Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第63回 台風の進路と風向きの変化

 

台風回の最後です。

2023年6月初旬に日本に接近してきた台風2号。今回はこの情報をもとに勉強していきたいと思います。

 

 

台風の進路予測

下の図は2023年5月26日21時を起点とした,世界各国の気象機関が計算した台風の進路シミュレーション結果を表したものです。1本1本の線がそれぞれの研究機関が算出した台風の予測進路になります。

想定される進路には少なからず幅があるのが分かりますね。

ほとんどは本州の南側を通ると予測していますが,一部は日本海側まで北上すると想定されるものもあったり,一部は北海道まで抜けて早々に去っていくと考えられるものもあります。

最初のうちはどの研究機関の予測も同じような軌跡をたどり(どの予測も西へと向かう*1),多くの予報は北東の方向へと台風はその方向を変える(台風が向きを変えることを転向と呼ぶ)と予想していますが,時間を追うごとにその予測のバラツキは大きくなり大きな違いとなって顕在化するのです。

このように気象予測というのは非常に難しいことが知られており,現在の科学技術を以てしても正確に進路を言い当てることは難しいのですね。

 

今回の台風2号では,台風が偏西風に乗るか乗らないかで大きく進路が変わり,偏西風に乗った場合は日本付近を早い速度で通過していくと予想され,偏西風に乗れなければ日本付近をゆっくりと停滞しながら通過すると予想されていました*2

 

 

下は5月31日時点での台風2号の進路を予測した図(予想進路図あるいは進路予想図)です。

進路方向に破線で描かれた白い円がありますが,この円を予報円と呼びます。予報円とは,予想時刻において,台風の中心が70%の確率で入ると予想される円のことを指します(「70%以上」ではなく,予報円は「70%」の確率で入る円を指すので注意)。

予報円の中心を結んだ線は,確率が最も高い台風の予想進路に相当します。

また,赤い線で描かれた円は暴風警報を指します。暴風警報域とは台風の中心が予報円のどこかに入ったと仮定したときに,暴風域*3に入る恐れのある領域を指します(暴風域「に入る領域」ではないことに注意。暴風域「に入るおそれのある」領域が正しい)。

途中で赤い円が消えているのは,5月2日の9時以降は台風が衰弱して暴風域を保有できないと予想されたためです。

 

予想進路図の予報円が大きくなるのは,台風の方向の予測のバラツキが大きくなるという理由以外にも,台風の速度による予測のバラツキによる原因があるようです。

今回の台風2号は,多くの研究機関で本州の南部を通過するという方向の予測は共通していたものの,偏西風に乗れるか乗れないかで速度の予測が大きくバラついたため,予報円もそれに伴って大きくなってしまったと考えられます。

 

台風による風向きの変化

ここからは,今回の台風2号の位置と,周辺地域の風の向きの変化について見てみましょう。

台風は低気圧性の循環をもつため,北半球では反時計回りに渦を巻いて回転しています(南半球では時計回りに回転します)。

 

下の地図は,2023年6月2日に台風2号が近づいた沖縄周辺の風の動きを表したものです。赤矢印は屋久島の,黒矢印は名瀬(奄美市)の,青矢印は南大東島の風向を表します。

 

6月2日午前1時。台風の中心は那覇市近くに位置しています。

 

6月2日午前8時。

 

6月2日正午。台風の中心がほとんど名瀬を通り抜けていきました。風の向きも大きく変化していることが分かります。

 

6月2日午後6時。

 

6月2日午後11時。停滞していた台風もようやく沖縄を去り,本州の南の海上へと進んでいったのでした。

 

台風の中心はざっくりと以下のような軌跡をたどったことになります。屋久島は台風の進行方向から見て左側(西側)に,南大東島は右側(東側)に,名瀬はちょうど中心付近に位置しています。

 

では,それぞれの地域における風向きの変化について詳細に見ていきましょう。

 

まずは屋久島。赤い矢印に注目します。

屋久島での風向きですが,南東寄りだった風が時間を経るにつれて反時計回りに回転しているのが分かります。このように台風の左側では風向きは反時計回りに変化するのです。

 

また,下の表で風速を見てみると,だいたい5m/s 前後の風が吹いているのが分かります。思っていた以上に風速は小さい気がします。

 

次は青い矢印の南大東島を見てみます。

南大東島での風向きですが,南風が時間が経つと西風となり,今度は時計回りに回転しているのが分かります。このように台風の右側では風向きは時計回りに変化するんですね。

 

また,下の表で風速を見てみると,だいたい15m/s 前後の風が吹いているのが分かります。こちらは屋久島と比較してみても風速が強いです。

一般的に,台風の進行方向右側に位置する場所では風速が強く,左側に位置する場所では風速が弱い傾向があります

これは台風の右側では台風が起こす風に加えて,台風自身の速度がプラスされるためです。説明は下の動画の力に頼りましょう。


www.youtube.com

台風の進行右側のことを危険半円,進行左側のことを可航半円と呼びます。

 

このように,台風から見てどこに位置しているかによって風向きの変化も異なりますし,風の強さも異なるのです。

 

藤原の効果

もし台風が近くに2つ存在したとすると,それらの台風はどのような進路を取るでしょうか?

例えば2019年8月の台風9号と台風10号では以下の天気図のように接近しました。

このように接近した台風はどのような振る舞いをするのでしょうか。

結論を先に言ってしまうと,「互いに影響し合って通常とは異なる複雑な進路を辿る」というもの。これを発見者である藤原咲平の名前を冠して藤原の効果(もしくは藤原効果)と言います。この相互作用による振る舞いはよく分かっておらず,2つの台風が接近したときにどのような進路を辿るのかを正確に予測するのは難しいようです。

 

細かい進路予測は難しいにせよ,そのパターンとしては一般的に下の図のように大きく6種類に分けられるようです(台風と台風がぶつかることってあるんですか?│コカネット (kodomonokagaku.com))。

①弱い台風が強い台風に吸収させられるかのように衰弱する

②互いに相手の周りを反時計回りに回転するような動きをする

③一方が他方の後を追うように進む

④一方が他方を待って北上する

⑤2つの台風が並んで進む

⑥2つの台風が反発するように離れて進む

などとそのパターンは様々ですね。

気象の予測の難しさがこの図からも容易に感じ取ることができるのです。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 現在の科学技術を以てしても正確に台風の進路を言い当てることは難しい。

  • 予想進路図で,進路方向に破線で描かれた白い円を予報円と呼ぶ。予報円とは,ある時刻において,台風の中心が70%の確率で入ると予想される領域のことである。

  • 赤い線で描かれた円は暴風警報域であり,台風の中心が予報円のどこかに入ったときに,暴風域(平均風速25m/s以上)に入る恐れのある領域を指す。
  • 台風の左側では風向きは反時計回りに変化し,台風の右側では風向きは時計回りに変化する。
  • 台風の進行方向右側に位置する場所では風速が強く,左側に位置する場所では風速が弱くなる。台風の進行右側のことを「危険半円」,進行左側のことを「可航半円」と呼ぶ。
  • 2つの台風が接近したときに,それらの台風は通常とは異なる複雑な進路を辿る。これを「藤原の効果」と呼ぶ。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:太平洋高気圧と貿易風の影響によって西へと移動する

*2:ちなみに,台風中心と500hPaの偏西風の強風軸の位置が緯度8度以下になると,台風は東よりの成分を持ち転向することが多いというのが経験的に知られているようです

*3:平均風速25m/s以上の風が吹いている,または地形の影響がない場合に吹く可能性がある範囲