Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【天気図】2024年8月の台風

 

2024年も台風シーズンがやってきました。特に今年初めて日本に上陸した台風5号(MARIA)は東北地方を直撃しました。

今回の台風は東北地方から上陸したということで,見慣れない進路をとりましたが,1951年の統計開始以来で北太平洋側から上陸した台風は,今回のもので3例目だったそうです(残り2つは,2016年台風10号と2021年台風8号)。なるほど道理で見慣れないわけですね。

 

 

台風の接近と上陸

まずはこの台風について上陸の数日前からアニメーションとして追ってみました。

台風は日本の東の海上を北上し,やがて東北地方の東の沖合に到達します。その後上陸し熱帯低気圧に変わって日本海を北上していったようです。特徴的なのが移動速度が遅いこと。

この台風について,地上天気図では英文情報として記載されていましたので,下に抜粋したものを載せておきます。

 

8月11日 日本時間21時(上陸約12時間前)

移動速度は「西にゆっくり(WEST SLOWLY)」と示されています。SLOWLYとは,速度が5ノット以下の場合に記述されるので,たしかに台風の移動速度は遅そうです。台風の移動速度は東京周辺で平均15ノットくらいだそうです。

また,中心気圧は980hPa,中心付近の最大風速は50ノット,最大瞬間風速は70ノットであることも読み取れますね。

 

8月12日 日本時間9時(上陸した直後)

移動速度は「北西に9ノット(NW 09KT)」ですね。

ややスピードを上げて北西に移動し,中心気圧は990hPaと気圧は若干浅まっているものの,中心付近の最大風速は50ノット,最大瞬間風速は70ノットと12時間前と同程度の風速を保っていました。

8月12日 日本時間21時(上陸約12時間後)

その12時間後には中心気圧は998hPaとなり,中心付近の最大風速は35ノット,最大瞬間風速も50ノットと勢力としては徐々に弱くなっていったのが分かります。

中心付近の最大風速が34ノット未満になると熱帯低気圧となるので,この後台風は熱帯低気圧に変わったようです。

 

台風のスピードが遅いということは,それだけ日本に居座る時間も長くなるということなので,被害も大きくなる可能性があるということを私たちは想定しなければいけません。

 

台風の進路

今回の台風が特徴的だったのは,そのスピードだけではなく進路です。冒頭でも述べた通り,統計開始以来3例目の東北太平洋側からの上陸台風だったということです。

ちなみに台風の進路は月別に見ると概ね下のようになっており,一般的には日本の西の方から接近して,7~8月に沖縄方面に多く8月から9月に本州に多く接近する傾向があります。平均的な年間の台風接近数で見ると,沖縄が最も多く,次に伊豆・小笠原諸島が多いようですよ。

台風の月別の主な経路

今回のように東の方角から日本に接近して,北西へと進んで日本列島に上陸するというのは非常に珍しいことだったようです。

では台風が,上記のような稀な進路をとった原因はどのような点にあったのでしょうか?私の気象のお勉強がてら少しばかり深掘りしてみることにします。

天気図を眺める

ここ最近非常に暑い日が続いてますね。地上だけではなく海面水温を見てみると(下図),海水温は西日本では30℃を超えています。これは海水浴というより,もはやぬるめの露天風呂ですね。

気象の教科書的には,熱帯低気圧は海面水温が26~27℃の海域で発生するといわれています。 また,海水温が30℃を超えると台風の発達も助長されるようです。十分な水蒸気を含むことで,大量の潜熱が放出され,それが台風のエネルギー源になるのでした。

weatherlearning.hatenablog.jp

東北地方付近を見てみても27~28℃くらいの海水温があるので,台風は北に進んでも勢力を維持することができたと考えられます。もちろん海水温だけで台風の勢力は維持されるわけではなく,風の鉛直シアーが小さかったりと他の様々な要因からも影響を受けるようですが。

 

それでは,今回の台風の進路について考えてみましょう。

まずは地上天気図。こちらは8月11日 日本時間9時のものです。

東北地方近海には明瞭な台風の渦がありますね。また,日本の南には「TD(Tropical Dipression)」と記載された熱帯低気圧も2つあるのが確認できます。海水温が高い南の海で順調に台風の卵が育っているのです。

