Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第73回 中層大気の温度分布

 

ここまでは対流圏で起こる地球の大規模な運動(ハドレー循環,偏西風,熱帯低気圧 etc)を見て気ましたが,今回は成層圏・中間圏の大気の大規模な運動について勉強していきます。

 

 

大気の温度分布

以前,地球大気の温度について勉強しました。

対流圏では高度が高くなるほど気温は下がり(空気の断熱冷却),成層圏では高度とともに気温は上昇(オゾンの紫外線吸収による加熱),中間圏では高度とともに気温は低下(大気密度が小さく加熱が小さい),中間圏界面付近で地球で最も寒い点を迎えて熱圏に入ると,熱圏では高度とともに気温は高くなる(太陽からの電子エネルギーの吸収による加熱)というような上空大気の温度変化があるのでした*1

 

では季節によって,特に上空の大気の温度に変化がどう生まれるのかを次に見ていきます。

 

中層大気の温度分布

成層圏・中間圏を合わせた大気層をまとめて中層大気と呼びます。

下の図は(対流圏と)中層大気の気温と風速についてまとめたものです(成層圏(せいそうけん)とは? 意味や使い方 - コトバンク (kotobank.jp)より引用)。

図の横軸は緯度を表し,縦軸に高度および気圧をとっています。

図中の赤いラインが大気の温度(単位は K で表示),青いラインが風速(単位は m/s で表示)です。

緯度については,この図では北緯なのか南緯なのかはっきりと示されていませんが,北半球なのか南半球なのかのどちらにせよほぼ同じ図になるので特に明記する必要もないかと思います。

 

ではこの図について詳細に見ていくことにします。

 

中層大気の温度

先ほどの図で,気温の情報だけを取り出して,分かりやすいように以下の図ように模式的に表現しなおしました。縦軸が高度,横軸が緯度で,中心の縦方向に走る赤線は緯度0度の赤道上空を表しています。また,オレンジ色が暖かい場所,緑色が寒い場所になるように色を塗っています。

さて,まずは赤道をはさんで左右のどちらが夏なのか冬なのかを考えてみます。

これまで勉強してきた対流圏に着目するのが一番分かりやすいでしょうか。上図の対流圏の左側と右側を比較すると,左側の方が温度が全体的に高い(オレンジ色の領域が大きい)傾向があるので左側が夏であることが予想されます。ここで,北半球・南半球関係なく,夏側の半球のことを夏半球,冬側の半球のことを冬半球と呼びます。すなわち,図の左側は夏半球,図の右側は冬半球であると考えられるのです。

 

対流圏界面成層圏下層)を見ると,赤道付近で最も温度が低くなります。これは対流圏の空気が暖かい赤道側で膨張し,寒い極側で収縮するためです。そのため赤道側で対流圏が厚くなり,結果的に対流圏界面の温度も最も低くなるのです(成層圏に入ると気温低下の割合は対流圏のそれに比べて非常に小さくなる)。

 

そして成層圏を見てみると,夏半球である左側で気温が高く,冬半球の右側で気温が低いことが分かります。これは日射量が夏半球で多く,オゾンが紫外線を吸収して加熱するからです。

特に夏半球ではその極(夏半球の極を夏極と呼ぶ)で太陽が一日中沈まない白夜という現象が起こり日射量が多くなりますし,一方で冬半球の極(冬極)では太陽が一日を通して見えない極夜が起こって日射量は非常に少なくなります。

沈まぬ太陽,白夜の動画。

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そして昇らぬ太陽,極夜の動画。

www.youtube.com

この動画を見ると,太陽の日射量が夏極と冬極で大きく異なるのも頷けます。

 

そして成層圏では高度が上がるほど気温は上昇し,成層圏界面付近で極大となります。これは,太陽光線が弱まることなく成層圏上層でオゾンに紫外線を吸収されること(宇宙側から成層圏に入った太陽光線のエネルギーは徐々に弱まっていく),また大気が希薄なため熱容量が小さく温められやすいことに起因します(【気象学勉強】第5回 地球大気の温度 参照)。

 

そして最後は中間圏の温度。

中間圏界面あたりでは夏極で温度が最も低くなり,冬極で温度が高くなります。この変化は,これまで見てきた大気層とは異なるものです。何故なんでしょう。

結論から言うと,中間圏の下層から上層に向けた鉛直方向の熱輸送があるためだと考えられています。

 

下の図の矢印は中層大気の循環を図示したものです。

赤道をはさんで左側の夏極では,中間圏の下層から上層に向かう上昇流が見られます。一方で右側の冬極では中間圏の上層から下層に向かう下降流がありますね。

上昇流があると断熱冷却のはたらきによって気温が低下しますし,下降気流があると断熱昇温のはたらきで気温が上昇しますので,夏極で温度が低く,冬極で温度が高くなるのです。

 

ちなみに,成層圏下部では赤道から極へと向かう循環(ブリューワー・ドブソン循環)が見られ,これがオゾンを赤道から極方向へと運んでいるため,最も太陽から受ける放射が強いはずの赤道ではなく,極側でオゾン濃度が最大になるのは過去に勉強しています。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

以上のことをまとめると,中層大気は高度約70kmの中間圏までは夏半球の方が冬半球よりも気温は暖かく,中層圏界面では逆に冬半球の方が夏半球よりも気温が高い,ということです。理由はこれまで述べてきた通りです。

 

はい,ということで今回はここまでにしておきます。中層大気の「気温の分布」でした。

次回は中層大気の「風の分布」についてです。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 中層大気は高度約70kmの中間圏までは夏半球の方が冬半球よりも気温は暖かく,中層圏界面では逆に冬半球の方が夏半球よりも気温が高い
  • 対流圏界面付近(成層圏下層)では,赤道付近で最も温度が低くなる。これは赤道側で対流圏が厚くなり,気温減率によって温度も低くなるためである。
  • 成層圏は夏半球で気温が高く,冬半球で気温が低い。これは日射量が夏半球で多く,オゾンが紫外線を吸収して加熱するからである。
  • 中間圏界面あたりでは夏極で温度が最も低くなり,冬極で高くなる。これは,中間圏の下層から上層に向けた鉛直方向の熱輸送があるためである。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:ただし,熱圏では分子の運動量としては温度が高いが,大気が非常に希薄であるため私たちが熱圏に行っても熱さ自体は感じないとされる