Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【気象学勉強】第8回 地球放射と放射平衡

 

今回は地球放射について勉強していくことにします。

 

 

太陽放射と地球放射の釣り合い

ここまで地球は太陽から放射されるエネルギーを受けることで地表面が温められて我々生命は生きていけることを話してきましたが,太陽のエネルギーをもらってばかりでは地球の気温は上昇し続けてしまいます。地球からも熱を逃がさないと気温は一定に保たれません。

そして自ら光を放つ太陽のような天体でなくとも,地球は自ずと熱エネルギーを放出しているのです。

 

前回の記事で,温度があるものは必ず熱放射が起こりその温度に応じた波長の電磁波を発しているということを述べました。これが地球が放射するエネルギーに相当します。

 

太陽から受け取るエネルギーと自ら放出するエネルギーがちょうど同じになることで地球大気の気温が保たれるワケで,このような放射によるエネルギーの流出と流入が釣り合った状態のことを放射平衡と呼び,そのときの温度を放射平衡温度と呼びます。

 

放射平衡温度

では黒体で成り立つ方程式を使って地球の放射平衡温度( T_E)を求めてみることにします。

地球の平均気温はおよそ15℃(288K)であることを私たちは知っているので,計算した値がちゃんとこの値に一致するかを確認してみましょう。

 

まず,地球を黒体だと仮定してステファン・ボルツマンの法則に当てはめると,地球が1秒間に単位面積あたりに放射するエネルギー  I_e*1

   I_e = \sigma {T_E}^4

  ただし, \sigma=5.67×10^{-8} \rm{W/m^2K^4}

という式が成り立つはずです。

地球の表面積分  5.11×10^{14} \rm{m^2})に換算して地球全体の放射エネルギー  I_E を求めると

   I_E = 5.67×10^{-8}×{T_E}^4×5.11×10^{14}=2.90×{T_E}^4×10^{7} \rm{W})・・・(A

となりました。

これが地球全体が1秒間に放射するエネルギー量です。

 

 

今度は太陽から受け取るエネルギー量を考えてみましょう。

地球が大気上端で受け取る単位時間・単位面積あたりのエネルギーは太陽定数と呼び,その値は  1.37×10^{3}  ( \rm{W/m^2})でしたね。

さらに地球全体が1秒間に太陽から受け取るエネルギーは太陽定数に地球の断面積をかけて 1.75×10^{17}  ( \rm{W})であることも説明しました。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

じゃあこのエネルギーすべてが地球が受容するかというとそうでもありません。

地球に入る太陽エネルギーは雲や地表面で反射されてその一部しか地球に入りません。この雲や地表面で反射される放射量の比率のことをアルベドと言います。

   (アルベド)= 100×\dfrac{反射放射量}{入射放射量} (%)

 

現在の地球全体のアルベドは30%であることが知られています。すなわち30%は反射されて残った70%をエネルギーとして受け取るのです。反射される30%のエネルギーの内訳としては,雲や大気による反射・散乱が20%,地表面における反射が10%となっています。

よって地球全体が太陽から1秒間に受け取るエネルギーは

   1.75×10^{17}×0.7 = 1.23×10^{17}  \rm{W})・・・(B

ということになります。ただし気を付けなければいけない点としては,この数式に用いたアルベドの値は「現在の地球の値」をそのまま代入したものです。アルベドは雲や氷河などの組成によって変化します。

 

今地球から放射されるエネルギー(A)と太陽から放射されるエネルギー(B)が釣り合っているはずなので,

   2.90×{T_E}^4×10^{7} = 1.23×10^{17} 

これを解くと地球の放射平衡温度  T_E

   {T_E}= 255 \rm{K})すなわち,  = -18 ^\rm{\circ} \rm{C}

と算出できます。

 

おや,地球の予測気温が私たちの知っている現実世界のものに比べてかなり低い値になりましたよ。実際の平均温度を   33 ^\rm{\circ} \rm{C})も下回っています。

どこかで計算を間違えたのでしょうか?

