Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第22回 エマグラム②〜解析方法

 

前回からの続きです。

エマグラムを用いるとどのようなことが分かるか,どのように解析すれば良いのかを勉強していきます。

 

 

下のエマグラムは2022年8月14日のつくば市館野の鉛直方向の大気の状態曲線を表したものです。今回はこちらを用いて解析を行っていくことにします。

持ち上げ凝結高度(LCL)~雲ができる高度~

まずは地上(1000hPaとする)の大気の状態を見てみます。

この図を見てみると,1000hPaにおける気温は30℃,露点温度は24℃であることが読み取れますね。

ここで気温と露点温度が地上空気と全く同じ値をもつ仮想的な空気塊を想定します。

その仮想空気を上空へ持ち上げるとどうなるでしょう?

 

まずこの空気は未飽和ですから,乾燥断熱減率に従って温度が低下していくことになります。しかし温度が下がるとどこかで空気はこれ以上水蒸気を抱え込むことができなくなって,水蒸気の一部が凝結してくるポイントがあるはずです。

そのポイントはどのようにして知るのでしょうか。

 

ここで等飽和混合比線が重要になってきます。

前回も説明したように,混合比というのは周りの空気との混ざり合いや水蒸気の凝結・蒸発がなければ一定の値をとります。今回の仮想空気は,他の空気と交じることを考慮せずに上空へと持ち上げていますし,乾燥断熱変化をしている間は水蒸気の凝結も起こりません。すなわち,(地上から)水蒸気が凝結する高度までの間は混合比は保存されるのです。

 

そして,露点温度とは圧力一定の下で未飽和な空気が凝結を始める温度のことでした。

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ということは,1000hPaの露点温度における混合比が,この仮想空気が飽和するときの混合比であるということです。

乾燥断熱変化では飽和混合比も保存されるはずですから,1000hPaの空気を乾燥断熱変化させる乾燥断熱線と,1000hPaの露点温度を通る等飽和混合比線との交点が,水蒸気が凝結してくるポイントに相当します。

図で示すと下のようになります(分かりやすいように地上付近を拡大し,乾燥断熱線と等飽和混合比線だけを示しています)。

だいたい交点の高度は900hPaの高さになりますね。

このポイントのことを持ち上げ凝結高度LCL:Lifted Condensation Level)と呼び,このポイントで凝結が始まるということは,すなわち雲がこの高さからでき始めるということでもあります。

実際,持ち上げ凝結高度は雲底ができる高度とほぼ一致します

 

ちなみに,「持ち上げ」という言葉が用いられているように,空気は自分で勝手に上空に持ち上がることはなく,下層の風の収束で上昇気流が起こったり,空気が山にぶつかり滑昇が起こるなど強制的に持ち上げられる必要があります。

 

自由対流高度(LFC)~空気が勝手に上昇する高度~

ここまでで乾燥断熱変化をしてきた空気が凝結するまでを見てきました。

ではこの空気をさらに上昇させてみましょう。

 

空気は飽和に達したので,持ち上げ凝結高度から上では湿潤断熱変化をしていくことになります。凝結に伴う潜熱が放出され,気温減率が小さくなるためです。

この持ち上げられている仮想空気塊の温度が周囲の気温よりも低いとき,空気塊の方が密度が重いため空気は地上へと戻ろうとしているはずです。このとき「大気は安定である」というのでした。

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そして,持ち上げられた空気の温度が周囲の気温と同じになったとき,この空気はひとりでにその高度を維持できるようになります。これまで外からの力がなければ上昇できなかったはずなのに。

このように,外から力を加えなくても空気がその高度を維持できるポイントのことを自由対流高度LFC:Level of Free Convection)と呼び,ここを境に空気塊は勝手に上昇することができるようになります。

下図のように,持ち上げ凝結高度(赤丸)を始点とした湿潤断熱線と,周囲の空気の温度の交点が自由対流高度になります。この高度から上では,空気塊の方が周囲と比べて温度が温かく,密度が小さくなるので,浮力が働いてひとりでに空気は上昇していきます。

 

ただし,自由対流高度は必ず存在するわけではありません。たとえば下のような大気の状態のときです。

持ち上げ凝結高度より上にある空気の気温減率が湿潤断熱減率よりも小さい場合は,上の図のように湿潤断熱線(緑線)と周囲の大気温度との交点をもちません。このような自由対流高度が存在しないときには,大気が安定であることを示しています

 

平衡高度(EL)~雲頂高度~

さて,外から力を加えなくても空気がその高度を維持できる自由対流高度まで来ました。

ここから上空では,空気塊は勝手に上昇していきます。もちろん飽和した状態は続いてますので湿潤断熱減率に従って気温は低下していきます。

ではどこまでいったらこの空気は上昇をやめるのでしょうか?

