今回は雲の中にいる雲粒,そして大きく成長した雨粒の振る舞いについて見ていきます。
雨粒の形
雨の形をしずく型で描くことが多いですが,実際には落下している雨は球形もしくは扁平な形をしているそうです。東京新聞の図を下に載せておきます(雨の形と大きさ まんじゅう形 なぜ?:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)より引用)。
大きさによって変わるようですが,直径1~3mmではほぼ球形,直径が大きくなると空気抵抗により下から押されて扁平な形に,そして直径8mm以上になると一つの雨粒としては保っていられずちぎれて分裂してしまうようです。
典型的な雨粒はだいたい直径が2~4mm(半径1~2mm)程度の球と考えて良いようです。
以前虹ができる原理を雨粒を用いて考察しましたが,あそこで雨粒を球で仮定していたのは妥当だったんだとようやく納得することができました。
今回は雲粒・雨粒が雲の中,あるいは雲から落下するときにどのような運動をしているのかを計算していきましょう。
物体に働く空気抵抗
雲粒・雨粒の運動を理解するには空気抵抗を知らなければいけません。
まず,数キロ上空から降ってきた雨が傘や家の屋根を貫通することがないのは空気による抵抗があるからです。もし空気抵抗が雨粒に働かなかった場合,上空2kmから落ちてきた水滴の速度は時速700kmと計算されこれでは痛くてたまりません。雨に怯える日々を過ごすことになります。
働く空気抵抗の大きさはその物体の形や速さなどによって複雑に変化するためなかなか定式化が難しいそうなんですが,大きく粘性抵抗と慣性抵抗の2つに分けることができます。
粘性抵抗とは物体の速度が極めて遅いときに働く抵抗のことで,慣性抵抗とは物体の速度が速いときに働く抵抗のことを指します。粘性抵抗は物体の速度に比例し,慣性抵抗は物体の速度の二乗に比例するという点で違いがあります。
ちなみに物体の速度が徐々に速くなると粘性抵抗から慣性抵抗へと変化する途中の状態を経ることになるのですが,この状態における力の働きは複雑で定式化も簡単ではないようです。
雲粒の終端速度
まずは雲の中で成長した小さな雲粒の運動についてみていくことにしましょう。
まず小さな雲粒の運動方程式は重力と空気抵抗を用いて以下のように表せます。
・・・① (:加速度)
地上の方へと重力()が働き,その一方で進行方向とは反対方向に速度に比例した空気抵抗()を受けることが知られています(粘性抵抗)。ただし, は空気の粘性係数です。その差し引きの力が雲粒に働くのです。
最初の速度を0と仮定する()と,初めは空気抵抗も となるので雲粒に働く力は重力のみ。
やがて重力を受けて雨粒が加速し速度がつくと今度は空気抵抗が大きくなっていきます。速度が大きくなる分,それに比例して抵抗も大きくなるからです。
雲粒が十分な速度を持つと重力と空気抵抗が釣り合い,ついには速度が一定になります(速度が一定=加速度が0 となります)。
この時の速度を終端速度と呼び, と表すとすると
という式が成立しますね。
ここから, が導かれます。
■■■■
ここからはもう少し高度な数式を使って同じ結果を導いてみましょう。少し難しい話になりますので興味なければ飛ばしてください。
加速度は速度の時間変化を意味しますので, と書けます。これを①式に代入すると
よって以下のような微分方程式が立てられます。
この微分方程式を解いてみると,(初速度を0とすると)速度は以下のようになります。
・・・②
②式の時間に沿ったこの速度のグラフを描いたのが下の図です。
時間が十分に経つと速度が一定に収束するのが分かりますね。
雲粒は最初は重力の影響で徐々に速度を上げていきますが,速度に比例して空気抵抗が大きくなるため,やがてその力が釣り合って速度は一定になるのです。
ではこのときの終端速度はどうなるのでしょうか。
「十分時間が経つ」=「が大きくなる」と言い換えられるので, は0に近づきます。②に代入すると以下のように。
よって, ・・・③ となるのです。
まったく同じ結果が導き出されましたね。
