Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第20回 逆転層

 

エマグラム

下のグラフはエマグラムと呼ばれるものです。ワイオミング大学のサイト(http://weather.uwyo.edu/upperair/sounding.html)から引用しています。

エマグラムについては次回詳しく話そうと思いますが,今回も言及しておく必要がありますので簡単に説明しておくことにします。

まず,縦軸は気圧(hPa)で,対数スケールで取られており上に行くほど気圧は低くなります。すなわち地上が下になります。

横軸は気温(℃)で,こちらは右側に行くほど高くなります。

そして薄い線で表されているのが乾燥断熱変化の線と湿潤断熱変化の線および等飽和混合比線。

 

それから黒い太線で表現されているのが,気温露点温度です。右側にある黒線が気温ですから今回は気温だけに注目しましょう。

このグラフの気温の線を詳しく見てみると,およそ820hPa付近で気温がピョコっと上昇しているのが分かりますね。赤い矢印のところです。

通常上空に行くほど空気は断熱冷却によって気温が低下するのですが,上の図のように上空で気温が上昇に転ずることが見られます。これを逆転層と呼びます。

ではどうしてこんなことが起こるのでしょう?

今回はこの逆転層についてです。

 

逆転層の種類

逆転層にはその成因から3つに分けられます。

1つ目が夜間の放射冷却によってできる接地逆転層,2つ目が上空の空気が下降することで断熱昇温により温度が上昇する沈降性逆転層,3つ目が下層の冷たい空気の上に暖かい空気が滑り込む前線性(移流性)逆転層です。

これらの3つの逆転層について詳しく勉強していくことにします。

 

接地逆転層

温度がある(=絶対零度ではない)物体からは必ず電磁波が放射されています。これはプランクの法則からも理解できます。

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昼間は太陽からの光を浴びて地表面は温められ気温が上昇しますが,太陽が沈んでエネルギーが届かない夜間は地球からの熱の放射によって地表面の温度は低下します。だから昼間は暖かくて明け方は寒くなるのですね。

このように,物体が熱を放射して気温が低くなることを放射冷却と呼びます。

特に太陽から受け取るエネルギーが少なくなる秋・冬・春にかけては早朝の放射冷却は進み*1,「冷え込みが強まる」という言葉を冬になるとよくニュースで聞きますね。

 

放射冷却が起こると,そこに接した空気も冷やされて地面に近い方が気温が低いという逆転現象が起こるのです。これが接地逆転層です。

 

この接地逆転層のエマグラムを見ると下のようになります。
地面から数百メートルほどの低い高度の空気だけ気温が低く,その上空は気温が高くなるのが特徴です。上空に気温が高い空気があるということは,この大気は安定であると言えます(絶対安定になります)。

そのため都心部で接地逆転層が起こると,都会の塵やホコリなどが上空から逃げられずに汚染物質が地表面付近に滞留し,スモッグなどの現象などが見られるようになるようです。

上の写真は接地逆転層が起こったときの都会の写真(都心で冷え込みに伴い「接地逆転層」 防寒グッズと一緒にマスクを持って - ウェザーニュース (weathernews.jp)より引用)。たしかに地表面が茶色く色づいていますね。

下はカザフスタンの逆転層の様子だそうです。こちらは分かりやすい,分かりやすすぎる。

 

そして強い風があったり,太陽光によって放射冷却が弱まると,やがて接地逆転層は解消します。

 

沈降性逆転層

お次は沈降性逆転層。沈降性という言葉のとおり,上空の空気が下降することで起こります。空気が下降することで断熱圧縮による温度上昇が引き起こされるのです。

では,どういうときに空気が下降してくるのでしょうか。

例えば高気圧圏内に入った時にはこの沈降性逆転層が見られるそうです。高気圧では下降気流が発生しているためです。

 

この沈降性逆転層のエマグラムが下の図。

接地逆転層と比較して逆転層が形成される高度はかなり高いですね。通常,地上1000mより上に形成されます。

また,図の点線(露点温度)を見ると,逆転層を境に上側で大きく露点温度が下がっているのが分かりますね。逆転層の上側の空気が乾燥しているということです。

 

 

前線性(移流性)逆転層

最後は前線性逆転層温暖前線寒冷前線に伴って形成される逆転層です。

前線というのは,温かい空気や冷たい空気など性質の異なる空気がぶつかり合ったときの境目にできます。

下は冷たい空気の上を暖かい空気が滑り込んでできる温暖前線を描いたものですが,そうすると上空に暖かい空気ができて逆転層となるのが理解できるでしょう。

前線性逆転層のエマグラムが下の図になります。

こちらも沈降性逆転層と同じく,地上1000mより上に形成されることが多いようです。また,逆転層の上側で露点温度が高く,ほとんど気温と重なっていることが分かりますね。これはほぼ空気が飽和しており,非常に湿潤になっているということです。

 

以上をまとめると,これらの逆転層の見分け方として
 〇逆転層がどこに発生するか(地表付近か,上空1000m以上か)
 〇湿潤域がどこにあるか(乾燥しているか,湿潤か)
が大きなポイントになるということですね。

 

 

さて,今回エマグラムが出てきました。

次回はエマグラムについてもう少し詳しく学習していくことにします。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 逆転層には,①接地逆転層,②沈降性逆転層,③前線性逆転層の3つがある。
  • 夜間の放射冷却によってできるのが接地逆転層
  • 接地逆転層は地面から数百メートルほどの低い高度の空気の気温が低い。
  • 接地逆転層が起こると,汚染物質が地表面付近に滞留しスモッグなどの現象が見られることがある。
  • 沈降性逆転層は高気圧圏内に入った時に起こる。
  • 沈降性逆転層が形成される高度は1000m以上が多い。
  • 沈降性逆転層では逆転層の上側の空気が乾燥している。
  • 温暖前線寒冷前線に伴って形成される逆転層が前線性逆転層
  • 前線性逆転層が形成される高度は1000m以上が多い。
  • 沈降性逆転層より上側の空気は湿潤である。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:他にも,雲がなかったり,風があまり吹かなかったりで放射冷却の程度も異なってきます