2023年ももう6月になりました,早いですね。
沖縄・九州北部・四国・近畿・東海地方などが5月中の早い梅雨入りとなり,さらに6月1日現在,台風が奄美地方を通過しています。
気象を身近で学ぶ機会でもありますので,今回からは熱帯低気圧と台風について勉強していくことにします。
熱帯低気圧と発生場所
熱帯低気圧とは,その名前のとおり「熱帯から亜熱帯の海洋上で発生する低気圧」のことです。熱帯域で誕生した低気圧を総称してこのように呼んでいるのですね。
熱帯低気圧も勢力が強くなると,日本に来る「台風」やアメリカを襲う「ハリケーン」などと,呼ばれ方も変わってきますが,熱帯低気圧の一つであることには変わりないのです。
熱帯低気圧が発生するのは海水温が26~27℃と比較的高い海上です。ただし,赤道上では熱帯低気圧が生まれることはありません。
下の図は熱帯低気圧が形成される場所を示したもの(オレンジ領域)ですが,海水温がもっとも高そうな赤道上にはその領域が認められないことが分かります。
How Do Hurricanes Form? | NASA Space Place – NASA Science for Kids
この理由は,赤道近くではコリオリ力の作用が小さいため。
コリオリ力というのは,(地球の自転の影響によって)地上で動いている物体の進路が曲がるように働く力のことです。
復習となりますが,単位質量あたりに働くコリオリ力の大きさの式は,物体の速度 と,その地点の緯度 を用いて
(ただし, は地球の自転の角速度)
と表せます。
赤道は緯度が0度なので, より,働くコリオリ力の大きさも となるのです。
よって,風を曲げる(すなわち回転を生み出す)力が働かないため,赤道上で熱帯低気圧が生まれることはありません。
一方,緯度が大きくなってくるとコリオリ力も大きくなるので,熱帯低気圧が発生しうる環境が整います。多くの熱帯低気圧は南北それぞれの緯度10~15度の海域で生まれるのだそうです(ちなみに南米の西の海域や,アフリカの西の海域でオレンジ領域が見られないのは,ここに寒流が流れており十分に海水温が上昇しないためです)。
熱帯低気圧の発達メカニズム
熱帯低気圧の発生には高い海水温およびコリオリ力の作用が重要だということを学びました。
では,どのようにして生まれた低気圧が発達していくのかについて学んでいきます。
まず高い海水温だと何故台風が発達しやすいかということですが,それは空気が湿っているためです。空気が湿っていると何が起こるかというと積乱雲などの対流雲ができやすくなります。何らかの要因によって(例えば地上での空気の収束など)上昇気流が生じると,大量の水蒸気を含んだ空気は上昇に伴う気温低下により凝結し積乱雲などが形成されるのです。
雲ができたら,それにより熱が生まれます。潜熱です。
水の状態変化に伴って熱が発生すると(ここでは水蒸気から水に変わる凝結熱が放出される),雲の中は暖かくなります。
暖かい空気は密度が小さいため,上空には軽い空気が多く存在することになります。
(気圧)=(上空の空気の重さ)÷(その重さがかかっている面の面積)
ですので,空気が軽くなれば気圧も低くなります。すなわち積乱雲の下では気圧が下がるのです。
気圧が下がれば,周囲の相対的に気圧が高いところから空気が流入してきますので,それによって空気は収束し上昇気流を形成するという循環が起こります。ざっくりと図にすると下のようになりますかね。
以上のような過程を繰り返すことによって大気は渦を巻きながら熱帯低気圧が発達し,やがて台風やハリケーンにまでなるのです。
このように,対流雲発生に伴って放出される潜熱による地表面での気圧低下と,地表面での風の吹き込みによる収束と上昇気流の発生という,お互いがお互いの力を増強させるようなメカニズムのことを第2種条件付不安定(CISK)と呼びます。
そのままいくと無限に勢力が強まりそうですが,もちろんそんなことはなく,海水温が低く水蒸気が少ない海上にたどり着いたり,陸地に上陸して海水からの水の蒸発が断たれたりしたときには当然熱帯低気圧は弱まることになります。
熱帯低気圧の分類と違い
最後は熱帯低気圧の分類について。
冒頭で台風やハリケーンなども熱帯低気圧の一部だと言及しました。ほかにもサイクロンなどがありますがこれらの違いは何でしょうか。
結論を言ってしまうと,それは熱帯低気圧が存在する地域による違いです。
上の図のように,東アジアでは台風,北インド洋・オーストラリアではサイクロン,北米ではハリケーンといったように大きく地方によって分類できるのです。
すなわち,これらは名前の呼ばれ方こそ違うものの,本質的には同じ熱帯低気圧であるということです。
一方で,(熱帯低気圧の中でも勢力が大きくなったものを台風だったりハリケーンだったりサイクロンだったりと呼ぶわけですが)そう呼ばれるための基準値には差があります。
