前回は地球の大気の層構造について見てきました。
しかし,まだまだ説明していない点がありましたので,今回はオゾン層について紹介します。
オゾン層とは
オゾン層とは名前の通りオゾンの層です。オゾンというのは酸素原子が3つ集まった分子。下の図のような構造をしています。
で,このオゾンなんですが人体には非常に有毒です。高濃度の場所に居続けると死に至る危険性もあります。
一方,主に成層圏に存在するオゾン層は太陽からの有害な紫外線をシャットアウトしてくれる私たちの頼もしい味方です。有害な紫外線は私たちの細胞にあるDNAに変異を入れたりしてガンなどのリスクを増加させるのです。
でもそもそもどうして成層圏にオゾンの層が生成されるのでしょうか?そしてどこからオゾンはやって来るのでしょうか?
まず前回,地球の大気には地上側から対流圏・成層圏・中間圏・熱圏の大きく4つの層に区別できることを知りました。
しかし熱圏は真空に近く,中間圏も地上の1万分の1ほどの気圧しかないため,大気が非常に希薄です。
結果的にオゾンの層は大気密度の濃い成層圏や対流圏に多くできることになります。成層圏のオゾンを「成層圏オゾン」,対流圏のオゾンは「対流圏オゾン」などと呼ばれたりします。そのまんまですね。ただし,対流圏オゾンは工場や車から出る二酸化窒素をもとに生成され,人体に悪影響を与える「悪いオゾン」であり,有害な紫外線を吸収してくれる「良いオゾン」である成層圏オゾンと比較されます。
成層圏オゾンは,大気中のオゾンの約90%存在しており(ただし,成層圏であっても乾燥空気に対するオゾンの質量比は,最大でも0.001%程度と非常に少ない),これには太陽からの紫外線が大きく関係しています。
オゾンの生成
オゾン()は酸素分子()から生成されます。
対流圏・成層圏・中間圏までは大気組成が一定で窒素80%,酸素20%が含まれていますので,酸素原子は豊富に存在します。
太陽からくる電磁波(紫外線など)はエネルギーを持っていますから,そのエネルギーを使って化学反応が起こります。オゾンの生成メカニズムは次の通りです。
①
②
オゾン分子は不安定ですので,紫外線を受けると再び酸素分子と酸素原子に分離します。
このようにオゾンは生成されても分解もされるので,オゾン層のオゾン濃度は一定に保たれているのです。
また,太陽からの紫外線を受けてオゾンは発生するので,太陽の日射量の多い赤道付近の成層圏(上空25km)で多く作られます。
オゾンの分布
さてこのオゾン層,オゾンが最も多く生成されるはずの赤道付近ではなく,極に近い高緯度地域で濃度が最大になります。何故でしょう?
☝上の図は2021年の世界のオゾンの分布を示したもの。赤道付近は少なく北海道以北やオーストラリア南部などの高緯度地域で分布が高い。
それには風の流れが影響しています。
高度10km~30kmあたりの成層圏下部にはブリューワー・ドブソン循環と呼ばれる大気循環が起こっており,赤道付近で生成されたオゾンが極方向へと運ばれていると考えられています。
そして季節によってもオゾン濃度は変化します。
北半球でも南半球でも春先にオゾン濃度が最大になります(北半球の春は3-4月,南半球では9-10月)。これも先ほどの大気循環の影響です。
オゾンが冬の高緯度地域に運ぶ風にのって蓄積される春にもっとも最大になるのです。ただし,南極上空に限って言えば,春先であるはずの9月にオゾン濃度が最も薄くなります。この点は一見矛盾しているようですが,この後でその理由を説明します。
☝上の図は1997-2006年までの平均した季節ごとのオゾン量の分布を示したもの。北半球では4月ごろに最も濃度が高くなり,南半球では9月ごろに最も濃度が高くなる(いずれも季節は春ごろ)。しかし,南極では春先にオゾンホールが顕著になる(図の右下の灰色部分)。
オゾンホール
最後はオゾンホールについて。
1970年代にフロンガスや塩素などの化学物質がオゾンを分解することが示され,1985年に南極上空のオゾン濃度が減少することが報告されたことをきっかけに国際的にこの環境問題が注目されることになりました。
☝上の図は南極上空の1979年のオゾン量と2018年の春期のオゾン量の比較。2018年は1979年に比較してオゾン量が少ない領域(オゾンホール:灰色部分)が広がっていることが分かる。
とくに春期の南極上空(南極よりかはマシだが北極上空も)のオゾンの濃度は少なくなり,このオゾン濃度の減少をオゾンホールと呼びます。
たしかに上の図で南極周辺の高緯度地域では濃いオレンジが見られオゾン濃度が高い一方で,南極上空では灰色のオゾン濃度の低い地域が広がっているのが分かります。
でも北半球でも南半球でも春にオゾン濃度は最大になるのでした。どうして南極上空だけは春先にオゾン濃度が少なくなるという真逆の現象が起こるのでしょう?
