Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第18回 乾燥断熱変化・湿潤断熱変化と大気の安定度

 

これまでの復習となりますが,空気塊が上昇すると断熱膨張を起こして外に仕事をし,熱力学第一法則から内部エネルギーが消費され空気塊の気温は下降するのでした(断熱冷却)。

 

気温が下がって水蒸気をこれ以上含むことができない飽和水蒸気量に達すると,空気中の水蒸気は凝結して水へとその状態を変化させます。この変化によってできるのがですね。

そして状態変化には熱エネルギーの出入りが伴います。これは潜熱と呼ぶのでした。水が水蒸気になるときには周りから熱を奪い,逆に水蒸気から水になるときは周りに熱を放出するのです。

ユニクロのエアリズムは繊維が吸い取った汗などの水分を効率的に蒸発させることで温度を下げますし,逆にヒートテックは体から出る水蒸気を繊維で捕捉することで水に変え,その時放出される熱エネルギーを用いることで温度が上昇します。潜熱のメカニズムを上手に活用しているのですね。

今回はこれら過去に見てきた知識から,乾燥断熱変化と湿潤断熱変化について見ていきたいと思います。

 

乾燥断熱変化

上昇している空気塊が未飽和のとき(飽和水蒸気量に達しないとき)の気体の状態変化のことを乾燥断熱変化と呼びます。

そして空気塊が持ち上げられたことにより気温が低下しますが,そのときの気温減率のことを乾燥断熱減率といいます。

乾燥断熱減率は熱力学第一法則と静力学平衡の式から求められるようですがここでは省略します。計算すると下のようになるそうですよ。

   (乾燥断熱減率)=0.00976  \rm{K/m}    = 0.98   \rm{K/100m} 

だいたい100m上昇すると1℃の気温低下です。

 

湿潤断熱変化

一方で,空気塊が上昇したとき飽和水蒸気量に達して雲を形成する場合の状態変化を湿潤断熱変化と呼びます。

そのときの気温減率は湿潤断熱減率といいます。湿潤断熱減率も乾燥断熱減率と同じように  0.0098  \rm{K/m} になるかと思いきやそうはなりません。なぜなら水蒸気が水に変化する際には熱を放出するからです。

上空にいくと気温は下がるものの,その過程で凝結に伴う熱が放出されて温度が上がるため気温の低下する割合はゆるやかになります。 この潜熱の影響を考慮しなければいけないのです。

ではこの湿潤断熱減率はどのような値になるのでしょうか。

実は湿潤断熱減率は温度や圧力に依存して値に変動があります。例えば,飽和した空気を40℃から30℃になるのと,10℃から0℃になるのとでは同じ10℃下げるといっても,凝結量は気温が高い方が多くなり放出する潜熱量も多くなるからです(下図)。


気温が高い地表付近では潜熱量が大きいため気温の低下がゆるやかになり,気温が低い上層では潜熱量が小さいため気温の低下が大きくなります。

このように条件次第でその値は変動するのですが,一般的には

   (湿潤断熱減率)=0.0050  \rm{K/m}    = 0.50   \rm{K/100m} 

がよく用いられます。

100m上昇すると0.5℃の気温低下ですね。分かりやすくて良いと思います。

 

ちなみに小学校だか中学校だかで,100m上昇すると気温は0.65℃低下すると教わりました。これは大気全体で考えたときに乾燥断熱減率と湿潤断熱減率を合わせた平均的な気温減率らしいですが,正直この値はどのように計算されて算出されているのか私はよく理解できていません。

ま,とりあえず平均的な大気の気温減率は   0.65   \rm{K/100m} だそうです。

 

大気の安定度

ニュースを聞いていると,「上空に寒気が流れ込み大気の状態が不安定」という呪文のような定型句をよく耳にします。


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実は大気の状態が安定か不安定かは気温減率によって異なってくるのです。

どういうことでしょうか?

 

今ここに暖かい空気塊があります。暖かい空気は膨張すると密度が小さくなるのでこの空気塊は上昇します。空気が上昇すると周囲の気圧は低くなるため断熱膨張するわけですが,その分空気は徐々に冷却されます。

上昇した空気の温度が周りの気温よりも高いときはそのまま上空へと昇り続けますが,周りの空気と同じ温度になればこの空気は上昇をやめその場所に留まることになるでしょう。

このように空気塊の温度を同じ高さにある周囲の気温と比べることで,その空気がどのように運動するかが分かりますね。

ここで乾燥断熱減率と湿潤断熱減率の考えを取り入れて,もう少し具体的に考えることにします。

 

例えば地上に30℃の空気と上空1kmに25℃の空気があったとします。仮に空気が未飽和状態であれば,地上30℃の空気が上空1kmまで持ち上げられた際の気温減率は乾燥断熱減率(100m上昇すると1℃の気温低下)に従います。

