今回は大気の鉛直方向の力の釣り合いについて勉強します。質量がある空気が上空から落ちてくることがないのは上下の圧力の差が釣り合っているからです。
静力学平衡
普段私たちが生活する上ではほとんど感じることがありませんが,空気にも重さがあります。
大気圧というのは単位面積あたりにかかる空気の重さのことでした*1。
上のように式変形できるので,この計算から単位面積あたり すなわち 近い質量分の重さがのしかかっていることが分かります。大きいアフリカゾウくらいで想像以上の重さですよね。
地球の大気は無数の分子がいろんな方向に飛び回っていますが,外部から力を加えない限り大きな視点で見ると大気は静止しているように見えます(静力学平衡)。
このとき重さを有する空気が地表へと落下することなく静止していられるのは空気塊に働く力が釣り合っているからです。
人気芸能人の人だかりに1人のファンが入って芸能人に近づこうと思っても,前にいる他のファンが邪魔をしてなかなか近づけない構図とよく似ています。この時も芸能人に近づこうとする力と前や後ろにいるファンにおしくらまんじゅうされる力とが釣り合ってその位置からなかなか進むことができません。
では大気が静止している状態の式はどのように書き表せるでしょうか。
大気中の一部の空気塊に着目して,まずは地球に向かって働く力を考えてみます。
分かりやすく考えるため,高度 にある底面積 (),高さ ()の小円柱(図の水色の部分)の空気塊を考えます。
空気塊の体積 は
()
となります。
空気の密度を ()と定数であるとすると,空気の質量 は
()
です。よって小円柱の空気塊の重さ( : 図の赤い矢印)は,質量に重力加速度 をかけて
()・・・①
というふうに計算できます。
また,この空気塊は上にある空気からも力を受けます。高度 における圧力を とすると
() ・・・②
の力を受けると計算されますね。
次は下の空気から押される力について。こちらは単純。
() ・・・③
空気塊には地球方向に働く力①+②と,下から押し返す力③が釣り合っているので,ここで釣り合いの式を立てて式を変形すると以下のようになります。
⇔
⇔ ・・・④
この式は静力学平衡の式と呼ばれます。
空気の場合,地表付近でその密度 ですが,上空に行くにしたがって密度も変化しますので の値が大きすぎると鉛直方向の静力学平衡の式は精度よく近似できなくなるはずです(この式では密度を定数としているため)。
静力学平衡の式を用いた計算
では実際に静力学平衡の式を用いて計算問題を解いてみることにします。
例えば,高度が50mのときに気圧はどのくらい変化するかを静力学平衡の式から求めてみます。 なので④式に代入すると
となり,50m高度が上がるとだいたい 程度気圧が減少するということが分かりました。
気圧による海面変化もこの式から導くことができます。④式を以下のように変形します。
では台風などが来て気圧が50hPa下降するときの海面変化を求めてみましょう。ここでは となりますので
ですね。
注意するのは海水面の変化を調べたいので,ここでの密度 は水の密度を用いなければいけません。 なので,
よって50hPa気圧が下降することによって海面は50cm程度上昇することになります。
気圧の海面更正
テレビなどで天気予報の流れる時間は必ずといっていいほど天気図が出てきます。こんなやつです。
そこには気圧を表す線が書き込まれています。一般的に4 hPaごとに線が刻まれているそうです。
しかし先ほどの計算では,50m高度が上がるとだいたい 6 hPa 程度気圧が減少するのでした。高度4000m近い富士山では単純計算すると500 hPa程度減少しますね。
このようにそれぞれの地点の気圧をプロットしても地形をほぼ反映しただけの図にしかなりません。
それゆえ,天気図で書かれている気圧というのは海抜0mの気圧に変換した値なのです。これを海面更正と呼びます。
ここで海抜0mに変換する計算に静力学平衡の式が活かされるのですが,④式では密度を定数としているため高度によって密度が変化する状況を反映できていません。
そこで下のように状態方程式から得られた⑤式を静力学平衡の式④に代入します。
・・・④
・・・⑤
を消去してやると
ただ,気温 も上空にいくほど温度が下がるので,この方程式も気温変化をきちんと反映できていないのですが,気温は対流圏ではほぼ同じ気温減率をもつためここでの気温は平均気温 を用いることで式を近似しているようです。
ここからは大学レベルの数学が必要なのですが, の刻みを細かくして両辺を積分すると,
これを解いて,
( は定数)
が得られます。
よって海抜高度が の場所と の場所があったら
・・・⑥
・・・⑦
⑥-⑦から
⇔
と導出できました。
このような計算で,地上で観測された気圧を,海抜0mの値に統一して客観的に扱うことができるようになります。
ジオポテンシャル高度
ある高度の位置エネルギーを重力加速度で割ったものをジオポテンシャル高度と呼びます。難しい言葉ですが,実用上は高度と同じものと解釈してかまわないようです。
はい,今回はここまで。仕事が始まって更新するスピードも落ちてきました。
次回は乾燥断熱減率と湿潤断熱減率について勉強することにします。
【まとめ】学習の要点
今回学習したところの要点です。
- 外部から力を加えない限り大気は静止していると考えられる。下向きに働く重力と上向きに働く力がつり合った状態を静力学平衡と呼ぶ。
- 静力学平衡の式:
- 天気図で書かれている気圧というのは海抜0mの気圧に変換した値であり,海面更正が行われている。
- 海面更正の式は静力学平衡の式と気体の状態方程式から求められるので,分からなくなったらそこから求めにいくことにしよう。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『気象予報士かんたん合格テキスト』技術評論社 p127-132
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p48-53
- 静力学平衡(静水圧平衡)は気圧傾度力と重力がつり合った状態 | 色と形で気象予報士! (irokata7.com)
- 気象庁 | 天気図 (jma.go.jp)
*1:ここでは,重さ=質量×重力加速度 ここで重力加速度は9.8 m/s^2