Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【気象学勉強】第43回 渦度③〜計算〜

 

今回は渦度の最後です。実践的に問題を解きながら,その計算方法を学んで(覚えて)いくことにします(渦度の単位を  1/\rm{sec} と記載していましたが,正式には  1/\rm{s} なので修正しました。試験では正式な方で答えてください)

 

 

渦度の復習

まずは復習。

鉛直方向を考えない水平面に風のベクトル場があるとき,ベクトル場上の各領域に生じる渦度は以下のように表せるのでした。

    (渦度) = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \dfrac{\partial V_y}{\partial x}  - \dfrac{\partial V_x}{\partial y} \end{pmatrix}

weatherlearning.hatenablog.jp

 

このように,生じる渦度の向きは(ベクトル場が水平ならば)必ず鉛直方向になります。

そこで鉛直方向だけを抽出すると

    (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\partial V_y}{\partial x}-\dfrac{\partial V_x}{\partial y}

ですね。

 

気象学の教科書を見ていると,ある程度大きな領域を考える際は以下のように近似されるようです。

    (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y}

 

この式で, \Delta V_x \Delta V_y はそれぞれ風の  x成分 と  y成分の速度の変化量を表しており, \Delta x \Delta y は局所領域の  x方向 と  y方向の距離です。

よって, \Delta V_y / \Delta xx 軸方向に動くとどのくらい風の  y成分の速度が変化するかを表しており, \Delta V_x/ \Delta yy 軸方向に動くとどのくらい風の  x成分の速度が変化するかを表しています。

下の図のようなイメージですかね。

左の図は,x 軸方向に動くとどのくらい風の  y成分の速度が変化するかを表しており,傾きが  \Delta V_y / \Delta x に相当します。

右は,y 軸方向に動くとどのくらい風の  x成分の速度が変化するかを表しており,傾きが  \Delta V_x / \Delta y に相当します。

左図の傾きの値から右図の傾きの値を引いたものが渦度になるのです。

 

 

もう少し具体的な例を挙げて考えてみます。

例えば,北半球の水平面内に下の図のような一辺の長さが1kmの正方形の領域があり,各辺上では図に示す強さの成分を持った風が吹いているとします。

この領域の渦度の鉛直成分の値を求めてみます。

x 軸方向(東方向)に進むとどのくらい風の  y成分の速度が変化するかを見てみると,下の図のように東に進むと風速は減少し,その傾きは  \Delta V_y / \Delta x = -7/1000 1/\rm{s})と計算できます。

今度は y 軸方向(北方向)に進むとどのくらい風の  x成分の速度が変化するかを見てみると,下の図のように北に進むと風速は徐々に減少し,その傾きは(y軸から見て)  \Delta V_x / \Delta y = -2/1000 1/\rm{s})と計算できます。

よって,この領域に生じる渦度は,

    (渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y} = \dfrac{-7}{1000}  - \dfrac{-2}{1000} = -5×10^{-3} 1/\rm{s}

と計算できます。

渦度がマイナスであるので,このときに渦度は鉛直下方向に生まれることになります。

 

渦度の問題

では渦度について問題をいくつか解いていきながら,計算方法を理解しましょう。

問題1

北半球の水平面内に図のような一辺の長さが1kmの正方形の領域があり,各辺上では,図に示す強さの成分を持った風が吹いている。領域AB内の渦度の鉛直成分の値をそれぞれ求めよ。ただし,渦度の鉛直成分は各領域内で一様とする。また, \sqrt 2= 1.4 として良い。

水平面上に風が吹いているので,渦度は必ず鉛直方向に働きます。

 

まずはAから。

x 軸方向に動いても  y 成分の風速の変化量はないため  \Delta V_y=0

y 軸方向に動いても  x 成分の風速の変化量はないため \Delta V_x=0

 

よって

    (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y} = 0

が答えです。この領域では発散は起こっているけれども,渦度は生じていないということですね。

 

 

そしてB

まずは  x 軸方向と  y 軸方向に風速を分解するところから。

渦度を求める場合は領域の縁に沿った成分のみを考えれば良いので,下のように分解します。

   y 成分の風速の変化量  \Delta V_y = (+10)-(+10) = 0 なので, \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}=0(北方向をプラス,南方向をマイナスとする)。

  x 成分の風速の変化量  \Delta V_x = (+10)-(+10) = 0 なので, \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y}=0(東方向をプラス,西方向をマイナスとする)。

よって

 (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y} = 0

が答えです。この領域では発散も起こってないですし,渦度も生じていないということですね。

 

さて,以前も話しましたが,以下のように均一な方向に空気が発散しているベクトル場や,一様な風が吹いているようなベクトル場では渦度は常にゼロになります。

たしかに今回の計算によってもその結果が確かめられました。

 

問題2

北半球の水平面内に図のような一辺の長さが2kmの正方形の領域(a)(c)があり,各辺上では,辺に沿って図に示す強さの成分を持った風が吹いている。領域(a)(c)内の渦度の鉛直成分の値をそれぞれ求めよ。ただし,渦度の鉛直成分は各領域内で一様とする。

