Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【天気図】2023年師走の寒波と天気図解析

 

2023年12月中旬は目まぐるしい天候の変化がありました。

12月15日~16日にかけては,日本海低気圧に向かって南から暖かい空気が流れ込み,九州地方や東海地方,関東地方で師走ながら気温25℃以上の夏日を記録したことがニュースで報じられました。宮崎市では実に133年ぶりの12月の夏日だったようです。しかし,そこから一週間もしないうちに,この時期としては10年に一度という寒波が日本列島を襲い,日本海側を中心に大雪となりました。

そこで今回は,日本を襲った寒波の気象解析を通して,天気図の見方を勉強してみることにしました。

 

 

師走の寒波

2023年12月21日から23日にかけて,日本海側では大雪となりました。下はその時のニュース記事を引用したものです。

気象庁などによりますと、日本付近では23日にかけて冬型の気圧配置が強まり、上空約5500メートルに、北日本でマイナス39℃以下、東日本でマイナス30℃以下、西日本でマイナス24℃以下の真冬並みの寒気が流れ込んでいるということです。北日本から西日本の日本海側を中心に大雪となる見込みです。気象庁は積雪や路面の凍結による交通障害に注意を呼び掛けています。特に北陸地方では、降雪が強まっている所があるということです。
(略)

近畿北部では沿岸部を中心に降雪が続いているということですが、22日夜には日本海の発達した雪雲が流れ込み、北部では降雪が強まる見込みです。23日明け方にかけては、雪雲が予想以上に発達、もしくは雪が同じ所で降り続いたりした場合、警報級の大雪となるおそれがあります。

 

【24時間予想降雪量】
23日午後6時まで
北陸:70センチ
北海道・関東甲信・近畿・中国・東海:50センチ
中国:40センチ

TBSニュース 2023年12月23日(土) 03:51

 

この日,日本上空約5500mには強い寒気が流れ込みました。一般的に,日本海側の地方で雪の目安となるのは,本州付近で上空500hPaの気温が-30℃以下大雪の目安となるのは上空500hPaの気温が-36℃以下となるときだそうです。

 

下は21日午前9時(日本時間に換算)から24日午後9時までの,12時間ごとの500hPaにおける気温と風の分布を図示したもの。気温が色で表現され,矢印は上空の風を表すベクトルです。西の方から冷たい空気(冷たいほど青く示される)が流れ込んできているのが分かりますね。

22日,23日と寒気が日本列島を覆いましたが,23日の午後になると上空の強い寒気は東の方へと抜けて,地上では西から高気圧が張り出してきたことで冬型の気圧配置は徐々に緩んでいきました。

 

では,この時の天気図をもう少し詳細に見ていくことにしましょう。

 

天気図の解析

ここからは,私の勉強がてら天気図を見ていくことにします。

まずは地上天気図の確認からです。こちらは12月22日午前9時の実況天気図になります。

大陸には高気圧(シベリア高気圧),オホーツク海には低気圧があり,西高東低の冬型の気圧配置になっているのが分かります*1。日本列島を横切る等圧線は南北に縦に走って,等圧線間隔が狭くなることも冬型の特徴です。一般的に,日本列島にかかる等圧線の平均的な間隔が九州や四国サイズ以下のとき(もしくは列島に5本以上等圧線がかかっているとき)に「強い冬型の気圧配置」に相当するそうです。今回の場合は等圧線間隔が比較的広いので強い冬型の気圧配置とは呼べそうにありませんね。

 

天気図を拡大して,現在天気を確認してみると,日本海側の秋田・輪島・松江では過去1時間に止み間なく弱い雪()が降り続いていることが読み取れます(赤枠)。一方で東京は雲量1()の晴れであることが分かります。

このように,日本海側の地方では雪が降り,太平洋側の地方は晴れることが多くなることも冬型の天気分布の特徴です。

 

そして注目すべきは,日本海で等圧線が「くの字」に折れ曲がっていること(天気図上のオレンジ線)。これはJPCZ日本海寒帯気団収束帯)に伴う気圧の谷です。このJPCZが今回北陸地方を中心とした大雪をもたらすことになりました。

 

同時刻における衛星画像(可視画像)を見てみましょう。

まず,日本海東シナ海が全体的に白い雲で覆われているのが見て取れます。これは「筋状の雲」と呼ばれる主に積雲や層積雲で構成される雲です。一部で積乱雲といった対流性の雲も含まれます。

