Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第24回 雲粒・雨粒の成長~冷たい雨

雪のひとひらがダウンジャケットの上に舞ってその形を詳しく観察してみると,肉眼でも六角形であることが分かります。初めて肉眼で雪の結晶を見たときの感動はいまでも忘れられないのです。

 

 

冷たい雨

前回は,雲粒が形成されて雨粒になるまでを勉強しました。そのとき雲粒については水滴であることを前提としており,それは暖かい雨と呼ばれます。

一方,日本で降る雨のほとんどは「冷たい雨」です。冷たい雨というのは雲粒は水滴ではなく氷(氷晶)であり,この氷晶が成長して落下する際に溶けて雨(溶けなければ雪)となって落ちてくるのです*1

すなわち,日本で降る雨は雲の中では氷として成長するという点で,暖かい雨とは大きく異なるのですね。

 

氷晶も雲粒の一つですが,前回の(水滴の)雲粒と区別するため,氷としての雲粒はここでは氷晶と呼ぶことにします。

今回は,氷晶の成長について見ていきましょう。

 

過冷却

水は0℃まで温度を下げてやると凍ることを小学生のときに習いましたが,これは自然界を観察していると必ずしも当てはまることでもないのです。

実際には-5℃近くにしても水は氷にならない場合があります。

ではどのようにしたらこの「-5℃の水」をつくりだすことができるのでしょうか?

 

冷凍庫に入れて衝撃を与えることなくペットボトルの周りにタオルなどを巻いて冷やせば(こうするとゆっくり冷える)-5℃の水はつくりだせます(【自由研究】注ぐと凍る!?水の作り方! – モアモアショップ (moamoa-shop.com))。水をゆっくりと静かな場所で凍らせたときに起こりやすい現象なのですね。

 

このように本来なら状態変化を起こす温度なのにも関わらず,それを通り越して冷やされ過ぎてしまっている状態のことを過冷却と言います。

 

そしてこの過冷却状態が起こった水に衝撃を与えると,それをきっかけとして一気に水が凍ることもYouTube動画などで簡単に確認することができます。


www.youtube.com

そして実は雲の中の水滴も同様で,上昇気流によって持ち上げられた小さな水滴は0℃以下になっても凍らないことが分かっているのです。地上の気温を15℃とすると,3km程度上昇すると周囲の空気は氷点下になっているはずですね(気温減率は6.5℃/kmとした)。それでも上空3~4kmの雲のほとんどは過冷却状態の水滴で構成されているそうです。

そして驚くことに,雲の中の温度が-40℃くらいになっても,純粋な水滴があれば過冷却な水として存在することも稀ではないようです(ただし-30℃以下になると多くの水滴は自発的に凍結して氷晶になる)。

 

しかし冒頭にのべたように,これではいつまで経っても氷晶が登場してきません。そこで氷晶核が登場します。

 

氷晶核

前回,小さい雲粒に水蒸気が入り込むキッカケとなる凝結核について学びました。氷晶核も全く同じように,-40℃になるまで凍らない水を,-20℃~-10℃で凍らせるキッカケとなる物質のことです。

氷晶核の例として,火山灰やカオリナイト(下写真)とよばれる鉱物などが挙げられます。しかしこの氷晶核は過冷却水に比べてその数が非常に少ないようです。大気1リットル当たり1個程度らしいですよ。凝結核の100万分の1くらいの濃度なんですって。

ですので,過冷却水のごく一部が氷晶核を捕獲することができ,それらが氷晶となって存在することになります。

 

昇華凝結過程と凝集過程

では,生成した数少ない氷晶核はどのように成長するのでしょうか?

 

その成長過程は昇華凝結過程と呼ばれます。

雲の中は過冷却水滴と氷晶が混在しているとします。前回でも話をしたように,水滴は非常に小さく,そこには表面張力が働きます。表面張力は水滴の半径が小さいほど大きいため,水滴に水蒸気が入り込めずやがて水滴は蒸発してしまいます。

一方,氷晶の方はなかなか蒸発することができません。なぜなら氷に対する飽和水蒸気圧は水(過冷却水)のそれよりも小さいため(下図),水よりも氷の方が簡単に飽和状態になるためです。飽和するとそれ以上蒸発できるスペースがなくなるので,結果的に氷は水と比べて蒸発しにくくなります。

