく解答を得てから初めてマークシートに記入します。マークシートも塗りミスやズレがないか3回ほど確認します。

☀☀☀☀☀☀

 

最初からマークシートを塗らないのは,一度正解と塗りつぶした解答を消して変更する際の心理的負担が大きく(後ろ髪を引っ張られながら答えを修正する経験が多々あった,もしかしたら変更前の選択肢が正しいかもという動揺も大きい),それが試験中の集中力を乱す原因になるためです。

共感される方がいらっしゃたら,ぜひ試してみてください。

 

ただ,2周目・3周目する時間的余裕がないよって方は,1つ1つ確実にマークシートに記入した方が良いです。

大切なのは,自分にとって最も負担が少なく正解数を稼ぐ方法を見つけることです。

 

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。