Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第84回 災害対策基本法

 

気象法規については特にまとめようとは思っていなかったのですが,再び一般知識に戻って勉強しておきます。

気象予報士試験では,全部で15問ある一般知識の中で4問はこの気象法規なので,なおざりにはできないのです。

 

 

災害対策基本法とは

先日,能登半島地震を受けて災害の対応について勉強しました。

weatherlearning.hatenablog.jp

災害が発生したとき(もしくは発生するおそれがあるとき)には,災害対策本部という機関が設置されるのでした。今回の能登半島地震でも内閣府に特定災害対策本部が置かれ,のちに非常災害対策本部に引き上げられました。

このような災害大国である日本において防災体制について定められた法律が「災害対策基本法」です。1959年に伊勢湾台風紀伊半島から東海地方にかけて大規模な被害(死者・行方不明者5000人超)をもたらしたことで,災害被害を少しでも抑えようと1961年に制定されました。ちなみに現在でもほとんど毎年のように修正されているようです。それほどまでに日本ではいろいろな災害が起こり,それを教訓にしてより良い法律へと書き換えられているのですね。

 

この災害対策基本法の目的は以下のように書かれています。

第一条 この法律は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。

簡単に言うと,災害から国民を守るために,必要な防災体制について整備することを目的とするということですね。ここで,災害というのは,暴風・竜巻・豪雨・豪雪・洪水・土石流・高潮・地震津波・噴火といった自然現象または大規模な火事などを指します。

 

また,この法律の基本理念は以下のように記されています。

第二条の二 災害対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われるものとする。

 我が国の自然的特性に鑑み、人口、産業その他の社会経済情勢の変化を踏まえ、災害の発生を常に想定するとともに、災害が発生した場合における被害の最小化及びその迅速な回復を図ること。
 国、地方公共団体及びその他の公共機関の適切な役割分担及び相互の連携協力を確保するとともに、これと併せて、住民一人一人が自ら行う防災活動及び自主防災組織(住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織をいう。以下同じ。)その他の地域における多様な主体が自発的に行う防災活動を促進すること。
 災害に備えるための措置を適切に組み合わせて一体的に講ずること並びに科学的知見及び過去の災害から得られた教訓を踏まえて絶えず改善を図ること。
 災害の発生直後その他必要な情報を収集することが困難なときであつても、できる限り的確に災害の状況を把握し、これに基づき人材、物資その他の必要な資源を適切に配分することにより、人の生命及び身体を最も優先して保護すること。
 被災者による主体的な取組を阻害することのないよう配慮しつつ、被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること。
 災害が発生したときは、速やかに、施設の復旧及び被災者の援護を図り、災害からの復興を図ること。

日本という国はその自然的特性から災害が起こりやすく,常に災害を想定しながら一人ひとりが自発的に防災活動に携わり,災害が起こった場合には被災者の援護や災害からの復興を図り,過去の災害を教訓にして社会をより良いものにしていこう,というのが基本理念というところでしょうか。

 

災害対策基本法の概要

この災害対策基本法は以下の6つの要素から構成されています(https://www.bousai.go.jp/taisaku/pdf/090113saitai.pdf を参考)。

 ①防災に関する責務の明確化

 ②防災に関する組織体制の整備

 ③防災計画の作成

 ④災害対策の推進

 ⑤激甚災害に対処する財政援助等

 ⑥災害緊急事態に対する措置

 

まず,「①防災に関する責務の明確化」についてですが,こちらは国・都道府県・市町村・住民がそれぞれの立場で防災への取り組みを行うことを義務付けています。そのために各々が防災計画を作成して,それを実施しなければならないとされます。

このとき,国が作る防災計画のことを防災基本計画都道府県や市町村が作る防災計画のことを地域防災計画と呼び区別します。それぞれの階層で,災害に対してどのように対応するかの計画が定められているということですね。


そして「②防災に関する組織体制の整備」ですが,防災活動の組織化・計画化を図るための常設の機関として,国・都道府県・市町村それぞれが中央防災会議都道府県防災会議市町村防災会議を設置することとされています。この会議で災害対策に関する計画について話し合いが行われます。

一方,災害が発生したり,発生するおそれがあるような緊急の場合には,都道府県や市町村に災害対策本部を設置することとされています。とくに規模が大きい災害で,地方自治体だけでは手に負えない際には,国においても災害対策本部を設置することができ,迅速な災害応急対策の実施のための調整等を行うことになっています。能登半島地震でも非常災害対策本部が内閣府に設置されました(詳細は【気象学勉強】第83回 地震と津波 - Weather Learning Diary を参照)。


③防災計画の作成」では,防災会議の中で防災計画を作成することが示されます。国が設置する中央防災会議が防災基本計画を作成し都道府県/市町村防災会議が地域防災計画(それぞれ都道府県防災計画/市町村防災計画)を作成するということですね。


④災害対策の推進」では,災害予防・災害応急対策・災害復旧という3つの段階に分け、それぞれの段階ごとに対応が示されます。例えば,防災訓練の義務,災害に備えた物資の備蓄,災害を発見したときの通報,災害時の交通規制など,その責任者の所在と権限について述べられているようです。


激甚災害に対処する財政援助等」では,災害に伴う費用の負担等について規定されています。特に激甚な災害については,地方公共団体に対する国の特別の財政援助,被災者に対する助成等を行うとされます。

今回の能登半島地震激甚災害に指定されたことで,復興の補助が厚くなりました。

www.nikkei.com

最後に「⑥災害緊急事態に対する措置」ですが,国の経済及び社会の秩序の維持に重大な影響を及ぼす異常かつ激甚な災害が発生した場合には,内閣総理大臣は災害緊急事態の布告を発することができるというものです。しかし,未だかつて日本ではこの災害緊急事態を布告したことがないそうです(東日本大震災の時も布告されなかったようです)。

