Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第21回 エマグラム①〜エマグラムの見方

 

エマグラム(EMAGRAM)

まずは前回の復習も兼ねて,エマグラムについて説明します。

エマグラムとは,Energy per unit mass diagram(直訳すると「単位質量当たりのエネルギー図」) の略で,上空における大気の状態(安定性)を評価するために用いられる図のことです。

上が2023年1月18日の秋田市上空のエマグラムです(アメリカのワイオミング大学のHPより入手。https://weather.uwyo.edu/upperair/sounding.html)。

まず,縦軸は気圧(hPa)で,対数スケールで取られており上に行くほど気圧は低くなります。横軸は気温(℃)で,こちらは右側に行くほど高くなります。

 

図には黒い実線が2本表現されていますが,これはそれぞれ上空の大気の気温(右側の線)と露点温度(左側の線)です。

他にも図中には何本もの網目状の線が薄い線で書かれており,乾燥断熱線湿潤断熱線等飽和混合比線の大きく3つがあります。

 

乾燥断熱線

まずは乾燥断熱線

乾燥断熱線とは,未飽和な(乾燥している)空気塊が上昇したり下降したりするときの気温と高度の変化を表す線です。乾燥空気は100m上昇するたびに約1℃低下することを過去に学んでいますが,その変化がこの乾燥断熱線として表現されているのです。

下の赤い線が乾燥断熱線です。

だいたい100m上昇するたびに0.98℃ほど気温が下がるような変化となっています。未飽和な空気が上昇すると,この線に沿って変化していくわけですが,徐々に気温が低下すると空気中の水蒸気がやがて凝結して飽和してしまいます。

飽和して凝結すると潜熱が放出されますから,それ以降は湿潤断熱変化を辿ることになります。

 

湿潤断熱線

その湿潤断熱変化を表したのが,下の緑線の湿潤断熱線



乾燥断熱線と比較すると,湿潤断熱線の方がより曲がった線を描いており,また高度が高くなるにつれて温度変化はだんだん大きくなっているのが分かりますね。

対流圏上層では水蒸気が少なく気温も低くなるので,その変化は乾燥断熱変化とほとんど同じになりますが,水蒸気を多く含む対流圏下層では潜熱によって空気が温められるため温度変化は小さくなるのです。よって高度によって気温減率は異なり,結果的には曲線を描くというワケです。

対流圏下層では,だいたい高度が100m上昇するたびに約0.5℃ほど気温が下がるような変化となります。

 

等飽和混合比線

最後に等飽和混合比線。水色の線で示しました。この線は一体何を意味しているのでしょうか?

 

それには「混合比」というものをまずは理解する必要があります。

 

混合比というのは,湿潤空気の中の水蒸気と乾燥空気に分割して,乾燥空気の質量に対する水蒸気の質量のことを指します。単位は g/kg で表します。すなわち,乾燥空気(1kg)に対して何グラムの水蒸気を含んでいるかを示した量です(この混合比は圧力や温度が変化しても,他の気体との混合や水蒸気の凝結・蒸発がなければ一定の値をとります)。

下のグラフは各気温の飽和水蒸気量を表したものです。

 

例えば,15℃の飽和に達した空気を考えると, 1  \rm m^3 の空気に対して水蒸気が  12.8  \rm g 含まれていることが分かりますね。

 1  \rm m^3 の乾燥空気の密度はだいたい  1.27  \rm kg なので,混合比は単純計算すると

   \dfrac{12.8}{1.27} = 10.1 \rm g/kg

と概算できます。

このように,水蒸気が飽和に達したときの混合比(すなわち空気が含むことのできる最大の水蒸気量)のことを飽和混合比と呼び,飽和混合比の数値が等しい部分を結んだ線のことを等飽和混合比線と呼ぶのです。

 

■■■■■■■■■■■■

【参考】混合比を求める方法

乾燥空気(平均分子量:28.96)と水蒸気(分子量:18)のそれぞれの状態方程式を立てます。乾燥空気の質量を  M,水蒸気の質量を  m とします。湿潤空気(乾燥空気と水蒸気合わせたもの)の圧力を  p,水蒸気圧を  e,気体の体積を  V,普遍気体定数 R^*,温度を  T とします。

 

乾燥空気の状態方程式 (p-e)V=M \Bigl(\dfrac{R^*}{28.96}\Bigr) T

水蒸気の状態方程式 eV = m\Bigl(\dfrac{R^*}{18}\Bigr) T

 

混合比は,水蒸気の質量  m を乾燥空気の質量  M で割ったものなので,

 

   (混合比)= \dfrac{m}{M} = \dfrac{18e}{28.96(p-e)} = 0.622 \dfrac{e}{p-e} \approx 0.622 \dfrac{e}{p}

 

水蒸気圧は乾燥空気分圧に比べて小さいと仮定したときに上記のように近似的に計算できます*1

■■■■■■■■■■■■

 

ここで図の(地上気温が)15℃付近を通る等飽和混合比線をよく見てみると,「10」という数字が書かれていることがわかるでしょう。 たしかに計算とも一致する値ですね。

でも,この等飽和混合比線はエマグラムでどうやって活用したら良いのでしょう?

 

上で述べましたように,混合比というのは周りの空気との混ざり合いや水蒸気の凝結・蒸発がなければ一定の値をとります。等飽和混合比線は,水蒸気がギリギリ凝結しない状態の混合比を表しており,この線を境に水蒸気が凝結するかどうかが分かります。

 

水蒸気が凝結したときにできるものが雲ですから,等飽和混合比線は雲を予想することができるのです。

そのあたりは次回に繰り越すことにします。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • エマグラムとは,上空における大気の状態(安定性)を評価するために用いられる熱力学図のことである。
  • 未飽和な(乾燥した)空気が上昇すると,乾燥断熱線に沿って変化する。乾燥空気は100m上昇するたびに約1℃低下する。
  • 飽和した(水蒸気が凝結した)空気が上昇すると,湿潤断熱線に沿って変化する。高度が100m上昇するたびに約0.5℃ほど気温が下がるような変化。ただし対流圏上空では水蒸気が少なく気温も低いため,乾燥断熱線と同じくらいの傾きとなり,湿潤断熱線は曲線を描く。
  • 混合比とは乾燥空気(1kg)に対して何グラムの水蒸気を含むことができるかを示した量。単位は g/kg。
  • 混合比は圧力や温度が変化しても,他の気体との混合や水蒸気の凝結・蒸発がなければその値は保存される。
  • 飽和水蒸気量に達したときの混合比を飽和混合比と呼ぶ。すなわち,飽和混合比とは空気が含むことのできる最大の水蒸気量のこと。
  • 飽和混合比の数値が等しい部分を結んだ線のことを等飽和混合比線と呼ぶ。
  • 飽和混合比は以下の式で近似できる。

     (飽和混合比) = 0.622 \dfrac{e}{p-e} \approx 0.622 \dfrac{e}{p}

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:例えば,地上の気圧1000hPaにくらべて水蒸気圧は最大でも20hPa程度なので,分母にある水蒸気圧は無視して計算しても値はそこまで大きくは変わらない