前回は乾燥断熱変化,湿潤断熱変化について説明し,その変化によって大気の安定性も求まるのでした。
そして今回は「温位」と「相当温位」についてです。普通に生活していたら聞き慣れない言葉ですし,なんだか難しそうですがじっくりと勉強していくことにします。
相当温位図とその意味
気象庁が日々発表している予報天気図の中に「相当温位図」というものがあります。
下は2023年5月30日夜の相当温位の予想図です。図の下に「E.P.TEMP(K)」と書かれていますが,これが相当温位(equivalent potential temperature)で,単位がケルビン(K)で表されることを示しているようです。
この図を見ると,地上天気図の等圧線と同じように線が引かれているのが分かりますね。これは等相当温位線と呼ばれています。
そして,この相当温位はwikipediaでは下のように紹介されています。
相当温位(そうとうおんい、英: equivalent potential temperature)とは、気圧 の空気塊を断熱的に圧力降下させて、飽和した後さらに空気塊がもつ水蒸気をすべて凝結させて完全に乾燥させ、その後は圧力を上昇させて標準的な参照圧力 (通常は1,000hPa)まで戻すという変化を与えたときに想定される温度である。主に気象学で用いられる。
ハイ,頭痛くなりますね。空気を降下させたり上昇させたりして何しとんねんと叫びたくなります。
この難しい文章を分かりやすく意訳すると,「相当温位が大きい値をとると高温多湿の空気である」と言っているのだそうです。要は空気の質について表す数値であろうと考えられるのです。
上の相当温位図で,九州や四国あたりを通る等相当温位線が混みあった部分がありますが,これは空気の質がここで大きく変化することを表しているのです。このときに実際に観測された地上天気図を見てみると下のように前線が位置していることが分かりますね。
前線というのは空気の質の境目のことですので,こういった大気の状態を見るのに相当温位というのが役立つことが分かりました。
でもそもそも相当温位というのはどのように計算されるのでしょう?wikipediaの説明ではあまり頭に入ってこないので,じっくりと見ていくことにします。
相当温位の前に,まずは温位について知る必要があります。
温位
温位は「空気塊を乾燥断熱的に1000hPaの高度に移動させたときの絶対温度」と定義されます。単位は絶対温度で表すことに注意が必要ですね。温度 (),気圧 ()の空気を ()まで乾燥断熱変化させたときの温位 は
と書けるようです。ここで, は乾燥空気の気体定数, は乾燥空気の定圧比熱です。この式の導出の方法は私はよく分かりませんが,あまり細かいところはこだわらずに進めていきます。
では,そんな温位という量を求めて何か良いことがあるのでしょうか?
それは,温位を用いると空気の高度に関係なく数値を比べることができるので,大気の安定度が瞬時に理解できるというメリットがあるのです。
例えば,上空2kmに0℃の空気,上空1kmに15℃の空気があったときにこの大気は安定かどうかを考えてみましょう。
前回勉強したように,ある空気が周囲の空気と比較して暖かいか冷たいかで大気の安定度を知ることができます。暖かい空気は密度が小さいので,周りが冷たい空気であればそのまま上昇して(断熱冷却により)雲ができやすくなります。逆に冷たい空気があって,その周りが暖かい空気なら,空気は下降するので(断熱昇温により)雲はできづらくなります。周りの空気の気温を比較するということは,同じ高度の空気の温度を比較すると言い換えることもできるので,空気を同じ高度にそろえて考えれば良いのでしたね。
上空2kmの0℃の空気を地上に持ってきたときの温度を考えると,乾燥断熱変化によって20℃であると計算できます(乾燥断熱変化を1km上昇すると10℃下降するとした)。
上空1kmの15℃の空気は,計算すると25℃と計算できます。
よって上空に冷たい空気があるので,このときの大気は不安定な状態であると言えます。しかし上記のようにわざわざ計算するのは面倒ですね。
ここで温位を考えてみましょう。
地上の気圧を1000hPaとして計算してみると,上空2kmの0℃の空気は1000hPaでは20℃ですので温位は293K(摂氏温度に273を足せばよい)です。
一方,上空1kmで15℃の空気は25℃なので温位は298Kと計算できます。
すると,「上空2kmに0℃の空気,上空1kmに15℃の空気があったときにこの大気は安定かどうか」という問題は「上空2kmの温位293Kの空気と,上空1kmの温位298Kの空気があったときにこの大気は安定かどうか」を考えることと等しくなります。温位というのは高度に関係なく比較することが可能ですので,同じ高度でそろえるという煩雑な計算なしに上空に冷たい空気があることが分かります。
繰り返しになりますが,空気の高度に関係なく数値を比べることができるので,大気の安定度が小難しい計算なしに理解できるというのが温位を用いる利点ということですね(おそらく)。
そして乾燥断熱変化をしている間はこの温位は常に保存されます。すなわち,ある空気を上昇させたり下降させたりしても,乾燥断熱変化をしている場合は常に一定の値をとります。
では湿潤断熱変化をする場合はどうでしょう?