 

災害の通報・伝達について

このように災害対策基本法とは,災害被害を減らすために国から個人までの役割について述べているのですが,身近なところにおいて私たちはどう対応すれば良いのでしょうか。

 

例えば,私たち住民が災害を発見した場合には,遅延なくその旨を通報しなければならないとされています。これは上の「④災害対策の推進」に相当するものです。

(発見者の通報義務等)
第五十四条 災害が発生するおそれがある異常な現象を発見した者は、遅滞なく、その旨を市町村長又は警察官若しくは海上保安官に通報しなければならない。
 何人も、前項の通報が最も迅速に到達するように協力しなければならない。
 第一項の通報を受けた警察官又は海上保安官は、その旨をすみやかに市町村長に通報しなければならない。
 第一項又は前項の通報を受けた市町村長は、地域防災計画の定めるところにより、その旨を気象庁その他の関係機関に通報しなければならない。

誰に通報するかというと,市町村長または(陸なら)警察官もしくは(海なら)海上保安官に通報するということのようです。もし通報した相手が警察官や海上保安官の場合は,その警察官や海上保安官から市町村長へと通報が行くようになっています。さらに通報を受けた市町村長は気象庁やその他の関係機関に通報しなければならないとされます。

このように私たちには災害を目撃したときには,速やかに通報する義務があるのです。

 

避難について

その他,私たち住民が災害時に対応することとして,災害が発生もしくは発生するおそれがある場合には自分の身を守るための行動を起こすことが挙げられます。

大きな災害が発生もしくは発生するおそれがある際に避難を指示(避難指示)するのは市町村長の役割であり,それに従って私たちは対応しなければいけません。

(市町村長の避難の指示等)
第六十条 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し、避難のための立退きを指示することができる。
 (略)。
 災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、避難のための立退きを行うことによりかえつて人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあり、かつ、事態に照らし緊急を要すると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し、高所への移動、近傍の堅固な建物への退避、屋内の屋外に面する開口部から離れた場所での待避その他の緊急に安全を確保するための措置(以下「緊急安全確保措置」という。)を指示することができる。
 市町村長は、第一項の規定により避難のための立退きを指示し、若しくは立退き先を指示し、又は前項の規定により緊急安全確保措置を指示したときは、速やかに、その旨を都道府県知事に報告しなければならない。
 市町村長は、避難の必要がなくなつたときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。前項の規定は、この場合について準用する。
 都道府県知事は、当該都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の発生により市町村がその全部又は大部分の事務を行うことができなくなつたときは、当該市町村の市町村長が第一項から第三項まで及び前項前段の規定により実施すべき措置の全部又は一部を当該市町村長に代わつて実施しなければならない。

以前は「避難勧告」という言葉も使われましたが,避難勧告と避難指示の違いが分かりづらかったために,2021年5月からは避難指示という言葉に一本化されました。避難指示が出された場合には,その地域の住民は四の五の言わずに必ず避難しなくてはいけません。

また,2021年5月からは「緊急安全確保」というレベル5に相当する警戒レベルの文言が変更されました(それ以前は警戒レベル5は「災害発生情報」であった)。緊急安全確保とは,避難する猶予もない切迫した状況で,自らの命を守るために最善の行動をとることを促すものです。

また,避難指示や緊急安全確保指示を出すのは市町村長の役割なのですが,市町村長が何らかの理由で指示することができない場合には,都道府県知事が代行して指示を出すことになっています。

 

また,下のように,急を要する場合や市町村長からの要求があった場合には,警察官や海上保安官が代わりに避難指示を出すこともできます

(警察官等の避難の指示)
第六十一条 前条第一項又は第三項の場合において、市町村長が同条第一項に規定する避難のための立退き若しくは緊急安全確保措置を指示することができないと認めるとき、又は市町村長から要求があつたときは、警察官又は海上保安官は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し、避難のための立退き又は緊急安全確保措置を指示することができる。
 前条第二項の規定は、警察官又は海上保安官が前項の規定により避難のための立退きを指示する場合について準用する。
 警察官又は海上保安官は、第一項の規定により避難のための立退き又は緊急安全確保措置を指示したときは、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。

上をまとめると下の図のようになるでしょうか。

 

このように災害対策基本法を勉強してみると,私が災害に備えて何ができるのかを,常日頃考えておこうという気になるのです。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 災害大国である日本において,防災体制について定められた法律が「災害対策基本法」。
  • 災害対策基本法では,国・都道府県・市町村・住民がそれぞれの立場で防災への取り組みを行うことを義務付けている。
  • 災害対策基本法では,災害対策に関する計画について話し合いを行う「防災会議」を設置することとされる。国・都道府県・市町村それぞれが,中央防災会議・都道府県防災会議・市町村防災会議を設置する。
  • 災害対策基本法では,防災会議の中で「防災計画」を作成することとされる。国が設置する中央防災会議が防災基本計画を作成し,都道府県/市町村防災会議が地域防災計画を作成する。
  • 災害が発生するおそれがある異常な現象を発見した者は,遅滞なく,その旨を市町村長又は警察官若しくは海上保安官に通報しなければならない。
  • 災害が発生もしくは発生するおそれがある場合には自分の身を守るための行動を起こすことが必要である。
  • 2021年5月からは避難指示という言葉に一本化された。
  • 2021年5月からは,警戒レベル5として「緊急安全確保」という新しい警戒レベルに改められた。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。