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ここでさらに雲粒の質量はで表すことができますので,もう少し形を変形することもできます。
雲粒をほぼ球体であると仮定して,球の体積は球の半径を用いて
と書けますので,雲粒の質量は水の密度を用いて
・・・④
これを③式に代入すると, です。
ハイ,お疲れ様でした。
この結果から雲粒の終端速度は水滴の半径の二乗に比例することが分かりました。水滴の大きさが2倍になれば速度は4倍になるのですね。
ではここで具体的な数値を代入して予測される速度を考えてみましょう。
例えば半径10μmの雲粒を考えた場合(だいたい雲粒の平均的大きさは半径10μmほど),
・雲粒の大きさ(半径): ()
・水の密度: ()
・空気の粘性係数: ()
を代入すると,
()
すなわち秒速1.2cm程度と計算されました。
ちなみに終端速度に達するのは落下開始から1秒程度だという計算になりましたが,計算に自信がないのでご自身で確認してみてください。
ということで雲粒の落下速度は思っていた以上に遅い結果でしたが,このようにいろいろ具体的な数値を入れると実際の雲の中でのイベントを想像しやすくなるので面白いですね。
繰り返しになりますが,この雲粒は上昇気流を受けて雲の中に浮かび続けることができるのです。
雨粒の終端速度
今度はもっと粒子の大きさが大きくなった雨粒の落下について。
雨粒は雲粒と違って半径が大きく落下速度も速いため,その分空気から受ける抵抗も大きくなります。すなわち慣性抵抗を受けます。
さて,雨粒の運動方程式は重力と空気抵抗を用いて以下のように表せるそうです。
・・・⑤ (:加速度)
ここで, は雨粒の形状に依存する抗力係数, は空気密度, は雨粒の半径を表します。
地上の方へと重力()が働き,その一方で進行方向とは反対方向に速度に比例した空気抵抗()を受けます(慣性抵抗)。
こちらも微分方程式を解くことで時間に沿った雨滴の速度が計算できますが,計算がめんどくさそうなので力の釣り合いの式から終端速度だけ求めてみましょう。
雨粒の終端速度は⑤式の左辺が0になるときですので,
・・・⑥
という式が成立しますね。
ここで雨粒の質量はで表すことができますので,もう少し形を変形することもできます。
先ほど得られた④式を⑥式に代入すると,
この結果から雨粒の終端速度は水滴の半径の平方根に比例することが分かりました。
さて具体的な数字を入れて半径1mmの雨粒を考えた場合,
・雨粒の大きさ(半径): ()
・空気密度: ()
・抗力係数:
を代入すると,
()
すなわち秒速6.5m程度と計算されました。
地上に降ってくる平均的な雨粒って秒速6.5m程度だったんですね。初めて知りました。
この辺の説明についてはヨビノリさんの動画でも紹介されていますので,そちらもご参考にしてください。
【まとめ】学習の要点
今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 物体に働く空気抵抗には「粘性抵抗」と「慣性抵抗」がある。
- 粘性抵抗は物体の速度に比例し,慣性抵抗は物体の速度の二乗に比例する。
- 雲粒は速度が遅く粘性抵抗を受け,雨粒は速度が速く慣性抵抗を受ける。
- 水滴が十分な速度を持つと重力と空気抵抗が釣り合い速度が一定に収束する。
- 雲粒の終端速度は水滴の半径の二乗に比例する。
- 雨粒の終端速度は水滴の半径の平方根に比例する。
- 計算上,雲粒の落下速度は秒速1cm程度,雨粒の落下速度は秒速6.5m程度。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『気象予報士かんたん合格テキスト』技術評論社 p64-p73
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p136-p152
- 本当は深い『落下運動』 - YouTube
- 空気抵抗 - 物理 攻略 Wiki (cheat-physics.net)