Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第26回 降水量の測り方

 

今回は降水量の測定についてです。

雨の量ってどうやって計測しているんでしょうか?

 

 

梅雨時や台風上陸時などにニュースで「1時間に20ミリを超える雨」などという表現をよく耳にします。

降水量の多さを表現しているこの言葉ですが,そもそも20ミリとはどういう単位なのか,どのくらいのミリ数なら多いと言えるのか,そしてどのようにしてこの雨の強さが測定されているのか,いろいろと分からないことが多いのです。

ひとつひとつ紐解きながら見ていくことにしましょう。

 

降水量とは

そもそも降水量とはどういう意味なんでしょうか?

気象庁のウェブサイトによると,降水量とは『降った雨がどこにも流れ去らずにそのまま溜まった場合の水の深さ』という風に記述されています。

水の深さを表す量なので,単位はミリメートルと長さの単位になります。なので「1時間に20ミリの雨」というのは,1時間いると地面に水深2センチメートルの水が溜まる雨ということになります。

 

そして雨だけでなく雪やみぞれ*1・霰(あられ)*2・雹(ひょう)*3・凍雨(とうう)*4など液体・固体すべてを含んで「降水」と呼ばれます。ただし,雪などの固体の場合はヒーターで温めて水にしてからその降水量を測定します。

ですので例えば10センチメートルほど雪が積もった場合は,雪の深さとしては10センチなんですが,水にしてやるとだいたい1センチメートルの深さになる*5ので,降水量としては10ミリメートルと表現されることになります。

純粋に積もった雪の厚さとして1時間あたりにどのくらいの雪が降ったかを表す指標「降雪量」がありますので,降水量と区別して覚えておくことにしましょう。降雪量の単位は(ミリではなく)センチメートルです。

さらに,雪の積算量を表すのに「積雪の深さ積雪深)」があります。こちらは降り積もった期間などは特に限定せず,その時点で積もっている雪の深さのことです。例えば2月20日の時点で雪の深さが3m9cmだとしたら,そのときの積雪の深さは3m9cmということです。もちろん雪自体の重みによって圧縮したり,蒸発したりするので,積雪の深さは(雪は降らなければ)自然に減っていくことになります。積雪の深さの単位も降雪量と同じくセンチメートルです。

 

降水量の目安

では1時間に20ミリの雨とは強い雨なんでしょうか、それとも弱い雨なんでしょうか。

そのへんの目安となるのが下の表にまとめられています。

降水量(1時間あたり)

強さ

表現

10-20mm やや強い雨 ザーザー降り
20-30mm 強い雨 土砂降り
30-50mm 激しい雨 バケツをひっくり返したよう 
50-80mm 非常に激しい雨  滝のよう
80mm- 猛烈な雨 息苦しく恐怖を感じるほど

傘を差さなくてもなんとか我慢できるくらいの雨がだいたい降水量1時間1ミリメートルらしいです。パラパラ~シトシト雨くらいかな?*6

1時間に5ミリメートルくらいの降水量だと一般的に多くの人がイメージする雨に近い感じ?*7

下の動画がだいたい5ミリ程度のようです。しとしととザーザーの中間辺りの降り方と言えば良いでしょうか。


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1時間に10ミリになるとザーザーと降るやや強い雨に,1時間20ミリは土砂降りの強い雨と表現されます。こちらも動画で見た方が理解しやすい。


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滝のような非常に激しい雨は1時間50ミリの雨。やはり言葉よりも映像で見た方が分かりやすいので動画を添付しておきます。


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1時間70ミリ以上の雨はさすがにものすごい激しさであることが分かります。

ちなみに日本で観測された最大降水雨量は1982年7月に起きた長崎大水害で,このときは一時間187ミリというとんでもない記録をたたき出しました。この水害で299人の方が亡くなったようで,ただの水のカタマリだといって雨を甘く見てはいけないということですね。

 

私としては,1時間5ミリメートルの降水量が「雨」と言われて思い描く個人的イメージに最も近いので,この量を基準として雨の強さを推し量ることにします。

 

雨量計による降水量の測定

では降水量ってどうやって測定されるのでしょう?

一番簡単に思いつくのが適当な大きさの容器を地面に置いて,そこに溜まる雨の水の深さを測定する方法。

貯水型雨量計は,このシンプルでアナログな測定方法で降水量を観測する機器です。

ただこれだと大雨の時には貯水瓶から雨があふれてしまう可能性もゼロではありませんし,次回の雨の時に備えて貯まった水を定期的に捨てなくてはいけません。

 

転倒ます型雨量計と呼ばれる機器を用いた降水量観測は現在最も主流な測定方法のようです。こちらはデジタルな測定方法。

下の動画を見たらその仕組みは一目瞭然です。

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頭良い設計ですよね。ものすごくシンプルなんですが,容器に水があふれることもなく回数をカウントするだけで降水量が測れてしまうなんて。

ヒーターを取り付けることで雪も測れるわけですね。ただ,降水量0.5mm刻みなので,例えば0.3mmの雨など端数の降水量は検出できないという欠点もあります。

 

ちなみにこの降水量は,約1300地点の全国17km四方に1地点の割合で設備されている地域気象観測所にて,地域気象観測システム(通称アメダス, Automated Meteorological Data Acquisition System)を用いて計測されているようです。アメダス観測所では降水量の他にも,気温や日照時間,風速・風向などを観測しているそうです。

 

