Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【天気図】天気図の中の台風

 

今回は,天気図の中に描かれる台風について勉強していきます。

 

 

天気図の中の台風情報

台風については以前勉強しました。まずはここをちゃんと理解した上で天気図における台風を見ていきます。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

下の天気図は2023年9月1日日本時間午後9時の地上実況天気図(ASAS)の一部を切り出したものです。

日本列島の南側,北緯22度~23度付近に3つの台風があるのが分かりますね。

そして下には何やら文字も書かれています。これらの記述から台風の強さや大きさなどの情報が読み取れるようです。

 

まずは最も西側にある台風について。発達中の低気圧や台風の場合には,中心位置などの情報が英文記事として天気図上に記入されています。英文情報を見てみますと,以下のように記述されています。

この記述は何を表しているのでしょうか。

ここからは,この英文情報について詳細に見ていくことにします。

 

台風の分類・名称

まず,1行目の「T 2309 SAOLA(2309)」について。

最初の「T」という文字は最大風速64ノット(33m/s)以上の台風のことで,気象庁の定める「強い台風」以上に相当するものを指します(下図;気象庁|アジア太平洋域 実況天気図の説明 (jma.go.jp)より一部改変)。

台風や熱帯低気圧の表現としては,「T」の他にも,「TD」や「TS」,「STS」があります。「TD」はTropical Depression のことで,最大風速34ノット(17.2m/s)未満の熱帯低気圧のことです。

TS」(Tropical Storm),「STS」(Severe Tropical Storm),「T」(Typhoon)は台風に相当し,中心付近の最大風速がそれぞれ,34ノット以上48ノット未満,48ノット以上64ノット未満,64ノット以上となります。

 

そして「2309」というのは,2023年台風9号を指し,「SAOLA」というのは台風につけられた名称です。熱帯低気圧が台風に変わると(最大風速が34ノット以上になると),その台風には名前が与えられるのですね。

2000年1月1日から台風には「アジア名」が用いられ,カンボジア → 中国 → 北朝鮮 → 香港 → 日本 → ラオスマカオ → マレーシア → ミクロネシア連邦 → フィリピン → 韓国 → タイ → アメリカ → ベトナム(計14か国)の順で命名権が回ってくるようですよ。ちなみに日本が命名した台風としては,「コイヌ」「ヤギ」「ウサギ」「カジキ」「コト」「クジラ」「コグマ」「コンパス」「トカゲ」「ヤマネコ」の10個があります。アジア名は14か国が各自10個の名称を出して140個決められており,141個目から最初の名称に戻って1巡する構成になっているのだそうです。

この「SAOLA(サオラ)」という台風は一番最後の140個目の名称だったようで,次に発生した2023年台風10号は「DAMREY(ダムレイ)」と1番目の名称に戻りました*1

 

台風の気圧と位置

英文情報の2行目の「950 hPa」。これは分かりやすいですね。台風の中心気圧を表します。

 

そして3行目の「22.0N 114.4E PSN GOOD」は台風の位置について書かれています。この場合なら,北緯(North latitude)22.0度,東経(East longitude)114.4度に台風の中心位置があるということです。

PSN」とは,position(位置)のことで,中心位置の確度で分類され,「Good」なら中心位置は「正確(誤差30海里≒55km以下)」,「Fair」なら「ほぼ正確(誤差30海里超~60海里≒110km以下)」,「Poor」なら「不確実(誤差60海里超)」となっています。今回の台風SAOLAの推定された中心位置の確度は正確だったということですね。

 

台風の進行方向・移動速度

現在の台風の位置が分かっても,今後どのような進路を進むかが気になるところです。

位置情報の次の4行目には,台風の進行方向と移動速度が書かれていました。

WEST 08KT」とは,西に8ノットで進んでいるということです。

進行方向については16方位で示され,「ESE」なら東南東,「NNW」なら北北西,「NW」なら北西といった感じです。速度もノットで示され,移動がゆっくり(速度が5ノット以下)であれば具体的な数値ではなく,「SLW」(ゆっくり)や「ALMOST STNR」(ほとんど停滞)と記載されることもあります(速度が5ノット以下でも,「ゆっくり」は進行方向が定まっている場合「ほとんど停滞」は進行方向が定まっていない場合に用いられる)。

 