平成27年気象予報士試験 学科一般 問7改題

(a)

 y 成分の風速の変化量は, \Delta V_y = (+5)-(+1) = 4 なので, \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}=\dfrac{4}{2000}(北方向をプラス,南方向をマイナスとする)。

 x 成分の風速の変化量は, \Delta V_x = (-3)-(-2) = -1 なので, \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y}=\dfrac{-1}{2000}(東方向をプラス,西方向をマイナスとする)。

よって

 (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y} = \dfrac{4}{2000}-\dfrac{-1}{2000} = \dfrac{5}{2000}(単位は  1/\rm{s}

となります。

 

(b)

  y 成分の風速の変化量は, \Delta V_y = 0 なので, \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}=0(北方向をプラス,南方向をマイナスとする)。

 x 成分の風速の変化量は, \Delta V_x = (-3)-(+2) = 1 なので, \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y}=\dfrac{1}{2000}(東方向をプラス,西方向をマイナスとする)。

よって

 (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y} = 0-\dfrac{1}{2000} = \dfrac{-1}{2000} 1/\rm{s}

です。

 

(c)

  y 成分の風速の変化量は, \Delta V_y = (+1)-(-1) = 2 なので, \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}=\dfrac{2}{2000}(北方向をプラス,南方向をマイナスとする)。

 x 成分の風速の変化量で, \Delta V_x = (-2)-(+2) = -4 なので, \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y}=\dfrac{-4}{2000}(東方向をプラス,西方向をマイナスとする)。

よって

 (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y} = \dfrac{2}{2000}-\dfrac{-4}{2000} = \dfrac{6}{2000} 1/\rm{s}

となります。

風の方向のプラスマイナスには細心の注意を払わないといけません。

 

問題3

大気中に下図(上)のような高さが1km,東西および南北方向の長さが10kmで,4つの側面がそれぞれ東西南北を向いた立方体の領域があり,上面からは下向きに1m/sの鉛直流が,また東西南北の各側面には図(下)の括弧内に示す東向きを正とする東西成分,北向きを正とする南北成分の水平風がいずれも各面に一様に吹いている。

この領域の底面で一様に吹いていると仮定した場合の鉛直流の向き及び大きさと,領域で平均した渦度の鉛直成分をそれぞれ求めなさい。

ただし空気の密度は一定であり,渦度の鉛直成分は上向きを正とする。

第58回気象予報士試験 学科一般 問7改題

今度は立体的な図が出てきました。なんだか複雑そうですが,これまでの理解度が試される良問と思います。

 

まずは領域の上面から入ってくる空気を求めると下のようになります。

  (上面から流入する空気)  = 1 (\rm{m/s}) × (10^4×10^4) (\rm{m^2}) =10^8 (\rm{m^3/s})

 

 

お次は水平方向の流出する空気を考えます。

  (領域の水平方向の流出する空気)  = 2(\rm{m/s}) × (10^4×10^3) (\rm{m^2})+ 2(\rm{m/s}) × (10^4×10^3) (\rm{m^2})=4×10^7 (\rm{m^3/s})

  (領域の水平方向の流入する空気)  = 1(\rm{m/s}) × (10^4×10^3) (\rm{m^2})+ 1(\rm{m/s}) × (10^4×10^3) (\rm{m^2})=2×10^7 (\rm{m^3/s})

となります。

全体では,  2×10^7 (\rm{m^3/s}) の空気の流出が起こっていますね。

 

領域の空気の流入の差し引きがゼロになるように移動するので,領域下面からは

    10^8 -2×10^7 = 8×10^7 (\rm{m^3/s})

の流出が起こらないといけませんね。よって

    8×10^7(\rm{m^3/s}) ÷(10^4×10^4)(\rm{m^2})=0.8(\rm{m/s})

の流出(マイナス)方向の鉛直流が発生します。

 

 

最後に渦度ですが,こちらは水平方向のみを考えるだけで良かったのでした。鉛直方向は無視しても構いません。

 y 成分の風速の変化量は, \Delta V_y = (-4)-(+1) = -5 なので, \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}=\dfrac{-5}{10^4}(北方向をプラス,南方向をマイナスとする)。

 x 成分の風速の変化量は, \Delta V_x = (2)-(2) = 0 なので, \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y}=0(東方向をプラス,西方向をマイナスとする)。

よって

   (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y} = \dfrac{-5}{10^4}-0 = -5×10^{-4} 1/\rm{s}

となります。

 

ハイ,こんな感じで解いていくのですね。

注意すべきはとにかく風のプラスマイナスの方向を間違えずに計算することだと思います。まぁどうやって解くかは各自計算ミスがないように自分なりの解き方を見つけられれば良いのではと思います。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  •  (鉛直方向の渦度)= \dfrac{\Delta V_y}{\Delta x}  - \dfrac{\Delta V_x}{\Delta y}

 

  • 風向のプラスマイナスの方向に注意して計算する。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考にしました。