レーダーによる降水量の測定

雨量計では正確な降水量が測定できますがその一方で欠点もあります。

観測所が設置されている場所でなら正確な降水量を観測できますが,観測所と観測所の間など雨量計のない場所での降水量は測定できないのです。

ですので下の図のように,アメダスを用いた観測は「点」の観測となってしまい,任意の地点間での値の連続性は乏しいのです。

↑全国のアメダスによる降水量データ

そこでレーダーを用いることで日本全国隙間なく降水量を推定することができるようになっています。こちらは「面」による観測が可能。

ただし,レーダーは雨量計よりもその精度は低くなりますので,レーダーが雨量計に完全に取って変わる存在とはならないようです*8

 

下は2023年2月5日16時50分の北海道のレーダー観測の結果を図示したものですが,こちらは実際に観測された降水量ではなく,一定時間に降った雨が1時間降り続いたものと仮定して換算した降水強度(単位は「mm/h」)で表現されます。

↑雨雲レーダーによる雨雲分布の把握

たしかにアメダスではとらえられない,地点間の連続的な降水が観測できますね。

 

レーダー観測では,アンテナが回転しながらマイクロ波(波長1~10cm)を発射し,なんと半径数百キロの範囲で雨・雪の観測が可能なようです。カバー範囲がとても広いですね。発射されたマイクロ波が雨にぶつかると散乱が起き,反射されて帰ってくる電波を検出します。

そこで最後はレーダーを用いて降水量を推定するこの仕組みについて簡単に説明しておきましょう。

 

↑気象レーダーによる観測の概要

さて以前,散乱について勉強しました。

weatherlearning.hatenablog.jp

波長に対してぶつかる粒子の大きさが小さければ(1/10以下)レイリー散乱,波長と粒子の直径が同じくらいだとミー散乱が起こるのでした。

 

気象レーダーから発射されるマイクロ波の波長はおよそ5cmだそうで,一方雨粒は数ミリメートル程度で波長に対して粒子の大きさは1/10以下。よって気象レーダーを用いると雨粒はレイリー散乱するのですね。

 

復習になりますが,レイリー散乱の散乱強度  I  を式で表すと

    I \propto \dfrac{d^6}{\lambda^4}I_0   (※   \propto は比例するという意味) 

と書けるのでした。

ここで  I_0  は入射光の強度, d  は粒子の直径, \lambda  は入射光の波長です。すなわち散乱強度は発射されるマイクロ波の波長が短くなればなるほど強くなり,雨粒の大きさが大きくなればなるほど強くなります。

 

よって雨粒の大きさが大きいほど反射されて戻ってくるマイクロ波の強度は大きくなるのでその降水強度を知ることができ,戻ってくるまでの時間からどこで雨が降っているのかを知ることができるのです。さらにドップラー効果を観測することで,戻ってくる周波数のズレからその地域で吹いている風の情報までをも推測することが可能になります。このような風の観測ができるレーダーは気象ドップラーレーダーと呼ばれ,現在一般の気象レーダーが設置されている観測地点において同時に観測が行われているようです。

 

レーダー観測は遠い地域の観測を行うため,ノイズが乗ったりすることもあり精度は少し劣るようですが,それでも気象庁ではそのような課題を克服するべく日々技術の開発が行われているそうですよ。

 

 

【まとめ】学習の要点

今回学習したところで重要そうなところを自分なりにメモ。

自分的メモ!
  • 降水量とは『降った雨がどこにも流れ去らずにそのまま溜まった場合の水の深さ』を表す。
  • 降水量の単位は「ミリメートル」。
  • 雪やみぞれ・あられ・雹(ひょう)など液体・固体すべてを含んで「降水」と呼ぶ。
  • 転倒ます型雨量計が降水量観測で現在最も主流な機器となっている。
  • 雨量計だけでは観測所と観測所の間など雨量計のない場所での降水量は測定できない。
  • レーダーを用いることで日本全国隙間なく降水量を推定することができる。
  • レーダー観測から推定された降水量は,一定時間に降った雨が1時間降り続いたものと仮定して換算した降水強度で表現する。降水強度の単位は「mm/h」(↔降水量の単位「mm」と異なることに注意)。
  • 気象レーダー観測ではマイクロ波を発射し半径数百キロの範囲で雨・雪の観測が可能になる。
  • 発射されたマイクロ波が雨にぶつかるとレイリー散乱が起き,反射されて帰ってくる電波を検出することで降水強度・降水地域を推測することができる。
  • ドップラー効果を用いて風の観測ができる気象ドップラーレーダー観測が,一般の気象レーダーが設置されている観測地点において同時に行われている。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考にしました。

*1:みぞれとは雨と雪が同時に降り混在しているものをさす。気象上の扱いは「雪」

*2:あられとは直径5mm以下の不透明・半透明な氷の粒のことをいう。「雪あられ」は雪,「氷あられ」は雨に含める。

*3:ひょうとは直径5mm以上の氷の粒のことをいう

*4:凍雨とは雪が融けて雨となり,地上に落ちる間に再び凍結して氷となったもの。あられと同様に直径5mm以下の透明な氷の粒が降る。気象上の扱いは「雪」

*5:雪の状態によって異なります。

*6:擬音語で表現するのも難しいですね。

*7:これも人によってイメージする雨はぞれぞれでしょう。私の思い描く雨のイメージはしとしと~ザーザー降る雨なんですが,これが5ミリくらいでしょうか。

*8:降水予報などではアメダスのデータとレーダーのデータとを組み合わせて降水量を解析した解析雨量というもので降水の分布を表現されます