前回偏西風について勉強しました。偏西風が日本の気象に大きく影響するんでしたね。
私はこれまで,偏西風と言えば飛行機が早く目的地に到着するために利用する大気上層にある西風のイメージが強かったため,天気と絡めて考えることが無く非常に勉強になりました。中学の理科で習うくらい基本的なことなのかもしれませんが,これまでの人生で地学を習った覚えがほぼないので(記憶から忘れ去られただけなのか?)大人になってから新しく学べてラッキーなのかもしれません。
さて,今回も偏西風について追加事項を足しながら,もう少し詳しく学んでいきたいと思います。
偏西風と日本の天気
日本では「天気は西から変わる」とよく言われます*1。
下のアニメーションは2023年1月の数日間の雲の動きを表したものです。
確かに西から東に雲は進んでいますね。
これは偏西風によるものです。
また2018年に関東地方に甚大な被害をもたらした台風19号ですが,下の図のように台風の進路を見てみると,低緯度地域では西の方へと進んでいますが,北上するにつれて東側へと舵を切っているのが分かります。
この動きもやはり偏西風によるもので,私たち日本がいかに偏西風の下に置かれているのかが認識できます(ちなみに台風が低緯度地方で西に進むのは貿易風によるもの,台風が北上するのはコリオリの力が高緯度側で強く働くため)。
もちろん偏西風は日本に気象災害をもたらすだけではなく,地球の熱輸送や日本の美しい四季を作り出すことにも一役買っていますし,飛行機の燃料消費の抑制にも恩恵をもたらします。
偏西風波動
偏西風は南北の熱輸送のために蛇行していることを前回説明しました。
しかし実のところこの偏西風波動は,規模の違いで分けられる3つの波が合わさったものなのです。
最も大きな規模の波がプラネタリー波(もしくは超長波;planetは惑星という意味。planetary waveとは惑星レベルの大きな波ということ)。上の図で赤い波ですね。季節変化によってゆっくりとパターンを変えています。この波は地球の大規模な地形の影響によって発生します。北半球では,ヒマラヤ山脈やロッキー山脈などのような山岳地形がこのプラネタリー波を生み出します。一方,海が多く大規模な起伏のない南半球ではこの波は弱く,ほとんど波打つことはありません。
北半球では,だいたい1~4回ほど波打ちながら地球を一周するようです。
プラネタリー波の次に大きな波が傾圧不安定波(もしくは長波)。これは日々の天気図で見られる偏西風です。だいたい地球一周するのに少なくて6回,多くて15回ほどの波を打っているようですよ。図では緑で示しています。
最も規模の小さいものが中小規模擾乱に伴う波です。こちらは天気図にすら現れない小さい波動です。
ジェット気流
偏西風の中でも最も上層にあり(対流圏界面近く),強いものをジェット気流と呼びます。このジェット気流は大気の循環が起こる境界付近の上空で吹きます(下図の⊗地点)。
極側に近いジェットを寒帯前線ジェット気流(Jp;pは極polarを表す),緯度の低いところで吹くジェットを亜熱帯ジェット気流(Js;sは亜熱帯subtropicalを表す)と呼びます。
この大気循環の境界となるところは気温の差が大きいところでもあり,ジェット気流は暖かい空気と冷たい空気を隔てているとも言えますね。
ではジェット気流が蛇行するとどうなるでしょうか。
例えば通常暖気があるところにジェット気流が蛇行してくる(南に蛇行する)とすると,上空に冷たい空気が入り込むことになりますから対流が不安定になりますね。
逆にジェット気流が北に張り出すように蛇行すると,そちらは高気圧に覆われることになります。
偏西風が南に蛇行したところを「気圧の谷(トラフ)」と呼び,上層に気圧の谷が接近・通過すると大気の状態が不安定となりやすく,雲が発達して雷を伴った強雨や竜巻などをもたらすことがあります。
逆に偏西風が北に張り出したところを「気圧の尾根(リッジ)」と呼び,高気圧の勢力が強く周囲より気圧が高くなり,気圧の尾根の前面では高気圧が発生しやすくなるようです。
下の図は2023年1月24日の上空約5000mの気温を示したものですが,偏西風が日本上空まで蛇行して白い部分(気温が低いことを表す)が日本列島を覆っているのが分かります。
この日は気圧の谷と上空の強い寒気の影響で,全国的にも厳しい寒さとなり,東京でも雪が観察されました。
というワケで今回はこのあたりにしておきます。ついに「トラフ」や「リッジ」という言葉が出てきました。
この偏西風については個人的にあまり理解できてない点も多い(例えば,天気図上でJpとJsがどれなのか区別できない,等)ので,実際に実技試験などを解きつつ咀嚼していこうかと思います。
【まとめ】学習の要点
今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 偏西風波動は,規模の違いで分けられる3つの波が合わさったもの。
- 最も大きな規模の波がプラネタリー波。
- 次に大きな波が傾圧不安定波(もしくは長波)で日々観察される波動。
- 最も規模の小さいものが中小規模擾乱に伴う波。
- 偏西風の中でも最も上層にあり強いものをジェット気流と呼ぶ。
- 極側に近いジェットを寒帯前線ジェット気流(Jp),緯度の低いところで吹くジェットを亜熱帯ジェット気流(Js)と呼ばれ区別する。
- ジェット気流は暖かい空気と冷たい空気を隔てる役割をする。
- 偏西風が南に蛇行したところを「気圧の谷(トラフ)」と呼び,大気上層の気圧の谷が接近・通過すると大気の状態が不安定となりやすい。
- 偏西風が北に張り出したところを「気圧の尾根(リッジ)」と呼び,その前面では高気圧が発生しやすくなる。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p294-298, p310-315
- 『気象予報士かんたん合格テキスト』技術評論社 p227-228., p234
- 台風情報 - Wikipedia
- プラネタリー波 - Wikiwand
- プラネタリー波とアジアモンスーンは兄弟 | 色と形で気象予報士! (irokata7.com)
- 教室1 天気系の解説と事例解析 (npo-weed.com)
- ジェット気流の蛇行は気候にどのような影響を与えるか | 中村尚 | テンミニッツTV (10mtv.jp)
- tenko201904.pdf (jma-net.go.jp)
- 気圧の谷と気圧の尾根とは何か?その意味と特徴を超わかりやすく簡単に解説!~気圧の谷と尾根の東側で低気圧と高気圧が発達する?~【気象予報士試験対策】 - 根性による3ヶ国語学習者の日記 (hatenablog.com)