 

実は計算自体は間違ってはいません。

 

太陽系惑星の平衡温度

ここで一度,地球だけでなく太陽系惑星でも同じように放射平衡温度と実際の平均表面温度を調べてみました。まとめたものが下の図となります。縦軸が温度で,横軸が惑星の太陽からの距離(地球=1)です。

図の緑プロットが(計算上求められる)惑星の放射平衡温度で,赤いプロットが(実際の観測で明らかとなった)惑星の表面温度です。

まず気づく点として,金星の放射平衡温度と表面温度が大きく乖離しているということ。また地球・火星も放射平衡温度と表面温度に少しばかりのズレがあります。

 

そしてこのズレは,惑星に大気があることを考慮に入れていないことから生じるのです。実際,金星は厚い二酸化炭素の大気を持ちますし,地球も窒素・酸素を主成分とした大気が,火星も二酸化炭素の大気があります。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

では惑星に大気があるとどうなるのでしょうか?

もう少し深掘りしてみます(先ほどの注意点をもう一度記述しますが,地球から大気をすべて取り除いたときに地球の温度は厳密には-18℃にはなりません。なぜなら地球のアルベド=0.3という数値は,現在の地球の観測値を当てはめたからです。惑星から大気がなくなるとアルベドの値は一般的に小さくなりますので,仮に本当に地球から大気を取り除いたときの地球温度は,計算で導かれた-18℃とはズレが生じます)。

 

温室効果

ここでは太陽系惑星の中でも地球についてのみ考えます。

下の図は,地球大気の外と地上で観測された,太陽放射の波長とその強度について表したものです(高等学校理科/地学基礎/宇宙の構成 - Wikibooksより図を改変)。青い線が地球の外で観測された太陽放射,オレンジ線が地上で観測された太陽放射です。

この図を見て最初に分かるのが,地上で観測した太陽放射は,大気の外で観測した太陽放射と比べてその強度が全体的に弱くなっていることでしょう。

これは地球に大気があるからで,大気中の雲やエアロゾルなどによって太陽光が吸収されたり散乱されたりするためです。

 

そして,オレンジ線(地上で観測された太陽放射)を見ていると,ところどころでその強度が大きく凹(ヘコ)んでいることにも気がつきます。

これは,特に赤外光域において,主に大気中の水蒸気と二酸化炭素が太陽放射を吸収しているのが原因です。大気によって吸収されるので,地表面で観測される放射量が少なくなるのです。その一方で,凹みがないところは透過率が高い,すなわち大気から吸収されにくい波長域となっており,上の図であれば赤外波長では1500~1800nmや,2000~2500nm付近が相当します。このように大気からの吸収をうけない透過性の高い光の波長域のことを「大気の窓領域」と呼びます。



さて,ここまで太陽放射だけを考えてきましたが,地表面からの放射に対しても大気や雲による吸収が起こります。

現在の地球の温度を約15℃とすると,地球から放射される電磁波のピーク波長はウィーンの変位則から

   \lambda_{max} = \dfrac{2897}{273+15} ≒10 ( \rm{\mu m}

となり赤外域になります。

そして地表から放射された赤外線も,水蒸気や二酸化炭素によって一部が吸収されて,再び地表へと放出されます。

このように,惑星の表面から発せられる赤外線放射が,宇宙空間へと放出される前に一部が大気中の物質に吸収され,再び惑星へ放出されてくることで地表や地表付近の大気をさらに暖める効果のことを「温室効果」と呼びます。また,温室効果をもたらす気体のことを温室効果ガスと呼び,水蒸気二酸化炭素メタンフロン,そして対流圏オゾンなどが知られています。

 

