Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強中の社会人ブログ

【気象学勉強】第44回 ウィンドプロファイラ観測

 

ここまで風について見てきました。風は,地上では風車式風速計などを用いて観測し,高層ではGPSゾンデなどを気球につけて飛ばして風向や風速を求めていることはこれまで勉強してきた通りです。

今回は,これらとはまた別の風の観測測器であるウィンドプロファイラについて説明します。

 

 

ウィンドプロファイラとは

まず疑問が湧きます。

地上で風速計,高層ではゾンデを用いて風を測定しているのにも関わらず,このウィンドプロファイラなるものをさらに用いて観測するメリットは何なんだろうか,と。風速計やゾンデだけでは不十分ということでしょうか?

 

結論を先に言うと,それだけでは不十分のようです。

ウィンドプロファイラは上空の水平風や鉛直流を観測するための機器であり,GPSゾンデと同じように高層の風を観測するのに用いられます。

しかし,GPSゾンデは協定世界時00時(日本時間の9時)と協定世界時12時(日本時間21時)の1日2回という頻度で観測されているだけなので,それ以外の時間において大気の動きがどうなっているのかを知ることは困難です。またGPSゾンデは打ち上げて上空でどれだけ風に流されたとしても,打ち上げた地点の上空の数値として扱われるため実際の数値との乖離が発生する可能性も否めません。

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そこで気象庁では2001年4月からウィンドプロファイラを運用しているそうで,全国に33カ所設置されています。全国で収集されたデータは気象庁の中央監視局に集められて天気予報に活用されているんだそう。

ウィンドプロファイラの実物写真が下の機器のようです(気象庁HPより)。カゴに入った白玉みたいに見えますが,実際はここから電波が発射されて風を観測しているようです。

 

ウィンドプロファイラの原理

ではどのような原理で風を観測しているんでしょうか?

簡単に言ってしまえばドップラー効果を利用しています。ドップラー効果とは,例えば救急車が近づいてくるときの高いサイレン音が,目の前を通り過ぎた後は低く聞こえるといった,速度があることによって波長が縮められたり引き延ばされたりする効果のことです。

 

ウィンドプロファイラは,上空の大気の温度差や水蒸気量の差などによって生じる屈折率の乱れをドップラー効果の原理を用いて検出します。

詳細には下の図のように,5方向(真上,北寄り,東寄り,南寄り,西寄り)に向けて電波を発射し,射出した電波の周波数と上空から跳ね返ってきた周波数との変化を解析することで主に風の速度を三次元的に算出しているようです(散乱強度ではなく,散乱して戻ってくる電波の周波数変化をとらえていることに注意)。

そして算出された直近の風の情報は,気象庁HPの気象観測のところから見ることができます(気象庁|統合地図ページ,たしかに数えてみると33個のプロットが確認できます)。

また各プロットをクリックすると,下のようなベクトルで表現された風の動きの図を確認することができます。

こちらの図は横軸に時刻,縦軸に高度が取られています。そのベクトルの間隔を見てみると,時刻は10分ごとに,高度は300mごとに表現されているのが分かります。ウィンドプロファイラは10分間隔で約300mごとに観測しているのですね*1

そして矢印の向きは(上方向から見た)水平方向の風向を,矢印の長さは風速を表しています。そして鉛直方向の動きは赤や青などの色で表現されています。

 

ウィンドプロファイラの特徴

しかしウィンドプロファイラには注意すべき点もあります。

まず一つに大気の流れだけを観測しているワケではないということ。降水がある場合は,降水粒子の散乱の方が大きくなるため,鉛直方向の速度は大気の動きではなく雨粒の鉛直速度を表すことになります。一方で降水粒子は風とほぼ同じ速度で水平方向に運動するため,水平方向の動きについては大気の動きとして観測されます。

ですので,先ほどの図で鉛直速度が青く示されているポイント(鉛直下向きに4.0m/s以上の速度)は降水が観測されている可能性が高いと考えられます。また一般的に,大気が1m/s以上の速度で下降することはないそうです。

雨粒の落下速度は以前計算してみたところだいたい6.5m/sくらいだったので,その値とも概ね一致しますね。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

 

そして二つ目として,ウィンドプロファイラ観測が大気の状態に大きく影響される点大気中に水蒸気量が多いと,散乱が大きいので返ってきた電波を検出しやすくなり高度7~12kmまでの観測が可能です。一方で大気が乾燥している場合は跳ね返ってきた電波を検出しにくく,観測できる高度はそれよりも低く3~6km程度になります。

 

このウィンドプロファイラのデータを解析することで前線の通過や台風の位置や構造などを把握することができます。具体的にどのように解析するかはまた今度,前線について理解してから説明することにします。

 

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ここまで地衡風・傾度風・旋衡風・地上風など風について学んできました。風についてはこれで終了です。

 

次からは大規模な大気の運動について勉強していきますが,その前に温度や湿度など気象観測の手法について簡単に見ていくことにします。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • ウィンドプロファイラは上空の水平風や鉛直流を観測するための機器。
  • 気象庁では2001年4月からウィンドプロファイラを運用しており,全国に33カ所設置される。
  • ウィンドプロファイラは,上空の大気の温度差や水蒸気量の差などによって生じる屈折率の乱れをドップラー効果の原理を用いて検出する。
  • ウィンドプロファイラは10分間隔で高度約300mごとに観測する。
  • 降水がある場合は鉛直速度は降水粒子の速度であり,大気の鉛直速度ではない。水平方向は大気の水平速度とみなしてよい。
  • ウィンドプロファイラ観測は大気の状態に大きく影響され,大気中の水蒸気量が多いと高度7~12kmと観測高度は高い。乾燥していると観測高度の上限は低くなる傾向があり,高度3~6km付近までの観測ができる。
  • ウィンドプロファイラのデータを用いることで前線の通過や台風の位置や構造などを把握することができる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考にさせていただきました。

*1:鉛直分解能は300mだが,水平分解能は100km程度であり,鉛直方向をより詳細に解析できる