Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第7回 黒体放射と放射に関する法則

さて,前回は太陽放射について述べました。

次回は地球の放射について述べる予定ですが,まずは放射に関するいろいろな法則を理解しておくことにします。

 

 

電磁波とは

まずは基本的なところから。電磁波というものについて。

空気中の電波を受け取ってラジオを聴けるのも,オーブンで食べ物を温めたりできるのも,私たちがモノの色を認識したりできるのもすべては電磁波のおかげです。

それらの電磁波がごちゃ混ぜになってしまわないのは波長が異なるから。

例えば電波は波長が大きいビル程度あったりしますが,オーブンレンジなどの赤外線の波長は針の先端程度の長さ,私たちが認識している可視光は微生物くらいの波長しかありません。

 

電磁波は波長によって,長いほうから電波(波長:1mm以上,電波の一種のマイクロ波は1~10cm),赤外線(約0.7μm~1mm),可視光線(約0.4~0.7μm),紫外線(約0.01~0.4μm),放射線(約0.01μm以下)と区別されます。

紫外線や放射線は波長が短い分エネルギーも高いので,私たちの細胞にあるDNAなどを傷つける危険性があり注意が必要なのです。

 

そして,私たちの身の周りの温度をもったもの(絶対零度以上のもの)は必ず電磁波を発しています(熱放射)。コロナ禍で空港や街なかなどに設置されたサーモグラフィーが良い例です。

サーモグラフィーは人の体温から出る電磁波を感知して,熱がないかどうかを計測する機器。一般的には赤外線という比較的波長の長い電磁波を検出します。

 

そしてさらに物体の温度が高くなると物体からは光が発せられるようになります。これは物体から放射される電磁波の波長が短くなり可視光線の波長に移るためです。鉄が熱すると明るく光を放つのはこのためです。

 

物体の温度がもっと高くなると放たれる電磁波の波長はX線など放射線領域になり私たちの目では確認できなくなります。例えば太陽の周囲に広がるコロナという大気層は温度100万℃に達し,そこから発せられる電磁波はX線領域が多くなるのです。

 

黒体と黒体放射

この世で最も黒い物体は何かご存知でしょうか。

それは2019年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のラボで発見されたカーボンナノチューブという炭素からできた素材です。

可視光の吸収率は99.995%。

私たち人間は,物体が反射した波長の光を網膜で受容することで色を認識しているのですが,すべての波長の可視光が吸収されてしまうと受容できる光がないので『真っ黒』としか認識できなくなるのですね。

 

紹介した物質は「可視光」のほぼすべてを吸収する物体ですが,世の中の(可視光以外も含めた)「あらゆる波長」の電磁波を吸収する物体を黒体と呼びます。こういう物体にはいろいろな法則が成立し,そのひとつに黒体は電磁波をよく吸収するだけではなく物体自身の温度に応じてよく放射もするということが知られており,この黒体からの放射のことを黒体放射と呼びます。

ただ,実際にはこの黒体というのは世の中に存在せず,理想的な物体として非常に有用なモデルなので物理学ではよく用いられているようです。現時点ではMITが開発した世界一黒い素材が最も黒体に近い物質でしょうか。

世の中に実在しない物体について考えて何が良いのかとも思えるかもしれませんが,黒体に近似できる物体の性質を理解する上で,理想的物体に働く物理的法則を知っておくのは大切なことですね。

 

では黒体に近似できる物体とは具体的には何なのでしょう。

例えば木炭などは黒いですし,熱すると温度によって赤く放射するので黒体に近似できるといいます。

他にも太陽などの恒星は黒体に近似できるようですよ。また地球表面や地球大気も黒体と仮定して考えます。

 

気象学で重要な二つの天体,太陽と地球も黒体と仮定しても良いということですので,その仮定の上で今後は話を進めていきます。

 

ここからは黒体に関する重要な4つの基本法則をご紹介。

 

キルヒホッフの法則1860年

まず最初にキルヒホッフの法則。これは上記でも書いた「黒体は電磁波をよく吸収するだけではなくよく放射もする」という法則です。

黒体はすべての電磁波の波長を吸収するので,吸収率を  a_{\lambda} とすると

   a_{\lambda} = 1

が成立しますね。 

そして放射率を   \epsilon_{\lambda} とすると,放射率は吸収率と等しくなるというのがキルヒホッフの法則。すなわち,

   \epsilon_{\lambda} = a_{\lambda}

が成り立つというものです。

まぁどうしてこんな式が成り立つのかはよくわかりませんが,キルヒホッフさんの法則は飲み込んでしまえば特に難しいものではないですね。

 

ステファン・ボルツマンの法則(1884年

黒体放射の中でも特に気象学で重要な(知らんけど)法則がステファン・ボルツマンの法則

簡単に言ってしまえば,「黒体から放射される総エネルギー量は黒体の絶対温度の4乗に比例する」という法則。

黒体の温度(絶対温度)を  T \rm{K})として,その黒体の単位面積あたり単位時間に放射される総エネルギー I  ( \rm{W/m^2})とすると

   I = \sigma T^4    ・・・・①

と表現できるというものです。 

ここで  \sigma(シグマ)はステファン・ボルツマン定数とよばれ,

   \sigma=5.67×10^{-8} \rm{W/m^2K^4}

です。

 