大陸の下層から吹く冷たい空気が,相対的に暖かい日本海*2から潜熱(水蒸気)や顕熱を受け取って気団変質(もともとシベリアでは乾燥して寒冷な空気が,日本海上で温暖湿潤な空気に性質が変わること)して,暖められた空気が対流活動を活発化させることで筋状の雲は発生します*3

ただし,積雲・層積雲から成るということからも,筋状の雲は一般的に雲頂高度は低いことが特徴です(せいぜい2000~3000m程度らしい)。

ちなみに,東シナ海の筋状の雲を見てみると,その形が異なることも分かりますね。

赤い枠も青い枠の中の雲もいずれも筋状の雲だそうですが,青枠の中の雲の方が雲が存在しない部分が多く見られます。青枠のようなハチの巣状の雲は「オープンセル型」,全体的に雲が存在している赤枠の雲は「クローズドセル型」と呼ばれます。

 

そして,日本海にある筋状の雲の写真を見るだけで上空の寒気の強さも分かるのだそうです。それは,大陸から日本海の筋状の雲が発生を始める距離離岸距離)から推定することができます。

寒気が強いと,暖かい日本海上を進むとすぐに気団変質が起こりますので,離岸距離は短くなります。もともと弱い寒気だと,海上を進んでも空気の性質に大きな変化はないので離岸距離は長くなるのです。今回の場合,大陸から日本海に入ってすぐに雲があることから,上空に強い寒気が流れ込んでいるのだろうと予想することができるのです。

 

さて,JPCZの雲の領域に着目してみましょう。

JPCZでは朝鮮半島の付け根にある長白山脈で下層の冷たい風が分岐し,日本海上で再び合流し収束することで上昇流が発生し,そこに雲が生じるのでしたね。JPCZでは主に積乱雲が発達して帯状に連なることで日本海側にドカ雪をもたらします。JPCZの中心部の雲頂高度は筋状の雲と比べると高く,約4000m程度だそうです。

 


では本当にJPCZ周辺で風が収束しているのか,また上昇流が発生しているのかについて,もう少し高層の天気図を用いて確認してみることにします。

下は地上天気図と同じ12月22日午前9時の850hPa 相当温位・風を予想した資料(FXJP854;初期時刻が12月21日午後9時の数値予想により作成された天気図)から引用したものになります*4

するとJPCZの両側をはさんで,たしかに風の水平シアがあるように感じます(が,風のシアについて解析する感覚が未だに身についていないので,正しいのかどうかはあまりよく分かっていない。間違ってたらご指摘ください)。

 

また同時刻における850hPa風・気温/750hPa鉛直p速度の高層天気図(AXFE578)*5が下になります。

図の中の実線は(850hPaの)等温線,網かけ部分が(700hPaの)上昇流域(鉛直p速度<0)。

天気図を確認すると,たしかに地上のJPCZがあるところに網掛け部分が存在しているのが分かりますね。すなわち上昇流域が広がっているのです。

そしてJPCZ付近の気温については赤く線を色づけてみました。JPCZがあるところで気温が高くなっていることが分かります(温度場の尾根となる)。これはここに雲が形成されているためだと考えられます。風向(矢羽根の向き)を確認しても,南の方から暖かい風が入り込んでいるワケでもなさそうですから。

上昇流によって空気が上空に持ち上げられると水蒸気が凝結し,それに伴い潜熱が放出されて周囲の空気よりも気温が高くなるのでしたね。そのためJPCZの帯に沿って等温線が西の方に凸になって暖かくなっているのです。

 

このように,今回北陸地方で大雪となったのは,上空の寒気が強かったことで日本海上で季節風の気団変質が起こり成層状態が不安定となり,またJPCZといった下層の風の収束も相まって雪雲(積乱雲)が列をなして北陸地方に流れ込んできたことが原因だと考えられました。

 

各地の大気の状態

ここで,興味本位ですが,各地の大気の状態の鉛直分布をエマグラムを用いて解析してみましょう。

 

まずは輪島市。今回の大雪で最も影響を受けた地域の1つです。

記録的大雪となった石川県輪島市では、雪による倒木で道路がふさがれたため、24日午前10時の時点で引き続き10の地区の97世帯が孤立状態になっています。一方、孤立状態が解消した地区では、車で通行できるようになり住民からは安心する声も聞かれました。