最大風速・最大瞬間風速・平均風速

次は5行目。「MAX WINDS 90 KT NEAR CENTER」とあります。

「MAX WINDS」とは最大風速を表しており,中心付近(NEAR CENTER)の最大風速が90ノットに達していることが書かれています。

このSAORAという台風は,この時点で「T」という分類がされており,最大風速が64ノット(33m/s)以上の台風ではあるのですが,詳細な風速の値についてはここで言及されるのですね。

台風の強さは中心付近の最大風速に則って分類されており,64ノット以上なら「強い台風」85ノット以上なら「非常に強い台風」105ノット以上なら「猛烈な台風」と表現されます。

今回は中心付近の最大風速が90ノットということで,85ノット以上105ノット未満になり「非常に強い」勢力となっているのが分かります。

 

そして「GUST」は最大瞬間風速のことで,「GUST 130 KT」から最大瞬間風速130ノットを記録しているということですかね。

 

そして最後の2行。

OVER 50 KT WITHIN 50 NM」。

これは風速50ノット(ここは平均風速のこと。最大風速でも瞬間風速でもない)以上の風が50海里以内に吹いているということです。NMというのは海里のことで,Nautical Mileの略です。

平均風速50ノットはだいたい25m/sですので,この領域が暴風域に対応します(暴風域は平均風速25m/s以上の風が吹く領域と定義されている)。

 

そして「OVER 30 KT WITHIN 120 NM」。

こちらは風速30ノットの風が120海里以内に吹いているということです。平均風速30ノットはだいたい15m/sですので,この領域が強風域に対応します強風域は平均風速15m/s以上の風が吹く領域と定義されている)。

そして,台風の大きさは強風域の半径の大きさで表されるのでした。

よって,このSAOLAのこの時点の大きさは,半径120海里(だいたい半径222km,1海里=約1.852km)と計算されます。

強風域の半径が500km以上なら「大型の(もしくは大きい)台風」800km以上なら「超大型の(もしくは非常に大きい)台風」と呼んだので,今回の台風は非常に強い勢力を持っているものの,大きさはそれほど大きいというワケではなさそうです。

 

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それにしても,気象の世界ではノットであったり,海里であったりと単位が非常にややこしいですね。SI単位系に統一することはできないものなんでしょうかね。いろいろと不具合も出てきそうに思いますが,実際に気象に携っておられる方々からすると今の単位に慣れてしまって単位を変えるのは逆に困るんでしょうか。

まぁノットとか海里って言葉が海っぽくてカッコイイってのはその通りなんですけどね。

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話を天気図に戻しますが,上記の他にも前回見てきた海上台風警報[TW])が発表されていることも確認できます。

weatherlearning.hatenablog.jp

たった一枚の天気図から,さまざまな情報が得られるので,日々眺めていると大変勉強になるかもしれませんね。

 

他の台風について

ここまでは一番西に位置する台風を見てきましたが,最後は復習がてら他の台風情報についても見ていきましょう。

 

見るのは天気図の一番東側にある台風「KIROGI」について。

「2312」という数字から,2023年台風12号になります。

こちらは「TS」なので中心付近の最大風速が34ノット以上48ノット未満の台風になります。「DOWNGRADED FROM STS」と書かれていることから,「STS」から勢力が弱まったことが読み取れます(逆に勢力が強まった場合は,「UPGRADED FROM TS」などと記述されます)。

中心気圧は994hPa。

台風の中心は北緯23.0度,東経149.8度に位置し,推定された位置の確度は「ほぼ正確」となっています。

現在15ノットの速さで北西へと進んでおり,中心付近の最大風速は45ノット(当然「TS」の定義される最大風速範囲内の値になる),最大瞬間風速は65ノットとなっています。

そして,台風の北東側180海里以内およびその他120海里以内で風速30ノットの風が吹いているということも分かるのです。

 

 

 

天気図理解のメモ
  • 発達中の低気圧や台風の場合には,中心位置などの情報が英文記事として天気図上に以下のように記入される。

  

  • 台風分類,名称,中心気圧,中心位置,進行方向・速度,風速(最大風速・最大瞬間風速・平均風速)の情報が記載される。
  • 移動速度が5ノット以下の場合,進行方向が定まっているなら「ゆっくり」,進行方向が定まっていないときは「ほとんど停滞」という表現が用いられる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:台風の名称140個についてはずっと同じ名称ではなく,一部変更もなされるようです。例えば過去に甚大な被害をもたらした台風については,その名前を刻みこんでおくためにもそれ以降は同じ名称は使用しないようにする慣例があるようです