それは冬の間,南極上空の成層圏に極渦(きょくうず)という渦が形成され,さらに緯度50~70度帯に強い風(極夜ジェット)が吹くためです。北半球においてもジェット気流は吹いているのですが,地形によって大きく曲げられるため渦の力が弱いのです。
この極夜ジェットは風速が強いため,気流に囲まれた南極周辺は孤立状態となり,周辺の大気の流入を受け付けません。
すると,赤道で生成された成層圏オゾンが南極に運ばれにくくなりオゾンは蓄積されません。
また,対流圏界面付近の極夜ジェットによって低緯度の暖かい空気の流入が少なくなり,冬は厳しい寒さに襲われます。成層圏下部の温度が低下することで,南極上空では成層圏の雲(極成層圏雲)が発生し,雲に含まれる氷の表面上で化学反応が起こり,そこから塩素分子などが生成します。春になって太陽光が増えてくると,この塩素が活性塩素となりオゾン層を破壊するのです。
その結果,(冬の間にオゾンが蓄積されずに)春先になるとオゾンが最も薄い状態となって表れるのです。
とりあえず今回勉強したのはココまで。
次回は大気の温度についてまとめてみることにします。
【まとめ】学習の要点
今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- オゾン層は有害な紫外線を吸収することで地上の生物を守る役割を果たす。
- オゾンには,成層圏の「成層圏オゾン」,対流圏の「対流圏オゾン」がある。
- 有害な紫外線を吸収してくれる成層圏オゾンとは逆に,対流圏オゾンは工場や車から出る二酸化窒素をもとに生成され,人体に悪影響を与える。
- 紫外線を吸収して酸素分子と酸素原子からオゾンが生成される。
- オゾンは太陽の日射量が多い赤道付近で多くつくられるが,風に乗って極付近に運ばれ高緯度地域で最も濃度が高くなる。
- 北半球も南半球も春先に高緯度でオゾン濃度が最も高くなる。
- ただし,南極上空では春先にオゾンホールが最も顕著になる。
- 春先に南極上空のオゾンホールが広がるのは,冬の間にジェット気流による赤道からのオゾン輸送が阻害されるのと,低温による極成層圏雲の氷が塩素生成をもたらし,太陽光が増える春に活性塩素となって南極上空のオゾンを破壊するため。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p29-p35
- 『気象予報士かんたん合格テキスト』技術評論社 p26-30
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wikipedia『オゾンホール』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%BE%E3%83%B3%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB
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大気中でのオゾン生成プロセスhttps://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/68/column1.html
- 対流圏オゾンの増加─良いオゾンと悪いオゾン─|環境儀 No.67|国立環境研究所 (nies.go.jp)
- 気象庁 https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/3-20ozone_avemap.html https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/diag_tozn.html
https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/3-30ozone_o3hole.html https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/3-22ozone_o3hole_mechanism.html
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tenki.jp https://tenki.jp/suppl/tenkijp_labo/2019/12/05/29581.html