温室効果を加味した放射平衡温度

では,この温室効果を考慮したうえで,地球の温度について計算しなおしてみましょう。

熱収支が複雑ですので,ざっくりとまとめてみると以下のようになりますかね。

①まずは太陽放射が地球に入射してくるのですが,地表に入ってくるエネルギーはアルベドによる反射分を差し引いた量になります。

②入射してきた太陽放射は赤外域などでは水蒸気や二酸化炭素による吸収があるものの,多くは地表へと到達します(今回は100%大気を透過するものと考える)。

③太陽放射によって温められた地表面は,気温が高くなって赤外放射を射出します。

④地表からの放射が大気によって吸収されます(本当は地面から直接宇宙へと逃げるエネルギーもあるが,今回は大気が地面からの放射をすべて吸収するものと考える)。

⑤大気によって吸収された一部の電磁波は宇宙空間へと放出されます。

⑥大気によって吸収された残りの地球放射は再び地表へと放出されます。

 

では計算。

分かりやすいように,地表面全体へと到達するアルベドによる反射分を差し引いた正味の太陽放射を  I_{\rm sun} とおきます。また,地表面の平均温度を  T_{\rm grd} ,大気の平均温度を  T_{\rm air}  とします。 

 

すると熱収支の式から,

【地表面の熱収支】: ②+⑥=④

    I_{\rm sun} + \sigma T_{\rm air}^4 = \sigma T_{\rm grd}^4 ・・・(C

 

【大気の熱収支】: ④=⑤+⑥ 

   \sigma T_{\rm grd}^4 = 2× \sigma T_{\rm air}^4 ・・・(D

 

D)より,

   T_{\rm grd}= \sqrt[4]{2} T_{\rm air}

が得られます。

この結果と(C)より,

    I_{\rm sun} = \sigma T_{\rm air}^4

が導き出せます。

 

ここで,  T_{\rm air} は 大気がないときの地球の平衡温度に等しく,255Kであるので,

   T_{\rm grd}= \sqrt[4]{2} ×255 = 303 \rm{K}

が得られます。

温室効果によって地球はおよそ30℃の天体であるという計算になりました。少し実際とは乖離していますが,それなりに妥当な結果ではないかと思います。

 

地球の熱収支

ここからは,地球にふりそそぐ太陽放射(短波放射)のエネルギーを100としたときに,そのエネルギーがどのようにやりとりされるかを見ていきましょう。

 

下の図が地球の熱収支の図です。数字はあくまで大雑把な値です。

まず宇宙上端から100のエネルギーで降り注いだ短波放射は,大気で20が反射され,地表で10が反射されます。反射される短波放射は合計で10+20=30となるので,地球のアルベドは30÷100=0.3となります。

残りの70は反射されずに地球の大気に20吸収(太陽放射に含まれる紫外域と赤外域の波長が大気に吸収される),地表に50蓄えられます。

 

次は地球放射(長波放射)について見てみます。

まず宇宙の視点から見てみると,宇宙は100のエネルギーを失って,そのうち30はアルベドで返ってきますが,熱収支がゼロになるためには宇宙は地球方向から70の熱を受け取る必要があります。

次に大気の視点から見ると,短波放射で20受け取り,長波放射で70失ったので,熱収支ゼロになるには地表から50受け取る必要があります。このとき,地表面からは150(そのうち潜熱20,顕熱10を含む)のエネルギーを受け取ると同時に,温室効果によって100の熱を地表へと放出します。これで大気の受け取るエネルギーは差し引きゼロになります(厳密には,地表面から直接宇宙空間に行くエネルギーがあるが,ここでは省略した。地表面から宇宙空間に直接行くエネルギーは,大気の窓領域の地球放射に相当する)。

地表面の立場では,短波放射で50を受け取り,大気へと150放出しますが,そこに大気から100の熱を受け取るので,こちらも差し引きゼロになりますね。

 

このようにして,エネルギーの貸し借りはあるものの,全体としては宇宙も大気も地表も差し引きゼロの状態(平衡状態)になります。現在では,二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴い熱収支のバランスが崩れており,大気・地表面温度を高くすることで平衡状態を維持しようとする方向に動いており,それが地球温暖化につながっているのです。

