今回は,地上付近の大気層について勉強していきます。
地球大気の層の構造
地球の大気は地表に近いほうから,対流圏(~高度約11km)・成層圏(高度約11~50km)・中間圏(高度約50~80km)・熱圏(高度約80km~800km)と4つの層に分けられるのでした(その外の外気圏を含めれば5層)。そして天気などの気象現象のほとんどは地上11kmまでの対流圏で起こるのです。
さらにこれまで風について学んできて,地衡風・傾度風といった風は対流圏の中でも平均高度1km以上の上空で吹く風であることを勉強しました。一方地上付近に吹く風(地上風)は地表から高度約1kmまでの間で観測され,地表面との摩擦を考慮するんでしたね。
さて,復習はこれぐらいにしておきましょう。ここから本題。
今回は地表面との影響を受ける高度1kmまでの層(大気境界層)についてと,地表面の摩擦を無視できる高度1km以上の層(自由大気)について勉強していきます。
大気境界層の役割と乱流・乱渦
地表面からの影響を受ける高度約1kmまでの大気層のことを大気境界層と呼びます。地表面から何の影響を受けるかというと,地面からの摩擦や地表面の温度などです。
ただ,高度1kmというのはあくまで平均的な値であって(実際に境界が目で見えるほどハッキリしているわけではない),朝方の太陽光線による空気の対流があれば高度は高くなりますし,日没後の安定な大気層では高度は低くなります。また山がある場所ではその分大気境界層の厚みも増します。
すなわちまとめると,一日のうちでも大気境界層の厚みは時間帯によって,また場所によって大きく変化するのです。
ではこの大気境界層の役割は何なんでしょう。
それは熱や水蒸気,物質などを地表面から自由大気へと輸送すること。
例えば地表面付近にたまった熱を上空へ輸送することにより自由大気は安定した温度に保たれます。
特に,乱流や乱渦は地表面の起伏や不均一な地表温度によって発生し,この乱れによって,これがないときと比較してはるかに効率よく鉛直方向の熱・水蒸気輸送が可能となります。
もちろんこの大気境界層の輸送によって,大気汚染物質が効率よく拡散されてしまうということも起こり得ます。
下は都市汚染における乱流の影響を見た動画のようです。
大気汚染物質が拡散されてしまうのは悲しいことですが,この動画を見ているとビルなどの摩擦によって乱流がどのように発生するかが理解できます。
大気境界層の分類
大気境界層は大きく3つに分類されます。
最も下層にあり,地面と接しているのが接地層(気象予報士試験では「接地境界層」という言葉が使われることが多いようです)。そしてその上の対流混合層(あるいは単に「混合層」)。最も上層にあるのが移行層。対流混合層と移行層の2つをまとめてエクマン境界層とも呼ぶようです*1。
まず接地層ですが,こちらは地上から数十メートルほどの地表面に接している最も下層の大気層になります。昼間太陽放射によって暖まった地面から大気下層が温められ,その上に相対的に冷たい空気が存在するので不安定な状態(絶対不安定)が続きます。すなわち乾燥断熱減率よりも大きな気温減率になっています。
接地層は森林やビル群などからの摩擦力の影響が特に大きく,運動量や熱量・水蒸気量が鉛直方向にほぼ一様に分布します。
対流混合層も,接地層から伝わった熱が下層から暖まることで,大気の成層が不安定となって対流が起こりやすい層となっています。対流が起こると空気がかき混ぜられ,いくつかの大気要素はこの層でほぼ一定となります(後述)。
移行層は下層の大気と自由大気の境界であり,厚さは約200mほどになります。
大気境界層の気象要素の鉛直分布
ここからは,大気境界層において,いくつかの気象要素(温度,相対湿度,風速,温位,混合比)についての鉛直分布について見ていきます。
まず温度ですが,空気は上昇すると断熱膨張が起こって冷却されますから,上空に行くにしたがって温度は下降します。下は対流圏のエマグラムのグラフですが,大気境界層の気温減率はだいたい乾燥断熱減率(赤点線)の傾きを持っているのが読み取れます。
一方,相対湿度については,空気塊が上空に昇るほど温度は低くなってやがて凝結し雲ができる(雲ができる=相対湿度100%)ので,高度とともに相対湿度は上昇するのが一般的です。
風速については地表から数十cm程度でほぼ0になります。地表付近では摩擦が大きく働きますが,対流混合層では風速の鉛直変化はほとんどなく,風速は一定になっています。地表との摩擦を無視できる自由大気に入ると,風速は大きくなります。
次は温位。晴天の昼過ぎの大気境界層では,太陽によって温められた接地層で最も気温が高くなります。温位というのは空気塊を乾燥断熱的に1000hPaの高度に移動させたときの絶対温度のことでしたので,接地層では最も温位が高くなります。
一方,対流混合層においては鉛直方向に温位はほぼ一定になります(すなわち大気は高度とともに乾燥断熱減率で低下している)。また大気境界層から上層では気温減率は乾燥断熱減率と湿潤断熱減率の間の値をとるため温位は上昇することになります。
最後は混合比について。混合比というのは,湿潤空気の中の水蒸気と乾燥空気に分割して,乾燥空気の質量に対する水蒸気の質量のことを指します。混合比の値は凝結しなければ保存されます。
対流混合層においては大気がよく混ざっているので,凝結しなければ混合比は一定になります。自由大気で凝結が始まった場合には,空気中の水蒸気量は減少するので,混合比は下降することになります。
これらをまとめると,凝結のない大気境界層における物理量の鉛直分布は以下のようになります。重要ですので記憶しておくことにします。
自由大気
最後は自由大気ですが,この層は摩擦力を考慮する必要がなく,地衡風平衡がよい近似で成り立っています。
■最後に確認問題を貼っておきます。
確認問題
第44回気象予報士試験 学科一般 問9
【まとめ】学習の要点
ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 地表面の摩擦を無視できる高度約1km以上の層を「自由大気層」という。
- 地表面の摩擦や温度の影響を受ける高度約1kmまでの層を「大気境界層」という。
- 大気境界層は大きく3つに分類される。最も上層にあるのが「移行層」・その下の「対流混合層(混合層)」・地面と接しているのが「接地層(接地境界層)」。
- 一日の中でも大気境界層の厚みは時間帯によって,また場所によって大きく変化する。
- 地表面の起伏や不均一な地表温度によって乱流や乱渦が発生し,熱や水蒸気,物質などが効率よく地表面から自由大気へと輸送される。
- 大気境界層において,上空に行くにしたがって温度は下降する。
- 大気境界層において,高度とともに相対湿度は上昇する。
- 大気境界層において,風速については地表から数十cm程度でほぼ0,対流混合層では風速は一定になる。
- 大気境界層において,接地層では最も温位が高くなり,対流混合層においては鉛直方向に温位はほぼ一定となる。大気境界層から上層では温位は上昇する。
- 対流混合層では温位が一定であることから,大気は高度とともに乾燥断熱減率で低下している。
- 大気境界層において,対流混合層で大気がよく混ざっているので,凝結しなければ混合比は一定となる。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。
- 『イラスト図解 よくわかる気象学』ナツメ社 p256-p261
- asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke01.html
- WTENK2-2_13380.pdf (metsoc.jp)
- 大気境界層の科学 (hokudai.ac.jp)
- 境界層, 乱流と汚染の広がり|大気物理学MFF英国の学科 (cuni.cz)
- 大気混合層の湿度変化 (kishoyohoshi.com)
- 自由大気 - Wikipedia
*1:接地層・摩擦層・移行層の3つと説明されることもある。この辺りは教科書によっても表記がさまざまで混乱を生じさせます