ここ最近バタバタしており,ようやく少し落ち着いたので勉強を少しづつ再開していきます。気象の勉強への熱量が少し冷めつつあったので,リハビリがてら数値予報について書き記していくことにします。
だいぶ以前に勉強していた気象の予報の続きになります。
今回は数値予報について勉強する前に,大気のカオス的性質について学んでいきます。
カオスとは
物事の収拾がつかない状況や,さまざまなモノが入り混じった状態のことを「カオス(混沌)」と言ったりします(ex. 群衆が集まってその場はカオスと化した,合コンのメンバーがカオスだった,など)。
一方,物理学や気象学などの力学系における「カオス」という言葉は,「初期値がわずかに違ったときに,その後に巨大な差となって表れる予測不可能性」のことだと理解したら分かりやすいかと思います。
身近な日常の中でカオス性に気がつくことはあまりありませんが,多重振り子などを使うとカオス性が現れることはよく知られています。ご興味ある方は下の動画をご参考。
最初の手を放す位置がわずかに(例えば角度が0.001度)ズレただけで,(開始直後はほとんど動きに差がないと思われたものの)時間が経つとともにその差が大きく広がっていくのが分かります。
こういった性質のことを,気象学者のエドワード・ローレンツによる,「蝶がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の気象に影響を与えるか?」という問い掛けからバタフライ効果(バタフライエフェクト)と表現することもあります。
歴史を振り返ってみても,豊臣秀吉の祖父母という名もなき男女が出会わなければ,豊臣秀吉は歴史上に現れなかったでしょうから今の日本は大きく変化していたことでしょう。このように歴史の名もなき人間の行動が実は大きく世界を変えることになっているのもカオス的性質と似ていますね。
そして気象の世界でも,大気にはカオス的性質があり,初期値が少し違ってくるだけでも大きく結果が異なってくるのです。
カオスと天気予報の難しさ
気象予報は,気温,気圧,空気密度,風ベクトル,湿度などの気象要素から運動方程式や質量保存則,熱力学の式,状態方程式などの物理法則を立てて,コンピューター上で未来の大気状況を計算させます。これを数値予報と呼びます。
しかし,このような数式を立てても現在の天気予報は必ずしも当たるわけではありません。ニュースで,午後から雨が降るという予報を聴いて,傘をもって出かけたものの,結局雨は降らなかったということはよくある話です。
そして,この天気予報が外れる理由には,その予測の難しさがあるようです。
例えば,数式を立てるにしても地球上のあらゆる場所の気象要素を記述することはできません。完全な予報を立てようとするのなら,少なくとも一個一個の分子の動きまでをも説明できるような完璧なモデルをつくることが求められます。でもそんなことは今の科学力・計算力ではなかなか難しいのです。そのため,現在の天気予報では,地表を数kmという単位の幅をもった格子に分割して,その格子に周辺の平均的な気象要素の値を割り振ることで計算させているのです。そのためざっくりとした計算にしかなっていないのです。
また仮に,分子1個1個の動きまでをも予測し得る完璧な予報モデルができたとしても天気予報が完璧に未来を予測することは難しいと言います。それは大気には「初期値がわずかに違ったときに,その後に巨大な差となって表れる予測不可能性(カオス的性質)」があるためです。
例えば,ある地点の気温の観測値(温度計の値)が14.3℃だったとしても,真の気温の値は14.321...℃だったかもしれません。そこには0.021...℃の誤差があります。小数点10桁まで求められる温度計があったとして14.3218715926℃と表示されたとしても,真の値は14.32187159267332...℃と実際にはもっと数字が連なるでしょうから,そこにはやはり誤差があります。
わずかな誤差と思うかもしれませんが,冒頭の多重振り子の動きのように,それらの値を用いて計算を進めていくと,時間が経つにつれてその誤差はどんどん目に見える形で広がっていくのです。
このように,観測する以上はどんなに精密と言われている機器であろうと必ずそこには誤差が伴いますので,カオス的性質をもつ天気を正確に未来予測することはどんなにコンピューター科学が進歩しても本質的に不可能なのです。
どんなに良いモデルを用いたとしても,天気予報の予報可能な期間の限界は2週間程度ではないかと考えられているようで,それより先の予想は難しいのだそう。
「予報が全然当たんねぇじゃねえか!」と目くじらを立てている方も,こういった話を聞けば少しばかり天気予報に寛容になれるんじゃないでしょうか。
アンサンブル予報
予報モデルの天気予報の限界が2週間程度であるのなら,1か月予報とか3か月予報といった長期的な予報は意味をなさないことになります。しかし実際には気象庁からは1か月予報とか3か月予報が発表されています。これはどうしてでしょうか?
実は気象庁では,初期値にごくわずかなノイズを与えた複数の初期値を準備して,それらの平均をとることで予報誤差を抑えているようなのです(下図,それぞれの線がわずかに異なる初期値から予測された気温の値。初期値を少し変えただけでも後半でバラツキが大きくなっていることが分かる。予測に伴う誤差とアンサンブル予報 | 気象庁 (jma.go.jp)より)。
このような予報は「アンサンブル予報」と呼ばれて,将来最も起こりやすい気象現象を把握することができ,週間天気予報や台風予報や1か月予報などの長期的な天気予報に活用されているそうです。
特に長期的な予報(1か月予報とか3か月予報)においては,アンサンブル予報を用いてある日の気温や天気をピンポイントに算出するのではなく,平年と比較してどのくらいの確率で高くなるか低くなるかという,気象現象の発生を確率的に計算することで未来の大気状態の大きな傾向をとらえています。
では次回から,詳細に「数値予報」について見ていくことにします。
【まとめ】学習の要点
ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 物理学や気象学などの力学系における「カオス」という言葉は,「初期値がわずかに違ったときに,その後に巨大な差となって表れる予測不可能性」のこと。
- 大気にはカオス的性質があり,初期値が少し違ってくるだけでも大きく結果が異なってくる。
- 天気予報が外れるのは,モデルの精度だけではなく,初期値の誤差が大きく関係する。この大気のカオス的性質から,未来の長期的な気象を予測するのは本質的に不可能。
- どんなに良いモデルを用いたとしても,天気予報の予報可能な期間は2週間程度と見積もられている。
- 初期値に含まれる微小な誤差が時間経過とともに成長することを利用して,長期的な予報には「アンサンブル予報」を用いることで,微小な誤差を与えた初期値を複数用意し計算させ平均し,単独のモデルよりも予報精度を向上させる工夫をしている。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部参考にさせていただきました。