下のように地上(1000hPaとする)で30℃の空気を乾燥断熱変化させたときには,空気を上昇・下降させても温位は変化しません。
一方で湿潤断熱変化する際は,フェーン現象と全く同じ原理で空気を上昇・下降させると温度が30℃から35℃に暖かくなってしまいました。
このように,湿潤断熱変化をする場合は温位は保存されないのです。
水蒸気が凝結する場合は温位を考えるだけでは不十分なんですね。ここで相当温位という考えが重要になってきます。
相当温位
相当温位は水蒸気の凝結による温度変化も考慮された値です。
「温位に,空気に含まれる水蒸気がすべて凝結したときに放出される潜熱を考慮して,そのときに想定される空気の絶対温度」のことです。
空気の混合比を として,相当温位を求めると
・・・①
と概算できるようです。混合比は必ず0以上ですので(混合比0は乾燥空気に等しい),相当温位はかならず温位以上の値をとります。湿潤空気(混合比>0)であれば必ず相当温位の方が温位よりも大きくなります。
ちなみに混合比とは,乾燥した空気にどのくらいの水蒸気が含まれているかを表す量です。
潜熱分も考慮に入れるので,この相当温位は乾燥断熱過程でも湿潤断熱過程でもその値は保存されるのが分かりますね。上空の大気などは必ずしも乾燥断熱変化だけではないので,温位を用いるよりも相当温位を用いる方が便利なのも納得です。相当温位が高度とともに減少していくとき,この大気は不安定(対流不安定)であることを示しています。
ではこの相当温位が高いということは何を意味しているのでしょうか?
①式から,相当温位が高くなるためには,温位が高くなるか,あるいは混合比が大きくなる必要がありますね。
しかし,混合比は気温が高いほど値は大きくなることができるので,結局は
相当温位が高い=温位が高く(温暖)混合比も大きい(湿潤)空気である
相当温位が低い=温位が低く(寒冷)混合比も小さい(乾燥)空気である
と言えそうです。
これでようやく冒頭の相当温位図での相当温位の意味を理解することができました。
【まとめ】学習の要点
ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 温位とは空気塊を乾燥断熱的に1000hPaの高度に移動させたときの絶対温度のことをさす。
- 温位を用いると空気の高度に関係なく数値を比べることができる。
- 温位は以下の式で求められる。温度 (),気圧 ()の空気を ()まで乾燥断熱変化させたときの温位 は
- 温位は乾燥断熱変化では常に保存され,湿潤断熱変化では保存されない。
- 相当温位とは,空気に含まれる水蒸気がすべて凝結したときに放出される潜熱を温位に考慮して,そのときに想定される空気の絶対温度のこと。
- 相当温位は乾燥断熱過程でも湿潤断熱過程でもその値は保存される。
- 相当温位の概算式: (;混合比)
-
相当温位が高い=温暖・湿潤
相当温位が低い=寒冷・乾燥
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。