今回の大雪で輪島市では1929年の統計開始以来、12月としては最も多い60センチの積雪を観測し、市によりますと、雪の重みによって木が倒れて道路がふさがれている場所があります。

NHKニュース 2023年12月24日 12時00分

冒頭の地上天気図と同時刻の12月22日午前9時の輪島市の状態曲線を下に示します。

輪島では地上500hPaまで湿潤で(気温と露点温度の線が近い),概ね湿潤断熱線に沿って変化しているのが分かります。500hPaには逆転層があり,気温が上昇に転じています(寒気が下層に入ってくるため,その寒気の上の層は相対的に暖かい空気が存在して逆転層になっているということでしょうか。この辺はあまり理解できていないところ)。

そして地上から500hPaまでが寒気層であり,輪島において雲頂高度の上限はこの逆転層のできる高度になるはずです。

また,輪島では相対的に海水温が高い海域を空気が長距離にわたって吹走するため,気団変質が起こり湿潤な層が厚くなる傾向があります。

 

一方,太平洋側のつくば市館野のエマグラムに着目すると輪島とは大きく異なります。

気温と露点温度の線が離れていることから比較的乾燥していますね。700hPa付近に気温減率が変化する点があり,地上から700hPaまでが寒気層に相当するんでしょうか。

ちなみに,太平洋側が冬型になると乾燥する理由はフェーン現象(下図)で説明がつきます。日本列島の中央には高い山がそびえているため,日本海側の湿った空気が山を越えて再び下降してきたときには気温が上昇して乾燥するのですね。

 

こんな風に,季節による天候の違いだけではなく,同じ季節でも日本海側や太平洋側など場所によっても天気は大きく異なり,それは天気図やエマグラムなどにもちゃんと刻まれているのですから,それを読み解いていくのが天気図解析の醍醐味なんだと思っています(なかなか一筋縄ではいかないですけど。現在試行錯誤中)。

 

ということで今回は冬型の気圧配置について天気図解析を実施して,その内容を備忘録として長々と書き連ねておきました。解析の流れや考察などおかしな点や不足点があるかもしれませんが,私の勉強にもなりますので気づいた際はご指摘していただけましたら幸いです。

 

 

天気図理解のメモ
  • 一般的に日本海側の地方で雪の目安となるのは,本州付近で500hPaの気温が-30℃以下,大雪の目安となるのは上空500hPaの気温が-36℃以下となるとき。
  • 冬型では,日本海側の地方では雪が降り湿潤で,太平洋側の地方は晴れて乾燥することが多くなる。これはフェーン現象による。
  • 冬の日本海では「筋状の雲」と呼ばれる主に積雲や層積雲で構成される雲が発生しやすい。
  • 大陸の下層から吹く冷たい空気が,相対的に暖かい日本海から潜熱や顕熱を受け取って気団変質して,暖められた空気が対流活動を活発化させることで筋状の雲は発生する。
  • 大陸から日本海の筋状の雲が発生を始める距離(離岸距離)が短いほど上空の寒気は強い傾向がある。
  • 上空の寒気が強いと,日本海上に活発な雪雲が発達して帯状に連なるJPCZができることがある。
  • JPCZができると,地上天気図上に気圧の谷が認められ,高層天気図(850hPaや700hPa)では上昇流と温度場の尾根,風の水平シアなどが確認できる。
  • エマグラムから寒気層の厚み,気温,乾燥具合が読み取れ,太平洋側と日本海側で大気の状態の特徴に違いも認められる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考にさせていただきました。文章など一部引用していることがあります。

*1:シベリア地方では冬になると太陽から受け取る熱が減り,放射冷却によって地表面および周囲の空気が冷やされて,密度の重くなった空気が背の低い高気圧として解析されます。背が低いため,500hPa天気図では解析されません。【気象学勉強】第54回 日本の四季と気圧配置①〜4つの高気圧〜 - Weather Learning Diary 参照

*2:対馬海流などの暖流が流れている

*3:対流雲は,「積雲」と「積乱雲」が相当します

*4:850hPa 相当温位・風の資料は実況天気図が存在しないようですね。理由はよく分かりませんが。

*5:850hPaと700hPaの2つの異なる高さの情報が重ねられて1枚の中に表現されているのですね