Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【天気図】2024年1月の南岸低気圧から学ぶ天気予報の難しさ

 

2024年1月20から21日にかけて,関東南部の平野部でも積雪の可能性が予報されていました。

結局は雪は降らなかったんですが,SNSでは天気予報が外れてガッカリした声や安堵の声などいろいろな意見で溢れていたようですね。

個人的には,雪に不慣れな都心で雪が積もらなくて良かったと思っていますが,今回の雨や雪の予想は特に難しかったようなのです。それは,今回通過した低気圧が南岸低気圧という太平洋側を中心に雨や雪をもたらす低気圧だったからだそうですが,どうして南岸低気圧だと天気予報が難しいのでしょうか?

良い機会ですので,天気図も眺めながら勉強していくことにしました。

 

 

南岸低気圧とは

以前,南岸低気圧については少しだけ言及しています。

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南岸低気圧とは日本列島の南岸を通過する温帯低気圧のことで,特に秋から春にかけて発生することが多く,東京都心で雪が降る場合にはほとんどがこの低気圧が関係しています

南にある低気圧なので何だか暖かそうなイメージを持ちますが,実際にはその低気圧中心に向かって北からの冷たい空気が入りこむので,その空気の通り道となる日本列島に寒気が流れ込みやすくなります(下図)。

上の図では低気圧の北側で等圧線間隔が狭くなっており,風が強く寒気移流が強くなっていると考えられます。一方,寒冷前線温暖前線で挟まれた暖域では南からの暖かい風が入って暖気移流となるようですね。

冬の雪といえば西高東低の冬型の気圧配置が思い浮かびますが,南岸低気圧の場合はそれとは異なったメカニズムで雪が降るそうです。

西高東低の冬型の気圧配置の場合は,大陸から吹き出す冷たい空気が日本海上で気団変質して雲が作られます。それらの雲が日本海側の地域で雪を降らせるのでしたね。

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一方,南岸低気圧の場合は,低気圧に伴う降水がそのまま太平洋側の地域で雪や雨を降らせるのです。

すなわち,降水の原因となる雲のつくられ方,そして降水がある地域も大きく異なるということですね。

 

では冬の南岸低気圧が必ず太平洋側に雪をもたらすかというと実際そうでもないのです。

そこには気温と湿度が大きく関係してきます。

 

雨雪判別図

下は雨雪判別図と呼ばれる雨と雪とを判別する目安を示した図です(雨と雪の境目(雨雪判別表) (ngy.sakura.ne.jp)より引用)。

横軸に地上の気温,縦軸に地上の湿度がとられており,その交点から雨か雪かみぞれかを判定します。

上のように3つのポイント(赤丸)を取ってみました。例えば湿度が30%であれば地上気温が7℃であっても雪が降る可能性があります。湿度が低ければ地上気温は高くても雪になるのですね。

ではなぜ湿度が低いと気温が高くても雪が降るのでしょうか?

 

洗濯物を湿度の低い日に干すとすぐに乾くのは皆さんご存知の通りです。それは,洗濯物に含まれる水分が,水分の少ない空気中に移動しやすいからです。このとき水は水蒸気に変化し,周りから熱を吸収するので洗濯物やその周囲の温度は実は少しだけ下がります。これが状態変化に伴う潜熱というやつですね。

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これと同様に,雪が湿度の低い日に落ちてくると,雪の表面から氷が水蒸気に昇華します(氷が水になって水蒸気になるのが一般的ですが,氷から直接水蒸気に変化することを「昇華」といいます)。このとき氷は水蒸気に一気に変化するので,周りから大量の熱を吸収することになります。その結果,氷とその周りの温度が下がります。すると,雪の結晶の周りは温度が周囲に比べて低い状態になっているため,地上の気温が比較的高くても雪は溶けることなく地上まで降り注ぐことができるのですね。

 

 

話を雨雪判別図に戻します。上図の赤丸で示した点で,湿度が50%で地上気温が5℃のときは雪になると判別されています。そして湿度はそのままで1℃気温が高くなった6℃になると今度は雨になると判別されていますね。北海道のように明らかに氷点下であれば雪の予測は容易でしょうが,首都圏は冬でもちょうどこのあたりの絶妙な温度・湿度分布になるため,たった1℃違っただけでも雪になるか,雨になるかが大きく異なってくるようです。これが南岸低気圧の雪予報の難しさの一つの原因のようです。

さらに,南岸低気圧の天気予報の難しさには低気圧の通過位置が大きく関わっています。

 

南岸低気圧の通過位置

下は過去,東京で雪が降った時の南岸低気圧をいくつか選んで示した天気図です(過去の天気 - 日本気象協会 tenki.jpより引用)。

 