上の式は完全な黒体を仮定していますが,実際は黒体であるとは限らないので,物体の放射率  \epsilon  を用いて,

   I = \epsilon\sigma T^4

と補正されます。

 

***

では,これらの式を使って太陽が1秒間に放射する総エネルギー量を求めてみましょう。

前回太陽の説明の中で,太陽が1秒間に生み出す総エネルギー量は  3.86×10^{26} \rm{W})であることを述べました。ステファン・ボルツマンの法則を用いてちゃんとこの結果が導きだせるか確認してみます。

 

必要なのは太陽の温度(表面温度)と表面積です。

調べてみると太陽の表面温度は 5.78×10^{3} \rm{K})。およそ6000℃です。

 

①式に代入してみると,

   I_{s} = 5.67×10^{-8}× (5.78×10^{3})^4 = 6.33×10^{7} \rm{W/m^2}

これで太陽の単位面積あたり単位時間に放射される総エネルギーが算出できました。太陽などの恒星の出す放射は黒体に近似でき放射率  \epsilon は1とみなしてOKです。

 

上の結果は太陽の単位面積あたりに放射されるエネルギーですので,太陽の表面積分全体に換算する必要があります。

太陽の表面積は  6.08×10^{18}  ( \rm{m^2}) なので太陽全体では

   I_{all} = 6.33×10^{7}×6.08×10^{18} = 3.85×10^{26} \rm{W}

 

はい,正解の  3.86×10^{26} とほとんど一致してますね。

 

ウィーンの変位則(1893年

黒体から放射される電磁波は一つの波からできているのではありません。そこにはいろんな波長の波が含まれています。

下の図は温度を変えたときの黒体放射に含まれる電磁波の波長とその強度を表現したものです。

ピークはあるものの黒体放射に含まれる波長にはある程度の幅があるのがわかりますね。

このときピークの波長だけに注目したのがウィーンの変位則

黒体の絶対温度 T として,ピーク波長を導き出す式は以下のように書き表せます。

   \lambda_{max} = \dfrac{2897}{T} \rm{\mu m})  ・・・・②

注意しなければいけないのは単位が  \rm{\mu m} であること。

この式が意味するところは,「温度が高いほどそこから放射される電磁波の最大波長は短くなり,逆に温度が低いほど最大波長は長くなる」ということ。

今回の冒頭に人間からは赤外線が放射され,熱い鉄からは可視光線が,太陽のコロナからはX線が出ていることを話しましたが,これはウィーンの法則からも導き出すことができるワケです。

 

では実際に上の図を用いて計算してみましょう。

まずは緑色の 5500K から。②式に代入して

   \lambda_{max}^{T=5500} = \dfrac{2897}{5500} = 0.527 \rm{\mu m}

上の図の波長の単位は  \rm{nm} なので1000倍すると  527 \rm{nm})で,たしかにだいたいそのあたりにピークがあります。

 

赤の4000K では

   \lambda_{max}^{T=4000} = \dfrac{2897}{4000} = 0.724 \rm{\mu m}

たしかに  724 \rm{nm})あたりでちゃんとピークがあるのが分かります。

 

ついでに太陽の表面温度は5780Kですので計算すると,太陽からくる電磁波のピーク波長は

   \lambda_{max}^{Sun} = \dfrac{2897}{5780} = 0.501 \rm{\mu m})です。

可視光領域はだいたい 0.380~0.770 \rm{\mu m})の範囲ですので,太陽光のピーク波長は可視光域内です。実際は太陽放射の約47パーセントは可視光帯域で,残りは赤外帯域と紫外帯域だそうです。

だからこそ私たちは太陽の光を認識でき,まぶしいと感じるワケですね。

 

プランクの法則(1900年)

最後はプランクの法則。今回紹介する4つの法則の中では最も発見されたのが新しい法則です(それでも100年以上前なんですが)。

量子力学の幕開けともなった重要な法則のようですが,難しいので簡単なところでとどめておくことにします。

このプランクの法則を簡便に説明すると,「波長と温度に依存して,黒体からの放射量が決まる」というもの。ウィーンの変位則はピーク波長だけに着目していましたが,このプランクの法則はどんな波長にも適用できる普遍的な関数である点が大きな違いと言えるようです。

もちろん,プランクの法則からウィーンの変位則を導き出すことも可能ですよ。

 

 

以上のように黒体放射には4つの基本法則があり,今回はそれらの法則の紹介でした。

 

【まとめ】学習の要点

今回のメモを置いておきます。

自分的メモ!
  • 電磁波は波長によって,長いほうから電波(波長:1mm以上),赤外線(約0.7μm~1mm),可視光線(約0.4~0.7μm),紫外線(約0.01~0.4μm),放射線(約0.01μm以下)と区別される。
  • すべての温度をもった物体は必ずその温度に応じた電磁波を発している(熱放射)。
  • 黒体とはあらゆる電磁波を完全に吸収し,また熱放射できる想像上の理想的物体のこと。
  • 黒体から放射される総エネルギー量は黒体の絶対温度の4乗に比例する(ステファン・ボルツマンの法則)。
  • 黒体から放射される電磁波の中でピークとなる波長は「ウィーンの変位則」で表現され,温度が高いほどそこから放射される電磁波の最大波長は短くなり,逆に温度が低いほど最大波長は長くなる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。