下の表にまとめてみました。
名称 |
発生地域 | 定義 |
---|---|---|
台風 | 東アジア | 北西太平洋または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち,低気圧域内の最大風速が約17.2 m/s(34ノット)以上にまで発達したもの |
ハリケーン | 北米 |
下記のいずれかの地域で発生した熱帯低気圧のうち,最大風速が約33 m/s(64ノット)以上にまで発達したもの
|
サイクロン | 北インド洋 | ベンガル湾やアラビア海などの北インド洋に存在する熱帯低気圧のうち,最大風速が約17.2 m/s(34ノット) 以上になったもの |
まず日本人にとっては最も身近な台風ですが,台風とは「北西太平洋または南シナ海に存在し,かつ低気圧域内の最大風速が約17.2 m/s(34ノット)以上にまで発達したもの」であるとされています。
簡単に言うと,場所と風速の強さで,ただの熱帯低気圧なのか台風なのかの呼び方が変わるということですね。最大風速(ある一定時間における10分間の平均風速の中での最大値)が17.2 m/sというのが台風の基準なんですね。ではハリケーンはどうでしょうか?
ハリケーンは,
「下記のいずれかの地域で発生し,かつ最大風速が33 m/s(64ノット)以上にまで発達した熱帯低気圧」のことを指します。
台風と同じように,場所と風速の強さで名前が変わるんですね。
最大風速が台風に比べて2倍程度もありますよ。ここで注意が必要で,この基準はアメリカのものであり,アメリカでは日本と「最大風速」の定義が異なるのです。
日本では10分間平均の風速を元に算出されるのが「最大風速」ですが,アメリカでは1分間平均の風速から計算して「最大風速」としているのです。一般的に風速の平均は時間を長くとればとるほど小さくなる(一時的な強風も平均化される)ため,ハリケーンの基準と台風の基準との単純な比較はできないのです。
概算で日本の基準に直してあげると,だいたい(アメリカ基準の最大風速)33 m/s は (日本基準の最大風速)26 m/s 程度と計算できます。同じ土俵で比べても,アメリカの方が台風よりも風速が強いのですね。
アメリカのハリケーンの大きさや被害のスケールが日本と比べて大きいなとは薄々感じていましたが,そもそも台風とは異なる(台風よりも強い)基準を設けているため,そう感じるのも納得です(もちろんそれ以外にも,建物の設計だったり,地形などの環境による被害への影響の違いもあるとは思いますが)。
最後はサイクロン。インド洋北部・インド洋南部・太平洋南部で発生する熱帯低気圧で,最大風速が約17.2 m/s(34ノット)以上にまで発達したもののことを指すようです。ただし,ただの低気圧のことを単に「サイクロン」と呼ぶなど,使われ方もさまざまのようです。
【まとめ】学習の要点
ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 熱帯から亜熱帯の海洋上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」という。
- 台風・ハリケーン・サイクロンも同じ熱帯低気圧の一つ。
- 多くの熱帯低気圧は南北それぞれの緯度10~15度の海域で発生する。これは赤道上ではコリオリ力の作用がなく回転が生まれないため。
- 熱帯低気圧は潜熱がエネルギーとなって発達する。
- 潜熱による地表面での気圧低下と,地表面での風の吹き込みによる上昇気流の発生という,お互いがお互いの力を増強させるようなメカニズムのことを第2種条件付不安定(CISK)と呼ぶ。
- 台風;北西太平洋または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち,低気圧域内の最大風速が約17.2 m/s(34ノット)以上にまで発達したもの。
- ハリケーン;大西洋北部・大西洋南部・太平洋北東部・太平洋北中部で発生した熱帯低気圧のうち,最大風速(アメリカ基準)が約33 m/s(64ノット)以上にまで発達したもの。
- サイクロン;インド洋北部・インド洋南部・太平洋南部で発生する熱帯低気圧で,最大風速が約17.2 m/s(34ノット)以上にまで発達したもの。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p352-p363
- 『気象予報士かんたん合格テキスト』技術評論社 p263-p268
- How Do Hurricanes Form? | NASA Space Place – NASA Science for Kids
- 台風、ハリケーン、タイフーン、サイクロンの違いとは? | お天気.com (otenki.com)