ということから,過冷却水滴と氷晶が混在した状況では,過冷却水滴は蒸発しやすく,氷晶は蒸発せずにそのまま存在し続けるので,氷晶のみが成長できる機会を与えられるのです。

このように氷点下の雲の中では,氷晶が独占的に成長するという特殊な状況が生まれていたのです。

そしてこのとき蒸発した過冷却水滴は,水蒸気から直接氷晶に昇華凝結して成長していくのです。こうしてできるのが雪の結晶となります。

 

そして成長した雪の結晶が大きくなって雲の中で落下し始めると,落下速度の大きい氷晶が落下速度の小さい氷晶に追いつき,衝突して凝集することでより大きくなるのです。これは凝集過程と呼ばれ,前回の暖かい雨での併合過程とほとんど同じですね。

凝集が起こると,ぼたん雪が降ると言われています。

 

雪の結晶が地上に到達する前に溶けると雨となり,地上に到達するまで溶けないと雪として地上に降り積もることになります。

雪が溶けるかどうかは途中の大気の温度だけではなく湿度も重要です。湿度が低いほど,比較的高い気温(4~5℃)でも雪は溶けずに地上に達することができるようになります。これは,相対湿度が低いほど氷の表面で昇華(氷から水蒸気)の状態変化が起こりやすく,そのとき潜熱によって冷却されることで水になりにくくなるからです。

 

雪の結晶

昇華凝結によって成長した氷晶は雪の結晶になります。そして下の図が雪の結晶の形を図式化したものなのですが,ほとんどが6角形であることに気がつきます。これは,水の分子の構造によるものらしいです。

図は横軸に温度,縦軸に過飽和となった水蒸気密度を表しており,結晶の形は温度,水蒸気密度によって大きく変わることが理解できます。日本人の中谷宇吉郎(なかやうきちろう)博士が雪の結晶の解明に大きな貢献をしたそうです。

あまり詳しく説明できませんが,「雪の結晶」はなぜ六角形なの?種類別の形や観察方法などをわかりやすく解説! |じゃらんニュース (jalan.net) であったり,「雪の結晶」の形から空のようすを推理しよう! | Honda Kids(キッズ) | Honda公式サイト などが参考になると思いますので,ご興味あればいろんなサイトを見てみてください。

 

ライミングとあられとひょう

先ほど,過冷却状態が起こった水に衝撃を与えると水が凍ることもYouTube動画で見ました。

これと同じように,生成した数少ない氷晶核が他の過冷却水滴に衝突すると,水滴が一気に凍って大きく成長することがあります。このような成長過程をライミング(riming)と呼びます。

積乱雲などの発達した雲の中ではライミングによって直径5mm以下のあられができたり,直径5mm以上のひょうができたりしています。特にひょうは積乱雲の中の上昇気流によって上空へ持ち上げられては落下してを何度も繰り返すため,あられの表面に何層もの氷の層ができて大きく成長します(大きいときは半径5cm以上にもなることもあるようです)。下はひょうの断面の写真ですが,積層構造が確認できますね。

 

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • すべて水滴で出来た「暖かい雨」とは異なり,日本で降る雨のほとんどは氷晶が成長してできる「冷たい雨」である。
  • 冷たい雨というのは,氷晶が成長して落下する際に溶けて雨(溶けなければ雪)となったもの。
  • 雲の中の小さな水滴は0℃以下になっても凍らずに多くは過冷却水滴で存在している。-40℃ほどになると多くは氷晶になる。
  • 氷晶核により-20℃~-10℃で水が凍るようになる。
  • 過冷却水滴と氷晶が混在した状況では,氷晶は独占的に成長することができる。これは氷の飽和水蒸気圧は水のそれよりも小さいため。
  • 凝集過程によって氷晶が大きく成長することがある。これはぼたん雪として地上に降り積もる。
  • 雪が溶けるかどうかは途中の大気の温度だけではなく湿度も重要。相対湿度が低いほど氷の表面で昇華(氷から水蒸気)の状態変化が起こりやすく,そのとき潜熱によって冷却されることで水になりにくくなり雪の状態が保たれやすい。
  • あられやひょうはライミングによって成長し,雪の結晶をもたない氷の塊として地面に降り注ぐ。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:必ずしも降ってきた雨の温度が冷たいわけではない。あくまで雨ができる仕組みを表現した言葉