2015年1月30日

東京の南側の海上を低気圧中心が通り過ぎたようです。wikipedia調べによると,東京では3cmの積雪になりました。

 

2018年1月22日

こちらも,東京の南側の海上を低気圧中心が通り過ぎていきました。東京では23cmの積雪があったようです。

 

2020年3月29日

こちらも同じような感じ。東京では1cmの積雪。

 

2022年1月6日

この日は低気圧本体は陸地から離れた場所を通過しているように見えますが,八丈島近海でシアラインが形成され新たに低気圧が発生したそうです。東京では10cmの積雪となりました。

 

このように,過去に東京で雪が降った時は,だいたい東京の少し南側の海上を低気圧が通過している傾向がありそうです。

 

上の図は関東の南海上にある低気圧の周りの降水をもたらす雲域が広がる様子を示しています(気象庁|予報が難しい現象について (jma.go.jp)より引用)。

左の図のように,低気圧が陸地に近いところを通過した場合は,南からの暖かい空気が 陸地に流れ込みやすくなって雨になる可能性が高くなります。逆に,右の図のように低気圧が陸地から遠いところを通過した場合は,そもそも雲がかかりませんので,東京では降水は認められなくなります。

真ん中の図のように,東京に雲域がかかり,かつ寒気が入り込む状況になって初めて雪が降る可能性が考えられるのです。

 

当然ながら,雲域の幅はそれぞれの低気圧でまちまちですので,低気圧の通過位置と降水をもたらす雲域の両方に正確な予測が必要となり,予報が難しくなります。

ちなみに,これまでの経験上では,八丈島より北側を通ると雨の確率が高く,八丈島付近(もしくは少し北側)で雪の確率が高いと言われているようですが,一概にこの規則も当たるわけではなさそうです。

関東地方に雲がかかった場合には,(湿度にも大きく依存しますが)地上気温が6℃を下回ると雪の可能性が考えられ,2℃以下で雪の可能性が高くなります。また,一般的に上空850hPa(約1500m)の気温が-6℃であれば雪が降る可能性が高いといいますが,関東平野には寒気が滞留しやすく,上空850hPaの気温が-3℃程度でも雪が降る目安の一つとなっているようです。

 

2024年1月の南岸低気圧

では最後に,今回の東京にも雪が予報されていた南岸低気圧のコースを見てみましょう。

 

2024年1月20日21時。低気圧は宮崎県近くを通過していました。

2024年1月21日3時。低気圧中心は気圧を下げ徐々に発達しながら南岸を通過中。

2024年1月21日9時。引き続き発達しながら南岸を通過中。

2024年1月21日12時。東京に最も接近しました。

2024年1月21日21時。閉塞して徐々に日本から遠ざかっていったようです。

今回のコースを振り返りますと,南岸低気圧八丈島のだいぶ北寄りのコースを通ったことになりますね。経験則から照らし合わせてみると,今回東京では雨になる可能性が高いことになります。

また,一般的に雪の目安となる850hPa面高層天気図の-6℃の温度線をなぞってみると以下のような感じでした。

関東地方は上空約1500mの気温が6℃程度で,雪になるにはあきらかに気温が高いように思います。

そして事実,東京都心は雪は降らず,雨だったそうです。


天気予報は外れましたが,最悪の事態を想定し注意を喚起することが天気予報の本来の目的ですので,外れたからと言って目くじらを立てるのはお門違いでしょう。


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南岸低気圧に関しては,いずれ雪が降った時に詳しく天気図解析したいと思います。

 

 

天気図理解のメモ
  • 日本列島の南岸を通過する温帯低気圧を「南岸低気圧」という。
  • 南岸低気圧は,秋から春にかけて発生することが多く,東京都心で雪が降る場合にはほとんどがこの低気圧が関係している。
  • 南岸低気圧の通過に伴い,北からの冷たい空気が低気圧に向かって入るため,日本列島に寒気が流れ込みやすくなる。
  • 南岸低気圧は,低気圧に伴う降水がそのまま太平洋側の地域で雪や雨を降らせる。
  • 南岸低気圧では,低気圧の通過位置と降水をもたらす雲域の両方に正確な予測が必要となるため,雨か雪の予報は難しい。
  • 八丈島付近を境にして,これより北を通ると雨の確率が高く,八丈島付近(もしくは少し北側)で雪の確率が高くなると言われている。
  • 地上気温が6℃を下回ると雪の可能性が考えられ,2℃以下で雪の可能性が高くなる。
  • 関東平野では滞留寒気の層が形成されやすいため,上空850hPa(約1500m)の気温が-3℃以下であれば雪が降る目安の一つとなる(日本海側では上空850hPaの気温が-6℃以下が雪の目安)。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。