ここまでは空気が上昇すると断熱冷却が起こって気温は低下し,その結果ある高度で飽和して雲をつくることを学びました。エマグラムを用いると雲底高度や雲頂高度を明らかにできるのでしたね。
今回は雲の中で起こっていることについて勉強していきます。
雲の中では雲粒や雨粒ができて,それが成長するとやがて雨となって地上へと降り注ぐのです。
雲粒と雨粒
大気が対流によって空気が上空へと持ち上げられると,空気は冷やされ飽和した水蒸気によって雲ができるのでした。
この雲を構成する微小な水滴や氷晶のことを雲粒といいます。この雲粒の大きさは平均的に粒子半径が10μm程度と非常に小さいのです。雲粒にはもちろん質量がありますので重力が働き地面へと落ちようとしますが,雲を発生させる原因となる上昇気流が吹き上げる力の方が強く働くため空中にずっと浮いていられるのです。
この雲粒はたとえ雲から抜けて地表面に向けて落下したとしても,途中で水蒸気へと変わるため地上の私たちの目に触れることはありません。
そして雲の中では雲粒同士が衝突・併合し水滴がさかんに生成されます。
こうして半径が1mm程度の雨粒が形成されるのです。ただ雨粒も小さいと雲の中の秒速数メートル程度の上昇流に吹かれて地上には落下してこないようですが,やがて上昇流でもとどめきれないほどに雨粒の大きさが成長すると雨となって地上へと降り注ぎます。
雲の粒が半径10μmで雨粒が半径1mmですので,その半径は100倍程度違うことになります(体積では100万倍も異なります)。地球の大きさと太陽の大きさくらいの差がそこにはあるのです*1。
表面張力と水滴の成長
コップ一杯に並々に水を注いだとき,水の表面はコップの縁の高さよりも盛り上がることはよく知られています。また葉っぱについた朝露は丸い形をしてとても美しいことをよく知っています。これを私たちは表面張力と言っています。
表面張力というのは,簡単にいってしまうと「表面積を最小にしようとする力」のことで,例えばシャボン玉が丸くなろうとするのはこの表面積を最小にしようとする力が働いた結果によるものなのです。
そして,半径の小さい水滴ほど表面張力が強く働くことが知られています。
個人的に描くイメージとしては,大学で数人レベルの小規模な講義があったとき(半径の小さい水滴に相当)に,講義に遅刻した者はこの教室に入りづらい(表面張力が大きい)こととよく似ているような気がします。
一方で,大教室で行われる参加者数が多い講義(半径の大きい水滴)に遅刻したとしても,多くの人にまぎれてしまうことができるので入室するのに勇気はそれほど必要ありません(表面張力が小さい)。
小人数な講義については遅刻すると入室しづらいため,結局諦めて図書館で過ごすことになるため,その授業に人が増えることなくやがて講義は終了し,生徒はバラバラと解散します(水滴が蒸発する)。一方で,大教室で行われている講義は,入室しやすいので授業が終わるころにはより多くの生徒で溢れかえっており,講義終了後も溜まり場となって駄弁りが続きます(水滴は蒸発しづらい)。
このように,小さい水滴が大きくなるには,より多くの力が必要になるのです。
するとここで疑問が生じます。
雲の中にいる雲粒のような半径の小さい水滴はどのようにできたのでしょうか?半径の小さい水滴に水蒸気が入り込めずに成長できないんだとしたら,その他に何かしらキッカケがないといけませんね。
実はその役割を担っているのがエアロゾルというものです。
雲粒のでき方とエアロゾル
雲を構成する雲粒がどのようにして形成されるのかを見ていきましょう。
水蒸気が凝結して雲粒になるときには空気中に浮遊しているチリやホコリなどの微粒子が大変重要な役割を果たします。この微粒子のことをエアロゾル(エーロゾルとも)と呼びます。
このエアロゾルは,必ずしも地表面から舞い上げられた砂やホコリといった粒子だけでなく,海面のしぶきから発生した塩分であったり,人間の活動によって排出された汚染粒子,火山活動によって大気中に放出された粒子,植物の花粉なども含まれます。人間の活動が活発な都市部でエアロゾルは多く,海上では少ないことが知られています。
そしてエアロゾルがあると空気中の水蒸気が凝結しやすくなるのです。特に吸湿性を持ったエアロゾルは水蒸気の凝結を早め,水滴をつくる橋渡し的役割(核)となって大きな水滴を形成するのです。雲粒の核をつくるエアロゾルのことを特に凝結核と呼びます。
さて,雲粒がエアロゾルを核にして形成されました。ではそこから雨粒はどのようにできるのでしょうか?
