Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第34回 傾度風

 

前回は地衡風について学びました。地衡風は等高度線/等圧線が直線的に分布するときに,それに沿って吹く高層の風のことでした。

しかし等高度線や等圧線は概ね直線的に分布している場所もありますが,その一方で大きく曲がっている場所もあります。その時は遠心力の影響を考慮する必要があります。

地衡風に遠心力の影響を考慮した風が傾度風です。すなわち傾度風とは「等高度線/等圧線が曲がっている場所で,それに沿って吹く高層の風」と言えるかもしれません。

遠心力

まずは遠心力について簡単に説明しておくことにします。

例えば車に乗ってカーブを曲がる時に,体が外側に押されるような力を感じた経験は誰しもあることでしょう。この時に働く力が遠心力ですね。

ここで同じカーブをスピードを上げて曲がることを考えてみると,車が速い方が遠心力は大きくなりそうだというのはなんとなくイメージできます。

また車が同じ速度でも,急カーブを曲がるのと穏やかなカーブを曲がるのとでは,急カーブの方が遠心力は強く働きそうです。

 

これを数式で見てみます。

質量  m \rm{kg}),速度  v \rm{m/s}) の物体がカーブを描いた運動しているときに働く遠心力 F ( \rm{N}) を数式で表すと以下のようになります。

   F=m\dfrac{v^2}{R}  ・・・①

ここで  R ( \rm{m}) は局所的に円運動を描くとみなしたときの円の半径です(下図)。カーブが緩やかなら  R は大きくなりますし,急カーブなら  R は小さくなります。

力は質量×加速度( F=ma)で表現できるので,①式で遠心力の加速度に相当するのは

  遠心加速度 =\dfrac{v^2}{R}

の部分ですね。

遠心加速度の単位を考えると

  遠心加速度の単位 =\rm{\dfrac{(m/s)^2}{m}}=\rm{m/s^2}

でたしかに加速度の単位と一致しますね。

 

①式を見ても,車のスピードを上げて曲がるときの方が強く外向きの力を感じますし(速度  v を大きくすると  F も大きくなる),急カーブを曲がるときのほうが強く外向きの力を感じますので(半径  R を小さくすると  F が大きくなる)その現象をうまく説明できているのがわかります。

また遠心力は回転中心から遠ざかるように,進行方向に垂直な向きに働きます

 

傾度風の力の釣り合い

では傾度風が吹いているときに働く力の釣り合いを考えてみます。

前回の地衡風に遠心力を考慮するだけなのでそんなに難しく考える必要はありません。

 

復習になりますが,単位質量の空気に作用する気圧傾度力  F_m は以下のように式で表せるのでした。

▶気圧差を用いて求める場合

   F_m = -\dfrac{1}{\rho} \dfrac{\Delta P}{\Delta n} ・・・②

▶高度差を用いて求める場合

   F_m = -g \dfrac{\Delta Z}{\Delta n} ・・・③

式がマイナスなのは,気圧が高い方から低い方へと吹くことを表しています。私は混乱するので絶対値をつけて考えることにしています。

 

また単位質量の空気に作用するコリオリ力  F_C は以下の式で表現できます。風の速度を  V とおいています。

   F_C = 2\Omega\sin{\phi}×V ・・・④

 

ここで単位質量の空気に作用する遠心力  F_K は①の式に  m=1 を代入して

   F_K = \dfrac{V^2}{R}  ・・・⑤

ですね。

 

ではどのような釣り合いの式が立てられるでしょうか。

実は低気圧性の傾度風高気圧性の傾度風かの2種類の傾度風があるので,それぞれ分けて考える必要があるのです。

 

まず低気圧性の傾度風が吹くときは,遠心力はコリオリ力と同じ方向に働きます。等高度線(もしくは等圧線)を引いた天気図上に示すと下のようになります。

気圧傾度力は気圧の高い方から低い方へと働きます。その逆方向にコリオリの力が作用し,風の向きは低気圧を左手に見るように吹くのでした。さらに遠心力を考えると,遠心力は回転中心から遠ざかる方へ風の進行方向に垂直に働きます。

よってこれらの力の釣り合いの式を立てると,

  気圧傾度力=遠心力+コリオリ力

が成り立つのです。

②(もしくは③)と④と⑤式を代入して

   \dfrac{1}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n}=2\Omega\sin{\phi}V+\dfrac{V^2}{R}  ・・・⑥(気圧差での式)

もしくは

   g\dfrac{|\Delta Z|}{\Delta n}=2\Omega\sin{\phi}V+\dfrac{V^2}{R}  ・・・⑦(高度差での式)

となります。

 


一方,高気圧性の傾度風が吹いているときには,遠心力は気圧傾度力と同じ方向に働きます。低気圧性のときとは遠心力の方向が逆になるんですね。

よってこれらの力の釣り合いの式を立てると,

  気圧傾度力+遠心力=コリオリ力

が成り立つのです。

 

よって,②(もしくは③)と④と⑤式を代入して

   \dfrac{1}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n}+\dfrac{V^2}{R}=2\Omega\sin{\phi}V  ・・・⑧(気圧差での式)

または

   g\dfrac{|\Delta Z|}{\Delta n}+\dfrac{V^2}{R}=2\Omega\sin{\phi}V  ・・・⑨(高度差での式)

となります。

あとはこの方程式を解くだけです。

 

傾度風の速度の算出

最後は傾度風の速度  V を求めて終わります。

例えば低気圧性の傾度風の力の釣り合いを表す⑥式。

   \dfrac{1}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n}=2\Omega\sin{\phi}V+\dfrac{V^2}{R}  ・・・⑥

 

これを満たす  V はどうやって求められるでしょう?

 

二次方程式の解を解けばよいのですね。

   ax^2 + bx + c = 0

は解の公式を使って

   x = \dfrac{-b±\sqrt{b^2-4ac}}{2a}

でしたね。中学生で習う式です。昔のこと過ぎて忘れている方も多いことと思いますが。。

 

⑥式を変形してみると

   V^2 + 2R\Omega\sin{\phi}V-\dfrac{R}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n} = 0

となるので,

   V = -R\Omega\sin{\phi}+\sqrt{(R\Omega\sin{\phi})^2+\dfrac{R}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n}} ( V > 0 の方の解)

と考えられます。

 

 

今度は高気圧性の傾度風の力の釣り合いを表す⑧式。

   \dfrac{1}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n}+\dfrac{V^2}{R}=2\Omega\sin{\phi}V  ・・・⑧

となるので,

   V = R\Omega\sin{\phi}-\sqrt{(R\Omega\sin{\phi})^2-\dfrac{R}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n}} ( \Delta P=0 V = 0となる解)

 

高気圧性の傾度風の場合は,

   (R\Omega\sin{\phi})^2-\dfrac{R}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n}>0

という条件が必要で,気圧傾度力が大きすぎると  V は実数解を持たないことになります(虚数になるため)。

すなわち,高気圧性の傾度風の速度の大きさには限界があり,それ以上強い風速にはなれないということを表しています。

 

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 傾度風とは等高度線/等圧線が曲がっている場所で,それに沿って吹く高層の風
  • 地衡風に遠心力を考慮して力が釣り合ったときに吹くのが傾度風。

  • 「低気圧性の傾度風」と「高気圧性の傾度風」の2種類の傾度風がある。
  • 低気圧性の傾度風:(気圧傾度力)=(遠心力)+(コリオリ力
  • 高気圧性の傾度風:(気圧傾度力)+(遠心力)=(コリオリ力
  • 高気圧性の傾度風の速度の大きさには限界がある。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。