Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第41回 渦度①~相対渦度~

 

4月になりました。今月は風について残っている箇所と,大規模な大気の循環について勉強していく予定です。

まずは風について残っているところから。今回から渦度について3回に分けて説明していく予定です。

 

 

渦度とは

今回は渦度

例えば500hPa高層天気図を見てみると下のような数値が表現されています。

VORTと記載されており,これが渦度(Vorticity)ですかね。単位は発散と同じで  \rm{1/s} (もしくは  \rm{s}^{-1} )です。

 

数値を見てみると,「-33」だったり「-51」だったり「+176」だったりといろいろな値がありますね。この数値は何を表しているのでしょう。

 

結論から言ってしまうと,この渦度とは「ある局所領域における回転の度合い」を表すものです。ではどのように計算しているのでしょうか。

 

渦度の計算

ここからは少し難しい話になるのですが,大学で学ぶベクトル解析という分野に「回転(rotation)」というものがあります。前回まで見てきた「発散」と同じ単元になります。今回の渦度はこの回転という計算式で表現します。

 

まず,とあるベクトル場  \vec{V}  x軸方向・  y軸方向・  z軸方向に分けて以下のように書くことにします。

   \vec{V} = \begin{pmatrix} V_x \\ V_y \\ V_z \end{pmatrix}

下の図のようなベクトル場を一般化して一つの式でまとめているというイメージです。

ここで空間の微小な領域における回転の強さ(すなわち渦度)は以下の式で表すことができます。

   (渦度) = rot{\vec{V}} = \begin{pmatrix} \dfrac{\partial V_z}{\partial y} - \dfrac{\partial V_y}{\partial z} \\ \dfrac{\partial V_x}{\partial z}  - \dfrac{\partial V_z}{\partial x} \\ \dfrac{\partial V_y}{\partial x}  - \dfrac{\partial V_x}{\partial y} \end{pmatrix}  ・・・①

 

さすがにこの式見ると頭痛くなりますね。なぜこんな式が導き出されるのか詳しく知りたい方はヨビノリさんの動画をご参考にしてください。私もちゃんと説明できません。


www.youtube.com

 

しかし気象学では静力学平衡が成り立ち,鉛直方向の速度は水平方向の速度と比較して無視できるほど小さくなるので,鉛直方向(すなわち  z軸方向)は考慮せずに考えます

簡単に描画したら,下の図のような  z軸方向への向きのないベクトル場だけを考えるのです。

そうすると①式で  z のつく項がすべて0になります。

すなわち,  \dfrac{\partial V_z}{\partial y}=0,  \dfrac{\partial V_y}{\partial z}=0,  \dfrac{\partial V_x}{\partial z}=0, \dfrac{\partial V_z}{\partial x}=0 

 

その結果,①式は以下のようにスッキリとした形に書けるのです。

   (渦度) = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \dfrac{\partial V_y}{\partial x}  - \dfrac{\partial V_x}{\partial y} \end{pmatrix}  ・・・②

 

この渦度のベクトルを図に表すと下の図のようになります。

これが何を意味しているのかというと,大気のように水平方向のみのベクトル場として近似した場合,回転を表す渦度は必ずその水平面とは垂直な鉛直方向に生じるということです(図では渦の中心にしか渦度を示す矢印を描いてないですが,実際にはどこの場所においても大きさは違えど鉛直方向に渦度が生じています)。

 

そしてこれは右ねじの法則として知られているものと同じです(下図)。右手を握って親指を立てた時に,渦度が生じる方向が親指の向き、そのほかの指の向きがベクトル場の向きになります。

        

逆に時計回りするベクトル場では渦度は下向きに働くことになります。

さて以前地衡風や傾度風の回で,北半球では低気圧側を左に見て風が吹くということを学んでいます。
weatherlearning.hatenablog.jp

低気圧周辺では風は反時計回りに吹き,高気圧周辺では風は時計回りに吹くことになります。

よって右ねじの法則から低気圧周辺の渦度は鉛直上向きに,高気圧周辺の渦度は鉛直下向きに生じるのです。ここで鉛直上方向を正としたとき,低気圧性の循環があるときには「正の渦度」が生じ,高気圧性の循環があるときは「負の渦度」が生じるということです。

 

冒頭で,天気図に記載されている渦度が「-51」だったり「+176」と正と負の値があったのは渦の循環の方向に違いがあったからのようです。マイナスやプラスの意味は値の小ささではなく方向を表しているのですね。

 

渦度のあるベクトル場

ではどんな風のベクトル場であれば渦度ができるのか,できないのかについてご紹介。

 

まずは渦度がまったくないベクトル場の例。下のようなベクトル場ではどの場所をとっても渦度は0になります。

四方八方に同じ割合で発散しているようなベクトル場や,一定方向で一定速度のベクトル場では渦は生じません。

例えば,どこの場所でも風が一定の速度で吹いている領域では渦度は生まれないのですね。

 

 

一方で渦度があるベクトル場。もちろん渦度はすべて鉛直方向に働きます。

左のようなベクトル場は明らかに回転がありそうですね。

その一方で右のように直線でも速度に差があればそこに渦度は生じるのです。

このように,渦度が生じる条件として,①流れに曲率があるとき,②水平方向の風速に差がある(水平シアがある)とき,の二つがあるのですね。

 

 

最後に,ベクトル場の変化に応じて渦度が変化するイメージ図をアニメーションとして下に載せておきます。青線がベクトル場を表しており,鉛直方向に伸びる赤線が渦度になります。渦度の矢印が上方向だと低気圧性循環,下向きだと高気圧性循環です。

それぞれの地点にはベクトルが住んでおり,また同時に渦度も存在していることが分かりますね。渦度はベクトル場の変化に応じてその値を変えているということです。

 

 

ハイ,とりあえず今回はこんな感じにしておきます。

ちなみに今回見てきた渦度は地球の回転を考慮しない,水平の空気の動きだけに基づいた渦度で相対渦度と呼ばれます。

実は地球自身も回転して渦度を生じており,それを含んだ絶対渦度というものについて次回は説明していきます。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 渦度とはある局所領域における回転の度合いを表す。
  • 渦度の単位は発散と同じで  \rm{1/s} (もしくは  \rm{s}^{-1} )。
  • ベクトル場自体が水平方向に分布しているとき,回転を表す渦度は鉛直方向に生じる。
  • 大気の場合は風のベクトルは水平方向のみを考えれば良いので,渦度は(ゼロでなければ)必ず鉛直方向(鉛直上もしくは鉛直下)に生じる。
  • 低気圧性の循環があるときには「正の渦度」が生じ,高気圧性の循環があるときは「負の渦度」が生じる。
  • ①流れに曲率があるとき,もしくは②水平方向の風速に差がある(水平シアがある)とき,渦度が生じる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。