 

そして日本の東には太平洋高気圧。移動速度は「ALMOST STNR(ほとんど停滞)」となっており,背の高い高気圧が東にドンと居座っていることが読み取れます。

そうなると,通常は東へと進むはずの台風の前に,高気圧が通せんぼしているわけですから,台風は迂回しなければいけません。このとき高気圧周辺では高気圧性の循環をもった時計回りの風が吹いているので,台風はそちらの迂回経路の指示通りに進路変更を余儀なくされるわけです。高気圧「裏から回れや」,台風「へい,親分」みたいな感じかと。

上は500hPaの実況の高層天気図ですが,太平洋高気圧が北の方に位置していたことで,高気圧を回る風が台風から見て南東側から吹き込む形になり,結果的に台風は北西進したと考えられます。

 

また,天気図を見ると台風周辺の等高度線の幅が広くなっていることから,気圧傾度が小さく,風も弱かったことが推察されます。

気圧傾度力が小さく風が弱かったことが,今回の台風の速度が遅かった理由の一つになっているのではないでしょうか。

 

また,通常の台風は偏西風に乗って日本付近でその速度を速める傾向がありますが,下の500hPaの渦度分布を見てみても,偏西風と台風との距離が少し離れていることが見て取れます。

赤線あたりに渦度0線があって強風軸(その高度における偏西風の速度の極大域)に対応しているはずですが,台風はその強風軸の南側に位置しており,偏西風にうまく乗れなかったことも速度が遅かった大きな原因だと考えられます。

台風の被害

台風5号については,徐々にその被害の全容がつかめてきたようです。東北地方の一部の地域では降水量が史上最大記録となり,浸水被害も広い地域で出たようです。

 

台風による大雨や強風・暴風に注意することは当然のことですが,台風の怖いところは遠く離れていたとしても被害が出る危険性があるという点です。

下のような記事が出ていました。

www.yomiuri.co.jp

茨城県の海水浴場(台風の接近に伴い当時遊泳禁止だった)で,遊泳していた2名の男性が波にさらわれたのです。台風中心から少しは距離があったとはいえ,沿岸部では高潮や高波に特に注意で,こういう時に遊泳するのは非常に危険です。

上の図のように,台風中心から500km程度離れていても波が高く注意が必要なのです。特に,台風域で発生したうねりは波長が長く減衰しにくいため,遠く離れた海域まで伝播しやすく警戒が必要になります(※うねり+風浪=波浪)。

weatherlearning.hatenablog.jp

同様に,台風中心から離れていたところでも強い風が山の斜面に吹き付けたりすると,空気の上昇により積乱雲が発達しやすく大雨は降りやすくなるので,離れているからと言って安心できないのです。

 

とりあえずここまで。まだまだ気象については勉強中で,考察も不十分かもしれませんが,日々の天気図を自分なりに深読みして日常の天気予測くらいはできるようになりたいと思っています。

今回と似たような記事を以前書いていましたのでご参考まで。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

天気図理解のメモ
  • 北太平洋側から上陸する台風は珍しい。
  • 台風のスピードが遅いと被害も大きくなる危険性がある。
  • 一般的に台風は,日本の西の方から接近して,7~8月に沖縄方面に多く8~9月に本州に多く接近する。
  • 平均的な年間の台風接近数で見ると,沖縄が最も多く,次に伊豆・小笠原諸島が多い。
  • 太平洋高気圧の位置から周辺の風の流れを推定でき,台風の進路について考察できる。
  • 気圧傾度力から風の強さを考察できる。
  • 台風は偏西風に乗って日本付近でその速度を速める傾向がある。
  • 渦度0線から強風軸を推定し,台風との距離を測定することで台風の移動について考察できる。
  • 台風中心から離れていても,海上ではうねりなどの影響で波が高くなっており海難事故には注意する必要がある。
  • 台風中心から離れていても,強い風が山の斜面に吹き付けると空気の上昇により積乱雲が発達しやすい。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考にさせていただきました。