雨粒のでき方
今度は雨が降る前の雲の中で,どのように降水粒子が大きくなるかをみてみましょう。
なんとなくのイメージですが,雲粒がまわりの水蒸気をたくさん集めると徐々に大きくなって雨の粒子ができそうな気がしますね。このような過程は拡散過程(凝結過程)と呼ばれます。
しかし先ほど述べたように,平均的な雲粒と雨粒の体積は100万倍も異なるのです。すなわち,単純計算で雲粒は100万回衝突と合体してを繰り返さなければいけないのです。それではあまりにも時間がかかってしまいそうですね。
もし仮に拡散過程だけで雨粒の大きさまで成長することを考えると,数日~1週間かかる計算になるといいます。しかし実際には積乱雲などは雲ができて雨を降らせ,30分~1時間の寿命ですので,それでは雨を降らすにはとても間に合わないのです。
そこで併合過程と呼ばれる経緯が一役買うのです。
窓ガラスについた水滴を見ていると,大きくなった水滴が重力に負けてガラスを下へとつたっていく間に,下にいる水滴をどんどん巻き込みながら大きくなって速度を増して消えていくという様子を見ることがあります。併合過程とはまさにそんな成長の仕方なのです。
雲粒の中でも相対的に大きな水滴では,その落下速度は大きくなります。計算上,雲粒の(終端)落下速度は粒子半径の二乗に比例するのです。
すると,落下しているときに,それよりも下にいる小さな水滴に追いつくことになり,下にいる水滴を飲み込む形でどんどんと大きくなります。
このように,雨粒は雲粒が併合することによって大きくなるのです。
今回はここまで。
雲の中の水滴がどのように形成され,そこからどのように雨を降らす水滴までをつくりだすのかを学びました。
しかし,ここまで話してきた話は実は日本ではあまり見られません(夏には見られることがある)。なぜなら雲の中の温度が0℃以上の暖かい雨の話をしてきたためです。暖かい雨とは熱帯で主に見られる降水過程です。
日本では雲の中の温度は0℃以下で多くは氷晶が成長する冷たい雨となることがほとんどです。
次回は冷たい雨の降水過程について話をしていきましょう。
【まとめ】学習の要点
ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 平均粒子半径10μm程度の無数の微小水滴&微小氷晶(=雲粒)の集まりが雲の正体である。
- 雲粒同士が衝突・合体してできた平均粒子半径1mm程度の水滴が雨粒であり,雨粒が成長し上昇流でも浮き続けることができなくなると雨として地上に落下する。
- 表面張力というのは表面積を最小にしようとする力のこと。
- 半径の小さい水滴ほど表面張力が強く働き,雲粒のような微小な粒子が形成されるには表面張力が邪魔をして成長が困難。
- 水蒸気が凝結して雲粒になるときには空気中に浮遊しているエアロゾルが重要な役割を果す。
- 雲粒がまわりの水蒸気をたくさん集めて大きくなる過程を拡散過程(あるいは凝結過程)という。
- 落下速度の大きな水滴が,落下速度の小さな水滴を吸収して大きくなる過程を併合過程と呼ぶ。
- 拡散過程と併合過程の両方によって雲粒は雨粒へと成長する。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p136-p141
- 『気象予報士かんたん合格テキスト』技術評論社 p64-p69
- 雨の形と大きさ まんじゅう形 なぜ?:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
- Sun With Earth For Size Comparison Photograph by John Chumack - Pixels
- 岡山理科大学「理大の栞」その5 (ous.ac.jp)
- 窓ガラスの水滴 - YouTube
*1:太陽は地球の約110倍の半径がある