 

気候モデルと放射対流平衡

最後は放射対流平衡について言及しておきます。

2021年のノーベル物理学賞に日本人の眞鍋叔郎さん他2名が選出されました。その業績はコンピューターによる気候のシミュレーションモデルの開発・地球温暖化の研究・予測の理論的基礎確立などです。

 

眞鍋さんの業績の一つが気象の教科書にも出てきます。下の図のような,地球温度の高度分布図です。

実際に観測される標準大気が実線で示されています。そして物理的に計算して得られた地球大気温度のシミュレーション結果が3パターンの点線で示されます。

 

まず一番左側にある最も温度が低い結果が点線(-------)で表されていますが,特に対流圏より上空の成層圏で他の実験結果より値が低くなっているのが分かります。これは成層圏のオゾンによる紫外線の吸収が考慮されていないためです。

また,この左の点線と対流圏での気温減率が同じくらいの傾きをもつ一点鎖線(ー・ー・ー)の結果は,オゾンの吸収は考慮されていますが,対流圏における対流による熱輸送が考慮されていません(一番左側の点線も同様)。

最後に最も観測結果に近い結果である破線(ーーーー)については,対流による熱輸送もオゾンによる加熱も考慮されています。

 

このように,実際には対流圏の対流による熱輸送効果が大きいということも,大気をシミュレーションする上で非常に重要であることが分かるのです。

放射に加えて,対流による熱の移動のバランスが釣り合った状態のことを放射対流平衡と呼びます。

このことから,対流圏の平均的な気温の鉛直分布は,短波放射・長波放射の平衡および対流による熱輸送によって概ね近似できるということです*2

 

 

【まとめ】学習の要点

重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 太陽から放射を受け取るだけでなく,地球からも放射してエネルギーを放出している。地球から放射されるエネルギーと太陽放射から受け取るエネルギーが釣り合うために地球の温度は一定に保たれている。
  • 太陽放射・地球放射によるエネルギーの流出と流入が釣り合った状態のことを「放射平衡」と呼び,そのときの温度を「放射平衡温度」という。
  • 太陽から入射してくる放射量のうち,反射され地球に吸収されない放射量の割合をアルベドという。
  • 地球全体のアルベドは0.3(太陽放射の30%が反射)であり,内訳は雲や大気による反射・散乱が20%,地表面における反射が10%となっている。
  • 地球に入ってくる太陽放射エネルギーの70%のエネルギーのうち,50%は地表面で吸収され,20%は雲や大気に吸収される。
  • 惑星の表面から発せられる赤外線放射が,宇宙空間へとに放出される前に一部が大気中の物質に吸収され,再び惑星へ放出されてくることで地表や地表付近の大気をさらに暖める効果のことを「温室効果」と呼ぶ。
  • 温室効果をもつ気体を「温室効果ガス」と呼び,水蒸気や二酸化炭素,メタン・フロンなどが知られている。
  • 地球の温室効果によって,平均気温は理論的に計算される値よりも暖かくなり,生命の住みやすい環境を提供している。
  • 実際の大気温度のシミュレーションでは,成層圏オゾンの加熱や,対流圏の大気の対流の効果も考慮する必要があり,それらを考慮すると実際に観測される標準大気とほぼ一致した大気状態が疑似構築される(2021年ノーベル物理学賞眞鍋叔郎さんの功績の一つ)。
  • 放射平衡に加えて,対流による熱の移動のバランスが釣り合った状態のことを「放射対流平衡」と呼ぶ。
  • 対流圏の平均的な気温の鉛直分布は,短波放射・長波放射の平衡および対流による熱輸送によって概ね近似できる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:ステファン・ボルツマンの法則は単位面積あたりの計算であることに注意。

*2:水蒸気の凝結などの影響も少なくない