よって未飽和状態では,地上30℃の空気は上空1kmでは10℃気温が低下し20℃の空気に相当するのですね。

 

上空1kmという同じ高さで比較すると,20℃に相当する地上の空気と25℃の空気を比較することになるのです。冷たい空気の方が密度が高く重いワケですから,地上から持ち上げられた空気は再び地上に戻ろうという力が働きます。

このように,空気を同じ高さまで移動させたときに再び元の状態に戻ろうとするとき,「大気は安定」であるといいます。地上の空気と上空1kmの空気は元の状態を維持し大気に変化は起こりません。

 

一方,空気が飽和状態であれば,地上30℃の空気を上空1kmに持ちあげられた際は雲を作りながら潜熱を放出する湿潤断熱減率(100m上昇すると0.5℃の気温低下)に従います。よって飽和状態では,地上30℃の空気は上空1kmでは5℃気温が低下し25℃の空気に相当するわけです。

この場合,25℃に相当する地上の空気と25℃の空気を比較することになりますから,移動も上昇もしない「大気が中立」な状態であると言えます。乾燥断熱変化させたときとは異なる状態ですね。

 

今,地上に30℃の空気があるのは変わらず上空1kmの空気の温度が仮に15℃になったとします。乾燥断熱減率を仮定すると,上空1kmでは20℃に相当する地上の空気と15℃の空気を比較することになり地上から持ち上げられた空気はさらに上空へと昇り続けることになります。空気を移動させたときにそのまま空気が移動をし続ける場合,「大気は不安定」であるといいます。上空1kmの空気にある空気の方が冷たいので,地上の空気と上空の空気が移動して大気の状態が変化するのです。

 

このことから,2地点間の気温差が小さいときは大気は安定だと言え,気温差が大きいときは大気は不安定であるということができそうです。

よってニュース映像にもあった「上空に寒気が流れ込み大気の状態が不安定」というのは「2地点間の気温差が大きくなるため大気が不安定になる」ということを表現していたワケですね。

 

絶対安定・条件付不安定・絶対不安定

上記の考えをもとにすると,大気というのは絶対安定条件付不安定絶対不安定の3つの状態に大きく分類することができることが分かります。

 

例えば2地点間の気温差が十分に小さいとき,乾燥断熱変化をさせても湿潤断熱変化をさせてもいずれも大気は安定な状態(すなわち,上空へ持ち上げられた空気が地上へと再び戻ろうとする状態)になります。

このとき大気は絶対安定な状態であると言います。

 

一方,乾燥断熱変化をさせると安定な状態で,湿潤断熱変化をさせると不安定な状態になるときは条件付不安定な状態であると言います。

 

そして2地点間の気温差が十分に大きいときは,乾燥断熱変化をさせても湿潤断熱変化をさせてもいずれも大気は不安定な状態(すなわち,移動させた空気がまだ移動し続けようとする状態)であり,大気は絶対不安定な状態であると言います。

 

上記の大気の状態を図で表現すると下の図のようになります。

2地点間の気温差が小さいときは大気は安定で,気温差が大きいときは大気は不安定であることがこの図からも分かりますね。

 

実際にどのようにこの安定度がどのように活用されるのかというのは,エマグラムという大気の状態を表すグラフを解析するときに重要になってきます。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

ハイ,ということで今回は飽和・未飽和な空気の気温減率と大気の安定度の話でした。

次回は温位について見てみることにします。

 

【まとめ】学習の要点

今回学習したところで重要そうなところを自分なりにメモ。

自分的メモ!
  • 空気塊が未飽和なままで上昇するときの状態変化を乾燥断熱変化と呼び,そのときの気温減率のことを乾燥断熱減率と呼ぶ。
  • 乾燥断熱減率:100m上昇すると1℃の気温低下
  • 空気塊が上昇したとき飽和水蒸気量に達して雲を形成する場合の状態変化を湿潤断熱変化と呼ぶ。
  • 湿潤断熱変化では水蒸気が水になるときに放出される潜熱の影響を考慮しなければいけない。
  • 湿潤断熱減率は温度や圧力に依存して値に変動がある。
  • 地表付近の湿潤断熱減率は小さく,上層の湿潤断熱減率は大きくなる。
  • 一般的な湿潤断熱減率:100m上昇すると0.5℃の気温低下
  • 平均的な大気の気温減率:100m上昇すると0.65℃の気温低下
  • 大気の状態が安定か不安定かは気温減率によって異なる。
  • 鉛直方向の空気の気温を比較するときは同じ高度で考える必要がある。
  • 2地点間の気温差が小さいときは大気は安定だと言え,気温差が大きいときは大気は不安定であると言える。
  • 大気の安定度というのは絶対安定・条件付不安定・絶対不安定の3つの状態に大きく分類することができる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考にしました。