Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第33回 地衡風

 

本日から具体的な風について勉強していきます。新しいことを知るのってワクワクしますね。

 

地衡風とは

下の天気図はとある日の500hPa高層天気図です。

ここで風向を注意深く見てみると,その向きは概ね等高度線と平行に吹いていることが分かります。

この等高度線に平行に吹く風を地衡風と呼びます。ただし,地衡風は等高度線が直線的に分布するところで吹く風であり,等高度線が大きく曲がっている場合に吹く風は傾度風と呼びます(上図)。現実には等高度線が完全に直線的に分布することはないので地衡風が実現することは難しいのですが,部分的にでも直線的な分布を近似できる場合は地衡風が吹くと考えて良いようです。

また「等高度線に平行に吹く」と書いていますが,これは「等圧線に平行に吹く」とも言い換えられます。なぜ等高度線で説明したかと言いますと,この地衡風は地上からの摩擦を受けない高度1km以上の高層に見られる風だからです。高層の天気図は等高度線で表現されるためそちらで説明する方が分かりやすいですよね。

 

ということで丁寧に説明すると「等高度線もしくは等圧線が直線的に分布している場合にそれに平行に吹く高層の風」が地衡風の特徴と言えます。

地衡風というものがだいたいどんな風かが理解できたところで,この風についてもう少し詳細に見ていくことにしましょう。

 

地衡風が吹く理由

でもどうして等高度線(もしくは等圧線)に平行に風が吹くのでしょうか?

風は気圧傾度に従って気圧の高いほうから低いほうへと吹くのではなかったでしたっけ。それなら等高度線/等圧線に垂直に風が吹かなければおかしいですよね。平行になるというのなら別の力を考える必要があるのです。

結論を言ってしまうと気圧傾度力だけでなくコリオリ力が影響するのです。

 

コリオリ力は北半球だと物体が進む速度に対して垂直右向きに作用し,その大きさは速度に比例するのでした。

weatherlearning.hatenablog.jp

地球が自転しなければ気圧が高い方から低い方へと風が起こりますが,地球の自転の影響で風の進む向きが変えられるのです。

 

ただし最初から等高度線/等圧線に平行に吹くワケではなく,下のように徐々に加速して風速が大きくなって気圧傾度力コリオリ力がちょうど等しくなった結果現れるのが地衡風なのです。

吹き始めは速度も遅いですが,気圧傾度力によって空気は徐々に加速し速度を増していきます。するとコリオリ力も徐々に大きくなって最終的には気圧傾度力コリオリ力の作用が互いに打ち消され最終的には風向・風速が一定になります。この状態を地衡風平衡と呼びます。

また,地衡風は北半球では必ず左側に低気圧を見ながら吹くことになります。地衡風の向きさえ見ればどちらが低気圧側なのかが天気図がなくても分かってしまうというのですから,なんだかマジックのトリックを知った時のような驚きを覚えたのでした。

 

地衡風の式

では地衡風を数式で表現してみましょう。

 

単位質量当たりの空気に働く気圧傾度力  F_m は以下のように式で表せるのでした。等圧線で表現するか等高度線で表現するかで式も異なりますので注意が必要です。

▶気圧差を用いて気圧傾度力を求める場合*1

   F_m = -\dfrac{1}{\rho} \dfrac{\Delta P}{\Delta n} ・・・①

▶高度差を用いて気圧傾度力を求める場合

   F_m = -g \dfrac{\Delta Z}{\Delta n} ・・・②

ここで, \Delta P \Delta Z \Delta n はそれぞれ2地点間の気圧差,高度差,水平距離を表しています。式にマイナスがつくのは,気圧の高い方から低い方へと風が吹き  \Delta P<0 となるのでそのマイナス分を打ち消すためです。

 

また速度  v の空気の単位質量当たりに働くコリオリ力の大きさ  F_C*2,観測地点の緯度(今回は北半球で考えるため北緯)  \phi を用いて以下のように記述できるのでした。

   F_C = 2\Omega\sin{\phi}×v ・・・③

コリオリの力が働く向きは速度と垂直方向(北半球では垂直右方向)であることに注意しましょう。

 

さて気圧傾度力コリオリ力の式から地衡風の速さについて計算してみます。

今,北緯  \phi の地点の上空に速度  V地衡風が吹いていると仮定すると,下の図のように気圧傾度力コリオリ力が釣り合っていることになります。

 

よって,等圧線を用いて地衡風の速さを算出する場合は①(の絶対値)と③式から

   \dfrac{1}{\rho} \dfrac{|\Delta P|}{\Delta n}=2\Omega\sin{\phi}×V

これを整理して

   V=\dfrac{1}{2\rho\Omega\sin{\phi}}\dfrac{|\Delta P|}{\Delta n} ・・・④

となります。

 

また,等高度線を用いて地衡風の速さを求める場合は②(の絶対値)と③式から

   g\dfrac{|\Delta Z|}{\Delta n}=2\Omega\sin{\phi}×V

これを整理して

   V=\dfrac{g}{2\Omega\sin{\phi}} \dfrac{|\Delta Z|}{\Delta n} ・・・⑤

となります。

風の向きは北半球なら左手に低気圧を見る方向に吹くのです。

 

 

最後に具体的に数値を与えて地衡風の速さを計算してみることにします。

下の問題を解きましょう。

問題:

ある日の500hPa高層天気図を見ると,東経140度に沿って北緯25度では高度が5900m,北緯35度では高度が5700mであった。

この2地点間の距離を1100kmとして,この間に吹いている地衡風の平均的な速さを推測しなさい。ただし地球の自転角速度は  7.3×10^{-5} (rad/s)とする。

2地点の中間を考えて北緯30度の上空に吹く風の速さを求めることにします。

今回は高層天気図で高度が示されているので⑤式を使うのが良いでしょう。

 

⑤式に数値を代入して

   V=\dfrac{9.8}{2×7.3×10^{-5}×\sin{30°}} \dfrac{|5700-5900|}{1100×10^3}=24.4 \rm{m/s}

 

となりますね。風の向きは東に向かって吹く西風となります。「km」とか「hPa」などの単位は,基本単位の「m」とか「Pa」に直しておくことが計算のコツです。

あと図を描くとイメージしやすいので,私は問題を解くときはだいたい図を描くことにしています。

 

はい,今回はここまで。

次回は冒頭に出た「傾度風」についてです。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 等高度線もしくは等圧線が直線的に分布している場合に,それに対して平行に吹く上空1km以上で見られる高層の風を「地衡風」と呼ぶ。
  • 地衡風では気圧傾度力コリオリ力が釣り合っている。
  • 地衡風は風向・風速が一定であり,この状態を「地衡風平衡」と呼ぶ。
  • 地衡風は北半球では必ず左側に低気圧を見ながら吹く。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:マイナスが式にあると向きを表現しているのですが,向きをいちいち考えていると私は混乱する性質なので,式の正負などはあまり気にせずに図などを描いてやり過ごしています。

*2:コリオリ力は静止している物体には働かない