 

再び空気塊の気温が周囲の気温と同じになるポイントですね。このポイントより上空では周りの空気のほうが気温が温かくなるため,外からの力なしに上昇することはできません。

この高度を平衡高度EL:Equilibrium level)と呼び,この点がほぼ雲頂高度と同じになります

そのため,平衡高度の値は積乱雲などの発達高度の目安の1つとなり,値が大きいほどより高い高度まで積乱雲が成長する大気の状態であると言えます。また,平衡高度が存在しない場合は,大気が安定であることを示しています。

 

 

さて,ここからはこのエマグラムから判断できる大気の安定性指標について見ていきます。

 

対流抑制(CIN)

対流抑制(以下CIN: Convective Inhibition)とは,地上の空気を自由対流高度まで持ち上げるために必要なエネルギーのことです。

そもそも地上の空気を上空へ持ち上げるには外からのエネルギーが必要です。必要なエネルギーが大きいということは,仮に何かの拍子で空気が持ち上がったとしても自由対流高度まで自発的に上昇するのは困難ということです。

CINが小さければ,少ない力で大気が自由対流高度まで上昇することができ,対流活動が活発であることを意味します。

CINはエマグラムでは下図の横線で塗られた面積に相当します。



対流有効位置エネルギー(CAPE)

対流有効位置エネルギーCAPE: Convective Available Potential Energy)とは,自由対流高度から平衡高度まで空気を上昇させたときに,空気に働く浮力のエネルギーの大きさのことです。

この値が大きいということは,空気を上昇させようとするエネルギーが大きいということになり,対流活動が活発であることを意味します。

エマグラムでは下図の縦線で塗られた面積に相当します。

 

ショワルター安定指数(SSI)

最後はショワルター安定指数(以下SSI)について。

SSIとは,850hPaの高度にある空気塊を断熱的に(未飽和なら乾燥断熱的に,飽和してからは湿潤断熱的に)500hPaの高度まで持ち上げたときに,実際の500hPaにおける空気の温度からその持ち上げた空気の温度を引いた値のことをいいます。

この値が分かると何が分かるんでしょうか。

 

それは,鉛直方向の大気の安定性が分かるのです。

では,実際に解析していきましょう。

 

操作はこれまでと一緒です。地上の空気塊ではなく850hPaにある空気を500hPaまで持ち上げればいいのです。

850hPaの空気を乾燥断熱線(赤線)に沿って持ち上げ,また850hPaにおける露点温度を通る等飽和混合比線(黒破線)との交点が凝結高度になります。凝結するとあとは湿潤断熱線(緑線)に沿って温度変化をしますから,500hPaでの持ち上げた空気塊の温度が分かります。

SSIは,実際の500hPaにおける空気の温度からその持ち上げた空気の温度を引いた値なので(どちらからどちらを引くかは注意する必要あり),この図だとだいたいSSI=+3℃くらいになるでしょうか。

 

SSIが正であるということは,持ち上げた空気塊の温度よりも周囲(実際の500hPaでの気温)の方が温度が高いということになり,外力を失えば空気塊は再び地上に戻ろうとします。すなわち大気が安定な状態です。

逆にSSIが負であるなら,(周囲の温度より)持ち上げた空気塊の温度の方が高くなるので,密度が小さい温かい空気は外力なしに勝手に上昇し続けます。すなわち大気が不安定な状態です。

  SSI>0(持ち上げた空気より周囲の気温の方が高い) なら 大気は安定

  SSI<0(持ち上げた空気の方が周囲の気温より高い) なら 大気は不安定

 

このようにSSIを用いれば大気の安定性が分かるのですが,実際はSSIが2~4℃で正であっても雷雨発生の可能性はあるようで,正負による大気の安定性指標はあくまで一つの目安として使う方が良いようです。ですので実用上では,4℃以上で安定,0~3℃でやや不安定,-1℃以下で非常に不安定といったところでしょうか。

 

下にSSI関連の動画を貼っておきます。

www.youtube.com

YouTubeで勉強できるとは便利な世の中です。

私が学生のときはこんなツールはなかったので,今の中高生が少々うらやましかったりもします。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 地上の空気を乾燥断熱変化させる乾燥断熱線と,地上の露点温度を通る等飽和混合比線との交点が「持ち上げ凝結高度」になる。
  • 持ち上げ凝結高度は雲底ができる高度とほぼ一致する。
  • 持ち上げた空気の温度が周囲の気温と同じになるポイントが「自由対流高度」である。湿潤断熱線と周囲の大気温度との交点に相当する。
  • 自由対流高度を境に空気は勝手に上昇するようになる。
  • 自由対流高度が存在しないときには,大気が安定であることを示す。
  • 自由対流高度の上空で再び周囲の気温と同じになる高度が「平衡高度」である。
  • 平衡高度はほぼ雲頂高度と同じになる
  • 平行高度が存在しない場合は,大気が安定であることを示す。
  • 対流抑制(CIN)とは,地上の空気を自由対流高度まで持ち上げるために必要なエネルギーのこと(空気の上昇を阻止するエネルギー)。
  • 対流有効位置エネルギー(CAPE)とは,自由対流高度から平衡高度まで空気を上昇させたときに,空気に働く浮力のエネルギーの大きさのこと(空気を上昇させようとするエネルギー)。
  • CINが小さく,CAPEが大きい値をとるとき対流活動が活発であるといえる。
  • ショワルター安定指数(SSI)とは,850hPaの高度にある空気塊を断熱的に(未飽和なら乾燥断熱的に,飽和してからは湿潤断熱的に)500hPaの高度まで持ち上げたときに,実際の500hPaにおける空気の温度からその持ち上げた空気の温度を引いた値のこと。
  • SSI>0 なら大気は安定,SSI<0 なら大気は不安定(あくまで目安)。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。