Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第65回 メソ対流系と線状降水帯

 

 

線状降水帯の発生

2023年6月初め,台風の影響により四国から東海にかけて広い範囲で線状降水帯が発生しました。

線状降水帯とは積乱雲が列をなして組織化し,局所的に数時間にわたって大雨をもたらす線状の降水域のことを指します。

www.yomiuri.co.jp

 

そのときの様子をスクリーンショットで収めておきました。

下の図は大阪を中心とした関西での線状降水帯の様子。

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赤く色づけされた(赤いと雨が強いことを表す)線状の降水域が確認でき,高知県和歌山県あたりにかかっているのが確認できます。

そして数時間後,関東へと線状降水帯は移動。

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静岡県や東京都,茨城県などに降水域が重なっているように見えます。

 

各地で大きな被害を出した線状降水帯ですが,どうして数時間も続くような集中豪雨が発生するのでしょうか。前回で見てきたように,積乱雲の寿命は30分〜1時間程度と短いはずではないのでしょうか?

 

メソ対流系

積乱雲が1つではなく,多数集まって集中豪雨などの強い雨をもたらすことがあります。メソスケールの気象システムのことをメソ対流系と呼びますが,特に複数の積乱雲の集合体によって悪天候をもたらすシステムに対して使われることが多いようです。

 

例えば,下の図のように発達段階が異なる積乱雲が並んでいるのはメソ対流系の一つです。これはマルチセル型と呼ばれるシステム。複数の積乱雲が作り出すものです。


一方で,1つの巨大な積乱雲から構成されるスーパーセルというメソ対流系も知られています。下がスーパーセルと呼ばれる巨大な1つの積乱雲。たった一つの積乱雲からできているのですね。

これらのメソ対流系において注意すべきポイントは,マルチセル型やスーパーセル型の積乱雲は,孤立してできる積乱雲に比べて活動時間が長くなるという点です。すなわち雨が降る時間が長引くわけですので,結果的に気象災害の危険性が高まるのです。

そして線状降水帯もマルチセル型の積乱雲の一種なのです。

マルチセル型積乱雲

ここで簡単にマルチセル型の巨大雷雨について説明しておきます。通常の積乱雲(単一セルという)は地上と上空の風向・風速の差(鉛直シア)が小さいときに発生しやすいのですが,マルチセル型は大気が不安定で,一般風の鉛直シアが大きいときに発生しやすく,巨大雷雨全体の活動も数時間と長いのが特徴です。

ただし,活動が長いといっても,個々の積乱雲の寿命は1時間未満です。発達して衰弱しては再び新しい積乱雲が作られてというのを繰り返すことで,巨大雷雨が維持されて結果的に長い間居座り続けるのです。ロケット鉛筆みたいな感じでしょうか。

 

マルチセル型の積乱雲が発達する仕組みは以下の通り。

①積乱雲が成熟すると,積乱雲から地上へと下降気流が吹き出す。下降した空気は地上の空気とぶつかることで前線(ガストフロント)を形成する。

②空気が地上で収束することにより上昇気流が生じ,そこから雲が発達する。

③新しく積乱雲は発達し,①へ戻る。

 

この繰り返しが起こるのです。

このとき,成熟期の積乱雲を親雲,新しくできる積乱雲を子雲とよびます。子雲は親雲へと発達して新しい子雲をつくり,それが繰り返されて雲全体が組織化されるのです。

 

また,これらの積乱雲は中層の風に流されることが知られていますので,中層の風の方角と子雲のできる方角を知るとマルチセルの移動がどうなるのかが分かります。

 

スーパーセル型積乱雲

次はスーパーセル型の巨大な積乱雲について。こちらもマルチセル同様,大気が非常に不安定で,一般風の鉛直シアが大きいときに発生する積乱雲のようです。

他の積乱雲とは異なる特徴として,雲全体が回転している点です。これはメソサイクロンと呼ばれ,このメソサイクロンの中では竜巻が発生していることもあります*1

 

 

線状降水帯

さて,長くなりましたが,マルチセル型,スーパーセル型がなんとなくわかったところで,改めて線状降水帯について考えていきます。線状降水帯はマルチセル型の積乱雲によってもたらされます。

線状降水帯が発生するメカニズムの一つとして,「バックビルディング型」というものがあります*2

このバックビルディング型(後ろに形成されるの意)というのは,風上に新しい積乱雲ができることで同じ場所に積乱雲の列ができる現象です。こうした複数の積乱雲が列をなすことで,その長さは数百キロメートルになることもあり,これを線状降水帯と呼ぶのです。

 

下の図(通常の雷雨と線状降水帯、どうちがう?(古川 武彦、大木 勇人) | ブルーバックス | 講談社(2/4) (gendai.media)より引用)が分かりやすいです。


図の左側(線状降水帯の背面)で発生した積乱雲が,中層の風の影響を受けて右側へ移動し,発達した積乱雲から吹き出す下降気流と下層の暖かい大気がぶつかりガストフロントを形成。すると地上で空気は収束し,上昇気流に伴って左側に新たな積乱雲が生じることになるのです。

このように,新たな積乱雲が発生し続け,発達した積乱雲が同じ場所で持続的に大雨を降らせることで自然災害を引き起こすというワケです。

 

【まとめ】学習の要点

今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • メソスケールの気象システムのことをメソ対流系と呼ぶ。
  • メソ対流系の種類として,孤立した積乱雲である「単一セル」,複数の発達段階が異なる積乱雲が並ぶ「マルチセル型」,1つの巨大な積乱雲から構成される「スーパーセル型」などがある。
  • 単一セルは地上と上空の風向・風速の差(鉛直シア)が小さいときに発生しやすく,寿命は30~1時間程度。
  • マルチセル型は大気が不安定で,一般風の鉛直シアが大きいときに発生しやすく,巨大雷雨全体の活動も数時間と長い。
  • マルチセル型の積乱雲は中層の風に流される。
  • スーパーセル型は大気が非常に不安定で,一般風の鉛直シアが大きいときに発生する積乱雲で,寿命も数時間と長い。多くのスーパーセルは反時計回り(一部は時計回り)に雲全体が回転をしている。
  • 線状降水帯とは積乱雲が列をなして組織化し,局所的に数時間にわたって大雨をもたらす線状の降水域のこと。マルチセル型の積乱雲の一種。
  • 線状降水帯が発生するメカニズムの一つとして,「バックビルディング型」がある。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:ほとんどのスーパーセルは反時計回りに回転するが,わずかに時計回りのものも発生する。これはスーパーセルの規模ではコリオリの力が小さいためである

*2:他にも,「バックアンドサイドビルディング型」「スコールライン型」など,いくつかタイプはあるようです